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■ 「デュアル・ブランド戦略」の進展

経営管理会計トピック
世界の日用品市場では、普通に「ナショナルブランド(NB)」、「プライベートブランド(PB)」が入り乱れての販売競争が繰り広げられています。

2015/1/12|日本経済新聞|朝刊
経済教室 日本のPB開発に大変革 矢作敏行 法政大学教授

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「近年、流通企業のつくるプライベートブランド(PB=自主企画)商品が食品・日用品雑貨から衣料品まで幅広く台頭し、従来、市場を支配していたナショナルブランド(NB)商品と競い合う新しいブランド間競争が加速している。食品・日用品雑貨の市場に目を向けてみると、2000年代に入り、過去とは明らかに異なるPBイノベーション(革新)が起きており、「安かろう、悪かろう」という劣等財のようなイメージが払拭されつつある。」
「NB対NB、NB対PBとブランド間競争のデュアル化(二重化)が定着し、メーカー、流通企業がそれぞれの立場からブランド間競争をマネジメントする新たなブランド戦略(デュアル・ブランド戦略)の構築が課題となっている。」

デュアル・ブランド戦略 — NB and/or PB


NB対NB、NB対PBの競争において、どういった要素でブランド間の駆け引きが生じているのでしょうか? 記事を簡潔に再整理して、矢作教授の説をなぞるとともに、会計的視点でブランド間競争を分析してみたいと思います。

■ まず欧州市場と日本市場の相違から見てみます

まず、下記の新聞記事に添付されていたチャートをご覧ください。
経営管理トピック_市場集中度とPB比率
小売市場の上位集中度の高い国では、小売企業のバイイングパワー(優越的な購買力)が強化され、PB比率が高くなる傾向が見てとれます。
バイイングパワーが小売企業の収益力を高める構造は、下図の通りです。
経営管理会計トピック_PB商品とNB商品のコスト構造比較
小売企業のバイイングパワーが強いということは、消費者へのセリングパワーも強いということを意味しています。
このことは、以下のようなコスト構造の変革を促します。
メーカーは自社ブランドの認知度を上げるために、テレビCMなど、一般消費者の購買意欲をそそるようなマス市場向けの「広告宣伝費」、または小売業者に自社商品の棚割りを優先的に確保してもらうように、リベートなどの「販売促進費」といった支出を通常行います。
しかし、一般消費者への販売力を有する大規模小売業者は、NBのブランドエクイティへの投資を不要にします。自店の強力なセールス網が顧客を既に囲い込んでしまっていますので。さらに、PB商品の企画から参加しているので、わざわざ、自社向けの販促費の支出をメーカーに要求する必要もありません。
つまり、PB商品は、売単価一定と仮定すると、NB商品と比べて、「広告宣伝費」「販売促進費」分をそのまま節約することができ、その分より多くのマージンを獲得することができるということです。
この余剰マージンを、メーカーと小売業者と一般消費者がどのような割合で享受できるのかは場合によります。
PB商品の小売価格が下がれば、その分、一般消費者の利得になりますし、メーカーからの仕入単価が下がれば、その分、小売業者の利得になります。
教授によると、欧米の食品小売業の寡占度は高く、同時にPB商品比率は上記のような理由で同様に高いが、日本では、小売業の寡占度は低く、正の相関でPB商品比率は低いとの分析結果を一応出されています。
しかし、教授は、日本における業態の特異性に着目され、日本でも欧米と同じPB商品の展開が促進されていることを論じていらっしゃいます。というのは、日本では、食品スーパーに次ぐ市場規模をコンビニエンスストアが占めており、コンビニ上位4社の市場集中度は89%と高く、なおかつ取扱商品が絞り込まれているため、単品ベースのバイイングパワーがスーパー以上に強大であるため、欧米市場におけるスーパーマーケットやハイパーマーケットと同じ機能を日本ではコンビニが担っているというのです。

■ PB商品の訴求ポイントの変遷

一昔前、PB商品というのは、「広告宣伝費」がかからない分だけ安い、という「価格訴求型」の商品設計がなされるのが中心的でした。
教授の分析によると、現在のPBプログラムは、
① 従来通りの「価格訴求型」
② 「NB対応型」
③ 品質重視の「高品質型」
④ 環境配慮や安心・安全といった特定の価値テーマによる「サブブランド」
という風に多様化しています。
日本でも、コンビニ首位のセブンイレブンが高品質(その分決して安くないのですが)の『セブンプレミアム』を提供しています。また、無添加・無農薬商品のTV-CMもよく目にするようになりました。
こうした「高品質型」PB商品も、管理会計的にはコスト構造戦略を通して高収益化の狙いが分かります。
(分かりやすくするため、その他のコスト要因はあえて省略)
経営管理トピック_高品質PB商品のコスト構造
「高品質型」PB商品のコスト構造として、
① 商品開発コストは、一般的な中品質商品の開発に比べると、上昇してしまう
② NB商品も扱っている食品メーカーの工場の空きラインを有効活用することによって、操業度が上がる→「量産効果」より、単位当たりの製造固定費を下げることができる
③ 高品質であることが、一般消費者に高付加価値である認知を得ることで、売価をあげることができる
という3つ(1つはマイナス、2つはプラス)の要因により、合わせ技で総合的にはより高いマージンを得ることができる、というシナリオになっています。
なお、メーカー側でも従来の「空きラインの有効活用」という状況から、「PB専用ラインの構築」を積極的に行うようになっています。その場合でも、下流のコンビニのPOS情報からタイムリーに販売状況が伝えられるので、無駄のない生産計画が立てられるため、結局、効率的な生産ができることには違いはありません。

■ (補足)PBの製造元表示について

日本の食品市場では、急速なPB化は、コンビニ業態で起きていますが、食品スーパーでも取り組みは進んでいます。
『セブンプレミアム』では、製造元はきちんと表示されています。昔は、PB商品は「安かろう」「悪かろう」というイメージがあったため、取り扱いメーカーは自社のNB商品のブランドが毀損しないように、製造元の表示を避ける傾向もかつてはありました。
昨今は、逆にそれをセールスポイントにする傾向もあり、すっかりPBのブランド価値も高まった感がありますが、一部、イオンのトップバリューなどでは、製造元の表示はしないことが、問題視されたこともありました。イオンは製造・開発・販売のすべてを企業として責任を自社で持つから、あえて製造元の表示はしない、との社長会見があった記憶があります。
また、別の視点ですが、アグリフーズの農薬混入事件を受けて、

2014/4/17|日本経済新聞|夕刊
PB食品の製造者情報、原則表示へ見直し案 消費者庁

「消費者庁は17日、スーパーのプライベートブランド(PB)などの加工食品に「製造所固有記号」を付ければ製造者情報の記載を省略できる現行制度を見直し、原則表示とした上で、記号使用を複数の製造所でつくられる商品に限る方針を明らかにした。同日の内閣府消費者委員会の調査会で案を示した。」
という動きがあり、トップバリューでも、所定のホームページにいけば、製造元が検索できるようになっています。
実はですね、PB商品というのは、とことんコスト削減を図るため、パッケージコストもギリギリまで削るのが普通です。そして、昔は、NBメーカーの空きラインを使って生産していたので、より消費地に近い工場で作り、運送費もギリギリまで削ることが合わせて行われていました。
ですので、製造元を記号表示するということは、そのパターンごとに、パッケージをデザイン・印刷・包装ラインへ設定する必要があり、製造コストにはマイナスに働きます。
まあ、食品の安全のための必要コストということでしょうか。
みなさんも、NB商品やPB商品を手に取って、パッケージの裏の、販売元、製造元を気にしてみてください。新たな発見があるかもしれません。
ちなみに、筆者は、ある飲料メーカーの「水ペットボトル」の取水地を確認してみたところ、そこには故郷の地名が表記されていてびっくりした経験があります。
(そうです。田舎もんですよ!)

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小林 友昭会計で経営を読む■ 「デュアル・ブランド戦略」の進展 世界の日用品市場では、普通に「ナショナルブランド(NB)」、「プライベートブランド(PB)」が入り乱れての販売競争が繰り広げられています。 2015/1/12|日本経済新聞|朝刊 経済教室 日本のPB開発に大変革 矢作敏行 法政大学教授(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「近年、流通企業のつくるプライベートブランド(PB=自主企画)商品が食品・日用品雑貨から衣料品まで幅広く台頭し、従来、市場を支配していたナショナルブランド(NB)商品と競い合う新しいブランド間競争が加速している。食品・日用品雑貨の市場に目を向けてみると、2000年代に入り、過去とは明らかに異なるPBイノベーション(革新)が起きており、「安かろう、悪かろう」という劣等財のようなイメージが払拭されつつある。」 「NB対NB、NB対PBとブランド間競争のデュアル化(二重化)が定着し、メーカー、流通企業がそれぞれの立場からブランド間競争をマネジメントする新たなブランド戦略(デュアル・ブランド戦略)の構築が課題となっている。」 デュアル・ブランド戦略 -- NB and/or PB NB対NB、NB対PBの競争において、どういった要素でブランド間の駆け引きが生じているのでしょうか? 記事を簡潔に再整理して、矢作教授の説をなぞるとともに、会計的視点でブランド間競争を分析してみたいと思います。 ■ まず欧州市場と日本市場の相違から見てみますまず、下記の新聞記事に添付されていたチャートをご覧ください。 小売市場の上位集中度の高い国では、小売企業のバイイングパワー(優越的な購買力)が強化され、PB比率が高くなる傾向が見てとれます。 バイイングパワーが小売企業の収益力を高める構造は、下図の通りです。 小売企業のバイイングパワーが強いということは、消費者へのセリングパワーも強いということを意味しています。 このことは、以下のようなコスト構造の変革を促します。 メーカーは自社ブランドの認知度を上げるために、テレビCMなど、一般消費者の購買意欲をそそるようなマス市場向けの「広告宣伝費」、または小売業者に自社商品の棚割りを優先的に確保してもらうように、リベートなどの「販売促進費」といった支出を通常行います。 しかし、一般消費者への販売力を有する大規模小売業者は、NBのブランドエクイティへの投資を不要にします。自店の強力なセールス網が顧客を既に囲い込んでしまっていますので。さらに、PB商品の企画から参加しているので、わざわざ、自社向けの販促費の支出をメーカーに要求する必要もありません。 つまり、PB商品は、売単価一定と仮定すると、NB商品と比べて、「広告宣伝費」「販売促進費」分をそのまま節約することができ、その分より多くのマージンを獲得することができるということです。 この余剰マージンを、メーカーと小売業者と一般消費者がどのような割合で享受できるのかは場合によります。 PB商品の小売価格が下がれば、その分、一般消費者の利得になりますし、メーカーからの仕入単価が下がれば、その分、小売業者の利得になります。 教授によると、欧米の食品小売業の寡占度は高く、同時にPB商品比率は上記のような理由で同様に高いが、日本では、小売業の寡占度は低く、正の相関でPB商品比率は低いとの分析結果を一応出されています。 しかし、教授は、日本における業態の特異性に着目され、日本でも欧米と同じPB商品の展開が促進されていることを論じていらっしゃいます。というのは、日本では、食品スーパーに次ぐ市場規模をコンビニエンスストアが占めており、コンビニ上位4社の市場集中度は89%と高く、なおかつ取扱商品が絞り込まれているため、単品ベースのバイイングパワーがスーパー以上に強大であるため、欧米市場におけるスーパーマーケットやハイパーマーケットと同じ機能を日本ではコンビニが担っているというのです。 ■ PB商品の訴求ポイントの変遷一昔前、PB商品というのは、「広告宣伝費」がかからない分だけ安い、という「価格訴求型」の商品設計がなされるのが中心的でした。 教授の分析によると、現在のPBプログラムは、 ① 従来通りの「価格訴求型」 ② 「NB対応型」 ③ 品質重視の「高品質型」 ④ 環境配慮や安心・安全といった特定の価値テーマによる「サブブランド」 という風に多様化しています。 日本でも、コンビニ首位のセブンイレブンが高品質(その分決して安くないのですが)の『セブンプレミアム』を提供しています。また、無添加・無農薬商品のTV-CMもよく目にするようになりました。 こうした「高品質型」PB商品も、管理会計的にはコスト構造戦略を通して高収益化の狙いが分かります。 (分かりやすくするため、その他のコスト要因はあえて省略) 「高品質型」PB商品のコスト構造として、 ① 商品開発コストは、一般的な中品質商品の開発に比べると、上昇してしまう ② NB商品も扱っている食品メーカーの工場の空きラインを有効活用することによって、操業度が上がる→「量産効果」より、単位当たりの製造固定費を下げることができる ③ 高品質であることが、一般消費者に高付加価値である認知を得ることで、売価をあげることができる という3つ(1つはマイナス、2つはプラス)の要因により、合わせ技で総合的にはより高いマージンを得ることができる、というシナリオになっています。 なお、メーカー側でも従来の「空きラインの有効活用」という状況から、「PB専用ラインの構築」を積極的に行うようになっています。その場合でも、下流のコンビニのPOS情報からタイムリーに販売状況が伝えられるので、無駄のない生産計画が立てられるため、結局、効率的な生産ができることには違いはありません。 ■ (補足)PBの製造元表示について日本の食品市場では、急速なPB化は、コンビニ業態で起きていますが、食品スーパーでも取り組みは進んでいます。 『セブンプレミアム』では、製造元はきちんと表示されています。昔は、PB商品は「安かろう」「悪かろう」というイメージがあったため、取り扱いメーカーは自社のNB商品のブランドが毀損しないように、製造元の表示を避ける傾向もかつてはありました。 昨今は、逆にそれをセールスポイントにする傾向もあり、すっかりPBのブランド価値も高まった感がありますが、一部、イオンのトップバリューなどでは、製造元の表示はしないことが、問題視されたこともありました。イオンは製造・開発・販売のすべてを企業として責任を自社で持つから、あえて製造元の表示はしない、との社長会見があった記憶があります。 また、別の視点ですが、アグリフーズの農薬混入事件を受けて、 2014/4/17|日本経済新聞|夕刊 PB食品の製造者情報、原則表示へ見直し案 消費者庁 「消費者庁は17日、スーパーのプライベートブランド(PB)などの加工食品に「製造所固有記号」を付ければ製造者情報の記載を省略できる現行制度を見直し、原則表示とした上で、記号使用を複数の製造所でつくられる商品に限る方針を明らかにした。同日の内閣府消費者委員会の調査会で案を示した。」 という動きがあり、トップバリューでも、所定のホームページにいけば、製造元が検索できるようになっています。 実はですね、PB商品というのは、とことんコスト削減を図るため、パッケージコストもギリギリまで削るのが普通です。そして、昔は、NBメーカーの空きラインを使って生産していたので、より消費地に近い工場で作り、運送費もギリギリまで削ることが合わせて行われていました。 ですので、製造元を記号表示するということは、そのパターンごとに、パッケージをデザイン・印刷・包装ラインへ設定する必要があり、製造コストにはマイナスに働きます。 まあ、食品の安全のための必要コストということでしょうか。 みなさんも、NB商品やPB商品を手に取って、パッケージの裏の、販売元、製造元を気にしてみてください。新たな発見があるかもしれません。 ちなみに、筆者は、ある飲料メーカーの「水ペットボトル」の取水地を確認してみたところ、そこには故郷の地名が表記されていてびっくりした経験があります。 (そうです。田舎もんですよ!)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します