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■ 減益だった従来予想から一転増益へ

経営管理会計トピック
新聞記事によると、「JFEホールディングスの2014年上期の連結決算は純利益が前年同期比10%増の523億円だった。16%減の400億円としていた従来予想から一転、増益となった」という記述に目がいき、業績予想が難しかった理由を分析しようと、各種資料にあたり始めたところ、いろいろと気になる点がでてきました。原材料価格の変動、為替の変動など、要素を洗い出し、外部開示資料でどこまで迫れるか、ここで公表するつもりでしたが、方向を変え、IRのスタンスの話に切り替えたいと思います。

2014/10/29付 |日本経済新聞|朝刊
JFE、一転10%増益 4~9月

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

筆者は、仕事柄、一年中「有価証券報告書」「決算短信」「決算報告資料」等に目を通していますが、この時期や、5月・6月は、3月期決算の報告が集中し、少々慌ただしくなります。
標題とした記事が出た翌日、「好決算に反応してJFE株が上昇した」、続いて、「同業の神戸製鋼所が10/31に予定されている14年上期の決算発表時に、通期の業績予想の上方修正する公算が大きい」との観測記事が続いたので、これらの記事も参考にしながら2社のIRの状況について今回はコメントしたいと思います。

2014/10/30付 |日本経済新聞|朝刊 
(銘柄診断)JFE 続伸、一時6%高 今期業績の上振れ好感

2014/10/30付 |日本経済新聞|朝刊
神戸鋼、今期経常益 予想上回る850億円 鋼材需要が堅調、原料下落も押し上げ要因に

■ 2社共通の業績修正の要因発表の仕方についての相違

まず共通点から。
損益は、セグメント別にも全社的にも「経常利益」を重視した開示になっています。
2社の「営業利益」から「経常利益」への遷移は下表の通りです。
経営管理会計トピック_JFE_神戸製鋼所_経常利益構成
JFEは、持分法投資損益のインパクトが大きくなっています。これは後ほど、ROSの計算表示の所で触れます。
神戸製鋼所は、支払利息の負担が大きくなっています。これも、後ほど、FCF・負債情報の開示の所で触れます。
(→次回へ)
2社とも事業が多岐にわたっていることから、「持分法投資損益」の考慮や、神戸製鋼所の方は、「業務分担金収入」52億円、「出向者等労務費」120億円も発生しているので、「経常利益」での業績評価の方が、「営業利益」より実力値が分かる感じがします。セグメント情報も「経常利益」ベースで作成されていますので、事業別の損益状況(損益貢献度)も同じ利益ベースで語れるので良い開示スタンスだと思います。

■ JFEのIRの特徴(1) - ホールディングスであることの影響

そもそも、JFEの、業績予想の変更に着目して、財務分析を始めました。そこで、「販売単価」「販売数量(≒生産数量)」「原価単価」および「為替差異」により、損益比較分析を試みようとして、資料を漁りました。
結論から言うと、「粒度の壁」にあたり、大まかにしか分析できませんでした。その結果を公表しようと思いましたが、はたと、どうしてこんなに類推事項が発生するのかの方に関心が移りました。というのも、予実でも、前年同期比対比でも、損益対比分析をする場合には、販売及び原価を「単価×数量」に分解、為替については「予想レート v.s. 実際レート」「輸出比率」で為替感応度の推計、これらが必須となります。
JFEの各種資料でこれをやろうとしましたが、
子会社単体(JFEスチール)の、鋼材出荷(万トン)、(販売)平均単価(千円/トン)、為替($/円)は記載があるのですが、単体の売上が連結粗鋼生産の一部の数字なので、占有率は91.8%、連結セグメント売上に対する構成比は、70.2%になります。
今回の上期決算発表で、「数量・販売・原料」で経常利益が150億円上振れたと報告がありましたが、その150億円の裏が取れない状況なのです。
「単体→連結→ホールディングス」、と会社組織の枠組みが大きくなったので、体に合わせて、開示資料の提供単位にも工夫して頂けると助かります。
一般的に、ホールディングスの有価証券報告書を拝見していると、必ず提出会社の財務諸表および経営指標が出ているのですが、これらを眺めていてもそれほど経営分析には効果がありません。ホールディングス単体での配当可能利益を確認するくらいの用途しかありません。制度で決まっていることだけ最小限開示すればOKとするホールディングスが多いのは極めて残念です。制度変更をまたず、傘下の事業会社単位の情報をもう少し開示してほしいと思います。
そこで、JFEの有報なのですが、なんと、提出会社の財務諸表の後ろに、複数の事業会社の連結財務諸表が開示されています。部分的にはセグメント情報まで附属しています。そして、JFEスチールの箇所では、最近滅多にお目にかかれなくなった「製造原価明細書」がついています。先述の損益差異分析のコストの箇所は、ここからデータを参照させて頂きました。

■ JFEのIRの特徴(2) - 会社目線の財務指標の提示

「決算短信」「決算報告資料」に、収益性指標を中心に財務指標が開示されていたので、確認したところ、羅列の仕方に会社側の意図が仄(ほの)かに見えたのでコメントします。
表示されていた指標(2014年見通し)は次の通りです。

  • ROS = (経常利益) ÷ (売上高) = 5.1%
  • ROA = (経常利益 + 支払利息) ÷ (総資産) = 5.0%
  • DEレシオ = (借入金・社債等残高) ÷ (自己資本) = 63.6%

ROSを経常利益ベースで表示するのは、それ単体ではなんら意味はない、というのが筆者の意見です。というのは、先述の通り、「経常利益」には、「持分法投資損益」など、「売上高」と無関係な収支が混在しているので、何%という比率自体は、分子-分母が厳密には対応していないので無意味です。ただし、経常利益ベースのROAをROSと総資産回転率に分解するために使う場合はそれなりの意義があります。しかし、並んでいるROAの分子は、経常利益から支払利息だけ足し戻されています。これでは、ROAの分解指標にもなっていません。
ROA算出に、支払利息を考慮することは、B/Sの貸方の資金調達状況に中立的な事業投資採算を見せたい、という動機でしょうから、これは理屈が通っています。しかし、ROSと連携が取れていません。
DEレシオは、少々、分子分母ともに、トリッキーでした。
まず、「格付け評価上の資本性を併せ持つ負債(3,000億円)について、格付機関の評価により、75%を資本に算入」との記述により、分子分母を補正しました。しかし、有報上では、この3000億円に関する記述が、ざっと見た感じでは(読み込みが浅いのだと思いますが)見当たりませんでしたので、会社側の発表を信じるしかないです。どこかに痕跡があるはずなので、時間があれば今後さらに追っていきたいと思います。
そして、分母ですが、「自己資本」とあるので、検算してみたところ、その名の通り連結B/Sの「純資産」ではありませんでした。綺麗に、「純資産」から「少数株主持分」が落されていました。これは、神戸製鋼所のDEレシオも同じ状況でした。
DEレシオをなぜステークホルダーに伝えるのか、という趣旨に照らして考えると、資金調達の出元のバランスの最適化の具合を見るためのものです。「融資」か「出資」か。「超長期債」「ハイブリッド債」が「融資」でないかどうか、議論があるところですが、そこは債務の明細をきちんと「有価証券報告書」に明示したうえで、DEレシオの計算根拠を示すべきです。そして、「少数株主持分」がすっぽり落ちているのは片手落ちです。「出資」扱いしないのなら、計数の本質を問うのならばですが、例えば「融資」側に入れてください。そうしないと、「親会社説」に基づく限定範囲の株主に対するメッセージ(判断基準)にもなり得ません。
表面上の体裁だけを良くしようとしても、全体の説明に一貫したストーリーが無いとステークホルダー(投資家)は飛び付きませんぞ!
ここまでで、字数制限を大幅に超過してしまいました。神戸製鋼所のIR数字へのコメントは次回に繰り越させて頂きます。

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小林 友昭実務で会計ルールをおさらい■ 減益だった従来予想から一転増益へ 新聞記事によると、「JFEホールディングスの2014年上期の連結決算は純利益が前年同期比10%増の523億円だった。16%減の400億円としていた従来予想から一転、増益となった」という記述に目がいき、業績予想が難しかった理由を分析しようと、各種資料にあたり始めたところ、いろいろと気になる点がでてきました。原材料価格の変動、為替の変動など、要素を洗い出し、外部開示資料でどこまで迫れるか、ここで公表するつもりでしたが、方向を変え、IRのスタンスの話に切り替えたいと思います。 2014/10/29付 |日本経済新聞|朝刊 JFE、一転10%増益 4~9月(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 筆者は、仕事柄、一年中「有価証券報告書」「決算短信」「決算報告資料」等に目を通していますが、この時期や、5月・6月は、3月期決算の報告が集中し、少々慌ただしくなります。 標題とした記事が出た翌日、「好決算に反応してJFE株が上昇した」、続いて、「同業の神戸製鋼所が10/31に予定されている14年上期の決算発表時に、通期の業績予想の上方修正する公算が大きい」との観測記事が続いたので、これらの記事も参考にしながら2社のIRの状況について今回はコメントしたいと思います。 2014/10/30付 |日本経済新聞|朝刊  (銘柄診断)JFE 続伸、一時6%高 今期業績の上振れ好感 2014/10/30付 |日本経済新聞|朝刊 神戸鋼、今期経常益 予想上回る850億円 鋼材需要が堅調、原料下落も押し上げ要因に ■ 2社共通の業績修正の要因発表の仕方についての相違まず共通点から。 損益は、セグメント別にも全社的にも「経常利益」を重視した開示になっています。 2社の「営業利益」から「経常利益」への遷移は下表の通りです。 JFEは、持分法投資損益のインパクトが大きくなっています。これは後ほど、ROSの計算表示の所で触れます。 神戸製鋼所は、支払利息の負担が大きくなっています。これも、後ほど、FCF・負債情報の開示の所で触れます。 (→次回へ) 2社とも事業が多岐にわたっていることから、「持分法投資損益」の考慮や、神戸製鋼所の方は、「業務分担金収入」52億円、「出向者等労務費」120億円も発生しているので、「経常利益」での業績評価の方が、「営業利益」より実力値が分かる感じがします。セグメント情報も「経常利益」ベースで作成されていますので、事業別の損益状況(損益貢献度)も同じ利益ベースで語れるので良い開示スタンスだと思います。 ■ JFEのIRの特徴(1) - ホールディングスであることの影響そもそも、JFEの、業績予想の変更に着目して、財務分析を始めました。そこで、「販売単価」「販売数量(≒生産数量)」「原価単価」および「為替差異」により、損益比較分析を試みようとして、資料を漁りました。 結論から言うと、「粒度の壁」にあたり、大まかにしか分析できませんでした。その結果を公表しようと思いましたが、はたと、どうしてこんなに類推事項が発生するのかの方に関心が移りました。というのも、予実でも、前年同期比対比でも、損益対比分析をする場合には、販売及び原価を「単価×数量」に分解、為替については「予想レート v.s. 実際レート」「輸出比率」で為替感応度の推計、これらが必須となります。 JFEの各種資料でこれをやろうとしましたが、 子会社単体(JFEスチール)の、鋼材出荷(万トン)、(販売)平均単価(千円/トン)、為替($/円)は記載があるのですが、単体の売上が連結粗鋼生産の一部の数字なので、占有率は91.8%、連結セグメント売上に対する構成比は、70.2%になります。 今回の上期決算発表で、「数量・販売・原料」で経常利益が150億円上振れたと報告がありましたが、その150億円の裏が取れない状況なのです。 「単体→連結→ホールディングス」、と会社組織の枠組みが大きくなったので、体に合わせて、開示資料の提供単位にも工夫して頂けると助かります。 一般的に、ホールディングスの有価証券報告書を拝見していると、必ず提出会社の財務諸表および経営指標が出ているのですが、これらを眺めていてもそれほど経営分析には効果がありません。ホールディングス単体での配当可能利益を確認するくらいの用途しかありません。制度で決まっていることだけ最小限開示すればOKとするホールディングスが多いのは極めて残念です。制度変更をまたず、傘下の事業会社単位の情報をもう少し開示してほしいと思います。 そこで、JFEの有報なのですが、なんと、提出会社の財務諸表の後ろに、複数の事業会社の連結財務諸表が開示されています。部分的にはセグメント情報まで附属しています。そして、JFEスチールの箇所では、最近滅多にお目にかかれなくなった「製造原価明細書」がついています。先述の損益差異分析のコストの箇所は、ここからデータを参照させて頂きました。 ■ JFEのIRの特徴(2) - 会社目線の財務指標の提示「決算短信」「決算報告資料」に、収益性指標を中心に財務指標が開示されていたので、確認したところ、羅列の仕方に会社側の意図が仄(ほの)かに見えたのでコメントします。 表示されていた指標(2014年見通し)は次の通りです。ROS = (経常利益) ÷ (売上高) = 5.1%ROA = (経常利益 + 支払利息) ÷ (総資産) = 5.0%DEレシオ = (借入金・社債等残高) ÷ (自己資本) = 63.6% ROSを経常利益ベースで表示するのは、それ単体ではなんら意味はない、というのが筆者の意見です。というのは、先述の通り、「経常利益」には、「持分法投資損益」など、「売上高」と無関係な収支が混在しているので、何%という比率自体は、分子-分母が厳密には対応していないので無意味です。ただし、経常利益ベースのROAをROSと総資産回転率に分解するために使う場合はそれなりの意義があります。しかし、並んでいるROAの分子は、経常利益から支払利息だけ足し戻されています。これでは、ROAの分解指標にもなっていません。 ROA算出に、支払利息を考慮することは、B/Sの貸方の資金調達状況に中立的な事業投資採算を見せたい、という動機でしょうから、これは理屈が通っています。しかし、ROSと連携が取れていません。 DEレシオは、少々、分子分母ともに、トリッキーでした。 まず、「格付け評価上の資本性を併せ持つ負債(3,000億円)について、格付機関の評価により、75%を資本に算入」との記述により、分子分母を補正しました。しかし、有報上では、この3000億円に関する記述が、ざっと見た感じでは(読み込みが浅いのだと思いますが)見当たりませんでしたので、会社側の発表を信じるしかないです。どこかに痕跡があるはずなので、時間があれば今後さらに追っていきたいと思います。 そして、分母ですが、「自己資本」とあるので、検算してみたところ、その名の通り連結B/Sの「純資産」ではありませんでした。綺麗に、「純資産」から「少数株主持分」が落されていました。これは、神戸製鋼所のDEレシオも同じ状況でした。 DEレシオをなぜステークホルダーに伝えるのか、という趣旨に照らして考えると、資金調達の出元のバランスの最適化の具合を見るためのものです。「融資」か「出資」か。「超長期債」「ハイブリッド債」が「融資」でないかどうか、議論があるところですが、そこは債務の明細をきちんと「有価証券報告書」に明示したうえで、DEレシオの計算根拠を示すべきです。そして、「少数株主持分」がすっぽり落ちているのは片手落ちです。「出資」扱いしないのなら、計数の本質を問うのならばですが、例えば「融資」側に入れてください。そうしないと、「親会社説」に基づく限定範囲の株主に対するメッセージ(判断基準)にもなり得ません。 表面上の体裁だけを良くしようとしても、全体の説明に一貫したストーリーが無いとステークホルダー(投資家)は飛び付きませんぞ! ここまでで、字数制限を大幅に超過してしまいました。神戸製鋼所のIR数字へのコメントは次回に繰り越させて頂きます。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します