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■ 日経新聞は3つの経路で説明しています

経営管理会計トピック
日経新聞の記事に、「円安が大きく3つのルートで企業経営にプラスに働く」との解説がありました。ちょっと全面的に賛成するには、いろいろと前提条件を置かなければならないのですが、今日は簡単に、記事の説明内容をなぞっていきたいと思います。

2015/1/24|日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)円安効果 企業経営に3つの利点

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事内では、「3つのルートで、円安が企業経営に好影響を与える」とあります。これを、財務諸表にプラスに働くと読み替えます。そしてプラスとは、
① 会計的利益が増える
② 結果として自己資本が充実する
という意味であると解釈します。
では、記事で言及している3つのルートを説明します。
1.期間損益を押し上げる効果
「製品を輸出するなどして海外で販売した企業は、受け取った外貨を日本円に換算する際、円安になればなるほど手取り分が膨らむ」
2.海外保有資産の円貨での評価額が高まる効果
「海外で保有する債権や株式といった海外資産の円建ての価値が増え、自己資本の充実などにつながる」
関連する投稿として、海外保有資産からのルートの危うさの説明をしたものがあります。
⇒「企業の自己資本、円安で20兆円増 上場企業、2年間で 日産やパナソニック、成長投資へ余力
3.販売競争力を強化する効果
「決算数字には直接表れにくいが、現地通貨建てでみた製品の価格競争力が増すことで柔軟な販売戦略をとりやすくなる効果もある」

■ 財務諸表に与えるインパクト

筆者の説明のしやすい順番として、「3.」「1.」「2.」の順で解説していきます。
3.販売競争力を強化する効果
これは、国内生産で海外輸出を前提としたケースにしか当てはまらないのですが、円安が生産コストを下げる効果があるという意味になります。
たとえば、製造原価が100万円の自動車を米国に輸出するとします。
① 1ドル=100円の場合(円安)
米国販社(ディーラーでもよし)の仕入原価が、販管費や輸出諸掛りなどが無いとした場合、ドル建てで、「1万ドル」となります。これを2万ドルで販売すると、米国販社およびこの自動車会社連結での車1台当たりの粗利は、1万ドルとなります。
② 1ドル=50円の場合(円高)
米国販社の仕入原価が、上記と同じ条件の場合、ドル建てで、「2万ドル」となります。これを、上記と同じ条件で販売、すなわち2万ドルで販売すると、粗利はゼロとなります。
粗利トントンは嫌なので、売価を2万ドルから3万ドルに値上げして、1ドル=100円の時と同じ1台当たり粗利を稼ごうとします。
すると、他ブランドに比べて、高い買い物になってしまうので、買ってくれる人が減るはずです。そうすると、売り上げが減ります。逆に言うと、円安になった場合、輸出型企業は売上が増えると考えます。
1.期間損益を押し上げる効果
この用語は、若干誤解を与えてしまいがちです。おそらく、この言い方だと、上記3.の効果をイメージする人が多いと思われるからです。
これを理解するには、会計的には、損益計算書だけでなく、貸借対照表も考慮する必要があります。
① 1ドル=50円(円高)の時に、掛け売りで自動車を販売した場合
2万ドルで自動車を1台、米国で販売した場合、現金ではなく、手形か売掛金(期日約束払い)の形で、決済することをお客と約束します。その場合、米国販社の貸借対照表には、2万ドルが「受取手形」か「売掛金」の科目で計上されるのですが、日本円で考えると、100万円の債権があると考えます。
② 1ドル=100円(円安)の時に、お客から現金を受け取った場合
2万ドルの「受取手形」または「売掛金」が「現金」に変わった場合、ドル建てだと2万ドルでそのまま変わらないのですが、日本円で考えると、200万円になります。すると、「受取手形」または「売掛金」でいったん受け取った時と、「現金」に変わった時とで、差額の100万円、何か儲かった感じがします。
これを新聞では、期間損益を押し上げる効果といいます。うーん、、、
2.海外保有資産の円貨での評価額が高まる効果
これは、同じく米国販社の貸借対照表を考えます。米国販社が現金や建物を貸借対照表にて、合計:10万ドルの資産があるとします。
① 1ドル=50円(円高)の時
10万ドルの資産は、日本円で考えると、500万円となります。
② 1ドル=100円(円安)の時
10万ドルの資産は、日本円で考えると、1,000万円となります。
ドル建てだと、10万ドルのままで変わらないのですが、連結決算として、米国販社(子会社)の貸借対照表を、日本の親会社の連結貸借対照表に合算しようとすると、合算前に通貨を日本円にそろえる必要があります。そうすると、500万円が1,000万円と2倍に膨らむので、その分、貸借バランスをとるために、貸借対照表の貸方(右側)の自己資本が500万円増えた、と考えるわけです。
その昔は、日本の会計基準ですと、この500万円の増加分だけ、直接自己資本額を増やす会計処理(直投入という)をしていたのですが、IFRSと合わせるために、「包括利益計算書」というもので、「損益計算書」の「当期純利益」の仲間にできないけど、自己資本が増えている分を「包括利益」と認識しようということになりました。したがって、この日本円に換算した時の増分は、「その他の包括利益」として扱われます。

■ 最後に図解して説明を締めます

3.販売競争力を強化する効果
・売上が増えるので、図示すると下図のようになります。
経営管理会計トピック_円安効果_増収効果
1.期間損益を押し上げる効果
・「売上債権」を「現金」で受け取った時に、日本円の受取額が増えた分は、「為替差益」という科目で、営業外収益に計上し、日本基準では「経常利益」を増やす効果があります。
経営管理会計トピック_円安効果_為替差益
2.海外保有資産の円貨での評価額が高まる効果
・現金や建物などの固定資産を、ドルから日本円に換算する時に、日本円ベースだと見かけ上増えているので、その分を「為替換算調整勘定」という科目で、自己資本が増えるように貸借対照表に計上します。
経営管理会計トピック_円安効果_為替換算調整勘定
こういう図示があれば、もう少し、新聞記事の説明も分かりやすくなるでしょうか?
読者の方々にとって、円安がどのように財務諸表に効いてくるのか、理屈の理解に少しでも貢献できていれば幸いです。

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小林 友昭経済動向を会計で読む■ 日経新聞は3つの経路で説明しています 日経新聞の記事に、「円安が大きく3つのルートで企業経営にプラスに働く」との解説がありました。ちょっと全面的に賛成するには、いろいろと前提条件を置かなければならないのですが、今日は簡単に、記事の説明内容をなぞっていきたいと思います。 2015/1/24|日本経済新聞|朝刊 (きょうのことば)円安効果 企業経営に3つの利点 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 記事内では、「3つのルートで、円安が企業経営に好影響を与える」とあります。これを、財務諸表にプラスに働くと読み替えます。そしてプラスとは、 ① 会計的利益が増える ② 結果として自己資本が充実する という意味であると解釈します。 では、記事で言及している3つのルートを説明します。 1.期間損益を押し上げる効果 「製品を輸出するなどして海外で販売した企業は、受け取った外貨を日本円に換算する際、円安になればなるほど手取り分が膨らむ」 2.海外保有資産の円貨での評価額が高まる効果 「海外で保有する債権や株式といった海外資産の円建ての価値が増え、自己資本の充実などにつながる」 関連する投稿として、海外保有資産からのルートの危うさの説明をしたものがあります。 ⇒「企業の自己資本、円安で20兆円増 上場企業、2年間で 日産やパナソニック、成長投資へ余力」 3.販売競争力を強化する効果 「決算数字には直接表れにくいが、現地通貨建てでみた製品の価格競争力が増すことで柔軟な販売戦略をとりやすくなる効果もある」 ■ 財務諸表に与えるインパクト 筆者の説明のしやすい順番として、「3.」「1.」「2.」の順で解説していきます。 3.販売競争力を強化する効果 これは、国内生産で海外輸出を前提としたケースにしか当てはまらないのですが、円安が生産コストを下げる効果があるという意味になります。 たとえば、製造原価が100万円の自動車を米国に輸出するとします。 ① 1ドル=100円の場合(円安) 米国販社(ディーラーでもよし)の仕入原価が、販管費や輸出諸掛りなどが無いとした場合、ドル建てで、「1万ドル」となります。これを2万ドルで販売すると、米国販社およびこの自動車会社連結での車1台当たりの粗利は、1万ドルとなります。 ② 1ドル=50円の場合(円高) 米国販社の仕入原価が、上記と同じ条件の場合、ドル建てで、「2万ドル」となります。これを、上記と同じ条件で販売、すなわち2万ドルで販売すると、粗利はゼロとなります。 粗利トントンは嫌なので、売価を2万ドルから3万ドルに値上げして、1ドル=100円の時と同じ1台当たり粗利を稼ごうとします。 すると、他ブランドに比べて、高い買い物になってしまうので、買ってくれる人が減るはずです。そうすると、売り上げが減ります。逆に言うと、円安になった場合、輸出型企業は売上が増えると考えます。 1.期間損益を押し上げる効果 この用語は、若干誤解を与えてしまいがちです。おそらく、この言い方だと、上記3.の効果をイメージする人が多いと思われるからです。 これを理解するには、会計的には、損益計算書だけでなく、貸借対照表も考慮する必要があります。 ① 1ドル=50円(円高)の時に、掛け売りで自動車を販売した場合 2万ドルで自動車を1台、米国で販売した場合、現金ではなく、手形か売掛金(期日約束払い)の形で、決済することをお客と約束します。その場合、米国販社の貸借対照表には、2万ドルが「受取手形」か「売掛金」の科目で計上されるのですが、日本円で考えると、100万円の債権があると考えます。 ② 1ドル=100円(円安)の時に、お客から現金を受け取った場合 2万ドルの「受取手形」または「売掛金」が「現金」に変わった場合、ドル建てだと2万ドルでそのまま変わらないのですが、日本円で考えると、200万円になります。すると、「受取手形」または「売掛金」でいったん受け取った時と、「現金」に変わった時とで、差額の100万円、何か儲かった感じがします。 これを新聞では、期間損益を押し上げる効果といいます。うーん、、、 2.海外保有資産の円貨での評価額が高まる効果 これは、同じく米国販社の貸借対照表を考えます。米国販社が現金や建物を貸借対照表にて、合計:10万ドルの資産があるとします。 ① 1ドル=50円(円高)の時 10万ドルの資産は、日本円で考えると、500万円となります。 ② 1ドル=100円(円安)の時 10万ドルの資産は、日本円で考えると、1,000万円となります。 ドル建てだと、10万ドルのままで変わらないのですが、連結決算として、米国販社(子会社)の貸借対照表を、日本の親会社の連結貸借対照表に合算しようとすると、合算前に通貨を日本円にそろえる必要があります。そうすると、500万円が1,000万円と2倍に膨らむので、その分、貸借バランスをとるために、貸借対照表の貸方(右側)の自己資本が500万円増えた、と考えるわけです。 その昔は、日本の会計基準ですと、この500万円の増加分だけ、直接自己資本額を増やす会計処理(直投入という)をしていたのですが、IFRSと合わせるために、「包括利益計算書」というもので、「損益計算書」の「当期純利益」の仲間にできないけど、自己資本が増えている分を「包括利益」と認識しようということになりました。したがって、この日本円に換算した時の増分は、「その他の包括利益」として扱われます。 ■ 最後に図解して説明を締めます 3.販売競争力を強化する効果 ・売上が増えるので、図示すると下図のようになります。 1.期間損益を押し上げる効果 ・「売上債権」を「現金」で受け取った時に、日本円の受取額が増えた分は、「為替差益」という科目で、営業外収益に計上し、日本基準では「経常利益」を増やす効果があります。 2.海外保有資産の円貨での評価額が高まる効果 ・現金や建物などの固定資産を、ドルから日本円に換算する時に、日本円ベースだと見かけ上増えているので、その分を「為替換算調整勘定」という科目で、自己資本が増えるように貸借対照表に計上します。 こういう図示があれば、もう少し、新聞記事の説明も分かりやすくなるでしょうか? 読者の方々にとって、円安がどのように財務諸表に効いてくるのか、理屈の理解に少しでも貢献できていれば幸いです。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します