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■ 多層的なビジネス・ヒエラルキー

経営戦略(基礎編)
今回から、個別の経営戦略論の内容を解説する前に、経営戦略を策定する際の基本的なフレームワークを説明していきます。
標題にある「メタ・フレームワーク」の「メタ(meta-)」とは、「高次な-」「超-」「-間の」「-を含んだ」という意味で、「経営戦略論」自体が有する構造(フレームワーク)を、さらに外側から俯瞰して、「経営戦略」の企業経営全体における位置づけや役割、「経営戦略」を策定する行為の説明をすることを目的にしています。
ポーター氏の5 Forces 分析、コトラー氏のSTP理論など、個々の経営戦略論のコンテンツの説明に入る前に、しばらくの間、経営戦略を取り巻く全体構造のお話にお付き合いください。
主に、重厚な「経営計画」を立案・実行することが、経営戦略であると考える人たちの、頭の中の「戦略」の位置づけは、下図のような「ビジネス・ヒエラルキー」として表現されることがあります。
?経営戦略(基礎編)_ビジネス・ヒエラルキー?
ヒエラルキーの上から下へ、順を追って明確にしていかなければなりません。ヒエラルキーの上部は、マネジメントを司る人たちが、考えるモノ(行為対象を示す名詞)でありながら、徐々に下部に近づくにしたがって、マネジメントの司る人たちの、アクション(行為そのものを示す動詞)に変容していっています。
筆者の個人的な感想ですが、このような重厚な戦略策定のステップは、実行可能性に乏しいと考えています。もう少し、簡便にならないでしょうか?

■ シンプルなメタフレームワークとは

そこで、筆者の事業会社での実務経験とコンサルティング経験から、「経営戦略」の企業活動における位置づけを、もう少し簡略化して理解できるようにしたのが、下図になります。
?経営戦略(基礎編)_経営戦略のメタフレームワーク簡略図
◆ プロファイリング
これから「経営戦略」を立案したい主体(株式会社形態などの営利組織)が有している「前提条件」をまず明らかにします。本シリーズで説明してきたとおり、「戦略」とは、「目的」を達成するための最適な「手段」の選択と、その手段の効果的な運用である「戦術」を十分に発揮できるプラットフォームを整えることです。
したがって、「戦略」を考える際には、「目的」が外から与えられなくてはいけない。その「目的」を明確にするのが、「プロファイリング」です。
◆ 経営管理
本ブログでは、別シリーズで「経営管理」を4つの領域に分類して、説明していく予定ですので、このシリーズでは内容までは踏み込みません。一言でいうと、「戦略」を実現して、想定する効果を得られるように、行動計画をたて、実行を管理し、活動結果から得られる効果を測定する一連の企業活動を意味しています。
上記の図は、要約すると、「目的設定」→「戦略策定」→「計画実行」→「効果測定」という時間軸で行われるマネジメントを表していることになります。

■ 企業プロファイリングとは

「3C」「SWOT分析」「SPEC分析」など、分析行為自体にも各種フレームワークが用意されています。しかし、ここでは特定のフレームワークは採用しません。
TVドラマなどの刑事もので、「プロファイリング」とは、犯罪捜査において、犯罪の性質や特徴から、行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論して、容疑者を割り出すことを意味しますが、企業経営においても、経営戦略の前提条件である企業活動の「目的」を特定するために、自社の特徴を自覚するのに行われます。
「自社」とは何か、犯罪捜査ばりに綿密かつ的確に己を知るために次の3つのことを、文章にしてみましょう。

①ミッション (何をするために会社を作ったのか)
②バリュー (お客様を喜ばすためにできることは何か)
③ビジョン (これから先、どういう会社になっていきたいのか)

経営戦略(基礎編)_ミッション・バリュー・ビジョン??
決して、この3点セットを耳をそろえて準備する必要はありません。あくまで、戦略策定の前提条件が明確になればよいのです。この3つは相互補完関係にあります。ひとつが強力なメッセージ性を有しているなら、他2者は必ずしも明確になっていなくても構いません。この点が、他の教科書で謳っているフレームワーク論との差異と自分自身で考えています。
例えば、「ビジョン」として、「20XX年までに、連結売上高:5兆円を目指す」というステートメントを決めたとします。この場合、いつまでに、どれくらいの定量目標を達成するか、は明確になりましたが、どうやってその目標を達成するのか、どの市場の誰を顧客とするのか(事業ドメイン)、または、顧客に他社ではなくて自社を選んでもらうための理由付け(バリュー・プロポジション)をはっきりとさせる必要があるでしょう。
こういう場合は、「ミッション」として、「ITの分野でイノベーションを起こして、もっとつながる、もっと便利なソリューションを提供して、ユーザの生活の便利に貢献する」とか、「バリュー」として、「インターネット上にワンストップサービスを展開して、金融サービスから買い物、娯楽までの生活に必要な全てのサービスを取り揃える」というステートメントが必要かもしれません。
留意点として、「バリュー」の捉え方が会社によって大きく異なることがあります。自社の従業員が共有しているべき「共通の価値観」、と表現する会社もあれば、筆者がいうところの顧客に対して提示できる「自社を選んでもらうと顧客に提供できる価値」と表現する会社もあります。
これは、あくまで、同じ「価値」を供給者側と需要者側とで、どちらの視点から見たものかの違いにすぎない、と筆者は考えます。そして、どちらかというと、従業員が大事と思っているものでも、顧客がちっとも良いと思わないものは無意味ではないか、と考えます。顧客サイドから見た「バリュー」とはなにか、を考えた方が、戦略策定の前提条件として、より客観的で的確な判断ができるものと思っています。
「バリュー」とは何か、については、最近はやりの「CSV(Creating Shared Value)経営」というのも参考になるでしょう。

■ ミッション・バリュー・ビジョンの事例を参照してみる

比較的、ネット上で探しやすい企業の、「ミッション」「バリュー」「ビジョン」を眺めてみましょう。
◆ セプティーニ
「ミッション」
私たちは、顧客とのチームワークでインターネットマーケティングにおける無限の可能性に挑戦し、世界に笑顔と感動を与えます。
「ビジョン」
日本を、アジアを、そして世界を代表するインタラクティブ・エージェンシーをつくる
「コアバリュー」
感動、挑戦、チームワーク、笑顔
◆ 中外製薬
「存在意義(ミッション)」
革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献します。
「価値観(コア・バリュー)」
1 患者・消費者を最優先に考えて行動します。
2 生命関連企業として、常に高い倫理・道徳観に基づいて行動します。
3 深い専門性と広い視野を持ち、失敗を恐れない革新的・挑戦的な社員を重んじます。
4 良き企業市民として、世界の人々・文化の多様な価値観を理解し、尊重します。
5 一人ひとりの個性・能力とチームワークを尊重する自由闊達な風土を大切にします。
6 地球環境に配慮します。
7 株主をはじめとしたステークホルダーの要請に応え、適正利潤を追求すると同時に適時適切な情報開示を行います。
「目指す姿(エンビジョンド・フューチャー)」
ロシュ・グループの最重要メンバーとして、国内外において革新的な新薬を継続的に提供する、日本のトップ製薬企業となります。
◆ Hilton Worldwide
「ビジョン」
地球という星をおもてなしの心で温かく照らし続けます。
「ミッション」
卓越した世界規模のホテル企業であること、すなわちお客様やスタッフ、オーナーの方々に一番に選んでいただけるホテルになることです。
「バリュー」
Hospitality(おもてなし)お客様に卓越した体験をお届けすることに全力を尽くします。Integrity(一貫性)常に正しいことを行います。
Leadership(リーダーシップ)業界およびコミュニティのリーダーとなります。
Teamwork(チームワーク)全ての事にチームの一員として行動します。
Ownership(責任感)責任のある行動や決断を行います。
Now(現在)迅速性と規律を忘れずに運営します。
◆ リクルートキャリア
「ビジョン(私たちが目指したい未来)」
ひとりでも多くの人たちが「働く喜び」を膨らませ、「働く喜び」の輪が、新たな活力を生み出している社会を創りたい
「ミッション(私たちが果たす社会的使命)」
私たちは、ひとりでも多くの人たちに「働く機会」を、企業に「無くてはならない人材との出会い」を提供し続けます
私たちは、一人一人の「自分の軸となる価値観」と「かけがえのない持ち味」を何より尊重し、共に探し続けます
私たちは、これまでの価値観・技術・やり方を超えて、雇用構造にイノベーションを起こし続けます
「バリュー(ミッション実現につながる一人一人のこだわりどころ)」
・社会起点
できるだけ広く・深く・長い視点で「何のためにやるのか」という目的を描く
・圧倒的な当事者意識
何ごとも我が事としてとらえ自らの責任で考え行動する
・昨日を超える
昨日を超える一歩を踏み出し、結果にこだわって最後までやり遂げる
ここまで、「経営戦略のメタ・フレームワーク(1)- 企業プロファイリング」の説明をしました。
経営戦略(基礎編)_経営戦略のメタフレームワーク(1)- 企業プロファイリング

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http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-e1428423948658.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-150x150.jpg小林 友昭経営戦略(基礎編)■ 多層的なビジネス・ヒエラルキー 今回から、個別の経営戦略論の内容を解説する前に、経営戦略を策定する際の基本的なフレームワークを説明していきます。 標題にある「メタ・フレームワーク」の「メタ(meta-)」とは、「高次な-」「超-」「-間の」「-を含んだ」という意味で、「経営戦略論」自体が有する構造(フレームワーク)を、さらに外側から俯瞰して、「経営戦略」の企業経営全体における位置づけや役割、「経営戦略」を策定する行為の説明をすることを目的にしています。 ポーター氏の5 Forces 分析、コトラー氏のSTP理論など、個々の経営戦略論のコンテンツの説明に入る前に、しばらくの間、経営戦略を取り巻く全体構造のお話にお付き合いください。 主に、重厚な「経営計画」を立案・実行することが、経営戦略であると考える人たちの、頭の中の「戦略」の位置づけは、下図のような「ビジネス・ヒエラルキー」として表現されることがあります。 ?? ヒエラルキーの上から下へ、順を追って明確にしていかなければなりません。ヒエラルキーの上部は、マネジメントを司る人たちが、考えるモノ(行為対象を示す名詞)でありながら、徐々に下部に近づくにしたがって、マネジメントの司る人たちの、アクション(行為そのものを示す動詞)に変容していっています。 筆者の個人的な感想ですが、このような重厚な戦略策定のステップは、実行可能性に乏しいと考えています。もう少し、簡便にならないでしょうか? ■ シンプルなメタフレームワークとは そこで、筆者の事業会社での実務経験とコンサルティング経験から、「経営戦略」の企業活動における位置づけを、もう少し簡略化して理解できるようにしたのが、下図になります。 ? ◆ プロファイリング これから「経営戦略」を立案したい主体(株式会社形態などの営利組織)が有している「前提条件」をまず明らかにします。本シリーズで説明してきたとおり、「戦略」とは、「目的」を達成するための最適な「手段」の選択と、その手段の効果的な運用である「戦術」を十分に発揮できるプラットフォームを整えることです。 したがって、「戦略」を考える際には、「目的」が外から与えられなくてはいけない。その「目的」を明確にするのが、「プロファイリング」です。 ◆ 経営管理 本ブログでは、別シリーズで「経営管理」を4つの領域に分類して、説明していく予定ですので、このシリーズでは内容までは踏み込みません。一言でいうと、「戦略」を実現して、想定する効果を得られるように、行動計画をたて、実行を管理し、活動結果から得られる効果を測定する一連の企業活動を意味しています。 上記の図は、要約すると、「目的設定」→「戦略策定」→「計画実行」→「効果測定」という時間軸で行われるマネジメントを表していることになります。 ■ 企業プロファイリングとは 「3C」「SWOT分析」「SPEC分析」など、分析行為自体にも各種フレームワークが用意されています。しかし、ここでは特定のフレームワークは採用しません。 TVドラマなどの刑事もので、「プロファイリング」とは、犯罪捜査において、犯罪の性質や特徴から、行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論して、容疑者を割り出すことを意味しますが、企業経営においても、経営戦略の前提条件である企業活動の「目的」を特定するために、自社の特徴を自覚するのに行われます。 「自社」とは何か、犯罪捜査ばりに綿密かつ的確に己を知るために次の3つのことを、文章にしてみましょう。 ①ミッション (何をするために会社を作ったのか) ②バリュー (お客様を喜ばすためにできることは何か) ③ビジョン (これから先、どういう会社になっていきたいのか) ?? 決して、この3点セットを耳をそろえて準備する必要はありません。あくまで、戦略策定の前提条件が明確になればよいのです。この3つは相互補完関係にあります。ひとつが強力なメッセージ性を有しているなら、他2者は必ずしも明確になっていなくても構いません。この点が、他の教科書で謳っているフレームワーク論との差異と自分自身で考えています。 例えば、「ビジョン」として、「20XX年までに、連結売上高:5兆円を目指す」というステートメントを決めたとします。この場合、いつまでに、どれくらいの定量目標を達成するか、は明確になりましたが、どうやってその目標を達成するのか、どの市場の誰を顧客とするのか(事業ドメイン)、または、顧客に他社ではなくて自社を選んでもらうための理由付け(バリュー・プロポジション)をはっきりとさせる必要があるでしょう。 こういう場合は、「ミッション」として、「ITの分野でイノベーションを起こして、もっとつながる、もっと便利なソリューションを提供して、ユーザの生活の便利に貢献する」とか、「バリュー」として、「インターネット上にワンストップサービスを展開して、金融サービスから買い物、娯楽までの生活に必要な全てのサービスを取り揃える」というステートメントが必要かもしれません。 留意点として、「バリュー」の捉え方が会社によって大きく異なることがあります。自社の従業員が共有しているべき「共通の価値観」、と表現する会社もあれば、筆者がいうところの顧客に対して提示できる「自社を選んでもらうと顧客に提供できる価値」と表現する会社もあります。 これは、あくまで、同じ「価値」を供給者側と需要者側とで、どちらの視点から見たものかの違いにすぎない、と筆者は考えます。そして、どちらかというと、従業員が大事と思っているものでも、顧客がちっとも良いと思わないものは無意味ではないか、と考えます。顧客サイドから見た「バリュー」とはなにか、を考えた方が、戦略策定の前提条件として、より客観的で的確な判断ができるものと思っています。 「バリュー」とは何か、については、最近はやりの「CSV(Creating Shared Value)経営」というのも参考になるでしょう。 ■ ミッション・バリュー・ビジョンの事例を参照してみる 比較的、ネット上で探しやすい企業の、「ミッション」「バリュー」「ビジョン」を眺めてみましょう。 ◆ セプティーニ 「ミッション」 私たちは、顧客とのチームワークでインターネットマーケティングにおける無限の可能性に挑戦し、世界に笑顔と感動を与えます。 「ビジョン」 日本を、アジアを、そして世界を代表するインタラクティブ・エージェンシーをつくる 「コアバリュー」 感動、挑戦、チームワーク、笑顔 ◆ 中外製薬 「存在意義(ミッション)」 革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献します。 「価値観(コア・バリュー)」 1 患者・消費者を最優先に考えて行動します。 2 生命関連企業として、常に高い倫理・道徳観に基づいて行動します。 3 深い専門性と広い視野を持ち、失敗を恐れない革新的・挑戦的な社員を重んじます。 4 良き企業市民として、世界の人々・文化の多様な価値観を理解し、尊重します。 5 一人ひとりの個性・能力とチームワークを尊重する自由闊達な風土を大切にします。 6 地球環境に配慮します。 7 株主をはじめとしたステークホルダーの要請に応え、適正利潤を追求すると同時に適時適切な情報開示を行います。 「目指す姿(エンビジョンド・フューチャー)」 ロシュ・グループの最重要メンバーとして、国内外において革新的な新薬を継続的に提供する、日本のトップ製薬企業となります。 ◆ Hilton Worldwide 「ビジョン」 地球という星をおもてなしの心で温かく照らし続けます。 「ミッション」 卓越した世界規模のホテル企業であること、すなわちお客様やスタッフ、オーナーの方々に一番に選んでいただけるホテルになることです。 「バリュー」 Hospitality(おもてなし)お客様に卓越した体験をお届けすることに全力を尽くします。Integrity(一貫性)常に正しいことを行います。 Leadership(リーダーシップ)業界およびコミュニティのリーダーとなります。 Teamwork(チームワーク)全ての事にチームの一員として行動します。 Ownership(責任感)責任のある行動や決断を行います。 Now(現在)迅速性と規律を忘れずに運営します。 ◆ リクルートキャリア 「ビジョン(私たちが目指したい未来)」 ひとりでも多くの人たちが「働く喜び」を膨らませ、「働く喜び」の輪が、新たな活力を生み出している社会を創りたい 「ミッション(私たちが果たす社会的使命)」 私たちは、ひとりでも多くの人たちに「働く機会」を、企業に「無くてはならない人材との出会い」を提供し続けます 私たちは、一人一人の「自分の軸となる価値観」と「かけがえのない持ち味」を何より尊重し、共に探し続けます 私たちは、これまでの価値観・技術・やり方を超えて、雇用構造にイノベーションを起こし続けます 「バリュー(ミッション実現につながる一人一人のこだわりどころ)」 ・社会起点 できるだけ広く・深く・長い視点で「何のためにやるのか」という目的を描く ・圧倒的な当事者意識 何ごとも我が事としてとらえ自らの責任で考え行動する ・昨日を超える 昨日を超える一歩を踏み出し、結果にこだわって最後までやり遂げる ここまで、「経営戦略のメタ・フレームワーク(1)- 企業プロファイリング」の説明をしました。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します