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■ 悠久の企業会計の歴史から損益計算に潜む会計の「哲学」の変遷を知る!

会計(基礎編)

「企業会計原則」「会計規則」「会計法規」という会計の世界の成文法(文書の形で会計処理の原理原則や手続きが記述してあるもの)を順次解説していきたいと考えています。その前に、そもそもの「企業会計」の背景に流れる「会計的なものの考え方」をざっくりご紹介するのが本稿の目的です。

会計は企業活動を貨幣価値(お金)で表現力豊かにまざまざと現況を我々に知らせてくれる便利なツールです。しかし、その数字には裏打ちされた確かな理論が存在し、表面的な数値の羅列を眺めていても、企業活動に対する真の理解には役立ちません。というより、その時々の企業観(企業とは何か、業績とは何か、企業価値とは何で表現されるか)を体現するものとして、悠久の会計の歴史の中で理解する必要があります。

財務会計(入門編)_損益計算の変遷

 

■ 「静態論的会計」は東インド会社の登場によって葬り去られた!

静態的論的会計は、「当座企業」という企業観が存在した時代の遺物です。例えば、欧州から東南アジアへ香辛料を買付けるために、組まれた何年も要するひとつの航海を企業に見立てて、帰港した際に一度精算して、その航海(企業)がどれくらい儲かったかを計測します。それは、「当座企業」が生まれて消えるまでの全期間を対象にした損益計算(全体損益計算)なのでした。それゆえ、港を出て、1ヵ月、1年経った時に、どれくらい儲かっているか、帰港して精算(清算)するまでは誰も実態を知ることはできません。

静態論的会計においては、当座企業が有する「財産目録」を明確にしておく必要があり、それが発展して現代の貸借対照表に進化します。その貸借対照表に計上される勘定科目の性質は次の通り。

(1)資産の「認識」:換金可能性のあるものだけに限定
(2)資産の「測定」:いくらで売ることができるか、「売却時価」
(3)負債の「認識」:法的に確定した借金だけに限定
(4)負債の「測定」:法的に確定した支払額(弁済額)

 

■ 「動態論的会計」は産業革命により意識され始めた!

産業革命が起こり、製造業を中心とする大規模な近代的企業が次々と生まれました。そういった企業は、大資本を必要とし、複数年の事業を営む必要がある(倒産や清算を前提としない)ことから、

① 広く一般社会から株式会社制度による資本(お金)を大量に調達する必要に迫られた
② 企業経営が複雑になり専門的知識を要するようになり、経営者と株主という2つの立場が生まれた(所有と経営の分離)

ことにより、人為的に会計期間(通常は1年)を区切って、経営者の成績を評価し、経営者報酬を決め、株主への配当金を決めるため、一定期間(ここでは1年)の「期間損益計算」をする必要に迫られました。ここから、企業観が「当座企業」から「継続企業」に変わると共に、会計の世界も、「全体損益計算」から「期間損益計算」に衣更えすることになりました。

 

■ 「損益法」から「財産法」へ。金融資本主義が損益計算方法を変えた!

前章の産業革命勃興後、しばらくの間、「期間損益計算」は、「損益法」といって、とある会計期間に割り当てられた「費用」という犠牲の下、稼得された「収益」との差額で「利益」を計算する方法が採用されます。この時、

(1)費用の「認識」:発生主義
(2)費用の「測定」:取得原価主義/費用配分の原則
(3)収益の「認識」:実現主義
(4)収益の「測定」:取引価額(収入額)の原則

という会計原則に基づき、費用収益が計上され、とある会計期間において、「費用収益対応の原則」が守られているか、毎期チェックを受けることになりました。

その後、19世紀に入ると、帝国主義と結びついた金融資本(銀行資本)が勃興し、財閥を中心とした巨大コンツェルンを形成します。彼らの専らの関心事は、

・ 傘下に収めた事業会社が営むビジネスから、いくらの収益が期待できるか
                        ↓
・ 事業会社が営むビジネスを、いくらで買収したり売却したりすることができるか

に移っていきます。それゆえ、期間損益を示す損益計算書から、会社の売買価値、すなわち時価主義に基づく貸借対照表における財産価値(財産目録)に対する関心が高まったのです。但し、ここで留意すべきなのは、「静態論」に戻ったのではなく、あくまで「動態論」の中で、「期間損益計算」をやりつつ、同時に企業価値も求めるという二兎を追うことを会計に求めたのです。

 

■ 「費用収益アプローチ」から「負債資産アプローチ」へ。IFRSが利益の質を変えた!

その後、1920年代後半に起きた世界大恐慌を機に、再び損益計算書を重視する時代が訪れました。それは「後入先出法(LIFO)」が導入されたからです。後入先出法は、在庫の棚卸計算技法のひとつで、後から倉庫に入ったものから先に払い出されるものと仮定して、売上原価と期末在庫高を計算する方法です。それは、帳簿上だけの計算で、実際の「モノ」の移動とは関係ありません。実在のモノの時価評価(棚卸評価価額)より、期間損益計算の適切性の方を重視する考え方です。

つまり、先物市場や為替相場による価格変動が大きい商品は、直近に測定された評価額で費用(売上原価)を認識した方が、その商品を販売することで得られる収益(売上高)と対比させるのに相応しいという考え方によるものなのです。大恐慌を経験した人間は、実在のモノの移動を忠実に反映することより、キャッシュフローにより近い期間損益計算を求めるようになったということです。

ここから現在進行形の話になるのですが、後入先出法がIFRSにより、2010年に廃止を宣告された以降、再び貸借対照表の財産価値を重視するトレンドが主流になってきました。再び、M&A全盛時代となり、企業価値評価の精度が求められるようになりました。それゆえ、企業の買収価値(売却価値)を正確に知るために、時価主義(IFRS的には公正価値)の計算を求めるようになったわけです。ここで留意すべきは、何度も言いますが、決して「静態論」に戻ったわけではないのです。期間損益は、「純資産(正味資産)の増減」で示されることになり、それは「包括利益」の名で、企業価値の増分として把握することが、翻って企業価値評価にも有益と考えられるようになったからです。

資産負債アプローチにおける「資産」と「負債」の位置づけを下記にまとめます。

「資産」:将来においてキャッシュを生み出す力の流入が期待される経営資源
「負債」:将来においてキャッシュを生み出す力の流出が懸念される経営資源

こうした「資産」「負債」概念は、従来の「費用」「収益」を、あくまで「資産」「負債」の増減によって確定する副産物の数値という位置づけということなります。あくまで、「資産負債アプローチ」の主眼は、投資家への価値ある情報提供にあり、何を持って価値があると判断するかというと、投資家がとある企業に投資するか否かを評価する際に、仮に投資すれば将来キャッシュフローがどれだけ着実に増えるのか(それとも存外に減少してしまうのか)を推し量る材料を提示できることに尽きるのです。

 

■ 「期間損益」を計算する技法が気になり始めたあなたへ

最後に、これまで語られてきた「期間損益」を実際に計算する技法について説明して本稿を締めたいと思います。「財産法」は期間損益計算のために、純財産額の増分を明らかにする必要があります。また、「資産負債アプローチ」においても、資産と負債の時価(公正価値)を直ちに明らかにする必要があります。

財務会計(入門編)_計算技法の違い

「棚卸法」
実地調査(例:在庫の場合は、実地棚卸が該当)により、会社財産の時価(公正価値)を、決算時点において、正確に調査・把握する方法により、正確な「財産目録」を作成する方法です。この「財産目録」を集めたものが「貸借対照表」となりますし、その期首期末の増減が期間損益としても使用されます。この場合、「資本」はあくまで「資産」と「負債」の差額概念になります。現代の財務諸表の表示ルールでは、「純資産」という勘定科目がこれに該当します。

「誘導法」
資金の流入と流出の方を会計帳簿に継続的に記録していきます。例えば、現金勘定が実際のお金の出入りで増えたり減ったりする額を押さえていきます。また、在庫の場合は、倉庫から出て行った商品や入ってきた商品の金額を押さえていきます。そうして各勘定の期末残高を集めて、財務諸表を作成します。

勘定科目ごとの計上ルールにも違いはありますが、現在のルールで分かりやすい例は、棚卸資産でしょう。通常は、「誘導法」で「棚卸資産勘定」の期末有高を求めます。そして、実地棚卸を行い、棚卸減耗損を把握します。つまり、「誘導法」を一義的に正としますが、「棚卸法」により補正されることがある(補正することが義務付けられているとも言える)ということです。

ここまで、損益計算の変遷のお話でした。会計定期利益をなぜ、どうやって求めるのか、その哲学に少しでもなじんで頂ければ幸いです。(^^)
財務会計(入門編)_企業会計の基本的構造を理解する(3)静態論 vs 動態論、財産法 vs 損益法、棚卸法 vs 誘導法。その相違と関連性をあなたは理解できるか?

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企業会計の基本的構造を理解する(3)静態論 vs 動態論、財産法 vs 損益法、棚卸法 vs 誘導法。その相違と関連性をあなたは理解できるか?http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d29.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d29-150x150.jpg小林 友昭財務会計(入門編)企業価値評価,IFRS,財務諸表,継続企業,企業会計,会計取引,動態論会計,静態論会計,当座企業,全体損益計算,期間損益計算,損益法,財産法,費用収益アプローチ,負債資産アプローチ,後入先出法,LIFO,棚卸法,誘導法■ 悠久の企業会計の歴史から損益計算に潜む会計の「哲学」の変遷を知る! 「企業会計原則」「会計規則」「会計法規」という会計の世界の成文法(文書の形で会計処理の原理原則や手続きが記述してあるもの)を順次解説していきたいと考えています。その前に、そもそもの「企業会計」の背景に流れる「会計的なものの考え方」をざっくりご紹介するのが本稿の目的です。 会計は企業活動を貨幣価値(お金)で表現力豊かにまざまざと現況を我々に知らせてくれる便利なツールです。しかし、その数字には裏打ちされた確かな理論が存在し、表面的な数値の羅列を眺めていても、企業活動に対する真の理解には役立ちません。というより、その時々の企業観(企業とは何か、業績とは何か、企業価値とは何で表現されるか)を体現するものとして、悠久の会計の歴史の中で理解する必要があります。   ■ 「静態論的会計」は東インド会社の登場によって葬り去られた! 静態的論的会計は、「当座企業」という企業観が存在した時代の遺物です。例えば、欧州から東南アジアへ香辛料を買付けるために、組まれた何年も要するひとつの航海を企業に見立てて、帰港した際に一度精算して、その航海(企業)がどれくらい儲かったかを計測します。それは、「当座企業」が生まれて消えるまでの全期間を対象にした損益計算(全体損益計算)なのでした。それゆえ、港を出て、1ヵ月、1年経った時に、どれくらい儲かっているか、帰港して精算(清算)するまでは誰も実態を知ることはできません。 静態論的会計においては、当座企業が有する「財産目録」を明確にしておく必要があり、それが発展して現代の貸借対照表に進化します。その貸借対照表に計上される勘定科目の性質は次の通り。 (1)資産の「認識」:換金可能性のあるものだけに限定 (2)資産の「測定」:いくらで売ることができるか、「売却時価」 (3)負債の「認識」:法的に確定した借金だけに限定 (4)負債の「測定」:法的に確定した支払額(弁済額)   ■ 「動態論的会計」は産業革命により意識され始めた! 産業革命が起こり、製造業を中心とする大規模な近代的企業が次々と生まれました。そういった企業は、大資本を必要とし、複数年の事業を営む必要がある(倒産や清算を前提としない)ことから、 ① 広く一般社会から株式会社制度による資本(お金)を大量に調達する必要に迫られた ② 企業経営が複雑になり専門的知識を要するようになり、経営者と株主という2つの立場が生まれた(所有と経営の分離) ことにより、人為的に会計期間(通常は1年)を区切って、経営者の成績を評価し、経営者報酬を決め、株主への配当金を決めるため、一定期間(ここでは1年)の「期間損益計算」をする必要に迫られました。ここから、企業観が「当座企業」から「継続企業」に変わると共に、会計の世界も、「全体損益計算」から「期間損益計算」に衣更えすることになりました。   ■ 「損益法」から「財産法」へ。金融資本主義が損益計算方法を変えた! 前章の産業革命勃興後、しばらくの間、「期間損益計算」は、「損益法」といって、とある会計期間に割り当てられた「費用」という犠牲の下、稼得された「収益」との差額で「利益」を計算する方法が採用されます。この時、 (1)費用の「認識」:発生主義 (2)費用の「測定」:取得原価主義/費用配分の原則 (3)収益の「認識」:実現主義 (4)収益の「測定」:取引価額(収入額)の原則 という会計原則に基づき、費用収益が計上され、とある会計期間において、「費用収益対応の原則」が守られているか、毎期チェックを受けることになりました。 その後、19世紀に入ると、帝国主義と結びついた金融資本(銀行資本)が勃興し、財閥を中心とした巨大コンツェルンを形成します。彼らの専らの関心事は、 ・ 傘下に収めた事業会社が営むビジネスから、いくらの収益が期待できるか                         ↓ ・ 事業会社が営むビジネスを、いくらで買収したり売却したりすることができるか に移っていきます。それゆえ、期間損益を示す損益計算書から、会社の売買価値、すなわち時価主義に基づく貸借対照表における財産価値(財産目録)に対する関心が高まったのです。但し、ここで留意すべきなのは、「静態論」に戻ったのではなく、あくまで「動態論」の中で、「期間損益計算」をやりつつ、同時に企業価値も求めるという二兎を追うことを会計に求めたのです。   ■ 「費用収益アプローチ」から「負債資産アプローチ」へ。IFRSが利益の質を変えた! その後、1920年代後半に起きた世界大恐慌を機に、再び損益計算書を重視する時代が訪れました。それは「後入先出法(LIFO)」が導入されたからです。後入先出法は、在庫の棚卸計算技法のひとつで、後から倉庫に入ったものから先に払い出されるものと仮定して、売上原価と期末在庫高を計算する方法です。それは、帳簿上だけの計算で、実際の「モノ」の移動とは関係ありません。実在のモノの時価評価(棚卸評価価額)より、期間損益計算の適切性の方を重視する考え方です。 つまり、先物市場や為替相場による価格変動が大きい商品は、直近に測定された評価額で費用(売上原価)を認識した方が、その商品を販売することで得られる収益(売上高)と対比させるのに相応しいという考え方によるものなのです。大恐慌を経験した人間は、実在のモノの移動を忠実に反映することより、キャッシュフローにより近い期間損益計算を求めるようになったということです。 ここから現在進行形の話になるのですが、後入先出法がIFRSにより、2010年に廃止を宣告された以降、再び貸借対照表の財産価値を重視するトレンドが主流になってきました。再び、M&A全盛時代となり、企業価値評価の精度が求められるようになりました。それゆえ、企業の買収価値(売却価値)を正確に知るために、時価主義(IFRS的には公正価値)の計算を求めるようになったわけです。ここで留意すべきは、何度も言いますが、決して「静態論」に戻ったわけではないのです。期間損益は、「純資産(正味資産)の増減」で示されることになり、それは「包括利益」の名で、企業価値の増分として把握することが、翻って企業価値評価にも有益と考えられるようになったからです。 資産負債アプローチにおける「資産」と「負債」の位置づけを下記にまとめます。 「資産」:将来においてキャッシュを生み出す力の流入が期待される経営資源 「負債」:将来においてキャッシュを生み出す力の流出が懸念される経営資源 こうした「資産」「負債」概念は、従来の「費用」「収益」を、あくまで「資産」「負債」の増減によって確定する副産物の数値という位置づけということなります。あくまで、「資産負債アプローチ」の主眼は、投資家への価値ある情報提供にあり、何を持って価値があると判断するかというと、投資家がとある企業に投資するか否かを評価する際に、仮に投資すれば将来キャッシュフローがどれだけ着実に増えるのか(それとも存外に減少してしまうのか)を推し量る材料を提示できることに尽きるのです。   ■ 「期間損益」を計算する技法が気になり始めたあなたへ 最後に、これまで語られてきた「期間損益」を実際に計算する技法について説明して本稿を締めたいと思います。「財産法」は期間損益計算のために、純財産額の増分を明らかにする必要があります。また、「資産負債アプローチ」においても、資産と負債の時価(公正価値)を直ちに明らかにする必要があります。 「棚卸法」 実地調査(例:在庫の場合は、実地棚卸が該当)により、会社財産の時価(公正価値)を、決算時点において、正確に調査・把握する方法により、正確な「財産目録」を作成する方法です。この「財産目録」を集めたものが「貸借対照表」となりますし、その期首期末の増減が期間損益としても使用されます。この場合、「資本」はあくまで「資産」と「負債」の差額概念になります。現代の財務諸表の表示ルールでは、「純資産」という勘定科目がこれに該当します。 「誘導法」 資金の流入と流出の方を会計帳簿に継続的に記録していきます。例えば、現金勘定が実際のお金の出入りで増えたり減ったりする額を押さえていきます。また、在庫の場合は、倉庫から出て行った商品や入ってきた商品の金額を押さえていきます。そうして各勘定の期末残高を集めて、財務諸表を作成します。 勘定科目ごとの計上ルールにも違いはありますが、現在のルールで分かりやすい例は、棚卸資産でしょう。通常は、「誘導法」で「棚卸資産勘定」の期末有高を求めます。そして、実地棚卸を行い、棚卸減耗損を把握します。つまり、「誘導法」を一義的に正としますが、「棚卸法」により補正されることがある(補正することが義務付けられているとも言える)ということです。 ここまで、損益計算の変遷のお話でした。会計定期利益をなぜ、どうやって求めるのか、その哲学に少しでもなじんで頂ければ幸いです。(^^)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します