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■ 「比較」精神は管理会計そのもの

管理会計(基礎編)
前回、管理会計がもつフレームワークは、「自分が(経営)判断する」か「他人を動機付けて行動を促す」時に使うものだと説明しました。計数(けいすう:企業活動につきまとうあらゆる経営数値のこと)を分析して、その数字の背景にあるリアルビジネスに思いを馳せ、将来のあるべき姿を思い描くのが管理会計です。その時、何を基準にすれば己の判断が正しいかの検証をすることができるのでしょうか。
「相対的真実」という会計用語はご存知でしょうか?
残念ながら、会計の世界では、法律・規則で厳格・厳正で、唯一無二の正しい数字が報告されているのだと一般には思われている制度会計の世界においても、実のところ、会計担当者の判断によって数字が作られる(即粉飾と言っているわけではありませんよ)ことになっています。
例えば、

  • 在庫の評価方法は、
  • 個別法
  • 先入先出法
  • 平均法(移動平均法、総平均法)
  • 最終仕入原価法
  • 売価還元法

の中から選択することが可能です。さらに、平均法は平均期間を任意に選ぶことも可能です。
また、固定資産の償却方法は、

  • 定額法
  • 定率法
  • 級数法
  • 生産高比例法

の中から選択することが可能です。さらに、会計的耐用年数と税務(法定耐用年数)とでは、償却期間も異なることが会計実務では多く発生します(まあ税効果会計で調整されますが)。
管理会計の分野に「財務分析」がありますが、定説として、例えば、

  • 流動比率は200%以上ないとダメ
  • ROEは二桁がグローバル標準

というのがありますが、全業種、会社の成長ステージ、その時々のマクロ経済動向、市場(地域)別の商慣行の違いなどにより、この目安も絶対なものでは決してありません。
したがって、計数そのものに適性値・絶対基準値となる性質が備わっているはずもなく、必ず何かの基準値(それもある価値判断で意思をもって選ばれたもの)と比較して、その良し悪しを判断するしかないのです。
会計の世界では、その時代時代の経済的価値観、企業観によって、会計基準自体が変容することは当然のことと受け止めなくてはいけません。財産法? 収益費用アプローチ? 現金主義? 取得原価主義? 時価主義(公正価値主義)? ― いつでも依って立つ会計的判断基準は流動的なものなのです。
管理会計を実践する担当者は、この会計的価値観の流動性と、絶対的基準がない不安定感に常に立ち向かう勇気が必要になります、と思うのですよ!

■ 管理会計的思考のアプローチ

管理会計は、与えられた「命題」に対して「選択肢」を「比較分析」して「最適解」を導こうとするものです。
そのアプローチは、下図の通りです。
管理会計(基礎編)_管理会計的思考のアプローチ

解決したい経営課題を「命題」として設定します。解決したい課題あるところ管理会計あり。ただし、全てが管理会計のフレームワークを使って解決できる、という管理会計万能論を主張するつもりはありません。また、会社の中で、管理会計を使わずとも、上席者の鶴の一声で方向性が決まったり、構成員の総意で課題としないことが採決されたりするかもしれません。

「命題」に対して、「選択案」を必ず用意します。「選択案」を案出する際に、それぞれの案を導き出した理由を明確にします。言い換えると、なぜA案と違うB案を考えついたのか、その2案の相違点を必ず意識します。その相違点をベースに、評価軸・評価項目を設定します。

実際に、「選択肢」同士を比較考量します。複数の案出された検討案同士を比較するのが自然ですが、ひとつしか評価対象となる案が無い場合でも、担当者の経験値とか、経営者の理想値とか、過去の類似案件とか、必ず比較対象を探してきます。そして、最良と思える案を採択します。

■ 管理会計的思考の適用場面例

前回の、「管理会計が目指すところ」の説明は記憶に残っていらっしゃいますでしょうか?そこには、「再投資の原資を確保」と「経営資源の配分」という経営判断を必要とする管理会計にふさわしい命題が存在しています。
「再投資の原資を確保」は、今年度のリターンを内部留保に回し、将来の投資とそのリターンが上がるまで待つ方が株主にとって得か、目の前のリターンを即時に株主に還元した方が株主にとって得か、2案を比較して結論を出します。まあ、その際に、IRRとか、EVAとか、NPVとか、管理会計が用意しているフレームワークとその評価結果を活用することになります。
「経営資源の配分」は、どのビジネスチャンスに再投資または新規投資した方が、会社全体のリターンが最大になるか、複数の投資案件を吟味します。EBITDAとか、ROIとか、RIとか、FCFとか、こちらも、同様に管理会計が用意しているフレームワークとその評価結果を活用することになります。

■ 比較対象

管理会計が活用される様々な場面で、実際にどのような比較が行われるのか、下表にまとめてみました。
管理会計(基礎編)_比較対象
業績管理の場面では、「予算差異分析」「セグメント分析」が使われるケースが多いようです。自分が過去に設定した目標の達成度を評価されるか、横並びで他人と相対評価されるか(学生時代の偏差値評価を思い出します)です。
比較タイミング、外部環境の変化と多様性など、比較結果を補正する余地がいつもあります。
また、「適性に評価してほしい」という被評価者の声は、「自分に有利な比較ポイントで評価してほしい」という声と同義です。そして、皮肉にも、絶対に、全員が納得する評価方法(比較衡量)はできたためしがありません。
収益性分析や事業戦略立案の場面では、「時系列分析」「財務比率分析」が使われるケースが多いようです。
筆者は、「時系列分析」には功罪があると思っています。過去トレンドに頼りすぎると、(プロダクトおよびプロセス)イノベーションが起こりにくくなります。一方、不確実性の高い市場環境または流動性の高い市場環境に身を置く計数管理担当者は、将来を読むのに苦労します。そこで、どうしても統計的手法を使って、過去トレンドデータを加工して、将来を予測しようとします。何もないよりまし、ということです。
ここまで、「管理会計的思考 それは『比較』」を説明しました。
管理会計(基礎編)_管理会計的思考 それは『比較』

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