■ 経営のヒント - コマツ 坂根正弘氏に学ぶ
2014年/11月の「私の履歴書」はコマツ、坂根正弘相談役による連載でした。どの経営者の連載も楽しみにして読んでいる筆者ですが、流石(さすが)にこの11月は毎朝のように唸(うな)ることが多かったように思えます。
2014/11/1~30付 |日本経済新聞|朝刊
(私の履歴書)坂根正弘
わざわざ筆者が振り返らずとも、読者の皆様に読み直していただければよいだけですが、筆者が特に唸った箇所を抜粋し、時には僭越ながらコメントを付けてみたいと思います。
■ 思わず唸ってしまった箇所(抜粋)
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2014/11/5 大学受験
私はコマツの経営者として「弱みよりも強みを磨こう」と言い続けた。自社の得意分野を伸ばすことで、ライバルに絶対的な差をつける。こうした考え方を「ダントツ商品」「ダントツサービス」「ダントツソリューション」や「ダントツ経営」と名付けて、経営の旗印に掲げてきた。
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マーケットの中で尖っていないと、コンペチターには競り負けてしまいます。
経営コンサルタントに言われるまま「SWOT分析」した所で、「で?どうするの?」
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2014/11/9 河合良成社長
河合さんは私たち技術陣に「JIS(日本工業規格)とコストを無視しろ」と言った。すなわち「JISに満足していてはダメだ。品質最優先でもっとレベルの高い自分たち独自の規格をつくれ」と指示を飛ばした。
「JISを守っていれば、まあ合格点」。それが常識だった時代に、河合さんのメッセージはみんなをびっくりさせた。トップがここまで言えば、品質向上にかける熱意がいやでも組織の隅々まで浸透する。「経営者には言葉力が不可欠」というのが私の持論だが、その原像は河合さんにある。
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唸りポイントは2つ。
あくなき「品質」の追及。「規格」と「コスト」は高い品質を維持すれば後から着いてくる。これは、トヨタの大野耐一氏の考えにも通じるものです。
もうひとつは、リーダーの言葉の力。政界では、田中元首相、小泉元首相などの顔が思い浮かびます。
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2014/11/11 クレーム対応
実はメーカーの技術者といっても、エンジンやミッションなど専門が細かく分かれており、全体が頭に入っている人は意外に少ない。クレーム対応で鍛えられたことで、機械の全体像を把握できたことは大きな財産になった。
この仕事を通じて、人脈も広がった。お客様のもとに足を運んで、不具合の原因や対策を説明するのに加えて、壊れた部品を持ち帰って、それをきちんと修理するのもクレーム対応の大事な仕事だ。だが、そんなことを私1人でできるわけがない。
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「仕事」は、全体像が分かると、違う地平線が見えてきます。人より広い視野で物が見えるヒトは、より適切な判断ができます。
そして、「仕事」は一人では完結しない。パートナーシップをどうやって築くことができるか。人間関係を損得勘定の貸し借りだけで考えていては、、、パッションが大事ですね。仕事にかける情熱、ヒトは、大義名分とストレートな感情には弱いものです。
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2014/11/12 大阪工場
いろいろ音源の対策を試しても音が下がらない。試行錯誤は続き、かなり焦ったが、最後は強引なまでの力業に頼った。エンジンやラジエーターの回りをできる限り密閉して外装の金属板に吸音材を張り、最後の手段として隙間に綿のような素材を詰め込むことで、外に漏れる騒音を何とか規制値以下に抑え込んだのだ。
この話には後日談がある。シベリアに機械を出荷した後、フォローアップのために何人かのチームで現地を訪れた。すると、あれほど苦心してつくった騒音対策の吸音材や綿状の素材がガラクタ同然の扱いで現場の近くに山積みになっている。
相手に聞くと「なんであんな余計なモノがついているか分からないから、点検、修理の時に外した」とあっさりいう。それを聞いて、さすがの私も泣けてきた。「あの苦労は何だったのか」という気持ちだった。
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仕事は、あるべき結果(ゴール)をきちんと頭の中にイメージできていれば、ゴールから遡って今やるべきことは自ずと定まる。
さぁ、騒音対策は規制をクリアした。でも現場では受け入れられなかった。規制クリアが優先して、保守性まで思いが至らなかったのだ。視野の狭さは、後からならわかるがその時は気づくことは困難。
しかし、この時の努力は、後の騒音規制強化対応へ生かされた。どんな努力や失敗もやってみて後々の財産とできるかは本人次第。
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2014/11/14 本社勤務
そこで手掛けたのはファクト・ファインディング(事実把握)の取り組みだ。建設機械の実力について最も信頼できるデータを持っているのはメーカーでもディーラーでもなく、お客様だ。そこで何人かでチームを組んで、一軒一軒お客様を訪ね歩くキャラバン隊を立ち上げた。
当社の商品だけでなく他社の商品についても稼働日報を見せてもらい、実際の稼働時間や故障の頻度、修理の費用を細かくチェックするのだ。私も中国・九州地方に長期出張し、色あせた昔の日報や修理伝票をめくる日々を1カ月ぐらい続けただろうか、非常に地味で骨の折れる作業だったが、その中から貴重な事実が浮かび上がった。
一つはブルドーザーの修理コストは想定よりもかなり高く、1万時間稼働させるのに必要な修理費は新車価格の80%に相当する、という事実。さらに、足回り部品の修理費が高く、その部分の耐久性を上げれば、修理費が大幅に低減することも判明した。
恥ずかしい話だが、コマツは長年、建設機械の商売をしていながら、こうした事実を実証データとしては把握していなかった。高度成長時代はモノをつくれば売れる時代。開発と生産、販売の対応に必死で、お客様に売った後のことはメーカーとして本流の仕事ではなかった。
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現場主義。現場に真実がある、顧客の声に耳を傾ける。でも、こういう言い古されたフレーズがなぜ、先達者の口から繰り返されるのだろうか?それは実践できていないから。じっくり己自身のこれまでを振り返ってみる。
メーカーが作って売って終わりという時代が終わった。製品はそれ自体に価値があるのではなく、お客様の課題を解決するところに価値がある。「プロダクト」は「ソリューション」を含意していなければならない。世の中には、「プロダクト売り」「ソリューション売り」と区別する考え方もあるが、それは売り方の外見に惑わされているだけ。
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2014/11/15 課長時代
初めて部下を多く持つ課長職についた訳だが、私の考えでは日本企業の強さの源泉は「ミドルアップ・ミドルダウン」にあると思う。「トップのリーダーシップが弱い」とはよく指摘される日本企業の弱みだが、それを補ってきたのがしっかりしたミドル層の存在だ。
現場の実情をよく知る課長クラスが上層部に対して意見や提案を具申したり、一人ひとりの課員に気を配って、彼らのモチベーションを引き出したりすることで、企業が前に動いていく。
ちなみに米国では中間管理職は「介在者」という扱いで、多くの企業でトップとボトムが直結している。これはこれで長所もあるが、製造業に関する限り、現場を束ねるミドルが自発性を発揮して、臨機応変に判断する日本型のほうが強いと思う。中間に位置する人が深く考えて下に展開することで、組織全体の能力が底上げされていくからだ。
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従来の日本企業の強み、現場主導の経営スタイル。ここは欧米流の経営術との違いに議論があるところ。特に、欧米IT企業の高い成長と経営スピードの速さは、トップダウンの風土だからこそなのか? 「意思決定の速さ」と「従業員の英知の結集」は別問題。日本流がいいか、欧米流がいいかという議論はナンセンス。意思決定が速くて、かつ効率的・効果的に従業員の暗黙知がイノベーションにつながった方が良いでしょ!
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2014/11/17 米市場開拓
代理店はどこでも同じだが「競合製品に比べて、コマツの値段は高すぎる」と不満を口にすることが多かった。私たちメーカーの側からみると決してそんなことはないのだが、彼らは納得しない。
自動車なら同じ排気量の車を比較すれば、どれが高いか安いか目星がつくのだろうが、建設機械は馬力や作業能力など多種多様なスペック(仕様)があり、簡単に高い安いを判定できない。価格論争は結論が出ないまま、水掛け論で終わるのが常だった。
これを解消するには何をすべきか。私は日本語の車格という言葉をそのまま「shakaku」と英語化して、様々な仕様を点数化し、機種ごとに総合点をつけてランク付けする方法を導入した。
これをコマツ製品だけでなく、競合製品にも当てはめて、同じシャカクならコマツの機械は高くないと代理店に納得してもらった。シャカクによる仕様比較はセールスで客を説得する武器にもなり、その後は代理店の人達も「shakaku」で通じるようになった。
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「コストテーブル」作成による「機能」に対する原価の見える化。売価交渉だけならず、新製品の設計・開発にも使える。
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2014/11/18 ワンマンの弊害
取締役になって新事業推進室を担当した。事業領域を建機以外にも広げるのが狙いだが、過去の非建機事業の取り組みは必ずしもうまく行っていない。日本企業にありがちな「市場規模が大きいから参入する」「手持ちの技術が活(い)かせるから参入する」という横並びの発想がコマツにも根強く、それが飛躍を妨げていた。そんな問題意識を持っていたところに、魅力的な出資案件が飛び込んできた。
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非常に難しい問題。非関連多角化は、「事業シナジー」、従来の「ミッション」、「専門家利益」から本当にやるべきなのか? ソフトバンクの孫氏のように、他業種へのベンチャー投資が上手くいっている(今の所は)のは、事業の目利きができるか否か、のように思える。ここまで来ると、その事業会社が本当に手掛けるべき事業というのは、理屈では決まらない。経営者のアニマルスピリッツに依るところだと思いますが。。。
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2014/11/20 米工場の再建
6工場のうち5つはドレッサー社からの引き継ぎだが、1つだけテネシー州のチャタヌガ工場はコマツが立ち上げたもので、日本的な改善活動も盛んだった。私としても特別の愛着があり、「ここだけはリストラも日本流でやろう」と決めた。
つまり他工場のような閉鎖や一時解雇はせず、給料を3割カットしながらも、全員の雇用を維持したのだ。生産調整で仕事のなくなった社員は敷地内の草むしりや保守整備をしたり、近くの小学校のペンキ塗りなどを請け負って、しのいだ。それから半年ほどで景気が戻り、工場は再開。地元社会からは「コマツの経営は素晴らしい」と称賛され、私も鼻高々だった。
だが、その後がいけない。米国市場が立ち直り、増産投資が必要になると、他の工場は投資して、雇用も増やしたが、「リストラしない工場」を掲げたチャタヌガでは踏ん切りがつかない。「規模を大きくして、次の不況がきたら対応できない」という心配が先に立つのだ。結局10年たってみると、他工場が大きく伸びたのに対し、チャタヌガは取り残された。
考えてみれば、こうしたチャタヌガの状況は、日本経済の姿とも一部重なり合う。「社員を大切にする」。この精神は日本企業が将来とも守るべき大事なことだが、あまりに労働市場の流動性が低いと、会社も個人も身動きが取れなくなり、成長機会を取り逃がす。このジレンマをどう解消するかは、日本全体の課題である。
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極論ですが、最も効率がよいのは全員非正規雇用で事業を営むことです。需要がなくなれば、仕事量に応じて労働力を調整すればよいのです。なぜ、正規雇用(ここでは比較的中長期的な安定雇用の意味)で組織内に労働力を保持することにこだわるのか。中長期のトレーニングが必要な業務を任せるため等、安定雇用には安定雇用の意味があるから。場合に依ります。
今回はここまで。後半は次回です。
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