■ 「包括利益計算書を斬る」の最終回
「前回」は、「連結」に対する考え方の違いにより、「連結損益計算書(P/L)」から「連結包括利益計算書(C/I)」へ渡されるバトン(当期純利益)の名称が違ってくることを指摘しました。包括利益計算書の説明として、それとなく「連結」に関する考え方の違いに言及してみました。ちょっと横道に逸れましたが、会計全体を理解するためには、どこかで触れるべき話題だったので、これでよかったのではと思います。改めて、「連結財務諸表」の特徴は別の回で説明したいと思います。
今回は、いつもの3社の実際の「(連結)包括利益計算書」を眺めて、相違点を確認していきたいと思います。
■ では本物をご覧ください
連結P/Lからの「当期純利益」の引継ぎが大事なので、略式ながら連結P/Lのお尻から記述を始めています。
【日本基準】
前回説明した通り、連結P/Lの一番下の「当期純利益」から始まらず、「少数株主損益」を控除する前の、「少数株主損益調整前当期純利益」からスタートしています。
前々回の概要説明には登場してこなかった「持分法適用会社に対する持ち分相当額」は、超簡単に言うと、20~50%未満の出資比率の関連会社の損益考慮分です。日産自動車の場合は、ルノーと東風汽車がそれに当たります。
他の2社に比べて、当期純利益よりその他の包括利益の比率の方が高くなっています。経営者にとって、当期純利益より、将来の損益見込によって左右されるその他包括利益の方が、コントロールしにくい項目なので、経営リスクがその分高いとも言えます。例えば、「その他有価証券評価差額金」は、持ち合い株式の時価評価が含まれていますが、株式市況次第で、この損益が経営者のいかなる努力にも無関係に損益が増減してします。
【米国基準】
トヨタ自動車は、米国(SEC)基準で財務諸表を作成していますので、英語版がSECに提出されています。英語版を確認すると、「非支配持分控除前当期純利益」に該当する箇所の項目名は、「Net income」になっていますので、和訳した時に、日本の会計基準に合わせた名称に代えてくれたのでしょう。トヨタの気遣いが感じられるところです。
極力その他の包括利益が当期純利益に比較して抑制されるようにコントロールされているように見受けられます。
【IFRS】
JTは、IFRSで連結財務諸表を作成していますので、英語名称を無理やり和訳しているのでしょう。こなれた日本語ではなく、やたら名称が長く、生硬な感じになっています。よく項目名を読み込むと、日産自動車やトヨタ自動車と同じ項目を意味していることが分かると思います。
素直に、「当期(純)利益」からスタートしているので、そこはこれまでの説明通りです。
(ちなみに、日本語の「当期利益」と「当期純利益」の違い分かりますか?意味する利益概念は同じですが、根拠ルールが違うので異なる名称で呼ばれるだけのことです。JTはIFRSで作成されているのでわざわざ「純」を付けていないだけです。では根拠ルールの違いは?興が乗ってきたので、あえて答えは書きません。ご自身で、2つの言葉を並べてググってみてください)
ただ表示構造にひとつだけ留意点があります。
それは、その他の包括利益が「純損益に振り替えられない項目」と「後に純損益に振り替えられる可能性のある項目」に区分されているところです。
「後に純損益に振り替えられる可能性のある項目」とは、日本風に言うと「為替換算調整勘定」や「繰延ヘッジ損益」が含まれているのですが、前者は子会社の持ち分を実際に売買したり、後者はデリバティブ取引を手じまいしたりすると、いわゆる「損益取引」の範疇に入って、連結P/Lに組み込まれる可能性を有しているものということを意味しています。
逆に、「純損益に振り替えられない項目」は、前提条件が不変な場合は、そのままではいつまで経っても永遠に連結P/Lに表示されることはない項目を意味しています。
どうですか?「包括利益計算書」はなかなか手応えがあったのではないでしょうか?
- 「連結」と「単体」
- 「持分」と「連結」の定義の違い
- 会計基準ごとに異なる名称と表示形式
これらの論点を筆者の力の限り平易に説明しました。全3回、もしよろしかったらもう一度復習してみてください。
ここまで、「包括利益計算書を斬る(3)」の説明をしました。
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