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■ 「キャッシュ・フロー計算書」の中身

会計(基礎編)
前回」は、「貸借対照表(B/S)」の説明をしました。今回は、「キャッシュ・フロー計算書(C/S)」の中身を見ていくことにします。
キャッシュ・フロー計算書は、B/SやP/Lに比べて、最近登場したばかりの「ひよっこ」なので、表示方法にもバリエーションがあり、分析手法もまだ確固たるものがありません。まだ発展途上の財務諸表なのだと理解してから解説をお読みください。
まず、「キャッシュ・フロー計算書」が表示してくれる「キャッシュ・フロー」とは、「現金及び現金同等物」の残高の増減を意味しています。ですので、プラスにもマイナスにもなることがあります。「現金等価物」とは、「ほぼ現金と同じ扱いができるもの」です。3ヵ月以内の期限の定期預金やコマーシャル・ペーパー等が代表選手ですが、ここでは詳細までは説明しません。以下では、簡単に「現金」、そして「キャッシュ・フロー」は略して「CF」と記載することもあります。
まず、全体像をご覧ください。
会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_4分類
「現金」が増減する理由別に、4つに分類しています。
《1.営業活動によるキャッシュ・フロー》
普通に商売をしていると自然に会社に出入りする現金の増減
《2.投資活動によるキャッシュ・フロー》
長期的に保有することが前提の固定資産の売買に絡む現金の増減
《3.財務活動によるキャッシュ・フロー》
金融機関から資金を調達したり、返済したりする金融取引に絡む現金の増減
《4.為替換算差異による調整》
外貨建て資産(通常は日本円以外)の評価(円安とか円高というやつ)による現金の評価額の増減

■ 営業活動によるキャッシュ・フローの表示スタイル

営業活動によるキャッシュ・フロー(以下、○○CFと表記)は、前半部分の計算方法が2種類あります。
《第1法》
「現金収入」から「現金支出」を差し引いて計算する方法
《第2法》
「損益計算書」に記載のある「税前利益」に、現金支出が絡まない「費用」を足し戻して計算する方法
現在は、圧倒的に、「第2法」が主流になっています。理由は、以下の通りです。

① 「CF計算書」自体を作成するのが簡単
② 「損益計算書」の「利益」、「貸借対照表」の「(正味)運転資本」との相関関係を後から分析しやすい

「(正味)運転資本」とは、色々な定義があるのですが、代表的なものの一つとして、

(運転資本) = (流動資産) - (流動負債)

で計算され、商品の売買や製品の製造・販売に関連して、必要とされるお金のことを意味しています。詳しい説明は、別シリーズの「財務分析」までお待ちください。

■ キャッシュ・フロー計算書の中を通る現金取引

下表は、主要な3つのCF分類の中身を表しています。前提として、「間接法」で表記しています。
会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_3分類の取引内容
営業CFは、P/L由来の取引とB/S由来の取引に区分することができます。P/L由来の取引だけを取り出して、「狭義の営業CF」と呼ぶこともあります。
営業CFをプラスにするには、①現金の裏付けのある収入を増やす、②現金支出を減らす、③運転資本を減らす、の3つの方法があります。
管理会計では簡略的な計算が許されるので、

(簡易営業CF) = (営業利益) + (減価償却費) - (法人税)

と簡単に計算することも実務の中ではあります。
投資CFは、長期性の資産の売買に絡む現金取引に由来するものです。「設備投資」がここに含まれるので、大体の会社の投資CFは大きなマイナス値を示すことが通常です。後は、保有資産の売却(不動産や投資有価証券)でマイナス値を小さくすることもあります。
筆者のあまり好みではないのですが、これも便利なので、使うには使うのですが、

フリー・キャッシュ・フロー(FCF:Free Cash flow) = 営業CF + 投資CF

という計算式もあります。日本基準では表示しませんが、米国基準にある括りです。
管理会計では、別のFCFの定義もあるので、詳細は別シリーズで解説します。
ここが「CF計算書」を見るポイントなのですが、FCFがプラスかマイナスかを重視します。営業CFは普通にビジネスをやっていると入ってくるお金、投資CFはビジネスの基盤を構築するための「設備投資」という名目で会社から出ていく大金。これがバランスしているか、どっちかが不足しているか、を見極めるのがCF分析の第1歩です。
FCFが大幅な赤字だった場合、次に来る財務CFで、プラスにしないと会社全体で現金収支の帳尻が合いません。そこで、金融機関から不足分の資金を調達してきます。逆に、FCFが大幅な黒字だった場合、会社の中に資金の余裕が生まれていることを示すので、金融機関に借金を返済しようとしたり、株主還元に回そうとします。そうすると、財務CFがマイナスになります。

■ 新参者の宿命

「CF計算書」は、筆者のような管理会計屋にとって、難関のひとつです(まあ、筆者に苦手が多いだけとも言えますが)。その理由は、3つのCFの分類・定義が流動的で、財務分析する時に、気を付ける必要があるからです。

① 形式的理由:日本の会計基準で複数の分類ルールを許容している
② 実質的理由:多様な業態・業種の違いを洗練して分類できていない

まず、理由①ですが、下表をご覧ください。
会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_日本基準の揺れ
日本の基準からなのですが、「第1法」と「第2法」のいずれでも「CF計算書」を作成することが許されているので、競合他社比較する前に、真剣に中身を見て相違を確認する必要があります。
次に、理由②ですが、前回の日産自動車とトヨタ自動車のB/Sの解説はご記憶にありますか? どちらも、自動車をつくるメーカーなのですが、「金融サービス」もやっていました。「金融サービス」も通常の営業活動の一環なので、「金融サービス」に必要な資金のやり取りは営業CFに入っているかと思いきや、実際は投資CFに分類されています。商社や銀行ならば当然「金融サービス」は主たる営業活動なので、営業CFに分類されています。EDINET等で、複数の業種の会社の「CF計算書」を確認してみてください。バリエーションの幅の広さに愕然となると思います。

■ 実際の「CF計算書」を眺めてみる

今回はちょっと趣向を凝らして、いつもの3社の「CF計算書」をグラフ表示にしてみました。
会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_3社比較
会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書_3社比較_グラフ
日産自動車とトヨタ自動車は、多額の設備投資により、営業CFより投資CFの方が大きいため、2社ともFCFがマイナスになっています。その穴埋めとして、借入金を増やしているので、財務CFがプラスになっています。一方で、JTは、FCFがプラスになっているので、借入金も返済し、かつ配当金も払っているので、財務CFがマイナスになっています。ただし、3社ともしっかり資金管理をしているので、単年度では現金収支がプラス、すなわち、前年より保有している「現金」の残高が増えています。
ここまで、「キャッシュフロー計算書を斬る」を説明しました。
会計(基礎編)_キャッシュフロー計算書を斬る

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http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291-150x150.jpg小林 友昭会計(基礎編)■ 「キャッシュ・フロー計算書」の中身 「前回」は、「貸借対照表(B/S)」の説明をしました。今回は、「キャッシュ・フロー計算書(C/S)」の中身を見ていくことにします。 キャッシュ・フロー計算書は、B/SやP/Lに比べて、最近登場したばかりの「ひよっこ」なので、表示方法にもバリエーションがあり、分析手法もまだ確固たるものがありません。まだ発展途上の財務諸表なのだと理解してから解説をお読みください。 まず、「キャッシュ・フロー計算書」が表示してくれる「キャッシュ・フロー」とは、「現金及び現金同等物」の残高の増減を意味しています。ですので、プラスにもマイナスにもなることがあります。「現金等価物」とは、「ほぼ現金と同じ扱いができるもの」です。3ヵ月以内の期限の定期預金やコマーシャル・ペーパー等が代表選手ですが、ここでは詳細までは説明しません。以下では、簡単に「現金」、そして「キャッシュ・フロー」は略して「CF」と記載することもあります。 まず、全体像をご覧ください。 「現金」が増減する理由別に、4つに分類しています。 《1.営業活動によるキャッシュ・フロー》 普通に商売をしていると自然に会社に出入りする現金の増減 《2.投資活動によるキャッシュ・フロー》 長期的に保有することが前提の固定資産の売買に絡む現金の増減 《3.財務活動によるキャッシュ・フロー》 金融機関から資金を調達したり、返済したりする金融取引に絡む現金の増減 《4.為替換算差異による調整》 外貨建て資産(通常は日本円以外)の評価(円安とか円高というやつ)による現金の評価額の増減 ■ 営業活動によるキャッシュ・フローの表示スタイル 営業活動によるキャッシュ・フロー(以下、○○CFと表記)は、前半部分の計算方法が2種類あります。 《第1法》 「現金収入」から「現金支出」を差し引いて計算する方法 《第2法》 「損益計算書」に記載のある「税前利益」に、現金支出が絡まない「費用」を足し戻して計算する方法 現在は、圧倒的に、「第2法」が主流になっています。理由は、以下の通りです。 ① 「CF計算書」自体を作成するのが簡単 ② 「損益計算書」の「利益」、「貸借対照表」の「(正味)運転資本」との相関関係を後から分析しやすい 「(正味)運転資本」とは、色々な定義があるのですが、代表的なものの一つとして、 (運転資本) = (流動資産) - (流動負債) で計算され、商品の売買や製品の製造・販売に関連して、必要とされるお金のことを意味しています。詳しい説明は、別シリーズの「財務分析」までお待ちください。 ■ キャッシュ・フロー計算書の中を通る現金取引 下表は、主要な3つのCF分類の中身を表しています。前提として、「間接法」で表記しています。 営業CFは、P/L由来の取引とB/S由来の取引に区分することができます。P/L由来の取引だけを取り出して、「狭義の営業CF」と呼ぶこともあります。 営業CFをプラスにするには、①現金の裏付けのある収入を増やす、②現金支出を減らす、③運転資本を減らす、の3つの方法があります。 管理会計では簡略的な計算が許されるので、 (簡易営業CF) = (営業利益) + (減価償却費) - (法人税) と簡単に計算することも実務の中ではあります。 投資CFは、長期性の資産の売買に絡む現金取引に由来するものです。「設備投資」がここに含まれるので、大体の会社の投資CFは大きなマイナス値を示すことが通常です。後は、保有資産の売却(不動産や投資有価証券)でマイナス値を小さくすることもあります。 筆者のあまり好みではないのですが、これも便利なので、使うには使うのですが、 フリー・キャッシュ・フロー(FCF:Free Cash flow) = 営業CF + 投資CF という計算式もあります。日本基準では表示しませんが、米国基準にある括りです。 管理会計では、別のFCFの定義もあるので、詳細は別シリーズで解説します。 ここが「CF計算書」を見るポイントなのですが、FCFがプラスかマイナスかを重視します。営業CFは普通にビジネスをやっていると入ってくるお金、投資CFはビジネスの基盤を構築するための「設備投資」という名目で会社から出ていく大金。これがバランスしているか、どっちかが不足しているか、を見極めるのがCF分析の第1歩です。 FCFが大幅な赤字だった場合、次に来る財務CFで、プラスにしないと会社全体で現金収支の帳尻が合いません。そこで、金融機関から不足分の資金を調達してきます。逆に、FCFが大幅な黒字だった場合、会社の中に資金の余裕が生まれていることを示すので、金融機関に借金を返済しようとしたり、株主還元に回そうとします。そうすると、財務CFがマイナスになります。 ■ 新参者の宿命 「CF計算書」は、筆者のような管理会計屋にとって、難関のひとつです(まあ、筆者に苦手が多いだけとも言えますが)。その理由は、3つのCFの分類・定義が流動的で、財務分析する時に、気を付ける必要があるからです。 ① 形式的理由:日本の会計基準で複数の分類ルールを許容している ② 実質的理由:多様な業態・業種の違いを洗練して分類できていない まず、理由①ですが、下表をご覧ください。 日本の基準からなのですが、「第1法」と「第2法」のいずれでも「CF計算書」を作成することが許されているので、競合他社比較する前に、真剣に中身を見て相違を確認する必要があります。 次に、理由②ですが、前回の日産自動車とトヨタ自動車のB/Sの解説はご記憶にありますか? どちらも、自動車をつくるメーカーなのですが、「金融サービス」もやっていました。「金融サービス」も通常の営業活動の一環なので、「金融サービス」に必要な資金のやり取りは営業CFに入っているかと思いきや、実際は投資CFに分類されています。商社や銀行ならば当然「金融サービス」は主たる営業活動なので、営業CFに分類されています。EDINET等で、複数の業種の会社の「CF計算書」を確認してみてください。バリエーションの幅の広さに愕然となると思います。 ■ 実際の「CF計算書」を眺めてみる 今回はちょっと趣向を凝らして、いつもの3社の「CF計算書」をグラフ表示にしてみました。 日産自動車とトヨタ自動車は、多額の設備投資により、営業CFより投資CFの方が大きいため、2社ともFCFがマイナスになっています。その穴埋めとして、借入金を増やしているので、財務CFがプラスになっています。一方で、JTは、FCFがプラスになっているので、借入金も返済し、かつ配当金も払っているので、財務CFがマイナスになっています。ただし、3社ともしっかり資金管理をしているので、単年度では現金収支がプラス、すなわち、前年より保有している「現金」の残高が増えています。 ここまで、「キャッシュフロー計算書を斬る」を説明しました。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します