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スクランブル 親子上場に敏感な株価 日立「本体で稼ぐ力」評価

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 親子上場は、企業価値の評価がしにくい!?

経営管理会計トピック
9/24の株式市場では2つの完全子会社化のニュースが駆け巡りました。イオンとダイエー、米国スターバックスとスターバックスコーヒージャパンです。

2014/9/25付 |日本経済新聞|朝刊
スクランブル 親子上場に敏感な株価 日立「本体で稼ぐ力」評価

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
記事では、ソフトバンクがアリババ集団の株価下落につれ安したことと、グループ再編で上場子会社を整理した日立製作所の株価の向上を対比させていました。

ソフトバンクが保有する世界に展開する3社の上場子会社の持ち分として、ヤフー(日本)が8800億円、スプリント(米国)が2兆3100億円、アリババ集団(中国)が7兆7900億円で合計すると、10兆9800億円。それに対して、ソフトバンクの時価総額が9兆5100億円と、上場子会社の持ち分合計の方が親会社の時価総額を1兆4700億円上回っています。
記事には、「保有株が過大評価されているのか、本業が過小評価なのか、市場が判定するには時間がかかりそうだ」と、とある証券会社のストラテジストのインタビューを掲載していました。
一方で、日立製作所に対する評価として、「09年3月期の7873億円の連結最終赤字を計上したのをきっかけに、グループ内の重複事業の整理・集約を進めた。(途中省略)一方、ディスプレーなど不採算事業を切り出し、本体や完全子会社の収益力を回復させた」と改革の成果があがり、株式市場もそれを評価しているとされています。
記事の論調としては、ソフトバンクと日立製作所の対比から、親子上場に対して否定的な姿勢が見て取れます。

■ コングロマリットディスカウント

一昔前までは、「親子上場」そのものというより、上記のソフトバンクのような状態が発生すると、「多角化」とその結果として子会社上場について、経営者の事業ポートフォリオマネージャーとしての手腕が、高度な多角化に対して力量不足になり、多角的な事業間のシナジーを発揮するどころか、個々の事業価値を毀損し、事業ポートフォリオ全体として、いわゆる「コングロマリットディスカウント」状態が生じている、と断罪される時代(80~00年代)がありました。
この時代は、まだ法整備が進んでおらず、純粋持ち株会社も事業持ち株会社もない時代でした。当然、経営者は法整備が無いところで、多角化された事業運営をしていました。
(まあ、外から見れば、多角化と呼べるほどの違いがあるか、と突っ込みたくモノもありましたが。だって、爬虫類も鳥類も脊椎動物で、無脊椎動物の原生動物(ミドリムシ・アメーバ)から見れば、大した違いはないでしょ!)

 

■ 純粋持ち株会社と事業持ち株会社の違い

法律的にどうこう違うというより、株式市場に対してどういう立ち位置かという視点から分析してみます。純粋持ち株会社の場合は、より「事業ポートフォリオ管理」を株主から負託されているという意識が強く働きます。ソフトバンクしかり、NTTしかり。
ちなみに、9/25時点のNTTの時価総額は、7兆8091億円、主要な上場子会社として、NTTドコモ、NTTデータ、NTT都市開発、3社の持ち分を合わせると、6兆1037億円となります。こちらは親会社の時価総額の方が、1兆7054億円多くなっています。この場合は、親子上場は問題視されないのでしょうか?過去は、ドコモと時価総額が逆転していた時代は、マスコミは、この親子上場をこぞって批判していましたよね。
日立製作所は事業持ち株会社なので、親会社本体と上場子会社や非上場子会社との事業の重複回避や、管理・統制ルールの整理を行う必要性があります。直近でも9/2のプレスリリースにて、日立ソリューションズの社会・金融・公共分野のシステムソリューション事業のリソース集中のために、これらを吸収分割で日立製作所の社内カンパニーである情報・通信システム社に移管することが公表されました。
また、いささか旧聞ですが、2/1から三菱重工業と日立製作所の火力発電システム事業を統合した、三菱日立パワーシステムズが営業を開始しています。これは逆に分社化して外に出した例です。こうして、事業持ち株会社は事業の出し入れ・統合・整理・分離をして、企業価値を最大にしようとします。

 

■ 孫正義氏の事業ポートフォリオマネージャーとしての手腕への期待

少々簡単な種明しをしましょう。ソフトバンクの非常にわかりやすい(いつも勉強させてもらっています!)8/8に公表された「FY14第1四半期の決算報告資料」に、数字のからくりが載っています。
アリババはSEC基準でニューヨーク証券取引所に上場されました。SEC基準でアリババの2014/1~3/31の純利益のソフトバンク持ち分が336億円。ソフトバンクが保有していたIPO後に普通株式に転換される転換優先株の公正価値が増加分をIFRSでは1030億円の損失として一旦計上し、IPO後に利益に戻し入れる分を含めて、IFRSへの会計基準調整のための損失が989億円。第1四半期に、持分法投資損失(IFRSベース)が653億円になります。
つまり、ソフトバンクの財務諸表を真剣に見ようとすると、会計基準の違いが日・SEC・IFRSの三竦(さんすく)み状態が少なくとも今年度は続くということになります。のれんも総額1兆円超えていますし、投資家がソフトバンクの財務諸表をじっくり見て企業価値を測るなど、そもそも開示情報の基準がバラバラな中で、外部からは大変難易度が高い状態にあるといえます。
正直に言ってください。「市場が判定するには時間がかかりそうだ」ではなく、「会計基準が錯綜(さくそう)しているので我々には精緻に判断できません」と。
純粋持ち株会社であるソフトバンクには、Pepper君や太陽光発電事業への投資もポートフォリオに入っているわけで、残念ながら、これらの詳細なデータは有価証券報告書や決算説明資料では詳(つまび)らかにされていません。
孫正義氏の眼力を信じるか、自分の投資への裁量を重視して、個別にヤフー、スプリント、アリババに投資するかは、投資家の方々の判断です。
ちなみに、有利子負債が通常「財務レバレッジ」と呼ばれています。これはあくまで筆者の推測ですが、孫正義氏からすれば、この有利子負債に加えて、上場子会社の少数株主持ち分すら合わせて「事業レバレッジ」として、自己資金より多くの投資額を集めて、自身の事業意欲に使用させてもらっている、という感覚なのだと思います。
だって、誰も株主総会で、孫正義氏に対して、「もっと株主還元を!」なんて言えないでしょう。したがって、少数株主との利益相反など、ソフトバンクの現経営陣ががんばっている間は起こり得ないのであります。。。

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