■ フレームワークから自由になる
「前回」は、「経営戦略」を策定する際の「戦略を策定する」行為の「型」について説明しました。今回は、策定対象となる「戦略」自体のフレームワークについてお話したいと思います。
しつこいようですが、「フレームワーク」とは先人の知恵を借りて、思考スピードを速めるためのツールにすぎないので、「フレームワーク」自体が重くて、扱いづらいなら、別のフレームワークを採用したり、自信作なら我流でやりとおしたりしてもいいのだと思います。
前回説明した「企業プロファイリング」においても、「ミッション」「バリュー」「ビジョン」と構成要素を3つ挙げましたが、戦略策定の前提となる企業活動の「目的」が明確になれば、総てを必ずしも準備しておかなければならない、ということはありません。
特に、戦略策定や計画立案には膨大なパワーと時間がかかることも多く、策を考えているだけで何ヵ月もかかるようなら、実行にもまた長大な労力が必要ですし、また、いざ実行する段になって陳腐化しているかもしれません。実現可能性と費用対効果を考慮して、フレームワークは合目的的に選択して頂ければと思います。
例えば、「事業ポートフォリオ戦略」を策定しようと考え、参考にパラパラと教科書をめくってみたとします。
そこには、
「アンゾフ・マトリックス」
「PPM」
「ビジネス・スクリーン」
「アドバンテージ・マトリクス」など、
というフレームワークがいくつか登場しているはずです。
縦軸・横軸にどういう切り口を採用してマトリクスを作るか、それは個別の企業組織の風土、相対している市場の成熟度、経営者の好みなど、で最適なものを選んでもらえればと思います。どれが一番正しい、というものではない、と筆者は考えています。
「守破離(しゅ・は・り)」という言葉をご存知でしょうか?
武道でも茶道でも、日本文化において、「●●道」と呼ばれるもので、師匠に着いて、その道を極める際に、
- まず、師匠の教え(型)を修業・精進する中で忠実に再現する・・・「守」
- つぎに、自身の技を磨き、他流の良きところも取り入れ、自分の境地を探す・・・「破」
- 最後に、一切の型にとらわれず、自らの新機軸を無自覚に生み出す・・・「離」
というステップを踏む様(さま)を表した言葉です。
フレークワークとは、修行の最初に師匠から叩き込まれるもので、後生大事にするものでは無いと思いますが如何でしょうか。そういう共通理解の上で、フレームワークの説明をしたいと思います。
■ 経営戦略の基本構造
前章のように、フレームワークの限界と効用を十分に理解した上で、筆者のプレーンな経営戦略フレームワークの整理の仕方は下図の通りです。
1.基本戦略(コーポレート戦略)
「企業プロファイリング」で明らかになった、エンタープライズとして、この会社で取り組むべきこと、取り組む姿勢、この会社と仲間でないとできないことを頭に叩き込んで、次の3つの内、最低でもひとつは社内で共有した方が良いかもしれません。
① 組織
顧客に対して、我が社でないと提供できない価値を生み出すためには、どういう協業体制を構築していなければならないか?
協業相手は、同じ社内の仲間(従業員)はもとより、サプライヤー等、社外のパートナーも含みます。そもそも、社内と社外の境界をどこに定めるかが命題なのです。
② ブランド
顧客からどういう風に認知されたいか? イノベーティブなプロダクトのメーカーなのか、それとも生活を豊かにするための相談に乗るコンシュルジュなのか、マルチブランドなのか、アンブレラ戦略をとって単一ブランドでいくのか?
③ 事業ドメイン
自社が相手にする市場をどう考えるか? 「自動車」を売る会社なのか、快適な移動手段を提供する会社なのか? 「自動車」を売ると決めたとしても、どういう顧客に売るのか、大衆車をマス市場に売るのか、それとも高級スポーツカーを富裕層に売るのか? 売り方は、現金商売なのか、販売金融までカバーするのか、販売後のメンテナンス業務は取り込むのか?
どこで商売したいのか(Will)、どこで商売が成立するのか(Can)の両立を考えるのが難しいところです。
2.事業ポートフォリオ戦略
セグメンテーションされた複数市場を相手にする会社は、自社と顧客にとって最適な事業の組み合わせを考える必要があります。この場合の、複数市場というのは、地理的な分類(日本、アジア、米国、欧州など)、製品的な分類(家電、半導体、住宅用器具など)、時間的な分類(既存ビジネス、新規ビジネス)など、とにかく、分別管理に意味がある単位なら何でも構いません。
よく聞かれるのですが、分別する単位の大小は当事者が決めるもので、相対的なものです。「重電」と「軽電」、「強電」と「弱電」、「電気機器」と「電子機器」、「製品」と「部品」など、言葉が持つイメージはある程度認識できますが、違いはその会社独自のもので良いと考えます。
① 事業シナジー
複数の事業を同一の会社組織でやる意味を明らかにすることです。ひとつの商流の中で、上流の設計や部品製造、中流の加工・組立、下流の販売・サービスの全てを取り込む垂直統合もしかり、銀行業、保険業、小売業をポータルサービスでワンストップで提供することも、一緒にやることで、コストダウン、顧客のベネフィット増大による収入増が得られるのなら、「シナジーがある = 一緒にやる意味がある」ということになります。
② 事業ライフサイクル
ひとつの事業には必ず寿命があり、その成長ステージごとに採用すべき行動は異なるという仮説に基づくものです。新規立ち上げの市場は、需要喚起のための先行投資が必要でしょうし、技術が時代遅れになった製品や、新しいライフスタイルにそぐわないサービスからは撤退を考える必要があります。キャッシュバランスを考えて、なるべく一斉に撤退・新規参入とならないように、異なる成長ステージの市場を敢えて複数抱えるように工夫することもアリです。
3.事業戦略
セグメンテーションされたそれぞれの事業単位で、どうやれば儲かるのか、顧客に支持され続けるのか、競合に勝ち続けられるのか(または、競合がいないところはどこか)を考えることです。
4.機能戦略
市場ニーズを掘り起こし、顧客提案できる商材を開発して、実際に顧客に価値提供するまでの会社内の諸活動が上手く機能するために知恵を働かせることになります。
(バリューチェーンとエンジニアリングチェーンの違いは、こちら)
■ (注意点)事業戦略と機能戦略の関係
「基本戦略」は、社員ひとりひとりの「働き」がいい結果に結びつくように、社員が活躍できる舞台を用意することです。プラットフォーム戦略と呼ぶ人もいます。その舞台の上で、「事業」が営まれるのですが、「事業」は、製造業を例にとると、「開発」「調達」「製造」「販売」「アフターサービス」等、ある種の働き(仕事、作業)の種類のいくつかから構成されます。
プラットフォームの上で、どの事業も同質の「販売機能」を利用するかもしれません。代理店販売網であったり、営業マンのトレーニングメニューであったり、自社独自の経営資源の共有というわけです。
ただし、市場特性上、「国内」と「海外」、「民需」と「官公需」とで、販売網や営業マンの資質が全く異なり、事業ごとに、その事業に特化した「営業機能」を準備する必要があることも起こり得ます。
同一プラットフォームの上で、同質的な機能を有効活用するか、個々の事業に特化した機能を準備するか、悩ましい問題です。
従来の経営学の教科書でも、
「組織は戦略にしたがう」と「戦略は組織にしたがう」
「ポジショニング学派」と「ケイパビリティ学派」
といった教条的な論争があります。
筆者は、「顧客視点で考えるべき」という点を特に重視しているので、顧客にとって、組織全体の機能統合の方がベネフィットが高まるのか、事業に特化した機能をそれぞれに構築した方が顧客満足度が高まるのか、ケースバイケースと考える立場をとっています。
「事業」-「機能」-「組織」のそれぞれの組み合わせの妙が、戦略策定者の腕の見せ所だと、実体験から、言わせてください。その内容については、また別の機会に説明したいと思います。
ここまで、「経営戦略のメタ・フレームワーク(2)- 戦略策定のかたち」の説明をしました。
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