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株式型クラウドファンディング、第1号事業者に 日本クラウドキャピタル、出資見返りに未公開株

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 従来の大企業中心の企業観に激震が走る予兆だと思います!

経営管理会計トピック

1600年に設立されたイギリス東インド会社に起源をもつ株式会社。産業革命以後、北米を中心に大資本による巨大企業が次々と誕生し、大恐慌前には銀行資本によるコンツェルンも形成され、組織だって儲けるためには企業規模を大きくし、起業するには株式会社、という常識が時代の変遷とともに覆されようとしています。

2016/11/3付 |日本経済新聞|朝刊 株式型クラウドファンディング、第1号事業者に 日本クラウドキャピタル、出資見返りに未公開株

「投資家と企業を仲介する日本クラウドキャピタル(東京・品川、柴原祐喜最高経営責任者)は今月中にも出資の見返りに未公開株を渡す株式型のクラウドファンディングを始める。関東財務局に第1種少額電子募集取扱業者の登録を終え、日本証券業協会にも1日付で加入した。近く営業を始める。
 株式型は2015年5月の改正金融商品取引法で解禁となり、第1号の事業者となる見通し。個人がベンチャー企業にリスクマネーを供給する経路として注目を集めそうだ。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

この記事をまた新たな種類のファンドが設立されただけか、という風に見ると本質を見誤ります。また、単に金融や企業のためのお金集めの手段の多様化という視点に小さく捉えるのも、大変もったいない見解だと思います。

(下記は同記事添付のクラウドファンディングの類型説明表を引用)

0842_株式型クラウドファンディング、第1号事業者に 日本クラウドキャピタル、出資見返りに未公開株

 

■ 大量のヒト・モノ・カネを総動員してビジネスを営んできた理由とは?

18世紀の産業革命以降、現在に至るまで次第に企業が大型化していきました。最近でも大型M&Aの話は枚挙にいとまがありません。ではなぜ、こうした企業は規模を大きくしたがるのでしょうか。

(1)優秀な人材を囲い込みたい
(2)大量生産による単位当たり固定費を低減させたい
(3)大量販売のための新規市場開拓を行いたい
(4)金融資産をより有利な条件で運用したい(世界規模で資本量はとてつもなく膨張しています)

ちまちまと採用活動していても、なかなか優秀な人材が集まらず、そうした人材が保有している知識(時には知的財産(著作権や特許など)の形式をとる)を自社ビジネスに有効に活用できない。それじゃ、いっそのこと、例えばAI(人工知能)を研究しているベンチャー企業をまるごと買収してしまえ、ということが当たり前になってきました。

また、大量生産・大量販売を行うことで、大型の開発先行投資や設備投資を起因とする巨額の固定費や、企業が巨大化するのに伴い、図体がでかくなった組織をコントロールするために本社管理部門を構えることによる間接部門費としての大型出費は、ビジネス規模がより大きくなれば、収穫逓増効果も相まって、コスト削減効果が見込まれ、その分マージンが大きくなる、と考えられています。

そうした儲け話が転がっていないか、最近では経済活性化のために一斉に金融緩和されたおかげで膨張した金融資産がより高い利回りを求めて、鵜の目鷹の目でビジネスチャンスを探し回っている状態です。そして、よりまとまった大型投資案件をこなすことで、各種手数料の負担率を下げて少しでも儲けを出そうと、大型の融資や出資案件を漁っています。

世界中の商売人が、ヒト・モノ・カネの全ての点において、より企業規模・ビジネス規模を大きくして儲けようと企図しているのが大勢なんだろうなと見ています。

 

■ 企業の大型化に従って資本も大型化するために株式会社制度が誕生しました

①出資者の有限責任
②株式の自由譲渡性
③所有と経営の分離

この3つの条件を提示し、一般大衆から広く小口の資金を集めて、大型の企業を営めるようにしたのが株式会社制度です。

①があると、出資したお金(引き受けた株式)以上の損失を被ることはないので、安心して株主になる事ができます。
②があると、お互いに信頼関係のない小口の株主がお金だけを出し合って、資金を集中させてより企業規模を拡大できるようにできます。だって、嫌になればいつでも株式市場で手持ちの株式が売却できるので、投資に安心感(いつでも撤退、回収ができる)が生まれるからです。
③があると、お金は持っているけど、会社経営の知恵・経験がない資本家も、出資という形でビジネスに参加することができ、その点でも会社はお金を集めやすくなります。

こうして、株式会社制度は、「カネ」の面でビジネス規模の拡大をこれまで手助けしてきました。この構図にクラウドファンディングが金融の世界の常識を塗り替えようと昨今勢力拡大中です。

● クラウドファンディングとは
不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うこと(WiKi

⇒「パルコ、テナント発掘へネット通じ資金 地域金融・自治体と連携 ヒットの芽、地方から探る -クラウドファンディングは株式制度の進化形だ!
⇒「あなたの1000円が世の中を変える!新しい“お金”の流れ READYFOR(レディーフォー)社長・米良はるか 2016年1月7日 TX カンブリア宮殿

株式制度では、単位未満株による小口の投資や投資信託を利用すれば、もっと小口の出資も可能ですが、お金や口座のやりとりが少々面倒くさいイメージがあるのも事実です。クラウドファンディングは、ネット技術を活用することで、もっと気安く、もっと少額から、自分が気に入ったビジネスに投資(中には金銭的な見返りを求めない寄付もあります)をすることができます。

 

■ クラウドファンディングが従来の企業観を創造的破壊に導く可能性とは?

クラウドファンディングが持っている特徴の中でも株式制度と大きく異なる特徴は、既存や新設の会社組織への投資にこだわる必要がない所でしょう。誰かが、何かを作りたい、こういうサービスを受けたい、と思った営みやイベントやモノの開発や製造行為自体に、出資することができるのです。

冒頭の記事でも、

「仲介は「ファンディーノ」のサービス名で始める。フィンテック企業など未公開企業の株式をインターネット経由で個人投資家が買えるようにする。投資上限は1社あたり1人年間50万円。
 投資先が成長し、上場時に売却すれば、投資家は株式の値上がり益を得られる。半面、倒産によって価値がゼロになるリスクもある。」

とあり、従来は個人投資家が手を出しにくかった未公開株に対して気軽に出資できる手段として、クラウドファンディングを活用する、というものですが、まだ未公開株という形式を採っている以上、従来型の株式会社という器が投資対象なので、従来の延長線上にあります。しかし、より小規模のビジネスという点において、量から質的な変化に向かう可能性を秘めているものです。

クラウドファンディングは、より小口のお金をより小規模なビジネスや福祉サービスといった、「行為」そのものに対する出資をやりやすくする点で、株式会社という器自体を「カネ」集めの前提条件としないという綬来のビジネス観(常識)を一気に塗り替える力を持っています。

足下で大型M&Aに関する報道が毎日ある中で、密かに、ネットワーキング的なビジネス手法も伸びてきています。それは前述した「ヒト」「モノ」「カネ」といった3つの経営資源の全てに当てはまるのです。

 

■ 「ヒト」「モノ」「カネ」がネットの世界でつながる時代のビジネスは大企業を不要にする!

「ヒト」
大企業は、優秀な人材を囲い込もうとする一方で、使えない正規社員が社内にとどまり、生産性が落ちる悩みも抱えています。それじゃ、とある開発プロジェクト進行中だけ、短期的なキャンペーン的な、バーゲン的な販売期間だけ、必要なタイミングに最適な人材を活用してビジネスをしたいとも考えています。それゆえ、クラウドソーシングでタスクごとに労働者と契約することの方が主流になっていくのではないでしょうか。

これまで、大企業(特に日本やドイツの製造業など)が長期的に従業員を抱えていたのは、ライフサイクルの長い商材や自社資源だけを使った商材を扱える人材を自社独自のトレーニングメニューで訓練しておかないと能力を発揮してもらえなかったからです。しかし、これからは、ビジネススピードが画期的に速くなり、雇用の流動化どころか、正規雇用で長期雇用を保証しても割に合う仕事は減っていくはずです。

「モノ」
マスプロダクションは、既製品を大量生産・大量販売すること。消費者は「モノ」消費から「コト」消費に移行し、「モノ」であっても、自分だけのモノ、すなわち「オーダーメイド」品をより一層求めるようになります。しかし、完全オーダーメイドはコストが高ついてしょうがない。そこで、キーコンポーネントに付随して、様々なオプション・バリエーションを顧客が選べるようなものづくりを目指すようになります。これを、「マスカスタマイゼーション」といいます。インダストリー4.0は、やれIoTだと、それを実現するテクノロジーの方にばかり目が行きますが、本質は消費者が求めるモノの供給のされ方の革命的な変化への対応にあります。また、「メイカーズ」や「3Dプリンター」、「デジタル・ファブリケーション」という言葉に代表されるように、消費者が自分の欲しいものを自分で作ってしまう、そんな時代が到来しようとしています。

「カネ」
上記のスモールビジネス、短期的な(プロジェクト的な)ビジネスや、大会社を不要にする個人やコミュニティ主導のものづくりを支える手段として、ソーシャルレンディング、クラウドファンディングというお金集めの個人化があるのです。

こうした、21世紀の特徴的なビジネスモデルの前兆として、冒頭の株式型クラウドファンディングは、従来のビジネスモデルに基づくお金集めの方法から、次世代のビジネスモデルのベースとなるお金集めの方法の橋渡し的な存在にきっとなるでしょう。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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