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■ 石油元売り国内再編の動き

経営管理会計トピック
石油元売り2位グループの内の2社(出光興産と昭和シェル石油)が経営統合に至る交渉中であるとの報道がありました。経営統合による業界再編話が沸き上がった原因を、マクロの市場環境および、ミクロの個別企業の経営状況からひも解いてみたいと思います。

2014/12/20付 |日本経済新聞|朝刊
出光、昭和シェル買収へ交渉 TOB5000億円規模、首位JX追う 国内縮小で石油再編

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「石油元売り国内2位の出光興産は、同5位の昭和シェル石油の買収に向け交渉に入った。2015年度前半をめどにTOB(株式公開買い付け)を実施し、子会社化をめざす。買収総額は5千億円規模の見通し。ガソリン販売シェアは両社合計で30%と最大手のJX日鉱日石エネルギーに迫り、2強時代に入る。需要低迷や過当競争など構造問題を抱える石油業界の再編が加速する。」

■ 今回のディール・ストラクチャーの背景

まず、今回のディールは、出光興産による昭和シェル石油のTOB(株式公開買い付け)という形態をとると報道されています。19日現在の昭和シェルの時価総額が約3800億円。支配権プレミアムを20~30%つけるということなので、新聞記事のリード文にある5000億円というのは、丁度プレミアムをおおよそ30%つけた場合の金額になります。
1200億円のプレミアムが本当に出光興産のお得になるかは、両社がプレスリリースで正式にこのディールを認め、詳細が固まった時点で改めて分析したいと思います。
出光興産は、この買収資金を三井住友銀行から調達するめどを立てていると報道にあります。状況証拠的にも、部分的にでもLBOによる買収に頼らざるを得ないと思います。
下記に、2社の直近5期のキャッシュフロー推移グラフを掲載します。
経営管理会計トピック_出光興産&昭和シェル_FCF_数表 
経営管理会計トピック_出光興産_FCF_グラフ 
経営管理会計トピック_昭和シェル_FCF_グラフ
積極的な設備投資により、フリーキャッシュフロー(FCF)が赤字に沈み込みがちな出光興産に対し、昭和シェルの方は、順調にキャッシュマシンとして機能してきています。
直近の決算期末の数字によると、出光興産の手元資金は、1600億円。昭和シェルの方は、274億円。ただし、直近2年間の配当金支払総額は、出光興産も昭和シェル石油も、170億円で同額になっています。親会社が外資だと、こういうことになるんですね。
TOBが成功すれば、昭和シェルの稼いだキャッシュは、社外流出せず、新聞記事通りだと、成長のための投資に活用されることになります。
ここまで、買い手の都合を書きましたが、売り手の英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルの都合も確認しておきます。

2014/12/20付 |日本経済新聞|夕刊
英蘭シェル終値3%高 NY市場

「昭和シェル株を約35%保有し、筆頭株主であるロイヤル・ダッチ・シェルの「選択と集中」が進むとして好感された。」
英蘭シェルは、昭シェル株の売却により過当競争で利幅が薄い日本市場における石油精製・販売事業からは撤退しますが、産油地におけるアップストリーム事業や、安定した収益が見込める化学事業や液化天然ガス(LNG)販売に経営資源を集中することが好感された株高です。
丁度、売り手の売りたい気持ち出光興産の意図が一致したということです。

■ 国内の市場環境の確認

スカイマーク救済のケースでは、同社の独立性維持に腐心した当局も、今回の経営統合については積極的に支持し、「産業競争力強化法」の認定申請を受ければ税制優遇措置などで支援する姿勢を見せています。何が当局をそうさせるのでしょうか。
下記に、中長期的な国内燃料油の販売推移を示します。
経営管理会計トピック_石油製品販売量の推移_数表 
経営管理会計トピック_石油製品販売量の推移_グラフ 
新聞記事にも、
「少子化やエコカーの普及で、ガソリンなど燃料油の国内需要は最盛期の1995年に比べ20%超減少。中長期的にはさらに2~3割の減少が見込まれる。」
とあり、石油の国内需要減少の流れは変調することはないという見解で、超過供給状態を回避するため、石油精製設備の合理化を推進したい、というのが当局の意思であることは明白です。
「経済産業省は今年3月末に日量395万バレルあった供給能力の一段の削減など、体質強化に向け石油業界に再編を促していた。出光と昭シェルの動きはこれに呼応するものだ。」

■ 当局の産業政策の意図

ここで、これまでの当局の動きとそれに呼応した業界再編の動きを整理しておきます。

2014/12/20付 |日本経済新聞|朝刊
石油、2強体制へ 出光、昭和シェル買収交渉 さらなる再編も 資金確保へ規模追求

「第1弾」
86年の特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)の施行による生産・販売の一部自由化
1) 昭和石油、シェル石油は1985年1月に合併し、昭和シェル石油
2) 丸善石油、大協石油は1986年に合併し、コスモ石油
「第2弾」
96年の同法廃止による全面自由化
3) 日本石油、三菱石油は1999年4月に合併し、日石三菱に。2002年7月に新日本石油に社名変更
4) 東亜燃料工業とゼネラル石油は2000年7月に合併し、東燃ゼネラル石油
5) エッソ石油、モービル石油は2002年6月に合併し、エクソン・モービル石油
6) 九州石油と新日本石油は2008年10月に統合
7) 新日本石油とジャパンエナジーは2010年7月に合併し、JX日鉱日石エネルギー
8)東燃ゼネラル石油、2012年6月にEMGマーケティング(エクソン・モービル)を子会社化
9) 東燃ゼネラル石油、2014年2月に、三井石油(現MOCマーケティング)を子会社化
「第3弾」
14年7月末にエネルギー供給構造高度化法の大臣告示を改正、16年度末までにさらに1割の能力削減を石油業界に課す
10) 出光興産の昭和シェル石油に対するTOB(予定)
寡占化が進む業界。需要がシュリンクしている市場では、当局は産業整理を歓迎するようで。。。
それでは、下記に、石油元売りの国内販売シェア推移を示します。
経営管理会計トピック_石油元売りシェア_数表 
経営管理会計トピック_石油元売りシェア_グラフ
大局的には、後は「東燃ゼネラル」と「コスモ石油」が合併し、3強という流れになりそうですね。しかし、それぞれ外資系と民族系(懐かしい響きですね)。コスモ石油はJXとも業務提携をしているため、コスモ石油の動向が気になります。東燃は、親会社から株式を引き取ったばかりで、ちょっと能動的には身動きできないかもしれません。
(詳細は次回)
キグナス石油は、親会社の三愛石油が等距離外交政策(エクソン・モービル、昭和シェル石油、ENEOS、東燃ゼネラル石油の特約店(ガソリンスタンド)を経営)をとっているため、どこの傘下になるかは不透明ですが、元々キグナスは東燃ゼネラルから買収したので、その縁で東燃ゼネラルか、販売面で結びつきが強いENEOS(JX)か?
太陽石油は、民族系元売りですが、唯一四国に製油所を持っているため、どこにでも高く自社を売り込むことができそうです。
(関係者の皆様、勝手な物言いすみません) 
それでは、次回、個別企業の財務指標や業界のビジネスモデルについて切り込んでみたいと思います。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 石油元売り国内再編の動き 石油元売り2位グループの内の2社(出光興産と昭和シェル石油)が経営統合に至る交渉中であるとの報道がありました。経営統合による業界再編話が沸き上がった原因を、マクロの市場環境および、ミクロの個別企業の経営状況からひも解いてみたいと思います。 2014/12/20付 |日本経済新聞|朝刊 出光、昭和シェル買収へ交渉 TOB5000億円規模、首位JX追う 国内縮小で石油再編(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「石油元売り国内2位の出光興産は、同5位の昭和シェル石油の買収に向け交渉に入った。2015年度前半をめどにTOB(株式公開買い付け)を実施し、子会社化をめざす。買収総額は5千億円規模の見通し。ガソリン販売シェアは両社合計で30%と最大手のJX日鉱日石エネルギーに迫り、2強時代に入る。需要低迷や過当競争など構造問題を抱える石油業界の再編が加速する。」 ■ 今回のディール・ストラクチャーの背景まず、今回のディールは、出光興産による昭和シェル石油のTOB(株式公開買い付け)という形態をとると報道されています。19日現在の昭和シェルの時価総額が約3800億円。支配権プレミアムを20~30%つけるということなので、新聞記事のリード文にある5000億円というのは、丁度プレミアムをおおよそ30%つけた場合の金額になります。 1200億円のプレミアムが本当に出光興産のお得になるかは、両社がプレスリリースで正式にこのディールを認め、詳細が固まった時点で改めて分析したいと思います。 出光興産は、この買収資金を三井住友銀行から調達するめどを立てていると報道にあります。状況証拠的にも、部分的にでもLBOによる買収に頼らざるを得ないと思います。 下記に、2社の直近5期のキャッシュフロー推移グラフを掲載します。     積極的な設備投資により、フリーキャッシュフロー(FCF)が赤字に沈み込みがちな出光興産に対し、昭和シェルの方は、順調にキャッシュマシンとして機能してきています。 直近の決算期末の数字によると、出光興産の手元資金は、1600億円。昭和シェルの方は、274億円。ただし、直近2年間の配当金支払総額は、出光興産も昭和シェル石油も、170億円で同額になっています。親会社が外資だと、こういうことになるんですね。 TOBが成功すれば、昭和シェルの稼いだキャッシュは、社外流出せず、新聞記事通りだと、成長のための投資に活用されることになります。 ここまで、買い手の都合を書きましたが、売り手の英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルの都合も確認しておきます。 2014/12/20付 |日本経済新聞|夕刊 英蘭シェル終値3%高 NY市場 「昭和シェル株を約35%保有し、筆頭株主であるロイヤル・ダッチ・シェルの「選択と集中」が進むとして好感された。」 英蘭シェルは、昭シェル株の売却により過当競争で利幅が薄い日本市場における石油精製・販売事業からは撤退しますが、産油地におけるアップストリーム事業や、安定した収益が見込める化学事業や液化天然ガス(LNG)販売に経営資源を集中することが好感された株高です。 丁度、売り手の売りたい気持ち出光興産の意図が一致したということです。 ■ 国内の市場環境の確認スカイマーク救済のケースでは、同社の独立性維持に腐心した当局も、今回の経営統合については積極的に支持し、「産業競争力強化法」の認定申請を受ければ税制優遇措置などで支援する姿勢を見せています。何が当局をそうさせるのでしょうか。 下記に、中長期的な国内燃料油の販売推移を示します。     新聞記事にも、 「少子化やエコカーの普及で、ガソリンなど燃料油の国内需要は最盛期の1995年に比べ20%超減少。中長期的にはさらに2~3割の減少が見込まれる。」 とあり、石油の国内需要減少の流れは変調することはないという見解で、超過供給状態を回避するため、石油精製設備の合理化を推進したい、というのが当局の意思であることは明白です。 「経済産業省は今年3月末に日量395万バレルあった供給能力の一段の削減など、体質強化に向け石油業界に再編を促していた。出光と昭シェルの動きはこれに呼応するものだ。」 ■ 当局の産業政策の意図ここで、これまでの当局の動きとそれに呼応した業界再編の動きを整理しておきます。 2014/12/20付 |日本経済新聞|朝刊 石油、2強体制へ 出光、昭和シェル買収交渉 さらなる再編も 資金確保へ規模追求 「第1弾」 86年の特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)の施行による生産・販売の一部自由化 1) 昭和石油、シェル石油は1985年1月に合併し、昭和シェル石油 2) 丸善石油、大協石油は1986年に合併し、コスモ石油 「第2弾」 96年の同法廃止による全面自由化 3) 日本石油、三菱石油は1999年4月に合併し、日石三菱に。2002年7月に新日本石油に社名変更 4) 東亜燃料工業とゼネラル石油は2000年7月に合併し、東燃ゼネラル石油 5) エッソ石油、モービル石油は2002年6月に合併し、エクソン・モービル石油 6) 九州石油と新日本石油は2008年10月に統合 7) 新日本石油とジャパンエナジーは2010年7月に合併し、JX日鉱日石エネルギー 8)東燃ゼネラル石油、2012年6月にEMGマーケティング(エクソン・モービル)を子会社化 9) 東燃ゼネラル石油、2014年2月に、三井石油(現MOCマーケティング)を子会社化 「第3弾」 14年7月末にエネルギー供給構造高度化法の大臣告示を改正、16年度末までにさらに1割の能力削減を石油業界に課す 10) 出光興産の昭和シェル石油に対するTOB(予定) 寡占化が進む業界。需要がシュリンクしている市場では、当局は産業整理を歓迎するようで。。。 それでは、下記に、石油元売りの国内販売シェア推移を示します。   大局的には、後は「東燃ゼネラル」と「コスモ石油」が合併し、3強という流れになりそうですね。しかし、それぞれ外資系と民族系(懐かしい響きですね)。コスモ石油はJXとも業務提携をしているため、コスモ石油の動向が気になります。東燃は、親会社から株式を引き取ったばかりで、ちょっと能動的には身動きできないかもしれません。 (詳細は次回) キグナス石油は、親会社の三愛石油が等距離外交政策(エクソン・モービル、昭和シェル石油、ENEOS、東燃ゼネラル石油の特約店(ガソリンスタンド)を経営)をとっているため、どこの傘下になるかは不透明ですが、元々キグナスは東燃ゼネラルから買収したので、その縁で東燃ゼネラルか、販売面で結びつきが強いENEOS(JX)か? 太陽石油は、民族系元売りですが、唯一四国に製油所を持っているため、どこにでも高く自社を売り込むことができそうです。 (関係者の皆様、勝手な物言いすみません)  それでは、次回、個別企業の財務指標や業界のビジネスモデルについて切り込んでみたいと思います。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します