■ ようやく税制でもグローバル基準で組織再編が可能になった件について
「事業分離等に関する会計基準」が2005年に設定、2013年に改訂され、会社分割や営業譲渡に関する会計基準はグローバル並みに整備されました。税制は、2001年に「企業組織再編税制」が導入され、適格組織再編成とみなされれば、分離・再編に伴う資産移転にかかる譲渡益に対する課税の繰延べが認められていました。今回は、従来の適格組織再編とは認められずに、課税対象になっていた取引についても、課税繰延べが認められる方向に、税法が改正されることになったというお話です。
2017/2/4付 |日本経済新聞|朝刊 事業分離新税制で負担減 経営効率化に弾み 再編の選択肢広がる
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「東芝のように追い込まれてリストラする企業が減るのでは。株式市場でそんな期待を集める制度が4月に導入される。企業が事業を新会社として切り出す際に税金がかからなくなる「スピンオフ税制」だ。大企業の新陳代謝を促して長期的な収益拡大につながるとの見方もある。」
海外では、大型M&Aスキームにおいて、単純に合併や持ち株会社への統合だけでなく、非中核事業を分割(スピンオフ)して、中核事業の株主の支配下から外に出すケースがままあります。元の企業(親会社、中核会社)は既存株主に新会社の株式を割り当て、分離先には元の企業の経営者および株主の支配権が及ばない形をとります。こうしたスピンオフについて、海外ではその時点で親会社にも親会社の株主にも税負担が生じることは原則ありません。それゆえ、独バイエルや米ヒューレット・パッカードなどの大企業がこのスキームを活用してきました。
ここで世の中での用語の整理。といっても厳密に使い分けていることは少ないようですが。
● スピンオフ
元(親)会社がある事業や部門を新会社として切り出し、元(親)会社の既存株主に新会社の株式を交付するスキーム全般を指す。元(親)会社と新会社の間の支配関係は解消されるが、資本関係は継続され、かつ営業・事業上の関係を保ち続ける状態を含めて言うこともある
● スピンアウト
上記、広義のスピンオフのスキームで、資本関係も完全に断絶し、元(親)会社との営業・事業上の関係も完全に解消している状態を指す(という風に使い分ける場合の呼称)
● カーブアウト
上記、広義のスピンオフのスキームで、元(親)会社の支配権が維持されているケースに用いられることが多い用語。特に、将来有望な事業への社外からの出資を募りやすくするため、新会社として切り出し、ファンドなどからの出資を仰ぐ際によく用いられる
上記の筆者による用語整理に基づくと、本記事における趣旨は、
「従来は、スピンオフ時の譲渡益のみ課税繰延べだったものが、スピンアウト時でも新たに課税繰延べがOKとなった」
でも、本記事では、まとめてスピンオフと呼んでいるので、厳密な呼称の使い分けはここ止まりとします。では改めて、本記事で紹介されているスキームによる来年度からの無税扱いとなる「スピンオフ税制」とは、下記の通り。
(下記は同記事添付の「スピンオフ税制の仕組み」を引用)
元(親)会社に対しては、合併・分割、現物出資、事後設立によって資産を移転させて場合でも、適格組織再編成とみなせれば、その資産の譲渡についての課税が繰り延べられるということ。
株主に対しては、投資が継続している場合(新会社の株主であり続ける場合)、株式の譲渡益に対する課税を繰り延べ、みなし配当課税を適用しないということ。
■ 会社分離会計 (1)会社分割の類型化
本丸の税法改正の前に、企業再編における会計処理を整理します。
元企業(分割会社)の事業を新設会社に継承させるのを「新設分割」、既存の会社(承継会社)に引き継ぐのを「吸収分割」と区分します。
また、新設会社または承継会社の株式を元企業(分割会社)に直接割り当てる形態を「分社型」、分割会社の株主に割り当てる形態を「分割型」と区分します。よって、
新設分割-分社型、新設分割-分割型
吸収分割-分社型、吸収分割-分割型
の4分類に分けることができます。
この類型は事業分類等の会計処理の基本形となるので、ここで覚えておくと便利でしょう。なお、現行の会社法および事業分離会計基準では、上図右側の分割型について、「分社型会社分割+現物配当」という2つの取引として整理されており、上図左側のみが、現行基準で整備されている状況です。
■ 会社分離会計 (2)会社分割の会計処理
(1)簿価引継法
・各会社が保有する財産(資産、負債)を適正な帳簿価格で移転する方法
・簿価のまま記帳するので、会社分割に伴う移転損益は計上されない
・分割の対価が子会社株式・関連会社株式など、株式交換のケースが当てはまる
この手法の理屈は、これまでの投資が株式交換など、そのまま継続している場合、投資の清算と再投資は行われていないとみなされるから。それゆえ、分離元企業や結合当時企業の株主が従来から背負っている成果の変動性(リスク)を免れていないと想定されます。
(2)売買処理法
・会社分割により移転する財産(資産、負債)が売買されたものとして処理する方法
・拠出した財産の簿価と対価として受け取るもの(時価)の差額を移転損益として計上
・分割の対価に現金等の財産が用いられるケースが当てはまる
この手法の理屈は、これまでの投資が現金給付など、いったん清算されたとみなされるから。それゆえ、分離元企業や結合当時企業の株主がこの会社分割手続きによって、これまで背負っていた成果の変動性(リスク)から解放されると想定されます。
分割企業の設立のために拠出した財産への対価が現金等だったら、そこで従来の投資活動はいったん清算しましょう。だから、移転損益を認識することにします。一方、対価を株式(子会社株式、関係会社株式など)で受け取ったということは、分割先の事業に引き続き事業投資を行っているとみなし、会社分割時の移転取引にかかる譲渡益は無かったことにします。
会計処理的には、分割処理の類型と、分割処理にかかる会計処理(特に移転損益の認識の有無)について理解できたと思います。それで税制は? ムムム、文字制限数がきました。それは次回まで乞うご期待!
⇒「事業分離新税制で負担減 経営効率化に弾み 再編の選択肢広がる (後編)スピンアウト税制改正に斬り込む!」
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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