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■ 食品スーパーは規模拡大で収益性が向上するか?

経営管理会計トピック
イオン資本の下で、首都圏地盤の食品スーパー3社(マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東)が大同団結して、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)が誕生します。規模拡大で、収益性は狙い通りに飛躍的に向上するものでしょうか?

2015/2/26|日本経済新聞|朝刊
USMH、6年後の営業益300億円へ イオン系スーパー連合 参画企業募り規模拡大

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
「首都圏地盤のイオン系食品スーパー再編で発足するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)は、6年後の2021年2月期に連結営業利益300億円程度を見込んでいることを明らかにした。売上高(営業収益)は1兆円を目指す。3月2日に発足し、上場する同社の上田真社長は日本経済新聞の取材で「1兆円時の売上高営業利益率は最低でも3%」などと述べた。」

下記に、新聞に掲載されたグラフを再掲し、USMHの市場におけるポジショニングを確認してみたいと思います。
経営管理会計トピック_食品スーパー業界の収益性_新聞記事より
業界でも屈指の規模になり、6年後には、売上高1億円、営業利益300億円、売上高営業利益率:3%を目指すことになります。

■ まずは規模拡大で収益向上を目指す戦略とのことですが、、、

記事をできるだけ丹念に読みこんで、足元の今期見込みの1.6%の売上高営業利益率をほぼ倍増の3%にする方策を整理します。
① 規模拡大
・首都圏は出店余地が潤沢にあると判断し、積極的に出店する(2021年2月期までに1000店舗)
・自力成長に加えて、USMHへの参画企業を募る
→規模拡大それ自体だけでは、収益性の改善策とはなり得ず、後述③の前提条件となります。
→新聞記事には記述がありませんが、ドミナント出店戦略により、商圏を重ねて、ターゲット地域の顧客を囲い込むという効果は見込めます。
② 品揃えの見直し
・各店舗ごとに地域特性を考慮した生鮮食品の品揃え
・利益率が高めのPB商品の充実
③ 共通固定費負担の軽減
・物流や加工センターの共同利用によるコスト削減
結局のところ、①の規模拡大は、③の共通固定費の多重利用による、店舗当たりの共通固定費の負担率を軽減する効果を導出する手立てにすぎず、上記②は他の業態や、競合店も既に実践しているため、特別にUSMHに参加するインセンティブになるかは微妙なところです。

■ これまでの食品スーパー業界の収益構造を明らかにします

とりあえず、過去データを使って、食品スーパー業界の収益構造を財務数値で確認したいと思います。
実は、後述しますが、食品スーパーは規模の集積があまりおこなわれていない市場で、比較的中堅規模の企業群がひしめき合っています。
比較的大きい売上規模で、可能な限り食品スーパーの業態比率が高い企業を9社選んでみました。
経営管理会計トピック_食品スーパー業界の財務数値 
経営管理会計トピック_食品スーパー業界の収益性数値
数字がうじゃうじゃ並んでいるので、これを新聞記事と同様の散布図にプロットしてみたいと思います。9社の数字を、2008年から2013年まで、6か年、したがって、散布図にプロットされる点は、9社×6年=54点となります。
まずは、縦軸に「営業収益(売上高)」、横軸に「営業収益(売上高)営業利益率」をとったものです。
経営管理会計トピック_食品スーパー業界の収益性1_ROS(営業利益)
この散布図がこの業界の収益構造をすべて代表しています。
つまり、個別企業ごとには多少ぶれがありますが、業界全体では、右肩下がり、売上規模が大きくなると、利益率が下がる傾向が見受けられます。
これは、食品スーパーのお客様は、比較的狭い商圏から集客されていることに起因しています。
「小型食品スーパー」は、商圏人口が5000~1万人で、商圏距離は2km以下、来店手段は徒歩か自転車となります。
「大型食品スーパー」は、商圏人口が1万人~3万人で、商圏距離は2~5Km以下、来店手段は自転車か自動車となります。
その地元のニーズ(地域のイベントに合わせた季節商品の提供、地元料理の食材中心の品揃え)を取り込む必要があり、そのためには、その地域の青果市場や魚市場での仕入れが中心となり、地元の仲卸の人達との人脈が仕入れの品質と価格を決めてしまう要素が大です。
あえて地域を超えた大チェーン店化して、バイイングパワーを強化しても、ナショナルブランドの加工食品会社とその商品取り扱い卸に対しては強くはなるでしょうが、地元の生鮮食品の仕入れにはどれくらい効果があるものでしょうか。。。

■ いろんな収益性指標を並べて散布図による分析を深堀りしてみます

すでに、前章の散布図でほぼ答えが出ているのですが、各種利益率の散布図も作ってみたので、折角ですから掲載しておきます。
<営業収益純利益率>
経営管理会計トピック_食品スーパー業界の収益性2_ROS(純利益)
会社ごとのポジションは、右肩下がりなのですが、個別に見てみると、バロー(岐阜県地盤)は、売上規模が大きくなっていますが、逆に利益率が上がっていくのが分かると思います。バローの有価証券報告書をみてみると、不採算店舗のスクラップによる減損損失が発生していたのが無くなったこと、実は食品スーパー以外のビジネス(不動産管理など)規模が拡大していること、などから、業界常識を超えた利益率の向上が観察されます。
アークスは、北海道地盤のスーパーですが、積極的なM&Aで、東北地方にまで進出していっています。売上高営業利益率までは、収益性の低下を感じさせない、商品戦略(品揃えと仕入れ)ができていたのですが、売上高純利益率にまで、利益概念を延ばしてみると、やはり「規模の不経済」「収穫逓減」の罠に陥っています。
ついでに、総資産利益率(ROA)を、営業利益ベースと純利益ベースのものも一気に見てみましょう。
経営管理会計トピック_食品スーパー業界の収益性3_ROA(営業利益) 
経営管理会計トピック_食品スーパー業界の収益性4_ROA(純利益) 
これらも、業界全体の傾向値としては、「規模の不経済」・・・会社規模を大きくして、固定資産(固定費の元)の多重利用により、単位当たりの固定負担の低減による収益改善を狙ったとしても、それが過去データからは失敗に終わっていることが分かると思います。
売上規模が拡大するとともに、自動的に固定資産が増大(店舗や共同流通センターは大きな固定資産ですよね)してしまい、ROAも資産規模に比例して改善しないのです。流通業における固定資産は、個別の店舗が占める比率が大きく、ある意味、管理会計的常識にとらわれることなく、よくよく考えると、大型店舗設備は、「変動費」と認識した方が、こういう分析上は理屈が合うことになります。
ただし、個別企業については、売上変動が相対的に小さいのに、ROAの方が大きく上下していることが分かると思います。
(散布図で、個別企業の年度別遷移が、左右に広がっていることを意味している)
これは、店舗設備は、スクラップ&ビルドの時間軸に対する粘着性があって、業績に対して機動的に(短期的に)動かすことができず、B/Sの3分の1程度を占める棚卸資産だけが売上比例で変動するからです。景気変動による顧客の購買意欲が上下する割合に対しては、いかに「変動費」的に解釈できるとした固定設備も、急に減らしたり増やしたりできない、ということを指します。
つまり、店舗設備中心の固定資産の時間軸に対する粘着性により、売上変動に固定費がレバレッジを効かせてしまい、売上変動幅より、ROA変動幅の方が大きくなってしまうのです。
(うーん、ここは文章でかなりくどくなりながらも頑張って説明してみましたが、なかなか分かりにくい表現になってしまいましたね。(-_-))
今日はこの辺で、説明を撤退します。。。
(軽い、敗北感が残りました)
結論は、「食品スーパー業界は規模拡大が簡単には利益率の上昇にはつながらない」
これだけ、覚えておいてください。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 食品スーパーは規模拡大で収益性が向上するか? イオン資本の下で、首都圏地盤の食品スーパー3社(マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東)が大同団結して、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)が誕生します。規模拡大で、収益性は狙い通りに飛躍的に向上するものでしょうか? 2015/2/26|日本経済新聞|朝刊 USMH、6年後の営業益300億円へ イオン系スーパー連合 参画企業募り規模拡大(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「首都圏地盤のイオン系食品スーパー再編で発足するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)は、6年後の2021年2月期に連結営業利益300億円程度を見込んでいることを明らかにした。売上高(営業収益)は1兆円を目指す。3月2日に発足し、上場する同社の上田真社長は日本経済新聞の取材で「1兆円時の売上高営業利益率は最低でも3%」などと述べた。」 下記に、新聞に掲載されたグラフを再掲し、USMHの市場におけるポジショニングを確認してみたいと思います。 業界でも屈指の規模になり、6年後には、売上高1億円、営業利益300億円、売上高営業利益率:3%を目指すことになります。 ■ まずは規模拡大で収益向上を目指す戦略とのことですが、、、記事をできるだけ丹念に読みこんで、足元の今期見込みの1.6%の売上高営業利益率をほぼ倍増の3%にする方策を整理します。 ① 規模拡大 ・首都圏は出店余地が潤沢にあると判断し、積極的に出店する(2021年2月期までに1000店舗) ・自力成長に加えて、USMHへの参画企業を募る →規模拡大それ自体だけでは、収益性の改善策とはなり得ず、後述③の前提条件となります。 →新聞記事には記述がありませんが、ドミナント出店戦略により、商圏を重ねて、ターゲット地域の顧客を囲い込むという効果は見込めます。 ② 品揃えの見直し ・各店舗ごとに地域特性を考慮した生鮮食品の品揃え ・利益率が高めのPB商品の充実 ③ 共通固定費負担の軽減 ・物流や加工センターの共同利用によるコスト削減 結局のところ、①の規模拡大は、③の共通固定費の多重利用による、店舗当たりの共通固定費の負担率を軽減する効果を導出する手立てにすぎず、上記②は他の業態や、競合店も既に実践しているため、特別にUSMHに参加するインセンティブになるかは微妙なところです。 ■ これまでの食品スーパー業界の収益構造を明らかにしますとりあえず、過去データを使って、食品スーパー業界の収益構造を財務数値で確認したいと思います。 実は、後述しますが、食品スーパーは規模の集積があまりおこなわれていない市場で、比較的中堅規模の企業群がひしめき合っています。 比較的大きい売上規模で、可能な限り食品スーパーの業態比率が高い企業を9社選んでみました。   数字がうじゃうじゃ並んでいるので、これを新聞記事と同様の散布図にプロットしてみたいと思います。9社の数字を、2008年から2013年まで、6か年、したがって、散布図にプロットされる点は、9社×6年=54点となります。 まずは、縦軸に「営業収益(売上高)」、横軸に「営業収益(売上高)営業利益率」をとったものです。 この散布図がこの業界の収益構造をすべて代表しています。 つまり、個別企業ごとには多少ぶれがありますが、業界全体では、右肩下がり、売上規模が大きくなると、利益率が下がる傾向が見受けられます。 これは、食品スーパーのお客様は、比較的狭い商圏から集客されていることに起因しています。 「小型食品スーパー」は、商圏人口が5000~1万人で、商圏距離は2km以下、来店手段は徒歩か自転車となります。 「大型食品スーパー」は、商圏人口が1万人~3万人で、商圏距離は2~5Km以下、来店手段は自転車か自動車となります。 その地元のニーズ(地域のイベントに合わせた季節商品の提供、地元料理の食材中心の品揃え)を取り込む必要があり、そのためには、その地域の青果市場や魚市場での仕入れが中心となり、地元の仲卸の人達との人脈が仕入れの品質と価格を決めてしまう要素が大です。 あえて地域を超えた大チェーン店化して、バイイングパワーを強化しても、ナショナルブランドの加工食品会社とその商品取り扱い卸に対しては強くはなるでしょうが、地元の生鮮食品の仕入れにはどれくらい効果があるものでしょうか。。。 ■ いろんな収益性指標を並べて散布図による分析を深堀りしてみますすでに、前章の散布図でほぼ答えが出ているのですが、各種利益率の散布図も作ってみたので、折角ですから掲載しておきます。 <営業収益純利益率> 会社ごとのポジションは、右肩下がりなのですが、個別に見てみると、バロー(岐阜県地盤)は、売上規模が大きくなっていますが、逆に利益率が上がっていくのが分かると思います。バローの有価証券報告書をみてみると、不採算店舗のスクラップによる減損損失が発生していたのが無くなったこと、実は食品スーパー以外のビジネス(不動産管理など)規模が拡大していること、などから、業界常識を超えた利益率の向上が観察されます。 アークスは、北海道地盤のスーパーですが、積極的なM&Aで、東北地方にまで進出していっています。売上高営業利益率までは、収益性の低下を感じさせない、商品戦略(品揃えと仕入れ)ができていたのですが、売上高純利益率にまで、利益概念を延ばしてみると、やはり「規模の不経済」「収穫逓減」の罠に陥っています。 ついでに、総資産利益率(ROA)を、営業利益ベースと純利益ベースのものも一気に見てみましょう。     これらも、業界全体の傾向値としては、「規模の不経済」・・・会社規模を大きくして、固定資産(固定費の元)の多重利用により、単位当たりの固定負担の低減による収益改善を狙ったとしても、それが過去データからは失敗に終わっていることが分かると思います。 売上規模が拡大するとともに、自動的に固定資産が増大(店舗や共同流通センターは大きな固定資産ですよね)してしまい、ROAも資産規模に比例して改善しないのです。流通業における固定資産は、個別の店舗が占める比率が大きく、ある意味、管理会計的常識にとらわれることなく、よくよく考えると、大型店舗設備は、「変動費」と認識した方が、こういう分析上は理屈が合うことになります。 ただし、個別企業については、売上変動が相対的に小さいのに、ROAの方が大きく上下していることが分かると思います。 (散布図で、個別企業の年度別遷移が、左右に広がっていることを意味している) これは、店舗設備は、スクラップ&ビルドの時間軸に対する粘着性があって、業績に対して機動的に(短期的に)動かすことができず、B/Sの3分の1程度を占める棚卸資産だけが売上比例で変動するからです。景気変動による顧客の購買意欲が上下する割合に対しては、いかに「変動費」的に解釈できるとした固定設備も、急に減らしたり増やしたりできない、ということを指します。 つまり、店舗設備中心の固定資産の時間軸に対する粘着性により、売上変動に固定費がレバレッジを効かせてしまい、売上変動幅より、ROA変動幅の方が大きくなってしまうのです。 (うーん、ここは文章でかなりくどくなりながらも頑張って説明してみましたが、なかなか分かりにくい表現になってしまいましたね。(-_-)) 今日はこの辺で、説明を撤退します。。。 (軽い、敗北感が残りました) 結論は、「食品スーパー業界は規模拡大が簡単には利益率の上昇にはつながらない」 これだけ、覚えておいてください。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します