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損益計算書を斬る

会計(基礎編) 会計(基礎)
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■ 「損益計算書の中身」

会計(基礎編)
前回」まで、「財務諸表(F/S)」を全体概要の説明をしてきました。今回からは、ひとつひとつの財務諸表の中身を見ていきます。トップバッターは「損益計算書(P/L)」です。
「損益計算書」は、「儲けるために犠牲にしたもの(会社から出て行ったもの)と獲得したもの(会社に入ってきたもの)の差額」を「利益」として表示するためのものです。獲得したもの、犠牲にしたもの、それぞれ種類分けされています。
これまでの学習に基づくと、「獲得」とは「財産の増加」、「犠牲」とは「財産の減少」です。そして、「財産の増減」がプラス(黒字)になれば、「利益」、マイナス(赤字)になれば、「損失」と呼ばれます。

《獲得したもの》

  • 売上高
  • 営業外収益
  • 特別利益

《犠牲にしたもの》

  • (売上)原価
  • 販売費および一般管理費
  • 営業外費用
  • 特別損失
  • 法人税等

「獲得したもの」が3種類、「犠牲にしたもの」が5種類あります。これらの組み合わせで、様々な種類の「利益」を「損益計算書」の中で表現することができます。
会計(基礎編)_損益計算書の中身_日本基準

① (売上高) - (売上原価) = (売上総利益)
② (売上高) - (売上原価 + 販売費および一般管理費) = (営業利益)
③ (営業利益) + (営業外収益) - (営業外費用) = (経常利益)
④ (経常利益) + (特別利益) - (特別損失) = (税引前利益)
⑤ (税引前利益) - (法人税等) = (当期純利益)

「売上」から始まって、「損益取引」に絡んだ「資産(財産)」の増加分を示す「当期純利益」に辿り着くまで、いろんな種類の「収益」と「費用」を足したり引いたりしています。
ここで一つ用語の注意です。「原価」には、「製造原価(または仕入原価)」と「売上原価」があります。「製造原価明細書」には、前の決算から次の決算の間、作ったもののコスト(=製造原価)、買ってきたもののコスト(=仕入原価)が記録されています。そのうち、同じ期間内に売れたものにかかったコストを「売上原価」と呼ぶことになっています。
まさしく、「売上=獲得したもの」に対応する「売上原価=犠牲になったもの」という意味です。つまり、「製造原価(または仕入原価)」と「売上原価」の差額は、「在庫」を意味しており、「在庫」はそのまま持っているだけでは、「売上増加=財産増加」に貢献していません。したがって、「財産増加」に寄与しないものは「費用(または原価)」とは看做さないということです。
「損益計算書」を眺めるとき、最終的に「損益取引」に起因する「財産の増加」=「当期純利益」を生み出すのに、どの価値犠牲(費用)、どの価値獲得(収益)が貢献しているか、途中の「○○利益」のバランスは去年と比べて良くなっているか(悪くなっているか)を見るという姿勢が大事です。

 

■ 実際の「損益計算書」を眺めてみる

それでは、具体例として、日産自動車の直近の「損益計算書」を見てみましょう。
会計(基礎編)_損益計算書_日産自動車
その前年と対比して何が改善したのかを見るために、2年分を並べてあります。また、売上高を100%においた売上高構成比率をその右に付け加えています。
分析視点の置き方のひとつの例を下記に記します。

① 当期純利益が前年に比べて513億円増えたことは良かった。でも、売上高との比率では、4.2%から4.0%に悪化しているから、途中段階の何かが影響しているのだろう。
② 売上原価は、83.4%から82.4%と、対売上高比率は改善している。きっと、自動車をつくる時の材料費とか工場で働いている人の作業時間を削減することに成功したのだろう。
③ でも、販売費および一般管理費が、11.5%から12.9%に悪化しているので、間接部門のヒトの人件費とか、広告宣伝費、販売報奨金(リベートなど)がかさんだのかもしれない。

注)「少数株主損益」云々は、「連結決算」のやり方・考え方で出てくる概念です。別の機会に説明する予定です。

 

■ グローバル基準の損益計算書のフォーマット

前章まで、説明してきた「損益計算書」のフォーマットは、「日本基準」のものです。日本の会社(厳密には、日本の株式市場に上場している会社)は、「日本基準」「米国(SEC)基準」「国際会計基準(IFRS)」の3種類の内のいずれかのフォーマットで「財務諸表」を外部のステークホルダーに公開(ディスクローズ)してもよいことになっています。日産自動車は、ルノーと資本提携しているにもかかわらず、「日本基準」なのですが、競合のトヨタ自動車は「米国(SEC)基準」で「財務諸表」を作成しています。
IFRS適用会社一覧はこちら
下記に、トヨタ自動車(米国基準)の「損益計算書」を例示します。
会計(基礎編)_損益計算書_トヨタ自動車

① (売上高) - (売上原価並びに販売費および一般管理費) = (営業利益)
② (営業利益) + (その他の収益・費用) = (税引前利益)
③ (税引前利益) - (法人税等) + (持分法投資損益) = (当期純利益)

注)「非支配持分」云々も「連結決算」関連なので、説明はここでは割愛します。
次に、日本たばこ産業(JT)のIFRSによる「損益計算書」を例示します。
会計(基礎編)_損益計算書_JT

① (売上収益) - (売上原価) = (売上総利益)
② (売上総利益) + (その他の営業収益) + (持分法による投資利益) -
        (販売費および一般管理費等) = (営業利益)
③ (営業利益) + (金融収益) - (金融費用) = (税引前利益)
④ (税引前利益) - (法人所得税費用) = (当期利益)

似たような言葉が並んでいると思いますが、名前だけで判断せず、計算の中身をきちんと確認するクセをつけてください。トヨタとJTの「営業利益」には、「持分法投資損益」が入っていますか、入っていませんか? 同じIFRSでも、ソフトバンクの「損益計算書」では、持分法投資損益はどこに計上されているでしょうか? 興味がありましたら、ブログ右のリンク集から「EDINET」か会社のホームページから有価証券報告書を探し当てて、確認してみてください。

注)「持分法投資損益」とは、きわめて乱暴に言うと、20%~50%(未満)の出資比率の関連会社の当期純利益の増減分です。
ここまで、「損益計算書を斬る」の説明をしました。
会計(基礎編)_損益計算書を斬る

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