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日本の金融リテラシーにおける3つのガラパゴス化(3)毎月分配型投信、親子上場、官民ファンド

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官民ファンドに対する逆風

最近、官民ファンドの累積損失と出資残高の目標値未達が攻撃の的になり、何かと批判の矢面に立っています。民業圧迫だとか、不適切な投融資の実行が指摘されています。中には確かに事実であるものもあると思います。皆さんは、官民ファンドを含む広義の財政投融資の仕組みと現状をどれくらい把握されているでしょうか。

以下は、日本経済新聞にて最近取り上げられた官民ファンドに批判的な記事です。

2019/11/22 |日本経済新聞|夕刊 農水ファンド、農相「廃止含め検討」 後継組織も

4つの官民ファンドは累積損失が拡大する見通し_日本経済新聞_20191122

2019/11/22 |日本経済新聞|朝刊 官民ファンド、続く採算軽視 農水系、新規投資停止へ 優良案件の発掘難しく 同記事添付の「4つの官民ファンドは累積損失が拡大する見通し」を引用

A-FIVEの累積損失_日本経済新聞_20191121

2019/11/21 |日本経済新聞|夕刊 農水官民ファンド、投資停止 来年度末にも 累損100億円 解散大幅前倒しも 同記事添付の「A-FIVEの累積損失」を引用

2019/11/19 |日本経済新聞|電子版 農水ファンド、目標達成困難に 農相「抜本的に見直す」

4官民ファンドの累損拡大が続く_日本経済新聞_20191112

2019/11/19 |日本経済新聞|朝刊 4官民ファンドの累損、3割増へ 今年度 同記事添付の「4官民ファンドの累損拡大が続く」を引用

累損の多い官民ファンド_日本経済新聞_20191007

2019/10/7 |日本経済新聞|朝刊 (エコノフォーカス)官民ファンド、遠い累損解消 4機構、1年で6割増 同記事添付の「累損の多い官民ファンド」を引用

ここまで断続的に同じ論調の記事を読まされていると、官民ファンドは取り組み自体があまりイケていない、ひいては、官民ファンドに資金融通をしている財政投融資という仕組み自体に大きな欠陥があるのでは、という疑念が生まれても仕方ありません。

「わたし、気になります!」(氷菓:千反田える風)

ということで、財政投融資を調べてみることにしました。

財政投融資とは

財政投融資とは、税負担に拠ることなく、国債の一種である財投債の発行などにより調達した資金を財源として、政策的な必要性があるものの、民間では対応が困難な長期・低利の資金供給や大規模・超長期プロジェクトの実施を可能とするための投融資活動です。

外部リンク 財政投融資(国からの資金の貸付・投資) : 財務省

日本政府が財政政策を実施するための資金供給の方法には2つあります。

  1. 無償資金:主に租税を財源として、補助金の予算措置といった返済義務を課さずに資金を供与する
  2. 有償資金:融資や投資といった、元本の償還、利子や配当など将来のリターンを前提に資金を供与する

「財政投融資」は後者の有償資金の供与にあたり、民間金融機関では対応が困難な分野に融資や出資の形で資金供給を行うことを通じて、一般会計(予算・税)とともに、経済の円滑な資金循環を促進し、社会経済の課題解決、需要・雇用の創造の役割を果たすことを目的としています。

(下記は、)

社会経済活動と財政資金の相関図_財務省

同財務省のHPより「社会経済活動と財政資金の相関図」を引用

一般的に財政政策には、次の3つの機能があるといわれています。

  1. 資源配分の調整機能
  2. 所得の再分配機能
  3. 経済の安定化機能

財政投融資は、①(を通して間接的に②)と③の役割が期待されています。①は、市場メカニズムに完全に委ねてしまうと十分に供給されない財・サービスを、政府が国全体の立場に立って供給するという機能です。例えば、大企業と比較して信用力・担保力等が弱く、民間の金融機関だけでは必要な資金供給を受けることが難しい中小企業に対して、政策金融機関による貸付けという形で資金供給を行うことです。

②は、経済情勢の変化に対応して必要な資金供給を行うことにより、経済を安定化させる機能です。これは、景気が悪化したときはその回復を助け、景気が過熱したときにはブレーキをかけることで、急激な経済の変動を緩和するという機能で、ビルト・イン・スタビライザーと呼ばれています(というより元がそういう英語なので)。

財政投融資の機能_財務省

左図は、同財務省HPにある「財政投融資における資金の流れ」を引用しています。これを眺めると、どういう領域に財政投融資の資金が回っているかがイメージしやすくなると思います。

ここから、財政投融資の3つの資金提供手段と、6つの民間金融機関では適切な資金供給が行えない様々な分野や場面に資金提供されていることが分かります。

<資金提供手段>
①財政融資:政策金融機関、地方公共団体、独立行政法人などを通じて政策的に必要な分野に対して行う融資
②産業投資:国が保有するNTT株、JT株の配当金や(株)日本政策金融公庫の国庫納付金などを原資として行っている産業の開発及び貿易の振興のための投資
③政府保証:政策金融機関・独立行政法人などが金融市場で資金調達する際に政府が保証をつけることで、事業に必要な資金を円滑かつ有利に調達するのを助けるもの

<提供分野>
①中小企業・農林水産業
②教育・福祉・医療
③社会資本
④産業・研究開発
⑤国際金融・ODA
⑥地方公共団体

冒頭で指摘されていた4官民ファンドはこの提供分野のいずれかに該当していることがお分かりだと思います。この時点で、想定外の分野への資金提供ではないということが確認されました。

財政投融資と官民ファンドの規模感をつかむ

コンサルティングの現場だけでなく、物事を分析する際には、「木を見て森を見ず」と「神は細部に宿る」という相反するテーゼのバランスをとりながら複眼をもって対象にアプローチする必要があります。

下記は、財務省HPにある「令和2年度財政投融資計画要求の概要」を引用したものです。

令和2年度財政投融資計画要求の概要 2019-11-24 184805

令和2年度の財政投融資予算は全体で11.7兆円、官民ファンドが含まれている産業投資は4.7兆円(3.96%)です。

次に、外部リンク 「今後の産業投資について」(PDF)(財政制度等審議会財政投融資分科会 令和元年6月14日)から、2018年度末の産業投資における官民ファンドの構成割合を出資金残高で確認してみます。

(下記は、同報告書から「産業投資の産投機関別残高」を引用)

産業投資の産投機関別残高 2019-11-24 184805

産業投資全体が5.7兆円の残高で、官民ファンドの残高は、4,545億円(7.98%)です。ここから分かるように、官民ファンドの累積損失の絶対額としての影響度が必要以上に誇張されて報道されている可能性があります。

投資ポートフォリオにおける官民ファンドの位置づけ

では、官民ファンドが対象にしている案件のリスクリターンはどのようにファイナンス目線で質的に評価されるのが適切なのでしょうか。

同報告書から下図の「民間におけるポートフォリオ管理の例」を引用したものをご覧ください。

民間におけるポートフォリオ管理の例 2019-11-24 184805

通常は、ハイリスクにはハイリターン、ローリスクにはローリターンということで、右肩上がりの分布になるのがファイナンスのセオリーです。資金調達がローリスク手段ならば、運用先もローリターンのものをあてがうのがアセットアロケーションの考え方です。

同じく、報告書から「産業投資について収益性とその振れ幅に着目して分類した場合の例」を引用したものをご覧ください。

産業投資について収益性とその振れ幅に着目して分類した場合の例 2019-11-24 184805

JT・NTT株の運用益などを原資にして官民ファンドが設立されているのは先に説明した通りです。さすれば、ミドルリスク、ミドルリターンで回されるべきJT・NTT株をハイリスク、ハイリターンの領域である官民ファンドに投下していること自体、官民ファンドがアグレッシブにリスクテイクに向かっていることがお分かりだと思います。

さて、ここで官民ファンドがなぜ設立されて、官民ファンドがハイリスク、ハイリターンの箇所で投資(出資)を実行しているのか、政策目的を今一度かみしめておく必要があります。

官民ファンドにおける投資ポートフォリオの質的分析

次に、官民ファンドの投資対象を確認してみます。

(下記は、「今後の産業投資について」(PDF)(財政制度等審議会財政投融資分科会 令和元年6月14日)から「投資分野の分類について」を引用)

投資分野の分類について 2019-11-24 184805

民間資本が二の足を踏んでいるような、工業・エネルギー、サービス業、宇宙・航空機、メディア・コンテンツ、バイオ、などがあくまで構成比率から分かる分だけですが、通常の民間のバランス感覚を超えた投資の意思を示したものになります。

さらに、投資はより長期のもののほうが難易度が高い反面、リターンも大きくなることが知られています。

(下記は、同報告書から「投資損益のJカーブのイメージ」を引用)

投資損益のJカーブのイメージ 2019-11-24 184805

筆者は仕事柄、クライアント企業の投資計画策定、事業ポートフォリオ分析を依頼されますので、当然この「Jカーブ効果」は実地で経験済みです。

(下記は、同報告書から「想定投資期間別の投資状況」を引用)

想定投資期間別の投資状況 2019-11-24 184805

ご覧の通り、官民ファンドが行う投資の投資期間は、4 年以下が約 16%、5~7 年が約 58%、
8~10 年が約 20%及び 10 年超が約 6%となっています。そもそも5年程度で回収されることを企図した出資ではありません。5年程度の期間での累損に目くじらを立てる指摘の感覚のズレに金融リテラシーの成熟度を疑わざるを得ません。

ベンチャー金融の大切さ

引き続き、同報告書からキーチャートを引いて、ベンチャー金融の大切さと収益目的に政策目的を加えている官民ファンドの使命を見ていきたいと思います。

(下記は、同報告書から「産業投資の役割の変遷」を引用)

産業投資の役割の変遷 2019-11-24 184805

時代の変遷とともに、リスクマネーの供給必要先も変わります。過去は、電源開発、住宅確保、貸し渋り対策などが目玉でした。今は、少子高齢化を迎える日本経済の成長力強化のインキュベーションが主眼となっています。

(下記は、同報告書から「誘発された民間投融資額(呼び水効果)」を引用)

誘発された民間投融資額(呼び水効果) 2019-11-24 184805

お手盛りデータは正確性・客観性について割り引いてみる必要がありますが、このグラフが示している「呼び水効果」が発生しているとしたら、官民ファンドの成果に反映させて評価してあげないと公正な評価とはいえません。これこそ、最近盛んに叫ばれているEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)の精神ですよね。

(下記は、同報告書から「我が国における民間ベンチャーキャピタルファンドの投資実績」を引用)

我が国における民間ベンチャーキャピタルファンドの投資実績 2019-11-24 184805

とはいいつつ、民間でリスクテイクが不十分なので、官民ファンドがここに踏み込む必要があるという説得材料がこの資料です。ここは公正を期すため、同様の報道がされていることも次に示しておきます。

ー」の時期に約1.5億円と世界(中央値)の7分の1しかない。日本企業の内部留保(利益剰余金)は18年度に463兆円と、7年連続で過去最大になった。一方で、設備投資や運用に使われない現預金は223兆円ある。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などに回す余地がある。

2019/11/16 |日本経済新聞|朝刊 ベンチャー投資、余裕資金を活用 政投銀、大企業と共同で
日本は民間のベンチャー投資が不足_日本経済新聞_20191116

左記は同記事添付の「日本は民間のベンチャー投資が不足」を引用

官民ファンドのあるべき位置づけ

理想とする官民ファンドの位置づけとしては、投資ポートフォリオの効率性を向上させるツールとして最大限その存在価値を発揮してもらいたいと思います。民間ではリスクとリターンの間に隙間が生じたり、タイムギャップから適切な投資が不足しがちになったりします。

(下記は、同報告書から「産業投資の使途と残高」を引用)

産業投資の使途と残高 2019-11-24 184805

事業に対する資金供給はリスクに応じて、次のように大別されます。

  1. シニアローン(通常の負債)
  2. メザニンローン(劣後ローン/劣後社債、優先株/種類株、ハイブリッド証券/ハイブリッドローンなど)
  3. 自己資本(普通株式など)

官民ファンドは自己資本の部分で思いっきり腕を振るっていただきたいと思います。そういう期待があるのは、逆説的に現在がそうでないからです。

(下記は、同報告書から「官民ファンドの投資実績損益状況」を引用)

官民ファンドの投資実績損益状況 2019-11-24 184805

累積損失が目立つ官民ファンドであればこそ、投資計画に対して投資実績が足りていない、低投資執行率が悪さをしているのです。ですから、報道で目立つ累積損失がある官民ファンドの執行を止める方向ではなくて、執行を増やす方向に、世の中の優秀な方の知見を傾けたほうがファイナンス的にも日本の社会経済的にもいいんじゃないかと愚考しているわけです。^^)

ちなみに、官民ファンドと財政投融資を絡めてブログ記事を書くことを思い立たせてくれた新聞記事がこちらです。

2019/11/19 |日本経済新聞|朝刊 (Deep Insight)財投復活にみる官頼み

それから、興味深い記事も併せてご紹介しておきます。戦後の日本の高度経済成長を支えるための資金供給の主役のひとりだった長信銀から旧日本債券信用銀行の流れを汲むあおぞら銀行もこの環境にただ指をくわえているわけでは決してありません。

あおぞら銀行は、このほど国内初となるベンチャー企業の社債に特化した投資ファンドを立ち上げた。地方銀行などから出資を募り、1年程度で総額100億円を目指す。ベンチャーの中にはベンチャーキャピタル(VC)からの出資で、株の持ち分比率の希薄化を懸念する経営者もいる。国内では競合がいない領域に踏み込み、上場後の融資取引などにつなげる。

2019/11/22 |日本経済新聞|朝刊 あおぞら銀、ベンチャー社債に特化 国内初ファンド、100億円めざす

こちらは、ベンチャーデット(資本ではなくて負債)に区別されます。いずれにせよ、リスクリターンの隙間が埋まることは歓迎すべきことです。ええ、経済取引がより難しくなったほうがコンサル仕事が増えるので。^^;)

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みなさんからご意見があれば是非伺いたいです。右サイドバーのお問い合わせ欄からメール頂けると幸いです。メールが面倒な方は、記事下のコメント欄(匿名可)からご意見頂けると嬉しいです。^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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