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■ 「貸借対照表」の中身

会計(基礎編)
前回」は、「損益計算書(P/L)」の説明をしました。今回は、「貸借対照表(B/S)」の中身を見ていくことにします。
「貸借対照表」は、会社経営における大きな資金の流れの中で、「社外のどこから活動資金を調達してきたか」「調達してきた資金を使ってどんな財産を所有しているか」の明細表です。特徴としては、「調達資金」と「財産目録」の金額は一致するように計算するように仕組まれています。左側に「財産目録」、右側に「調達資金」が表示され、左右対称になっているので、「対照」という名がついています。
(同じ「たいしょう」でも漢字が違うんですよね。「対照」は「照らし合わせる」の意味)
「財産目録」は「資産」、「調達資金」はその出所から区分して「負債」と「資本(純資産)」と呼びます。「資本」という名は、株主から集めたお金、および会社の『儲け』から株主の取り分が収まる箱なのですが、最近、「負債」とも「資本」とも区別がつきにくいものが出てきたので、「負債」以外のものを入れる箱として「純資産」と呼ぶようになっています。
では、下記の概略図をご覧ください。
会計(基礎編)_貸借対照表の中身

■ 「流動」と「固定」の分類の意味

大きな箱が6つありますね。先に左右の「財産目録」と「調達資金」の違いを説明しましたが、今度は上下の「流動」と「固定」の違いを説明します。
「流動」と「固定」の区別の仕方には、2つのルールがあります。「流動」に入るのは、

① 1年基準: 1年の間に会社の内外に出入りするもの
② 正常営業循環基準: 普通の経営活動をしていると自然に会社の内外に出入りするもの

通常、「決算」と呼ばれる会社の利益を計算する代表的期間が「1年」なので、その間にぐるぐると動き回るお金の流れを示すものは「流動」というグループに入れます。それが「財産」だったら「流動資産」、「調達資金」だったら「流動負債」という風に。
でも、ゼネコンのような建設業、造船業等の場合は、普通の経営活動をしていても、ぐるぐる回っているお金の流れがたまたま1年を超えるものがあるかもしれない、でもぐるぐる回っているのには間違いないので、「流動」のグループに入れましょう、というのが「② 正常営業循環基準」の真意です。
通常、株主は1年で株主であることを辞め、会社を1年で清算することは、近代産業の中での株式会社の常識では考えられません。したがって、「資本(純資産)」はすべて「固定」となりますので、わざわざ「固定」の冠(かんむり)を付けて呼ぶことはありません。しかし、「財務分析」という「財務諸表」の数字を経営に生かすためにいろいろとデータ解析する際には、「固定」のグループに入れてデータ解析します。
この話とデイトレーダーの話が矛盾するとお考えの方はいらっしゃいますか? 確かに、デイトレーダーは、数分、数時間、数日という短期間である会社の株主になったり、株主でなくなったり、つまり株式の売買を頻繁に繰り返します。でも、会社や「財務諸表」の方から見ると、別に、株主から調達した資金の金額がデイトレーダーの株式売買の結果で変わることはありません。単に、株券(今は電子化されましたが)の持ち主がコロコロと変わるだけで、株主からの資金調達額は不変なので、「固定」扱いでいいのです。

■ (補足)固定資産の細分類

固定資産は、本当はもうちょっと詳しく分類されています。
会計(基礎編)_貸借対照表_固定資産の内訳
ビジネス分析には、「流動資産」か「固定資産」か、「ビジネスをするうえで事業に投下されている資産」か、「ビジネスとはあまり関係のない資産(金融商品や貸付金など)で資金運用中の資産」か、この2つの分類が大事なので、大括りで3つに分類しています。

■ 実際の「貸借対照表」を眺めてみる

それでは、前回と同じ流れで、日産自動車(日本基準)、トヨタ自動車(米国基準)、日本たばこ産業(IFRS)の3つの貸借対照表を実際に順を追ってみていきましょう。
面積(それぞれの項目の高さ)は、全体の構成比を表しています。B/Sを眺めるときは、常に全体との構成比、左右のバランスに注目してください。
《1.日産自動車》
ルノーと資本提携しているため、欧米流のROE(自己資本利益率)重視の財務戦略から、どうしても負債の比率が同業他社と比べてどうしても多くなります。しかし、流動資産より流動負債の方が小さいので、資金繰りに過度な問題が出るほどではありません。つまり、ぐるぐる回っているお金は、外から調達してくるお金より、中でとどまっているお金の方が多いということです。そうすると、借金をして、調達額を増やす必要が無い、という理屈になります。
会計(基礎編)_貸借対照表_日産自動車
《2.トヨタ自動車》
日産自動車に比べて、純資産の比率が大きいので、外部借入への依存率が低いと言えます。ただし、低ければ低い程良いかどうかは左右のバランスをみて、または事業(財務)計画次第なので、ここではその詳細までは突っ込みません(別シリーズで財務分析は触れる予定なので)。
左側の財産目録の特徴としては、金融債権、投資その他の資産の比率が大きく、いつでもお金に困ったら、現金化できる資産が多いことを示しています。
会計(基礎編)_貸借対照表_トヨタ自動車
日産自動車もトヨタ自動車もおおむね「自動車」を造っている製造業なのですが、「金融債権」を持っています。これは、自動車の割賦販売やディーラーへの貸付金やリース債権から構成されています。もはや、自動車メーカーというのは、単に車を造っているだけでなく、車を売るための、金融サービスをも手掛けているということです。
2社を比べて、EV車、FCV車、自動運転技術等への開発投資の余力(資金力)は、現時点ではどっちの方が多いでしょうか???
《3.日本たばこ産業(JT)》
こちらは、業種が違うので、前2社と単純比較できないのですが、資本比率が圧倒的に大きくなっています。元々半官半民で独占企業だったので(「専売公社」という言葉はもう死語でしょうが)、長年の利益の蓄積から資本が厚くなっています。そして、どんどん事業拡大するためにM&Aで会社を大きくしていきました。RJRナビスコ社、ガラハー社、鳥居薬品、加ト吉(テーブルマーク)等から次々と事業(会社)を買収しているのは、ニュースなどで皆さんもよくご存知でしょう。
その際に、手に入れた事業(会社)の財産(時価評価されたもの)より、多額の買収資金を支払った差額を「のれん」という名称で自分の会社の「貸借対照表」の「資産」の箱に入れておくことになっています。JTはこの金額が非常に大きくなっています。もし、買収先の事業が失敗に終わると、この「のれん」がパーになるので、借金(負債)で買収資金を調達していると、万が一の時に、会社の中でお金が足りなくなって、借金を返済できなく恐れがあります。したがって、資本の比率が大きいのはとりあえず理に適っているともいえます。
会計(基礎編)_貸借対照表_JT

■ (補足)貸借対照表の見方

前章で簡単に3社の「貸借対照表」を眺めて、筆者がコメントしましたが、何か気が付かれたことがありますでしょうか? 筆者のコメントはいずれも「貸借対照表」の右下から左上という一定の流れがあります。そこには当然意図があります。「貸借対照表」は、お金の流れを把握して、どうやって会社を儲けさせるかが一目でわかる「財務諸表(F/S)」なので、自然とお金の流れに従って「貸借対照表」を読む習慣になっているだけです。
「財務諸表」の読み方は、十人十色でいいと思っていますので、上記のストーリーはあくまで筆者の個人的な習慣なだけです。その業界に詳しい人は、むしろ、財産の構成から、すなわちお客様に近い視点から「貸借対照表」を読むかもしれません。それはそれで正解だと思うのであります。自分なりの読み方のスタイルを確立して頂ければと思います。
もう一つ、「貸借対照表」も、表示項目の名称と表示順には大まかなルールがあるのですが、結構、会社の裁量に任されているところもあるので、例示した3社とも、名称も並びもバラバラだったと思います。こればかりは場数を踏んで、何と何が同じものを指しているのか、経験を積んでいくしかありません。いつも左上が「流動資産」とは限りません。電力会社の「貸借対照表」を確認してみてください。
ここまで、「貸借対照表を斬る」を説明しました。
会計(基礎編)_貸借対照表を斬る

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http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291-150x150.jpg小林 友昭会計(基礎編)■ 「貸借対照表」の中身 「前回」は、「損益計算書(P/L)」の説明をしました。今回は、「貸借対照表(B/S)」の中身を見ていくことにします。 「貸借対照表」は、会社経営における大きな資金の流れの中で、「社外のどこから活動資金を調達してきたか」「調達してきた資金を使ってどんな財産を所有しているか」の明細表です。特徴としては、「調達資金」と「財産目録」の金額は一致するように計算するように仕組まれています。左側に「財産目録」、右側に「調達資金」が表示され、左右対称になっているので、「対照」という名がついています。 (同じ「たいしょう」でも漢字が違うんですよね。「対照」は「照らし合わせる」の意味) 「財産目録」は「資産」、「調達資金」はその出所から区分して「負債」と「資本(純資産)」と呼びます。「資本」という名は、株主から集めたお金、および会社の『儲け』から株主の取り分が収まる箱なのですが、最近、「負債」とも「資本」とも区別がつきにくいものが出てきたので、「負債」以外のものを入れる箱として「純資産」と呼ぶようになっています。 では、下記の概略図をご覧ください。 ■ 「流動」と「固定」の分類の意味 大きな箱が6つありますね。先に左右の「財産目録」と「調達資金」の違いを説明しましたが、今度は上下の「流動」と「固定」の違いを説明します。 「流動」と「固定」の区別の仕方には、2つのルールがあります。「流動」に入るのは、 ① 1年基準: 1年の間に会社の内外に出入りするもの ② 正常営業循環基準: 普通の経営活動をしていると自然に会社の内外に出入りするもの 通常、「決算」と呼ばれる会社の利益を計算する代表的期間が「1年」なので、その間にぐるぐると動き回るお金の流れを示すものは「流動」というグループに入れます。それが「財産」だったら「流動資産」、「調達資金」だったら「流動負債」という風に。 でも、ゼネコンのような建設業、造船業等の場合は、普通の経営活動をしていても、ぐるぐる回っているお金の流れがたまたま1年を超えるものがあるかもしれない、でもぐるぐる回っているのには間違いないので、「流動」のグループに入れましょう、というのが「② 正常営業循環基準」の真意です。 通常、株主は1年で株主であることを辞め、会社を1年で清算することは、近代産業の中での株式会社の常識では考えられません。したがって、「資本(純資産)」はすべて「固定」となりますので、わざわざ「固定」の冠(かんむり)を付けて呼ぶことはありません。しかし、「財務分析」という「財務諸表」の数字を経営に生かすためにいろいろとデータ解析する際には、「固定」のグループに入れてデータ解析します。 この話とデイトレーダーの話が矛盾するとお考えの方はいらっしゃいますか? 確かに、デイトレーダーは、数分、数時間、数日という短期間である会社の株主になったり、株主でなくなったり、つまり株式の売買を頻繁に繰り返します。でも、会社や「財務諸表」の方から見ると、別に、株主から調達した資金の金額がデイトレーダーの株式売買の結果で変わることはありません。単に、株券(今は電子化されましたが)の持ち主がコロコロと変わるだけで、株主からの資金調達額は不変なので、「固定」扱いでいいのです。 ■ (補足)固定資産の細分類 固定資産は、本当はもうちょっと詳しく分類されています。 ビジネス分析には、「流動資産」か「固定資産」か、「ビジネスをするうえで事業に投下されている資産」か、「ビジネスとはあまり関係のない資産(金融商品や貸付金など)で資金運用中の資産」か、この2つの分類が大事なので、大括りで3つに分類しています。 ■ 実際の「貸借対照表」を眺めてみる それでは、前回と同じ流れで、日産自動車(日本基準)、トヨタ自動車(米国基準)、日本たばこ産業(IFRS)の3つの貸借対照表を実際に順を追ってみていきましょう。 面積(それぞれの項目の高さ)は、全体の構成比を表しています。B/Sを眺めるときは、常に全体との構成比、左右のバランスに注目してください。 《1.日産自動車》 ルノーと資本提携しているため、欧米流のROE(自己資本利益率)重視の財務戦略から、どうしても負債の比率が同業他社と比べてどうしても多くなります。しかし、流動資産より流動負債の方が小さいので、資金繰りに過度な問題が出るほどではありません。つまり、ぐるぐる回っているお金は、外から調達してくるお金より、中でとどまっているお金の方が多いということです。そうすると、借金をして、調達額を増やす必要が無い、という理屈になります。 《2.トヨタ自動車》 日産自動車に比べて、純資産の比率が大きいので、外部借入への依存率が低いと言えます。ただし、低ければ低い程良いかどうかは左右のバランスをみて、または事業(財務)計画次第なので、ここではその詳細までは突っ込みません(別シリーズで財務分析は触れる予定なので)。 左側の財産目録の特徴としては、金融債権、投資その他の資産の比率が大きく、いつでもお金に困ったら、現金化できる資産が多いことを示しています。 日産自動車もトヨタ自動車もおおむね「自動車」を造っている製造業なのですが、「金融債権」を持っています。これは、自動車の割賦販売やディーラーへの貸付金やリース債権から構成されています。もはや、自動車メーカーというのは、単に車を造っているだけでなく、車を売るための、金融サービスをも手掛けているということです。 2社を比べて、EV車、FCV車、自動運転技術等への開発投資の余力(資金力)は、現時点ではどっちの方が多いでしょうか??? 《3.日本たばこ産業(JT)》 こちらは、業種が違うので、前2社と単純比較できないのですが、資本比率が圧倒的に大きくなっています。元々半官半民で独占企業だったので(「専売公社」という言葉はもう死語でしょうが)、長年の利益の蓄積から資本が厚くなっています。そして、どんどん事業拡大するためにM&Aで会社を大きくしていきました。RJRナビスコ社、ガラハー社、鳥居薬品、加ト吉(テーブルマーク)等から次々と事業(会社)を買収しているのは、ニュースなどで皆さんもよくご存知でしょう。 その際に、手に入れた事業(会社)の財産(時価評価されたもの)より、多額の買収資金を支払った差額を「のれん」という名称で自分の会社の「貸借対照表」の「資産」の箱に入れておくことになっています。JTはこの金額が非常に大きくなっています。もし、買収先の事業が失敗に終わると、この「のれん」がパーになるので、借金(負債)で買収資金を調達していると、万が一の時に、会社の中でお金が足りなくなって、借金を返済できなく恐れがあります。したがって、資本の比率が大きいのはとりあえず理に適っているともいえます。 ■ (補足)貸借対照表の見方 前章で簡単に3社の「貸借対照表」を眺めて、筆者がコメントしましたが、何か気が付かれたことがありますでしょうか? 筆者のコメントはいずれも「貸借対照表」の右下から左上という一定の流れがあります。そこには当然意図があります。「貸借対照表」は、お金の流れを把握して、どうやって会社を儲けさせるかが一目でわかる「財務諸表(F/S)」なので、自然とお金の流れに従って「貸借対照表」を読む習慣になっているだけです。 「財務諸表」の読み方は、十人十色でいいと思っていますので、上記のストーリーはあくまで筆者の個人的な習慣なだけです。その業界に詳しい人は、むしろ、財産の構成から、すなわちお客様に近い視点から「貸借対照表」を読むかもしれません。それはそれで正解だと思うのであります。自分なりの読み方のスタイルを確立して頂ければと思います。 もう一つ、「貸借対照表」も、表示項目の名称と表示順には大まかなルールがあるのですが、結構、会社の裁量に任されているところもあるので、例示した3社とも、名称も並びもバラバラだったと思います。こればかりは場数を踏んで、何と何が同じものを指しているのか、経験を積んでいくしかありません。いつも左上が「流動資産」とは限りません。電力会社の「貸借対照表」を確認してみてください。 ここまで、「貸借対照表を斬る」を説明しました。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します