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ビジネス・ラウンドテーブルが「株主第一主義」の行動原則を見直し - ステークホルダー重視へ舵を切った

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米国経営者団体がステークホルダー重視を宣言

2019/8/19に米国経営者団体が株主の利益より従業員や地域社会の利益を優先するという宣言を出しました。

ストックホルダー(株主)とステークホルダー(利害関係者)のどちらを向いた経営をするべきか、日本ではとっくの昔にステークホルダー重視の経営の方が大切であるという答えが出ていましたので、ビジネス・ラウンドテーブルの今回の発表も、筆者には別に驚きはありません。

【ニューヨーク=宮本岳則】米主要企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは19日、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した。株価上昇や配当増加など投資家の利益を優先してきた米国型の資本主義にとって大きな転換点となる。米国では所得格差の拡大で、大企業にも批判の矛先が向かっており、行動原則の修正を迫られた形だ。

2019/8/20 |日本経済新聞|朝刊 米経済界「株主第一」見直し、従業員配慮を宣言 アマゾンやGMなど経営トップ181人

この宣言の概要は次の通り。(上記記事に添付の表を参考にまとめ直ししたもの)

(1)顧客:顧客の期待に応えてきた伝統を前進させる(顧客満足:CS)
(2)従業員:公正な報酬の支払い、福利厚生の提供(従業員満足:ES)
(3)取引先:規模の大小を問わず、良きパートナーとして扱う
(4)地域社会:持続可能な事業運営で、環境を保護する
(5)株主:長期的な株主価値に創造に取り組む

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キャプランとノートンによって90年代から経営管理の中心を占めるようになっていたバランスト・スコアカードや戦略マップでは、最終的な株主利益=財務的な成功を得るためには、その利益をもたらしてくれる顧客や従業員の利益を先に実現する必要があることは、既知のことでした。今更驚くことでは決してありません。

ですので、このタイミングでこの種の宣言を米国大企業の経営者団体が出した事実の背景をきちんと知る必要があります。問題は内容ではなくて、その背景の動機です。

ステークホルダー重視が宣言された背景

まずは、リーマン・ショックに関連する経済界の動向からみていきます。そもそも金融資本主義の暴走がリーマン・ショックを招いたとみなされています。そのうえに、危機を脱するために取った施策はさらなる金融緩和と減税でした。株価や土地など資産価格の押し上げでもって経済を下支えしようとしました。その結果、持つものと持たざるものとの格差はそれまで以上に広がりました。

例えば、米国では企業トップの報酬総額が、中央値で従業員給与の200倍を超えるとの調査がある。極端な例だと4万倍の企業さえある。企業は高い利益を上げ、多くを自社株買いに投じた。株高がトップの報酬を押し上げたが、従業員の給与は上がらぬまま。その持続性が問われている。

2019/8/21 |日本経済新聞|米「株主第一主義」に転機 社会の分断に危機感
米企業は株主還元を強化する一方、労働分配率は低迷_日本経済新聞_20190820

同記事添付の「米企業は株主還元を強化する一方、労働分配率は低迷」を引用

企業財政政策の点で日米企業とも大きな差異はありません。これと同じ状況は日本企業でも起こっていることは周知の事実です。

米国ミレニアル世代の6割が「会社の主な目的を利益追求より社会貢献と考えている」とされています。こうした状況が何をもたらしているかというと、2020年に迫った米国大統領選挙での候補者の掲げる政策です。民主党の有力な急進左派の候補者、ウォーレン氏の反ウォールストリート、反シリコンバレーの政策目標は耳目を集めるに十分です。

大統領選の民主党有力候補のウォーレン上院議員と大富豪との論争だ。「富を嘲笑の対象にすべきではない」(JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者)「私は大富豪になるために働いたわけではない」(世界最大のヘッジファンド創業者レイ・ダリオ氏)「富豪の社会への貢献を無視して中傷するのは間違いだ」(カリスマ投資家レオン・クーパーマン氏)
名だたる米国の大富豪が相次いで富める者を代弁するコメントを出したのは、ウォーレン氏が国民皆保険の収益源として大企業と富裕層に6兆ドルの増税を検討すると発表したことが背景にある。

2019/11/6 |日本経済新聞|夕刊 [ウォール街ラウンドアップ] ウォーレン氏VS富豪 白熱

これは、左派の所得再分配政策を強化することで公共の福祉を最大最善のものにしようという政策と、右派のアメリカンドリームの実現を皆が平等に目指せる機会の平等を守ることが、結果として富豪がもたらす消費や雇用の拡大が公共の福祉に役立つという政策のいずれを良しとするかの政治的対立が背景にあるのです。

ちなみに、富豪による社会への富の還元について、ノブレス・オブリージュとして、NPOへ寄付することが容易に想像できますが、最近では、「トリクルダウン理論:trickle-down effect」として、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる」とする経済理論が提唱されています。

「機会の平等」か「結果の平等」か、どちらを政治が重視すると経済活動を通して社会全体の福利厚生が改善するのか。非常に難しい問題です。

上記記事では皮肉的な親子間のジェネレーション・ギャップも紹介されていました。

「建設的な話し合いをして見解の一致点を探し、才能と運があれば誰でもアメリカンドリームが実現できる道を探ろう」。書簡をこう締めくくったクーパーマン氏がこれほど真剣にウォーレン氏に議論を挑むのは、米国の若者の左傾化が背景にある。同氏の21歳になる孫娘もその一人だ。
ウォーレン氏を支持する孫娘に宛てた電子メールを入手した。「自分は一夜にして大富豪になったのではない。ポーランド移民の君のひいおじいちゃんが配管工として懸命に働いて一家で初めて自分を大学に入れてくれた」と勤勉と教育の重要性を強調。身内を含めた米国民が左傾化することで損なわれる米国の資本主義の危機を表明した。

2019/11/6 |日本経済新聞|夕刊 [ウォール街ラウンドアップ] ウォーレン氏VS富豪 白熱

ビジネス・ラウンドテーブルが「ステークホルダー重視」の宣言を出したとしても、米国の富豪たちの本音はこの電子メールが体現していると思いますが如何でしょうか。

政策は多元的に分析する必要がある

押しなべて、政策提言は、

①正確な(客観的な)事実認識に基づき、
②何を最良とするかの価値判断が明確に示され、
③価値実現を妨げる課題を解決する政策の効果が裏付けられている

という三条件を全て満たしている必要があります。そのためには、より多くの立場のより多くの見識者の意見を参考にするとよいでしょう。

2019年8月19日以降、メディアに出た本件に関する意見には次のようなものがあります。

「富裕税導入の是非を巡る議論やアメリカンドリームを体現した大富豪の否定は資本主義の否定につながる」

「ステークホルダー重視宣言が株式市場から支持されると、部の巨大な利益団体に権力が集中し、ウォール街の大手銀が評判を上げて、米国の一般投資家の声が抑圧されるだけだ」

「みんなに対して説明責任(アカウンタビリティー)があるというのは、だれに対しても説明責任がないのと同じ」

「ビジネス・ラウンドテーブルの声明はポピュリズムの波を止める防波堤のようなものだ。米経済界をより公平なものにする取り組みだ」

米ビジネス・ラウンドテーブルは1978年以降、定期的にコーポレートガバナンス(企業統治)原則を公表してきました。1997年からは「企業は主に株主のために存在する」と明記してきた歴史があります。

2020年の大統領選に向けて、体裁だけでもステークホルダー重視を提言したことは、米産業界で重要なパラダイムシフトが起きたのだという一定の評価もあながち間違いではないかもしれません。

しかしながら、この宣言には、政治的左派が怒りを募らせる「経営陣の給与が異常に高い」、「企業の納税額が十分でない」という問題に直接触れてはいません。また別の言い方をすれば、もし業績が悪くなっても、高止まりした役員報酬を引き下げるための道具を失うことにもつながる危険性があります。

企業業績が悪化したのは、エシカル消費やSDGs重視の環境政策にお金を使ったからだと主張されると、ステークホルダーの存在が逆説的に業績悪化の隠れみのに使われる恐れが大きくなるからです。

ステークホルダーとして、またストックホルダーとして、企業が公表するプレス発表や、決算説明会、統合報告書など、経営者メッセージを真摯に読んで判断することが大事であることだけは揺るがないということでしょう。

あなたの意見をお聞かせください

ということで、あなたにとって経営に必要なことは一体何でしょうか?

簡単にステークホルダー理論、経営戦略理論から次のようなアンケートを作成してみました。

あなたにとって企業経営に一番大切なことは何ですか?

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みなさんからご意見があれば是非伺いたいです。右サイドバーのお問い合わせ欄からメール頂けると幸いです。メールが面倒な方は、記事下のコメント欄(匿名可)からご意見頂けると嬉しいです。^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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