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■ 今回は神戸製鋼の決算見通し記事から

経営管理会計トピック
前回」は、JFEのIRスタンスへのコメントでしたが、引き続き神戸製鋼のIRにもコメントしていきます。ベースとなった新聞記事によると、「神戸製鋼所の業績が回復している。2015年3月期通期の連結経常利益は、前期比6%減の800億円としていた従来予想を上回り、前期比横ばいの850億円程度に改善する見通しだ」とあります。

2014/10/30付 |日本経済新聞|朝刊
神戸鋼、今期経常益 予想上回る850億円 鋼材需要が堅調、原料下落も押し上げ要因に

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

今回の神戸製鋼へのコメントは次の2点です。

  1. 在庫評価影響額の表示
  2. プロジェクトファイナンスによる資金調達への影響額の表示

■ 「在庫評価影響額」を考慮した損益とは

神戸製鋼の決算報告資料には、「営業利益」と「経常利益」に注がついており、「在庫評価影響を除いた場合」の利益額がそれぞれ添えられています。さらに、業績見通しや経常利益の前年対比の資料では、そもそもの前提として、「在庫影響を除いた経常利益」で比較分析がなされています。
よく素材産業で目にする「在庫評価影響を除いた利益」とはどういうものか、について説明します。
下記は、例えばの数字ですが、製鉄業における「製品(商品)勘定」になります。
経営管理会計トピック_製品勘定_素材産業
期首製品在庫単価が@10円、今期製造原価単価が@5円。総平均法による棚卸資産評価を採用しているとすると、今期の出荷(売上)原価単価は@7.5円になります。
ちなみに、
JFEも神戸製鋼も、鉄鋼事業(セグメント)では、「総平均法」を採用しています。
この時、制度会計的には、利益は下記のようになります。
経営管理会計トピック_会計上の利益_素材産業
ここまでは、何の変哲もないただの利益計算です。
しかし、決算報告資料には、「在庫評価影響を除いた利益」の数字が添えられています。
その数字は、先述の「製品勘定」の例を参考に、今期の製造原価単価@5円で作られたものが今期の売上の全てを占めている(つまり、期初在庫単価を無視する)と考えると、下記のようになります。
経営管理会計トピック_在庫評価影響額を除いた利益_素材産業
この利益:1,000円と同じ理屈で、神戸製鋼の決算報告資料では、前年比較や今期見通し数字が表示されています。
おそらく、IR担当者の意図としては、期首在庫単価を考慮しない、今期だけの経営努力による生の利益額を今期の業績数値として、外部のステークホルダーに評価してほしいとのメッセージと思われます。
ただし、留意すべきなのは、いつも、「在庫評価影響を除いた利益」が「会計上の利益」より大きくなるとは限らないことです。先述の例では、前期から今期にかけて、単価が下落していたため、「在庫評価影響を除いた利益」が「会計上の利益」より大きくなりましたが、鉄鉱石や石炭等の原材料価格が高騰すれば、逆に、「在庫評価影響を除いた利益」の方が「会計上の利益」より小さくなります。
一旦、「在庫評価影響を除いた利益」を公表した以上、継続的に、2期間比較する際にも、常に同じベース(定義)の利益で差異分析する必要があるので、神戸製鋼の決算報告書の利益分析の資料にある数字は、最初から、制度会計上の利益とは異なるベースでの分析指標となっていることに注意が必要です。
上記のIRにおける利益の見せ方の工夫は、「営業利益」ではなく「EBITDA」を用いることで、利益の絶対額を大きく見せかける他社のIRとは意図が異なり、単期間の経営努力が外部のステークホルダーに分かりやすいように、という意図と解釈しています。しかし、その親切心がかえって、制度会計上の利益の増減分析を妨げてしまい、分かりにくくなっている場合もあるかもしれません。その中でも特に留意すべきケースを次章で説明します。

■ 低価法が常識になってしまいました

2006年のIFRSとのコンバージェンスを意識した「棚卸資産の評価に関する会計基準」の公表により、「原価法」から「低価法」へ、棚卸資産の評価基準のベースが移りました。そうすると、期末在庫の時価(公正価値)を常に意識して、仮に、帳簿価額より時価(公正価値)が小さい場合は、時価(公正価値)に評価替えをすることが義務付けられました。
ここで、前章に引き続き、小例を出します。前章の例によると、期末在庫評価額は、750円になっています。「正味売却価額」により、期末在庫の評価をしてみます。
ちなみに、

(正味売却価額) = (売価) - (見積追加製造原価) - (見積販売直接経費)

で計算されます。
そこで、来期の鋼材は、750円で売れそうだとの見込みがあり、既に製造済みなので、追加の製造原価は0円、販売直接経費は50円とすると、

(正味売却価額) = 750円 - 0円 - 50円 = 700円

となり、期末在庫の帳簿価額が、750円なので、

750円 - 700円 = 50円

だけ、期末在庫の帳簿価額を減額する必要があります。
経営管理会計トピック_低価法による在庫評価考慮後の利益_素材産業
上記の例では、段階利益を便宜的に売上総利益としました。会社の会計方針によって評価損の出方は様々なので、どの段階利益で出るか、ちょっとだけ、注意してください。
「前回」のJFEの新聞記事では、「鉄鉱石など原料価格の下落で会計上の在庫評価損が500億円発生したが、全体で吸収した」とあります。こうした、会計上の在庫評価損が発生する中で、管理会計的に、IR資料上で、「在庫影響額を除く利益」を表示し続けることが、本当にわかりやすい情報開示か、ちょっと疑問に思えてきます。だって、低価法による評価損を今期の利益から減額することは、純粋に今期(単年度)の経営努力による業績を表す利益にはそもそもならないので。
素材産業における製品(商品)の値決めは、半年とか1年ごとに、原材料価格(市況品であることが多い)を見ながら、自動的に売価が決まってしまう取引があります。したがって、先述のJFEの記事のように、鉄鉱石の仕入原価が下がると、売価が自動的に下がり、売価が下がることは、正味売却価額が下がることになるので、会計上の在庫評価損が発生することになります。
ちなみに、JFEも神戸製鋼も、有価証券報告書の注記を読むと、「たな卸資産は、主として、総平均法による原価法(貸借対照表価額については収益性の低下に基づく簿価切下げの方法)による」と記載してあります。当然ですが。
さらに、ちなみに、海外企業では、徹底して在庫影響額を排除した利益をIRしようとするので、税効果まで考慮しているケースがあります。
→BPの例
どうせやるなら、中途半端にせず、ここまでやって頂きたいものです。

■ プロジェクトファイナンスによる資金調達の影響額の表し方

もうひとつ、神戸製鋼のIRで留意すべき点は、IPP(電力卸供給事業)において、プロジェクトファイナンスで資金調達しています。そのため、決算数字を見る場合、次の2点に留意する必要があります。

  1. SPCによる事業だけに遡及するノンリコースローンになり、コーポレートファイナンスから切り離される
  2. しかし、連結決算上、連結範囲にはいるかどうか、確認する必要がある(世界中で会計基準を云々しているところなので、流動的なため、ここでも確定的なことは言えないのです)

これらを考慮して、神戸製鋼のIR用の決算報告資料では、

  • フリーキャッシュフロー
  • 外部負債残高
  • 現預金残高

について、IPP分を区別して表示してあります。後は、読み手が、どのように神戸製鋼のファイナンスを評価するか、考える番になっています。
以上、2回にわたり、素材産業の決算報告をちらちらと眺めてみました。ご参考ください。

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小林 友昭実務で会計ルールをおさらい■ 今回は神戸製鋼の決算見通し記事から 「前回」は、JFEのIRスタンスへのコメントでしたが、引き続き神戸製鋼のIRにもコメントしていきます。ベースとなった新聞記事によると、「神戸製鋼所の業績が回復している。2015年3月期通期の連結経常利益は、前期比6%減の800億円としていた従来予想を上回り、前期比横ばいの850億円程度に改善する見通しだ」とあります。 2014/10/30付 |日本経済新聞|朝刊 神戸鋼、今期経常益 予想上回る850億円 鋼材需要が堅調、原料下落も押し上げ要因に (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 今回の神戸製鋼へのコメントは次の2点です。 在庫評価影響額の表示 プロジェクトファイナンスによる資金調達への影響額の表示 ■ 「在庫評価影響額」を考慮した損益とは 神戸製鋼の決算報告資料には、「営業利益」と「経常利益」に注がついており、「在庫評価影響を除いた場合」の利益額がそれぞれ添えられています。さらに、業績見通しや経常利益の前年対比の資料では、そもそもの前提として、「在庫影響を除いた経常利益」で比較分析がなされています。 よく素材産業で目にする「在庫評価影響を除いた利益」とはどういうものか、について説明します。 下記は、例えばの数字ですが、製鉄業における「製品(商品)勘定」になります。 期首製品在庫単価が@10円、今期製造原価単価が@5円。総平均法による棚卸資産評価を採用しているとすると、今期の出荷(売上)原価単価は@7.5円になります。 ちなみに、 JFEも神戸製鋼も、鉄鋼事業(セグメント)では、「総平均法」を採用しています。 この時、制度会計的には、利益は下記のようになります。 ここまでは、何の変哲もないただの利益計算です。 しかし、決算報告資料には、「在庫評価影響を除いた利益」の数字が添えられています。 その数字は、先述の「製品勘定」の例を参考に、今期の製造原価単価@5円で作られたものが今期の売上の全てを占めている(つまり、期初在庫単価を無視する)と考えると、下記のようになります。 この利益:1,000円と同じ理屈で、神戸製鋼の決算報告資料では、前年比較や今期見通し数字が表示されています。 おそらく、IR担当者の意図としては、期首在庫単価を考慮しない、今期だけの経営努力による生の利益額を今期の業績数値として、外部のステークホルダーに評価してほしいとのメッセージと思われます。 ただし、留意すべきなのは、いつも、「在庫評価影響を除いた利益」が「会計上の利益」より大きくなるとは限らないことです。先述の例では、前期から今期にかけて、単価が下落していたため、「在庫評価影響を除いた利益」が「会計上の利益」より大きくなりましたが、鉄鉱石や石炭等の原材料価格が高騰すれば、逆に、「在庫評価影響を除いた利益」の方が「会計上の利益」より小さくなります。 一旦、「在庫評価影響を除いた利益」を公表した以上、継続的に、2期間比較する際にも、常に同じベース(定義)の利益で差異分析する必要があるので、神戸製鋼の決算報告書の利益分析の資料にある数字は、最初から、制度会計上の利益とは異なるベースでの分析指標となっていることに注意が必要です。 上記のIRにおける利益の見せ方の工夫は、「営業利益」ではなく「EBITDA」を用いることで、利益の絶対額を大きく見せかける他社のIRとは意図が異なり、単期間の経営努力が外部のステークホルダーに分かりやすいように、という意図と解釈しています。しかし、その親切心がかえって、制度会計上の利益の増減分析を妨げてしまい、分かりにくくなっている場合もあるかもしれません。その中でも特に留意すべきケースを次章で説明します。 ■ 低価法が常識になってしまいました 2006年のIFRSとのコンバージェンスを意識した「棚卸資産の評価に関する会計基準」の公表により、「原価法」から「低価法」へ、棚卸資産の評価基準のベースが移りました。そうすると、期末在庫の時価(公正価値)を常に意識して、仮に、帳簿価額より時価(公正価値)が小さい場合は、時価(公正価値)に評価替えをすることが義務付けられました。 ここで、前章に引き続き、小例を出します。前章の例によると、期末在庫評価額は、750円になっています。「正味売却価額」により、期末在庫の評価をしてみます。 ちなみに、 (正味売却価額) = (売価) - (見積追加製造原価) - (見積販売直接経費) で計算されます。 そこで、来期の鋼材は、750円で売れそうだとの見込みがあり、既に製造済みなので、追加の製造原価は0円、販売直接経費は50円とすると、 (正味売却価額) = 750円 - 0円 - 50円 = 700円 となり、期末在庫の帳簿価額が、750円なので、 750円 - 700円 = 50円 だけ、期末在庫の帳簿価額を減額する必要があります。 上記の例では、段階利益を便宜的に売上総利益としました。会社の会計方針によって評価損の出方は様々なので、どの段階利益で出るか、ちょっとだけ、注意してください。 「前回」のJFEの新聞記事では、「鉄鉱石など原料価格の下落で会計上の在庫評価損が500億円発生したが、全体で吸収した」とあります。こうした、会計上の在庫評価損が発生する中で、管理会計的に、IR資料上で、「在庫影響額を除く利益」を表示し続けることが、本当にわかりやすい情報開示か、ちょっと疑問に思えてきます。だって、低価法による評価損を今期の利益から減額することは、純粋に今期(単年度)の経営努力による業績を表す利益にはそもそもならないので。 素材産業における製品(商品)の値決めは、半年とか1年ごとに、原材料価格(市況品であることが多い)を見ながら、自動的に売価が決まってしまう取引があります。したがって、先述のJFEの記事のように、鉄鉱石の仕入原価が下がると、売価が自動的に下がり、売価が下がることは、正味売却価額が下がることになるので、会計上の在庫評価損が発生することになります。 ちなみに、JFEも神戸製鋼も、有価証券報告書の注記を読むと、「たな卸資産は、主として、総平均法による原価法(貸借対照表価額については収益性の低下に基づく簿価切下げの方法)による」と記載してあります。当然ですが。 さらに、ちなみに、海外企業では、徹底して在庫影響額を排除した利益をIRしようとするので、税効果まで考慮しているケースがあります。 →BPの例 どうせやるなら、中途半端にせず、ここまでやって頂きたいものです。 ■ プロジェクトファイナンスによる資金調達の影響額の表し方 もうひとつ、神戸製鋼のIRで留意すべき点は、IPP(電力卸供給事業)において、プロジェクトファイナンスで資金調達しています。そのため、決算数字を見る場合、次の2点に留意する必要があります。 SPCによる事業だけに遡及するノンリコースローンになり、コーポレートファイナンスから切り離される しかし、連結決算上、連結範囲にはいるかどうか、確認する必要がある(世界中で会計基準を云々しているところなので、流動的なため、ここでも確定的なことは言えないのです) これらを考慮して、神戸製鋼のIR用の決算報告資料では、 フリーキャッシュフロー 外部負債残高 現預金残高 について、IPP分を区別して表示してあります。後は、読み手が、どのように神戸製鋼のファイナンスを評価するか、考える番になっています。 以上、2回にわたり、素材産業の決算報告をちらちらと眺めてみました。ご参考ください。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します