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■ 市場再定義が奏功したのだと思います

経営管理会計トピック
最近(2014/11/11)、「中期経営計画 VISION2016」を発表し、株価も好反応し、富士フイルムHDへの賞賛記事が後を絶ちません。ちょっと本稿では奇をてらって、主力のヘルスケアや高機能材料ではなく、中計でも、イメージングソリューション事業の収益安定化への貢献が言及された「インスタントカメラ事業:チェキ」についての新聞記事を取り上げたいと思います。
「富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」が人気を呼んでいる。デジカメの普及に伴い、チェキの市場は縮小していたが、近年人気が盛り返し、出荷台数はデジカメを上回る規模に拡大した」

2014/11/28付 |日本経済新聞|夕刊
(十字路)アナログ技術が創出する新市場

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

インスタントカメラとは、いつの時代の話をしているのだ、とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、市場セグメンテーションの再定義の結果、富士フイルムの確固たる収益源となっています。

■ 顧客を作るマーケテイング

かの、マネジメントの大家、ドラッカー氏は、経営において大事なのは、「イノベーション」と「マーケテイング」とおっしゃしました。今回の事例は、この2つとも絡んでいますが、まずはマーケテイングから。
足元の富士フイルムのイメージング事業の様子を簡単に説明すると、デジカメ市場はスマートフォンの普及に押されて急縮小しているため、同社はスマホと差別化しにくい低価格帯コンパクトの機種数を大幅に削減。高級コンパクトとミラーレスの高級ブランド「Xシリーズ」に経営資源を集中するデジカメ事業の構造改革を実施している状況。2014年度のデジカメの販売台数は200万台の計画(前年比57%減)。
一方で、1998年に発売され、女子高生を中心に大ブームとなったインスタントカメラの「チェキ」は、2000年代前半にはデジタル化の波に押されて販売が低迷。しかし、2007年に韓国のテレビドラマで小道具として使用され、また2010年には中国で人気のファッションモデルがテレビでチェキを紹介したことがネットで話題になり、これらをきっかけに、アジア圏を中心に再び人気に火がついた。2014年度の販売計画は、デジカメを上回る300万台。
人気復活の要因は、「オンリーワン」と「カワイイ」。
デジカメより粒子が粗めでストロボの届く範囲も限られるので、誰が撮ってもホワイトフォーカスがかかったようなアーティスティックな写真ができあがります。また焼き増しができないので、どの写真も“1点もの”。チェキをデコれるのも若年層に受けています。
今年2月に原宿にチェキや関連グッズを販売する直営店「ワンダーフォトショップ」が出店され、新たなチャネルも作られています。また、同月、スマホで撮影した写真をチェキ用のインスタントフィルムで現像できるポータブルプリンター「スマホdeチェキ」を発売して新たな楽しみ方を提案しています(そして、この辺がイノベーション)。
では最後に、市場の再定義のお話。
マニア向けの高機能なデジカメ、マス市場向けの中程度機能のスマホ、機能ではなくて、若年層のエンターテイメント(コト消費)に特化したチェキ。でもフィルムカメラではだめですよ。最近の若者は、ネガを持ち込んでから現像に数日かかることを待つということを知らない世代ですから。マーケットの棲み分け勝ちといったところです。

■ 残存者利益のお話し

新聞記事には、富士フイルムがインスタントカメラ市場で「残存者利益」を享受することができた、との解説がありました。
「競合不在の上、アナログ技術のため他社には模倣困難で、価格競争に陥りにくい」「捨てずに保有している枯れた技術は、うまく使えば新たな市場の創造につながることを、本事例は教えてくれる」
それはその通りで、激しく同意できるのですが、もう少し筆者の言い方で解説を言い換えますね。
『残存者利益とは、複数の市場参加者が、採算性の面から市場から退出することで、当該市場における圧倒的なブランドを形成することができ、価格支配力を有するに至ることで得られる。』
『同時に、必要とされる技術を競合は市場退出と共に、放棄してしまうので、新たな市場参入には技術的な障壁が生まれてしまい、残存者は継続的な超過利得を享受することができる。』
『ただし、残存者利益を得られるようになるまで、当該市場に留まるための資本力を必要とするため、どの企業でも採用できる競争戦略ではない』
という感じでしょうか。つまり「ブランド」「規模の利益」「技術的参入障壁」「企業体力(資本力)」の辺りがキーワードになるようです。
それに加えて、経営者の事業ポートフォリオに対する慧眼か、偶然の産物が必要かもしれません。短期的な収益性だけを追って「PPM理論」を振りかざす人たちには到底理解できない世界ですから。
当然、富士フイルムにおいては、経営者の慧眼により、今日のインスタントカメラ市場の復活があるのだと思います。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 市場再定義が奏功したのだと思います 最近(2014/11/11)、「中期経営計画 VISION2016」を発表し、株価も好反応し、富士フイルムHDへの賞賛記事が後を絶ちません。ちょっと本稿では奇をてらって、主力のヘルスケアや高機能材料ではなく、中計でも、イメージングソリューション事業の収益安定化への貢献が言及された「インスタントカメラ事業:チェキ」についての新聞記事を取り上げたいと思います。 「富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」が人気を呼んでいる。デジカメの普及に伴い、チェキの市場は縮小していたが、近年人気が盛り返し、出荷台数はデジカメを上回る規模に拡大した」 2014/11/28付 |日本経済新聞|夕刊 (十字路)アナログ技術が創出する新市場(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます インスタントカメラとは、いつの時代の話をしているのだ、とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、市場セグメンテーションの再定義の結果、富士フイルムの確固たる収益源となっています。 ■ 顧客を作るマーケテイングかの、マネジメントの大家、ドラッカー氏は、経営において大事なのは、「イノベーション」と「マーケテイング」とおっしゃしました。今回の事例は、この2つとも絡んでいますが、まずはマーケテイングから。 足元の富士フイルムのイメージング事業の様子を簡単に説明すると、デジカメ市場はスマートフォンの普及に押されて急縮小しているため、同社はスマホと差別化しにくい低価格帯コンパクトの機種数を大幅に削減。高級コンパクトとミラーレスの高級ブランド「Xシリーズ」に経営資源を集中するデジカメ事業の構造改革を実施している状況。2014年度のデジカメの販売台数は200万台の計画(前年比57%減)。 一方で、1998年に発売され、女子高生を中心に大ブームとなったインスタントカメラの「チェキ」は、2000年代前半にはデジタル化の波に押されて販売が低迷。しかし、2007年に韓国のテレビドラマで小道具として使用され、また2010年には中国で人気のファッションモデルがテレビでチェキを紹介したことがネットで話題になり、これらをきっかけに、アジア圏を中心に再び人気に火がついた。2014年度の販売計画は、デジカメを上回る300万台。 人気復活の要因は、「オンリーワン」と「カワイイ」。 デジカメより粒子が粗めでストロボの届く範囲も限られるので、誰が撮ってもホワイトフォーカスがかかったようなアーティスティックな写真ができあがります。また焼き増しができないので、どの写真も“1点もの”。チェキをデコれるのも若年層に受けています。 今年2月に原宿にチェキや関連グッズを販売する直営店「ワンダーフォトショップ」が出店され、新たなチャネルも作られています。また、同月、スマホで撮影した写真をチェキ用のインスタントフィルムで現像できるポータブルプリンター「スマホdeチェキ」を発売して新たな楽しみ方を提案しています(そして、この辺がイノベーション)。 では最後に、市場の再定義のお話。 マニア向けの高機能なデジカメ、マス市場向けの中程度機能のスマホ、機能ではなくて、若年層のエンターテイメント(コト消費)に特化したチェキ。でもフィルムカメラではだめですよ。最近の若者は、ネガを持ち込んでから現像に数日かかることを待つということを知らない世代ですから。マーケットの棲み分け勝ちといったところです。 ■ 残存者利益のお話し新聞記事には、富士フイルムがインスタントカメラ市場で「残存者利益」を享受することができた、との解説がありました。 「競合不在の上、アナログ技術のため他社には模倣困難で、価格競争に陥りにくい」「捨てずに保有している枯れた技術は、うまく使えば新たな市場の創造につながることを、本事例は教えてくれる」 それはその通りで、激しく同意できるのですが、もう少し筆者の言い方で解説を言い換えますね。 『残存者利益とは、複数の市場参加者が、採算性の面から市場から退出することで、当該市場における圧倒的なブランドを形成することができ、価格支配力を有するに至ることで得られる。』 『同時に、必要とされる技術を競合は市場退出と共に、放棄してしまうので、新たな市場参入には技術的な障壁が生まれてしまい、残存者は継続的な超過利得を享受することができる。』 『ただし、残存者利益を得られるようになるまで、当該市場に留まるための資本力を必要とするため、どの企業でも採用できる競争戦略ではない』 という感じでしょうか。つまり「ブランド」「規模の利益」「技術的参入障壁」「企業体力(資本力)」の辺りがキーワードになるようです。 それに加えて、経営者の事業ポートフォリオに対する慧眼か、偶然の産物が必要かもしれません。短期的な収益性だけを追って「PPM理論」を振りかざす人たちには到底理解できない世界ですから。 当然、富士フイルムにおいては、経営者の慧眼により、今日のインスタントカメラ市場の復活があるのだと思います。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します