(時論)経営は日本的 でも高収益 米3M、58年連続増配 インゲ・チューリン会長兼CEO「製品の新陳代謝活発に」

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■ 半世紀もの間実現し続けている「製品リーダーシップ企業」であり続ける秘密とは?

経営管理会計トピック

前稿に引き続き、トレーシーとウィアセーマによる1995年の『ナンバーワン企業の法則』から、企業が顧客に対して、どういうフォーマットで「バリュープロボシション(value proposition)」を訴求するかについての次の3つの類型からお話を始めます。

① 業務の卓越性(オペレーショナル・エクセレンス)
② 製品リーダーシップ(プロダクト・イノベーション)
③ 顧客との信頼性・親密性構築(カスタマー・インティマシー)

今回取り上げる3Mは、「② 製品リーダーシップ(プロダクト・イノベーション)」で顧客支持を得ている企業となります。その長期的成功の極意をトップマネジメントへのインタビュー記事で垣間見ていきたいと思います。

2017/5/16付 |日本経済新聞|朝刊 (時論)(時論)経営は日本的 でも高収益 米3M、58年連続増配 インゲ・チューリン会長兼CEO「製品の新陳代謝活発に」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「右肩上がりの成長」はすべての企業の目標だが、実現できる企業は多くない。数少ない事例のひとつが2016年まで58年も続けて増配中の米素材大手スリーエム(3M)だ。コツコツ積み上げる研究開発(R&D)を重視し、生え抜き人材の育成を基本に据える経営スタイルは日本企業とも重なり合う。日本勢にできないことがなぜ3Mに可能なのか。インゲ・チューリン会長兼最高経営責任者(CEO)に持続成長の核心を聞いた。」

(下記は同記事添付の「インゲ・チューリン会長兼CEO」の写真を引用)

20170516_インゲ・チューリン会長兼CEO_日本経済新聞朝刊

米3Mは、一般には「ポスト・イット」で著名な企業ですが、1959年から1年も途切れることなく増配を続けているだけではなく、配当そのものも100以上継続(無配に陥ったことがない!)させてきています。この事実は、1929年の世界大恐慌もその後に続く世界大戦期、そして最近のリーマン・ショック時でも確実に利益を出し、株主に報い続けてきたことを意味します。この驚異的な高収益性の持続性の秘密はどこにあるのでしょうか?

■ 長年に渡って断続的にヒット商品を世に送り出せる仕組み作りとは?

3Mでは、「NPVI(New Product Vitality Index:新製品売上高比率)」といって、全売上高のうり、過去5年以内に発売した新製品が占める比率をKPI(重要経営管理指標)として着目しており、現状は30%以上と満足すべき水準を維持しています。3Mが提供する商品は、工業用の研磨材から医療材料、『ポスト・イット』のような文房具まで幅広いことが特徴ですが、全般的言えば、既存商品は陳腐化によって毎年4%程度売り上げが逓減していくことが経験則から分かっています。その結果、5年経つと売上高は2割減となります。その穴を埋め、さらに会社全体の売上高を押し上げるには、切れ目なくイノベーションを起こし、製品群の新陳代謝を活発にしなければなりません。全社員のベクトルを一致させ、新製品の投入=売上高の維持・成長を目指すために、前述の「NPVI」がKPIとして、社内共通の管理指標となっているという訳です。

筆者も経営コンサルタントとして、数多くの製造業で経営管理の仕組みを構築してきましたが、3Mのこの施策は有名なので、同じ仕組みの導入を何度も依頼されたことがあります。その際に、まず社内の抵抗に遭わなかったことはなかったと言えます。

「5年以内というのは、うちの社の製品寿命からすれば短すぎる」
「何を持って“新製品”と位置づけるのか? 弊社は、同じ製品をバージョンアップして顧客に報いている。どれくらいの改変があったら、“新製品”として認められるのか?」

こういう質問は一見、建設的な意見のように見えて、実は、発話している本人の意思は、こういう定量目標で新製品開発プロセスを見える化されると、自分の仕事のやり方にとって具合が悪いという本音が見え隠れします。こういう難癖付けて頓挫させようとする抵抗勢力に幾度となくお会いしてきました。(^^;)

新製品の機能的な定義も、期間的な定義も、その会社独自の基準で勿論かまわないのです。要は、3Mと同じように、常に新しい魅力ある商品を世に送り出しているかのイノベーション力がどれくらい発揮されているかをKPIで見える化しましょう、そして課題があったら、全員で解決に汗をかきましょう。簡単なことなのです。

(下記は同記事添付の「(下記は同記事添付の「斬新な新製品を生み出し、驚異の58年連続増配中」を引用)

20170516_斬新な新製品を生み出し、驚異の58年連続増配中_日本経済新聞朝刊

■ 長年に渡ってイノベーションを継続できる活力維持の秘訣とは?

3Mにおけるイノベーションには2類型あります。

(1)カスタマー・インスパイアード(顧客触発型)イノベーション
「お客さんと一体になって新しいモノを創る仕組みだ。日本での最近の成果としては、電車の外装を丸ごとラッピングする特殊フィルム素材がある。東京メトロやJR東日本向けに開発した。塗料に比べて配色やデザインの自由度が大きく、車両の外装に必要な耐候性も高い。東京の地下鉄(銀座線)を走る、全身が黄色のレトロ車両などに採用されている」

(2)インサイト・ツー・イノベーション(洞察による革新)
「これは特定顧客向けというより、もっと幅広く新たな市場の創出を狙ったものだ。例えば従来製品に比べて耐久性を4倍に高めた内装用の研磨材や『アイガード』という患者の血液などから医療従事者の目を守る防護具は、日本の建設現場や病院でも広く使われている」

(1)カスタマー・インスパイアード(顧客触発型)イノベーション について
この種のイノベーションの実現に向けて、2つの取り組みがあります。

① 主要顧客ごとに専任のチームを編成し、顧客の声に耳を傾ける体制を整備する
対象顧客は、日本では、トヨタ自動車や日立製作所、三菱グループ。欧州では独シーメンスやBMW、米国ではボーイングなど。それらの顧客と密接にやりとりしながら、ニーズを拾い上げて、新たな価値を創造することにつなげます。

② CEOによる顧客リレーションシップ強化
CEO自ら、世界に50~100社程度ある大口顧客のトップと個人的な関係を築き、何か問題が起きたときに素早く対応できるようにしておきます。仮に3Mに不満があるなら、先方のトップからチューリン氏の耳に直接入るようなパスを構築しています。

「問題を放置し、顧客がいつの間にかいなくなるのが一番怖い。半年に一度は各社のCEOと会う機会を持っており、今回の来日でも約15社のトップと話した」

(2)インサイト・ツー・イノベーション(洞察による革新)について
この種の取り組みに置いては、社内における自発的・自律的な技術革新を起こす仕掛けが必要になります。

「革新を生み出す一つの方法論に『エスノグラフィー(行動確認)』がある。技術者が実際にユーザーの立場を体験して、開発テーマを見つけ出す手法だ。溶接工の顔を保護する『スピードグラス』というお面は、エンジニアが溶接作業をして、視界の狭さなど従来製品の問題点を実感するなかから生まれた」

実際に開発者が被験者となって、開発対象のいい点悪い点を実際に確認するということ。日本企業の強みの一つである「現場主義」「3現主義(現場・現実・現物)」を地で行っています。

この2つの方法論はいずれも、3M流のかっこいい命名がされていますが、マーケティング理論の古典に言う「ニーズドリブン開発」と「シーズドリブン開発」そのものです。

経営管理会計トピック_「プロダクト・セールス」と「ソリューション・セールス」

温故知新というか、できる企業は、基本的なことを実践できている、その実行力にこそ競争優位の秘密がある。それを再確認することができました。

■ イノベーションと働き方の関係の重要性について

3Mでは、研究者や技術者を刺激し、彼らのやる気を引き出す経営上の仕掛けも有名です。今では、それを模倣したグーグルの方が本家だと思っている向きもありますが。

「3Mには『2つの15%』がある。まず年間18億ドル(約2050億円)の研究開発投資のうち15%は基礎的な研究に振り向け、何をテーマにどう進めるかは、リサーチ部門の自由に委ねている。私たち経営陣はあれこれ口をはさまない」

「もう一つは、個々の技術者に業務時間の15%は会社の命じた仕事ではなく、自分の好きな研究や開発に費やすよう奨励していることだ。会社に内緒で作業するので『ブートレギング(密造酒づくり)』とも呼んでいるが、この活動から多くのヒット商品が生まれている。毎年1回、ミネソタ州の本社で優れた技術や商品を表彰する『15%アワード』という催しを開いており、数年前には医療用テーピング素材の通気性を向上させた日本人技術者が受賞した」

エンジニアやデザイナーこそ競争優位の源泉となる貴重な経営資源です。彼らの収益貢献度を目先の利益だけを追うなら、マネタイズできる今動いているビジネスに集中させた方が短期的には利益率が上昇します。しかし、それは持続可能性のあるやり方ではないことを3Mはその長い歴史の中で知っているということです。

今の利益の源泉は、5年前の研究開発。5年前の研究開発は、エンジニア・デザイナーたちが着想を得るための創造的な時間。ソフトバンクの孫氏に習うなら、自社における「金のガチョウ」は一体何なのかをしっかりと把握することが経営者には大事なようです。

■ M&Aに頼らない。社内のオープンイノベーション・マインドが重要!

事業を手っ取り早く外から技術ごと買収してくれば、成長も時間も同時に手に入ります。しかし、それが持続可能性ある方法かどうかが重要なのです。その企業の体質や企業風土・企業文化とも相互作用の関係にあるのですが、3Mの成功を支える企業風土とは一体どのようなものなのでしょうか?

(1)成長戦略の中で買収の位置づけ
「足りない資源を迅速に手に入れる時に有効だが、やはり基軸になるのは自律的成長だ。社内に強力な技術基盤を持たないといけない」

(2)社内人材の教育は生え抜き育成を中心に
「必要なら外部からスカウトするが、3Mの文化を深く理解する生え抜き人材を重視する。むろん米国人だけでなく、幅広い地域から登用する。私自身もスウェーデン人で、英語は外国語だ。現在国際(米国外)部門のトップは韓国人。日本人幹部も本社に複数いる」

この点については、昨今の日本人の働き方に対する行き過ぎの警鐘が目立ちます。

2017/4/3付 |日本経済新聞|朝刊 (核心)日本型雇用の限界 打破を 多様な働き方欠かせず 論説委員長 原田亮介

「日本型雇用は「メンバーシップ型」(濱口桂一郎著「若者と労働」)と呼ばれています。新卒一括採用や年功賃金、終身雇用が特徴で、勤務地や職種、残業などは会社の指示に従います。これも欧米の「ジョブ型」と異なります。」

「日本型雇用の限界を打破するには、欧米型とのハイブリッドに改め、多様な働き方を認める必要があります。今のままでは、違う背景の人たちの英知を集めるイノベーションも、生まれにくいのではないでしょうか。」

技術も人材も容易に外から調達する方向に舵を切ったなら、わざわざ人の集合体である組織体を構成することなく、ビジネスチャンスを見つけた都度、一時的なプロジェクト組織を蘇生して仕事をすればいいのではないでしょうか? なぜ、企業体を構成する必要があるのか、なぜ従業員を雇用しなければならないのか? 目指すべきビジネスモデルを明確に意識すれば、安易に世論に惑わされることも無くなります。

(3)オープン・イノベーションが社内で実現
3Mでは、とあるエンジニアが「こんな技術が欲しい」とメールを打てば、必ず社内から反応があり、問題解決の手掛かりが得られる社内文化があります。日本企業の「総合○○会社」では、お隣の事業部が何をやっているのか分からないし、技術に関する質問をしても有効な回答があるかどうか微妙な所であることと、一線を画しています。異なる事業間で技術や知を持ち寄って新事業開発や既存商品のブレイクスルーを果たす、そういうシーンは3Mでは日常茶飯事ということです。

経営学では、「トランザクティブ・メモリー」といって、企業は膨大なメモリー(記憶=知)を蓄積しているが、それが活発にやりとり(トランザクト)されることで、イノベーションの生産性が上がる、という考え方があります。逆説的に言えば、せっかくの「知」もたこつぼ的な組織に埋もれたままでは有効に活用されず、宝の持ち腐れに終わり、それは企業価向上や長期的成長に何ら貢献しないもので終わるでしょう。

■ 3Mの強さの秘密は経営にもあった! 事業ポートフォリオの考え方について

(4)事業ポートフォリオはテクノロジー・プラットフォームから
米ゼネラル・エレクトリック(GE)流の苛烈なまでの「事業の選択と集中」とも距離を置き、重点分野の性急な絞り込みは避け、逆に多様性を大切にする方針を貫いています。重視するテクノロジー・プラットフォーム(技術基盤)として「接着材」「セラミックス」「不織布」など46もの分野を掲げ、そこから隣接領域に事業をどんどん広げる手法を採っているのです。

そこからもたらされる事業構成も、同社の長期的な持続的成長の秘密のひとつです。3Mは300億ドル企業だが、全部で26のビジネスユニット(事業部)からなり、各ユニットの平均売上高は1千億円強にすぎません。シャープの液晶事業のような、それがこけると全社がこけるような大黒柱は不在です。逆に小粒の優良事業を多数そろえ、環境変化に大きく左右されない安定した収益基盤をつくり上げたのです。

(5)管理された成長率
記者から少々意地悪な質問が飛びました。
「過去4年ほど3Mの売上高は伸び悩んでいます。何か隠れた問題があるのでしょうか。」

(インゲ・チューリン会長兼最高経営責任者)
「売上高の足踏みは事実だが、それは3Mの停滞ではなく、世界市場全体が停滞したことの反映だ。だが過去1年の世界経済の浮揚に伴い、当社のビジネスも勢いを取り戻しつつある。成長の再加速を確信している」

日系企業は、安易に中期経営計画で実数の経営目標を掲げます。
「20××年に、売上高:××兆円、純利益:××億円」

一方で、欧米企業は、中計にて、定量目標を具体的に示すことも避けがちで、仮に提示したとしても、売上や利益の成長率:××%、という示し方をします。これは、外部環境の経済成長率や景気変動の影響を考慮しての発言だからです。世の中がマイナス成長で、自社が前年売上利益を維持しているだけで、相対的には経営手腕としては十分に合格点ですから。

<筆者のまとめ>
3Mの成功の秘訣は、
① KPIの選択(NPVI)
② イノベーションが活発になる仕掛け(15%ルール)
③ トランザクティブ・メモリー重視の社内人材育成方針
④ 徹底した事業ポートフォリオ管理

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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