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(十字路)株主アクティビストの予防法 と(大機小機)時点の不一致と物言う株主 -正しい株主との付き合い方とは?

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ アクティビストには予防策と懐柔策のどちらが有効なんだろう?

経営管理会計トピック

最近流行の「アクティビスト」「物言う株主」との対峙法について、興味深いコラムが続けて目に止まりましたので、ここでご紹介します。

2016/2/17付 |日本経済新聞|夕刊 (十字路)株主アクティビストの予防法

「グローバル市場で、アクティビスト、いわゆる物言う株主の勢いが増している。リーマン・ショック前に5兆円とされていたアクティビストファンドの運用資産残高は、今や20兆円前後ともいわれる。米国市場だけでは投資先に事足りず、欧州、アジアへと活動範囲を広げている。大企業も例外なく投資対象となる。わが国でも日本版スチュワードシップ・コードの導入、持ち合い解消と、徐々にアクティビストの活動環境が整いつつある。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

ここにいうアクティビストとは、野村證券の証券用語解説によりますと、

「英語表記はActivist。株式を一定程度取得した上で、その保有株式を裏づけとして、投資先企業の経営陣に積極的に提言をおこない、企業価値の向上を目指す投資家のことをアクティビストという。
いわゆる「物言う株主」で、経営陣との対話・交渉のほか、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等をおこなうことがある。ただし、最近では株式の保有割合が低くても、投資先企業に積極的に提言をおこなうケースもみられる。」

という中立的な定義となっていますが、世の中では、短期的に標的企業の株主になって、企業から現金その他の経済的利得を引き出すことを生業としている投資家達という見方もできます。標的になる企業の典型例は次の通り。

① キャッシュリッチ企業
 →事業に投下されていない金融資産を株主還元という美名のもとにむしり取ろうとする
② 傘下に有望な事業を保有している企業
 →優良事業・100%子会社をIPO(スピンアウト)して、株式市場から資金回収を図る
 →他社へ高額な買収額で売りつける

こういう手法を使ってくるアクティビストは、経営者は敬遠したいタイプでしょう。これらはあくまで一手法で、ほかにも様々な手練手管を使ってきますが、共通しているのは短期主義ということ。事業の将来性に魅力を感じて中長期的視点で投資を考え、時には知恵(口)も出して応援する、というタイプもいますが、圧倒的に新聞ネタになるのは前者の方です。

こうした状況を承けて、
「以前はアクティビストに呼応する機関投資家は少なかった。だが最近は、機関投資家や議決権行使助言会社も、その主張に耳を貸し、時として支持もする。また、アクティビストは豊富な資金に物を言わせ、一流アドバイザーを雇って投資先を調査・分析し、一つの「正論」を唱えてキャンペーンを展開する。そのため、キャンペーンの成功確率も高まっている。」

いやはや、なんともお金の匂いがする所に人は集まりがちです。機関投資家も議決権行使助言会社も、是々非々でお付き合いしているようですが、短期主義のアクティビストとは対立することが多いようです。そもそも、経営に口を出す機関投資家(投資ファンド)の方こそ、中長期主義のアクティビスト(経営者が歓迎する方)そのものと言えなくもありませんが。

いえいえ、積極的に投資家も口を出しなさいと、例の「スチュワードシップ・コード」で謳われているではありませんか。

コラムでは、短期主義アクティビストの害悪についてこのように表現しています。

「アクティビストは、短期的には株主還元を増やし、株価を引き上げることも少なくない。また、その標的となったことを機に、株主を意識した経営にカジをきる企業もあるだろう。もっとも、アクティビストが長期にわたり企業を攻撃し続ければ、企業は疲弊し、現業への集中力を欠いたり、中長期的な成長力を失ったりすることもある。だからといって、アクティビストだけに一般株主にはない黄金の花道を用意するわけにもいかない。」

その対処法として、

「アクティビストに対する予防策は、彼らになったつもりで自社を分析し、攻撃材料となりうる特段の問題があれば、事前にその問題を解消しておくことにある。その問題は、市場関係者であれば誰もが感じる問題点であることも少なくない。市場の常識に謙虚に耳を傾け、緊張感を持って経営に当たり続けること。その重要性は、今後ますます増していくものと思われる。」

つまり、付け焼刃な、またはその昔の総会屋対策的な対応では無効だということ。真っ当な経営を行い、真っ当なIRをしましょうということ。至極当たり前で面白みに欠ける言い方かもしれませんが、投資家におもねって、株主還元100%とか、株主優待を強化するとか、自社株買い●●億円とか、足下の機嫌を取るより、企業の中長期の成長戦略のロードマップを訥々と説明して、賛意を集める方が良質な株主を集めることができると思いますが。

■ アクティビストの行動様式の理解には「時点の不一致」という考え方があった!

次は、前章で説明した経営者にとって敬遠したい短期主義の方のアクティビストのお話。

2016/2/24付 |日本経済新聞|朝刊 (大機小機)時点の不一致と物言う株主

「物言う株主は、ともすると利己的で厚かましい存在として一般社会からは煙たがられる。しかし、実は市場システムの維持という公益に奉仕する公共的な役割を担っているのではないかということに、ある投資家の言葉で気付かされた。」

短期主義のアクティビストにも一定の効用があるのではないかという視点で見てみようかということです。

「「株主は義務(の履行)と権利(の実現)の間に時点の不一致がある」。株主の義務とは、リスクマネーの供給である。株主の権利の実現とは、企業の事業が成功し配当金を得ることである。リスクマネーの供給から、配当を得るまでには数年以上の長い時間がかかる。その間に、株式は市場で売買され株主も交代する。株主の義務の履行と権利の実現の間に長い時間があるということが「時点の不一致」の問題である。」

公開株式は、資本市場で機動的に取引されるので、株主の人格は確かに次々と変わるかもしれません。しかし、

① ベンチャー企業へ出資する投資家は、中長期(それでも限度があって、ものにもよりますが3~5年程度)での資金回収を考えているのが常で、しかもその成功確率は高くないことを知っている

② 既存のエスタブリッシュ企業へ出資する投資家は、ゴーイングコンサーンとして、そしてキャッシュマシーンとして、継続的な配当他の経済的見返りがほぼ計算できるものとして出資しており、その場合は、事業の安定性や組織の健全性の方を気にする

という違いがあると思われます。株式市場から資金調達する経営者の方も、自社がどのような立ち位置なのかについて、十分に理解して資本市場にアピールすることが肝要かと思います。

コラムではこう続きます。
「時点の不一致は市場経済システムの全体に対して問題を引き起こす。事業に成功すれば、企業は自分たち(経営陣と従業員など企業内部の関係者)で成功の果実を山分けしたくなる。株主への配当は、なるべく少なくしたいというのが人情だ。自然な成り行きに任せるなら株主は十分な配当を得られず採算がとれなくなってしまうだろう。
 そうなればリスクマネーを供給する人はいなくなってしまう。つまり、株主を巡る時点の不一致を放置すると誰もリスクマネーを供給しようとしなくなり、市場経済システムは長い目でみて維持できなくなる。」

『時点の不一致』がリスクマネー供給の鬼門という考え方です。

■ アクティビストの口出しは、確かに経営参加権という株主権の行使ですが、、、

「この問題を解決するのが、株主権に基づく企業への改革要求である。株主が企業に価値向上と高い配当を要求し、実際に高い配当を得ることは「株式投資をすれば利益が得られる」という期待を醸成する。
 こうした期待が広がれば、次世代の人々も株式投資への意欲を持つようになる。その結果、リスクマネーが企業家に供給される市場経済システムが長期間にわたって維持されることになる。株主権の行使は潜在的な投資家の参加を促し、市場経済システムを維持するという公共的な役割を担っているのである。」

会社法で法定の株主権として、株主総会などでの決議を中心とした「議決権」行使に伴う経営参加権というものが、配当や残余財産の分配請求といった経済権に付加されているのは確かです。法定では、あくまで会社機関や限られた発言権(発議権)しか与えられていませんが、その法理から考えれば、常日頃、経営者にアドバイスや投資家としての要求を伝えるコミュニケーションの場を設けるのは、株主権の濫用には当たらないかもしれません。

しかし、一方で、「スチュワードシップ・コード」の順守を生真面目にしようとする機関投資家の中には、企業との経営に対するコミュニケーションが過度の負担になっていて困っているところがあるとも聞き及んでいます。そういう経営管理の能力が欠如している機関投資家には、そもそもリスクマネーが集まって来なくなり、自然淘汰されていくと思うので、個人的にはそれほど心配はしていませんが。。。

「「株主が企業に物を言う」のは、本人には私益追求だが、同時に公益への重要な奉仕にもなっていると考えるべきだ。企業統治改革で株主と企業の関係を捉えなおす動きが進んでいるが、その基礎には「物言う株主=公益への貢献者」という世界観の転換が必要なのではないか。」

アクティビストが企業にもの申す行為が、「私益」か「公益」かいずれから動機付けられるのか、それはあまり大した問題ではないと思います。大事なのは、アクティビストの意見は玉石混交。それを見定める眼力が経営者に必要である、ということの方ではなにでしょうか。つまり、短期主義アクティビストは、すべて短期的に経済的利益を上げるための発言しかせず、自分が株式を売り抜けた後の責任は一切持つ義理もなければ責任もないということ。そうした短期主義アクティビストなのか、中長期に企業価値を最大化しようとするパートナーとして信頼に足る長期主義アクティビストなのか、その見極めが大事なのではないでしょうか。「長期主義アクティビスト」が企業改革や成長戦略へのアドバイスを真剣にしてくれるなら、その発言の真意が「私欲」だろうが「個人的利益」だろうか、企業経営者にとってどうでもいいことです。企業を取り巻く全てのステークホルダーを幸せにする、そのためには、アクティビストの意見の中にも、聞くべきことは耳を傾ける。それだけです。

(米国を代表するIT企業に、物言う株主の圧力に負けて、次々の経営者の首をすげ替え、次々と事業を独立分離させている所がありますが、そうしたところは得てして業績が良くないですね。低業績のまま、組織再編による株主価値の歪みから、株式売買でサヤを取られて、企業価値を毀損し続けている。賢明な一般株主なら、そんな企業の株式はさっさと売却して、他社にすっと乗り換えるだけです)


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