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■ なぜトレンドを表すグラフ形式が複数あるのか

管理会計(基礎編)
前回」から引き続き、トヨタと日産の売上高のトレンド分析のお話になります。単に競合2社の売上高をグラフ化するのに、どういう表現方式があるのか、それぞれの表現方式で説明したいポイントはどのように違ってくるのか、または他人からトレンドグラフを見せられて、商談などで手玉に取られないような留意点などについて説明したいと思います。
まず、グラフ化する基礎数値を「数表」で下記にお示しします。
財務分析(入門編)_トヨタ・日産_売上高推移表
数表にて、「N/A」とあるのは、「Not available」の意で、その位置に有意な数字はありませんよ、という意味です。
こうして数表を眺めているだけでも、マイナス値を赤字で表現しているおかげで、FY11のトヨタの減収とFY12の日産の減収にどうしても目が行きます。前者は、東日本大震災の影響で、トヨタのサプライチェーンに影響がでたのと、国内販売が振るわなかったこと、後者は、日産の中国合弁会社の連結範囲の調整の影響が出ていることが、一目でわかります。
前回のおさらいも込めて、「実数表」のトレンドグラフを再掲します。
財務分析(入門編)_トヨタ・日産_売上高推移(1)~実数
この種のグラフは、時間軸での売上高の変動の推移を、「実数」で表しているので、毎年の変化度合いと、絶対値の大きさの両方を同時に分析することができます。ある数値の変化を分析する場合、「幅」「率」「絶対額(そもそもの規模感)」の3つを抑えておく必要があるので、それらをすべて押さえているのが「実数表」。ただし、すべてを押さえているということは、ひとつひとつは際立っていないということ。
つまり、「幅」や「率」など、対象となる変化量をある視点から深く分析するために、各種表現方法が用意されているのです。

■ 1.傾向分析 ②差数 -「伸長額」

下記グラフは、毎年の売上高の変化を「差数」「伸長額」で表したものです。
財務分析(入門編)_トヨタ・日産_売上高推移(2)~前年伸長額
FY11から12、FY12から13にかけてのトヨタの売上高の回復・成長ぶりが際立っていることが分かると思います。2年連続で3兆円強の成長です。リコール騒動の時に、日産が売り上げを伸ばした分の約3倍を2年連続で取り戻しています。

■ 1.傾向分析 ③(単期)成長率 -「前年成長率」

下記グラフは、毎年の売上高の変化を「変化率」で表したものです。
財務分析(入門編)_トヨタ・日産_売上高推移(3)~前年成長率
計算式は次の通りです。
財務分析(入門編)_成長率の計算式
「%」表示したいので、計算結果に100をかけます。また、前期と当期(今期)の差額は、前章で確認した「伸長額」を使っても同じ結果が得られます。ということで、「成長率」を「伸長率」と表現することもあります。
おそらく、成長性分析で最も使用頻度が高いと思われる「成長率」ですが、筆者は次の問題点から、あまりトレンド分析では重視していません。
① 前期数字が基準となっているので、「率」計算が毎期リセットされる
→ 前年対比には有効だが、複数年のトレンドを把握しにくい
② 絶対額を考慮しない指標なので、最終的な経済的効果を把握しにくい
①について、トヨタのFY12:18.7%に対して、FY13:16.4%と下がっています。これを評して、「成長率が鈍化している」という記述を見かけるのですが、絶対額の規模拡大があれば、「収穫逓減」の引力が働きがちになりますし、「前年伸長額」で観察すれば、トヨタのFY13の販売施策が失敗しているようには見受けられません。また、FY13単年度で比較した場合、日産の20.0%に負けているのですが、絶対額ではトヨタが約2倍の伸長額であること、日産は、前年が中国合弁会社の連結決算範囲の調整があってマイナス成長だった低い発射台からの相対的比較で20.0%の高成長率をはじき出しただけです。
こういう深読みを要する「前期比較だけによる成長率」を使用する際には、ご注意ください。
※ この課題の解消方法(複数ありますよ)は次回説明予定です
※ GDP成長率はこの種の分析が主流ですが、実はちゃんと要因分析できる手法が併用されています

■ 1.傾向分析 ④指数 -「100」か「1」か

前章の最後に言及した「前期成長率」を並べただけのトレンド分析の分かりにくさを解消するために、「指数方式」があります。
財務分析(入門編)_指数の計算式
「基準値」を「100」にする場合と、「1」にする場合があります。「100」したければ、割り算の結果に100をかけるだけです。この方式ですと、トヨタと日産のそもそもの売上規模の違いを逆に気にせずに、複数年度の変化量自体を比較することができます。また、いちいち前年売上高でリセットされない成長の軌跡を描画することができますので、まさしくトレンドを見るのに最適です。
(ただし、絶対額による影響度は、「実数」「伸長額」で別途押さえる必要があります)
財務分析(入門編)_トヨタ・日産_売上高推移(4)~指数
この分析手法によると、リコール騒動、東日本大震災、連結範囲の調整など、諸処の要因がありましたが、売上高を成長させるという販売・製品戦略上、FY09~FY13にかけて、トヨタも日産もほぼ同様の結果(「136」と「139」)を見せたということになります。
ここまで、「成長性分析(3)トレンド分析 各種グラフの読み方」の説明をしました。次回は、「成長率」と「指数」について、さらに深堀りする手法をご紹介する予定です。
財務分析(入門編)_成長性分析(3)トレンド分析 各種グラフの読み方

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http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-e1428166718340.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-150x150.jpg小林 友昭財務分析(入門編)■ なぜトレンドを表すグラフ形式が複数あるのか 「前回」から引き続き、トヨタと日産の売上高のトレンド分析のお話になります。単に競合2社の売上高をグラフ化するのに、どういう表現方式があるのか、それぞれの表現方式で説明したいポイントはどのように違ってくるのか、または他人からトレンドグラフを見せられて、商談などで手玉に取られないような留意点などについて説明したいと思います。 まず、グラフ化する基礎数値を「数表」で下記にお示しします。 数表にて、「N/A」とあるのは、「Not available」の意で、その位置に有意な数字はありませんよ、という意味です。 こうして数表を眺めているだけでも、マイナス値を赤字で表現しているおかげで、FY11のトヨタの減収とFY12の日産の減収にどうしても目が行きます。前者は、東日本大震災の影響で、トヨタのサプライチェーンに影響がでたのと、国内販売が振るわなかったこと、後者は、日産の中国合弁会社の連結範囲の調整の影響が出ていることが、一目でわかります。 前回のおさらいも込めて、「実数表」のトレンドグラフを再掲します。 この種のグラフは、時間軸での売上高の変動の推移を、「実数」で表しているので、毎年の変化度合いと、絶対値の大きさの両方を同時に分析することができます。ある数値の変化を分析する場合、「幅」「率」「絶対額(そもそもの規模感)」の3つを抑えておく必要があるので、それらをすべて押さえているのが「実数表」。ただし、すべてを押さえているということは、ひとつひとつは際立っていないということ。 つまり、「幅」や「率」など、対象となる変化量をある視点から深く分析するために、各種表現方法が用意されているのです。 ■ 1.傾向分析 ②差数 -「伸長額」 下記グラフは、毎年の売上高の変化を「差数」「伸長額」で表したものです。 FY11から12、FY12から13にかけてのトヨタの売上高の回復・成長ぶりが際立っていることが分かると思います。2年連続で3兆円強の成長です。リコール騒動の時に、日産が売り上げを伸ばした分の約3倍を2年連続で取り戻しています。 ■ 1.傾向分析 ③(単期)成長率 -「前年成長率」 下記グラフは、毎年の売上高の変化を「変化率」で表したものです。 計算式は次の通りです。 「%」表示したいので、計算結果に100をかけます。また、前期と当期(今期)の差額は、前章で確認した「伸長額」を使っても同じ結果が得られます。ということで、「成長率」を「伸長率」と表現することもあります。 おそらく、成長性分析で最も使用頻度が高いと思われる「成長率」ですが、筆者は次の問題点から、あまりトレンド分析では重視していません。 ① 前期数字が基準となっているので、「率」計算が毎期リセットされる → 前年対比には有効だが、複数年のトレンドを把握しにくい ② 絶対額を考慮しない指標なので、最終的な経済的効果を把握しにくい ①について、トヨタのFY12:18.7%に対して、FY13:16.4%と下がっています。これを評して、「成長率が鈍化している」という記述を見かけるのですが、絶対額の規模拡大があれば、「収穫逓減」の引力が働きがちになりますし、「前年伸長額」で観察すれば、トヨタのFY13の販売施策が失敗しているようには見受けられません。また、FY13単年度で比較した場合、日産の20.0%に負けているのですが、絶対額ではトヨタが約2倍の伸長額であること、日産は、前年が中国合弁会社の連結決算範囲の調整があってマイナス成長だった低い発射台からの相対的比較で20.0%の高成長率をはじき出しただけです。 こういう深読みを要する「前期比較だけによる成長率」を使用する際には、ご注意ください。 ※ この課題の解消方法(複数ありますよ)は次回説明予定です ※ GDP成長率はこの種の分析が主流ですが、実はちゃんと要因分析できる手法が併用されています ■ 1.傾向分析 ④指数 -「100」か「1」か 前章の最後に言及した「前期成長率」を並べただけのトレンド分析の分かりにくさを解消するために、「指数方式」があります。 「基準値」を「100」にする場合と、「1」にする場合があります。「100」したければ、割り算の結果に100をかけるだけです。この方式ですと、トヨタと日産のそもそもの売上規模の違いを逆に気にせずに、複数年度の変化量自体を比較することができます。また、いちいち前年売上高でリセットされない成長の軌跡を描画することができますので、まさしくトレンドを見るのに最適です。 (ただし、絶対額による影響度は、「実数」「伸長額」で別途押さえる必要があります) この分析手法によると、リコール騒動、東日本大震災、連結範囲の調整など、諸処の要因がありましたが、売上高を成長させるという販売・製品戦略上、FY09~FY13にかけて、トヨタも日産もほぼ同様の結果(「136」と「139」)を見せたということになります。 ここまで、「成長性分析(3)トレンド分析 各種グラフの読み方」の説明をしました。次回は、「成長率」と「指数」について、さらに深堀りする手法をご紹介する予定です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します