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■ 日本の宝、熟練工が不要になる!?

経営管理会計トピック
前回」、人工知能がホワイトカラーの仕事を奪う可能性がある、という警鐘を鳴らした投稿をいたしました。引き続き、今回は、日本の製造業が世界に誇る熟練工まで必要なくなる恐れがある新聞記事をご紹介します。

2014/12/25|日本経済新聞|朝刊
熟練工の技、ロボで伝承 オムロン、サイバーダインと開発

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「オムロンとCYBERDYNE(サイバーダイン)は24日、工場などの作業を支援する次世代型ロボットの開発で業務提携したと発表した。装着した熟練技能者の筋肉の動きを読み取り、若手らがそれを再現できるよう伝える「ロボットスーツ」などを5年程度かけて共同開発する。一般産業のほか、医療・健康分野での実用化も探る。」

■ 他業種のコラボレーションは「インダストリー4.0」として大歓迎だが...

クラスター資本主義 v.s. 国家資本主義 v.s. 企業資本主義(1)」にて、各社が自社の得意領域の技術を持ち寄って、1社では到達できない価値を生み出す(いわゆるシナジーということ)ことで、自社利益増進と社会変革を引き起こす、という動きがドイツで活発になっていることをお話ししました。
いやいや、日本でもこうしたコラボレーションが起きていること、大変歓迎すべきです。
「サイバーダインは人が筋肉を動かす際の信号を読み取り、動作を補助する装着型ロボットを開発している」
一方で、
オムロンは、FA(ファクトリーオートメーション)の領域で、工場の自動化のため、センサー・コントローラー・それらの現場機器をつなぐネットワーク機器を含めて、工場の自動制御技術にたけた企業です。
こうした企業が業務提携をして、世の中に新しい技術革新をもたらすこと、それ自体は大変素晴らしいことです。

■ 両社の業務提携内容を少し垣間見る

オムロンのプレスリリースから引用させていただきます。
業務提携の概要として、
「本基本合意により、オムロンは自社のネットワークサービスを活用し、サイバーダインのHALR介護支援用(腰タイプ)、HALR作業支援用(腰タイプ)、搬送用ロボット、およびクリーンロボットの販売促進と保守サービスを提供してまいります。また、両社は近未来における人と機械が融和する社会の実現を目指し、サイバーダインの強みであるサイバニクス技術と、オムロンの強みであるセンシング&コントロール技術を活かしながら、共同で”生産革命”に関する事業を推進します。」
従来は、サイバーダインの装着型ロボットは、たとえば介護士の補助機器などとして、マスコミで取り上げられましたが、産業へのインパクトとしては、日本のものづくり現場での生産者補助の方が圧倒的に大きいものなります。
提供製品は大別して2つあります。
(プレスリリースとは紹介の順番が逆ですが)
「搬送用ロボット/クリーンロボット
搬送用/クリーンロボットは、1)環境認知、自動マッピング機能、2)ティーチングプレイバック機能という二つの特徴を持ちます。ロボット自ら環境を認知し、自動で周囲の地図を生成し、どのように動いて搬送/清掃するかを自動的に、あるいは人がパッドで設定して実行します。初めに現場でロボットに直接どのように動いたらよいかを教えることで、その直後からロボットは教えられた通りに動くのです。
従来型の製品とは異なり、誘導線(磁気テープ)が不要なため容易に導入可能であり、導入後は工場のレイアウト変更等にも柔軟に対応可能です。ロボットの導入により工場の自動化を推進し、生産性を高めます。」
⇒こちらは、前回お話しした、「人工知能」につながるお話です。自動搬送ロボットは、最初に動きをプログラミングする必要があるのですが、人間の脳と同じように、全ての例外処理(障害物、不良品など)や、環境適合(気温、湿度、大気物質濃度、騒音など)は、あらかじめインプットしきれるものではありません。
そこで、これに「人工知能」を搭載して、自己学習をさせるわけです。あらゆる情報を処理し、そして自律的に学習して応用範囲を広げるとともに、最適化をはかる。単純作業による品質低下防止や、大量生産のための繰り返し生産の生産性向上には、もってこいです。
「HALR介護支援用(腰タイプ)/HALR作業支援用(腰タイプ)
HALR腰部負荷軽減用は、重量物を持ったときに腰部にかかる負荷を軽減することで、腰痛を引き起こすリスクを減らします。これまでの重作業を楽に行うことができるため、病院・介護施設や作業現場での労働環境改善、労働災害防止への活用が期待されています。」
⇒これが、今回のポイントです。
新聞記事より、
「サイバーダインは人が筋肉を動かす際の信号を読み取り、動作を補助する装着型ロボットを開発している。これを生かしてオムロンと熟練技能者の技能伝承に役立つスーツなどを開発する。」
つまりですね、これまでは熟練工が何十年も修業を重ねて習得してきた所作をすべてセンサーで読み取り、精巧なアクチュエイターを用いてその動きを一瞬にして再現して見せる、ということです。
熟練工の修業の結果を次の若者に教え込むためのトレーニングコスト、と習得にかかる時間を一挙に節約できるということです。短中期的には、加工・組立を主にやっている製造業にとっては、大変なコストダウンが見込まれることでしょう。
マイスター(熟練工、師匠)の「技」をロボットに一度教えればいいので。1台のロボットに一度教えれば、ネットワークを用いて瞬時に複数のロボットに情報を伝達し、同じ所作を再現して見せることはいたって容易ですから。

■ そして次世代の熟練工がいなくなる日がやってくる

企業が目の前のコストダウン、熟練工の技術伝承の悩みの解消、これを「人工知能」を搭載した「精密ロボット」で一挙に解決する、それ自体は何も罰せられる行動ではありません。むしろ、危険な製造現場での作業で、身体生命の危険を回避でき、人権視点からは歓迎すべきことかもしれません。
ですけど、技術というものは、絶えず革新していくものです。一人一人の熟練工も、先輩や師匠から教わったことを、自分なりに発展・昇華させて、次世代に伝えてきました。そうした連綿とした営みがあったからこそ、生産現場での技術革新が幾度となく生まれたわけです。
「守破離」
人工知能がお得意の自己学習で、人間が何十年もかけて会得した技能の「カイゼン」を再現できるのでしょうか?
「全体最適」
工場の現場は、それを運用する現場のプロ達の巧妙な連係プレーで高い生産性を保持しています。そうした各部門に渡る高度なコミュニケーションを「人工知能」が代替できるのでしょうか?
残念ながら、これらの解決は、時間の問題だと筆者は考えています。それだけ「人工知能」の技術の進歩が速いと推測できるからです。
ただし、問題はひとつあります。一人の熟練工の世代だけで、「人工知能」に全てをスキル・トランスファーできないということです。まさに「時間軸」の問題。まだまだ複数世代の熟練工による「人工知能」へのインプットとカイゼンは必要でしょう。
その場合、人工知能にスキル・トランスファーしながら、若者にも次世代の熟練工としての鍛錬の場を提供することが必要だということです。今後、経営者は、そのバランスをどの辺に持っていくか、その優劣がものづくり企業の競争力につながるものと思います。

■ これって管理会計にどう関係するの?

管理会計的には、どういうインパクトが生じるのか? 人工知能とIOTの組み合わせで、おそらく、
代理変数を使ったわけのわからない「配賦計算」は消滅することでしょう。「ABC(Activity Based Costing)3.0」が起こり、「人工知能」が工場現場の最適化を提案し、生産性が飛躍的に向上していくでしょう。
そうです。こうした全体のコストダウンや生産最適化をすすめる仕組みづくり、これだけはしばらく人間の仕事として残りそうです。
よかった。まだ経営コンサルは仕事がありそうです。でも、問題は、筆者がそうしたテクノロジーを使いこなすだけの提案ができるかどうかです。
まだまだ修行すべきことが多いようです。

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小林 友昭テクノロジー■ 日本の宝、熟練工が不要になる!? 「前回」、人工知能がホワイトカラーの仕事を奪う可能性がある、という警鐘を鳴らした投稿をいたしました。引き続き、今回は、日本の製造業が世界に誇る熟練工まで必要なくなる恐れがある新聞記事をご紹介します。 2014/12/25|日本経済新聞|朝刊 熟練工の技、ロボで伝承 オムロン、サイバーダインと開発 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「オムロンとCYBERDYNE(サイバーダイン)は24日、工場などの作業を支援する次世代型ロボットの開発で業務提携したと発表した。装着した熟練技能者の筋肉の動きを読み取り、若手らがそれを再現できるよう伝える「ロボットスーツ」などを5年程度かけて共同開発する。一般産業のほか、医療・健康分野での実用化も探る。」 ■ 他業種のコラボレーションは「インダストリー4.0」として大歓迎だが... 「クラスター資本主義 v.s. 国家資本主義 v.s. 企業資本主義(1)」にて、各社が自社の得意領域の技術を持ち寄って、1社では到達できない価値を生み出す(いわゆるシナジーということ)ことで、自社利益増進と社会変革を引き起こす、という動きがドイツで活発になっていることをお話ししました。 いやいや、日本でもこうしたコラボレーションが起きていること、大変歓迎すべきです。 「サイバーダインは人が筋肉を動かす際の信号を読み取り、動作を補助する装着型ロボットを開発している」 一方で、 オムロンは、FA(ファクトリーオートメーション)の領域で、工場の自動化のため、センサー・コントローラー・それらの現場機器をつなぐネットワーク機器を含めて、工場の自動制御技術にたけた企業です。 こうした企業が業務提携をして、世の中に新しい技術革新をもたらすこと、それ自体は大変素晴らしいことです。 ■ 両社の業務提携内容を少し垣間見る オムロンのプレスリリースから引用させていただきます。 業務提携の概要として、 「本基本合意により、オムロンは自社のネットワークサービスを活用し、サイバーダインのHALR介護支援用(腰タイプ)、HALR作業支援用(腰タイプ)、搬送用ロボット、およびクリーンロボットの販売促進と保守サービスを提供してまいります。また、両社は近未来における人と機械が融和する社会の実現を目指し、サイバーダインの強みであるサイバニクス技術と、オムロンの強みであるセンシング&コントロール技術を活かしながら、共同で'生産革命'に関する事業を推進します。」 従来は、サイバーダインの装着型ロボットは、たとえば介護士の補助機器などとして、マスコミで取り上げられましたが、産業へのインパクトとしては、日本のものづくり現場での生産者補助の方が圧倒的に大きいものなります。 提供製品は大別して2つあります。 (プレスリリースとは紹介の順番が逆ですが) 「搬送用ロボット/クリーンロボット 搬送用/クリーンロボットは、1)環境認知、自動マッピング機能、2)ティーチングプレイバック機能という二つの特徴を持ちます。ロボット自ら環境を認知し、自動で周囲の地図を生成し、どのように動いて搬送/清掃するかを自動的に、あるいは人がパッドで設定して実行します。初めに現場でロボットに直接どのように動いたらよいかを教えることで、その直後からロボットは教えられた通りに動くのです。 従来型の製品とは異なり、誘導線(磁気テープ)が不要なため容易に導入可能であり、導入後は工場のレイアウト変更等にも柔軟に対応可能です。ロボットの導入により工場の自動化を推進し、生産性を高めます。」 ⇒こちらは、前回お話しした、「人工知能」につながるお話です。自動搬送ロボットは、最初に動きをプログラミングする必要があるのですが、人間の脳と同じように、全ての例外処理(障害物、不良品など)や、環境適合(気温、湿度、大気物質濃度、騒音など)は、あらかじめインプットしきれるものではありません。 そこで、これに「人工知能」を搭載して、自己学習をさせるわけです。あらゆる情報を処理し、そして自律的に学習して応用範囲を広げるとともに、最適化をはかる。単純作業による品質低下防止や、大量生産のための繰り返し生産の生産性向上には、もってこいです。 「HALR介護支援用(腰タイプ)/HALR作業支援用(腰タイプ) HALR腰部負荷軽減用は、重量物を持ったときに腰部にかかる負荷を軽減することで、腰痛を引き起こすリスクを減らします。これまでの重作業を楽に行うことができるため、病院・介護施設や作業現場での労働環境改善、労働災害防止への活用が期待されています。」 ⇒これが、今回のポイントです。 新聞記事より、 「サイバーダインは人が筋肉を動かす際の信号を読み取り、動作を補助する装着型ロボットを開発している。これを生かしてオムロンと熟練技能者の技能伝承に役立つスーツなどを開発する。」 つまりですね、これまでは熟練工が何十年も修業を重ねて習得してきた所作をすべてセンサーで読み取り、精巧なアクチュエイターを用いてその動きを一瞬にして再現して見せる、ということです。 熟練工の修業の結果を次の若者に教え込むためのトレーニングコスト、と習得にかかる時間を一挙に節約できるということです。短中期的には、加工・組立を主にやっている製造業にとっては、大変なコストダウンが見込まれることでしょう。 マイスター(熟練工、師匠)の「技」をロボットに一度教えればいいので。1台のロボットに一度教えれば、ネットワークを用いて瞬時に複数のロボットに情報を伝達し、同じ所作を再現して見せることはいたって容易ですから。 ■ そして次世代の熟練工がいなくなる日がやってくる 企業が目の前のコストダウン、熟練工の技術伝承の悩みの解消、これを「人工知能」を搭載した「精密ロボット」で一挙に解決する、それ自体は何も罰せられる行動ではありません。むしろ、危険な製造現場での作業で、身体生命の危険を回避でき、人権視点からは歓迎すべきことかもしれません。 ですけど、技術というものは、絶えず革新していくものです。一人一人の熟練工も、先輩や師匠から教わったことを、自分なりに発展・昇華させて、次世代に伝えてきました。そうした連綿とした営みがあったからこそ、生産現場での技術革新が幾度となく生まれたわけです。 「守破離」 人工知能がお得意の自己学習で、人間が何十年もかけて会得した技能の「カイゼン」を再現できるのでしょうか? 「全体最適」 工場の現場は、それを運用する現場のプロ達の巧妙な連係プレーで高い生産性を保持しています。そうした各部門に渡る高度なコミュニケーションを「人工知能」が代替できるのでしょうか? 残念ながら、これらの解決は、時間の問題だと筆者は考えています。それだけ「人工知能」の技術の進歩が速いと推測できるからです。 ただし、問題はひとつあります。一人の熟練工の世代だけで、「人工知能」に全てをスキル・トランスファーできないということです。まさに「時間軸」の問題。まだまだ複数世代の熟練工による「人工知能」へのインプットとカイゼンは必要でしょう。 その場合、人工知能にスキル・トランスファーしながら、若者にも次世代の熟練工としての鍛錬の場を提供することが必要だということです。今後、経営者は、そのバランスをどの辺に持っていくか、その優劣がものづくり企業の競争力につながるものと思います。 ■ これって管理会計にどう関係するの? 管理会計的には、どういうインパクトが生じるのか? 人工知能とIOTの組み合わせで、おそらく、 代理変数を使ったわけのわからない「配賦計算」は消滅することでしょう。「ABC(Activity Based Costing)3.0」が起こり、「人工知能」が工場現場の最適化を提案し、生産性が飛躍的に向上していくでしょう。 そうです。こうした全体のコストダウンや生産最適化をすすめる仕組みづくり、これだけはしばらく人間の仕事として残りそうです。 よかった。まだ経営コンサルは仕事がありそうです。でも、問題は、筆者がそうしたテクノロジーを使いこなすだけの提案ができるかどうかです。 まだまだ修行すべきことが多いようです。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します