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文系にも分かる! インダストリー4.0、インダストリアル・インターネット、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブの違い(2)

経営管理会計トピック テクノロジー
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■ 具体的なビジネスケースで迫る!「IoT」をビジネス化するのに国別に違いがあるのか?

経営管理会計トピック

「IoT:Internet of Things(モノのインターネット)」。あらゆる産業機器にセンサーを取り付け、その稼働状況・使用状況をビックデータとして扱い、飛躍的な生産性向上に活かそうとする動きが今注目を浴びています。前回も言及しましたが、もはや、センサーが取り付けられるのは機器だけではなく、人間にもウェアラブル端末を介して、センサーが取り付けられる世の中になりつつあるので、「IoE:Internet of Everything」「IoA:Internet of Anything」とでも呼んだ方が適切なように思えます。

さて、前回予告した通り、今回は、事例ベースで国ごと・企業ごとの「IoT」ビジネスの取り組みの相違について考えていきたいと思います。

2015/12/18|日本経済新聞|電子版 インドに出現、GE「未来工場」 1工場であらゆる製品 インダストリアル・インターネット、次の一手(下)

「GEはソフトウェアと自動化技術などを活用し、「工場のスマート化」にも取り組んでいる。「Brilliant Factory」というのがその基本コンセプトだ。製品の設計、生産技術の開発、生産システムの運用、保守などに関連するさまざまな情報をデジタル化。短期間に新製品を製造でき、生産品目も柔軟に切り替えられる工場を目指す。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

前回、インダストリー4.0は「工場のスマート化」、インダストリアル・インターネットは「産業機器のスマート化」と切り分けましたが、産業機器が工場内で使用されれば、つまるところそれは「工場のスマート化」にもなるわけで。。。

ではGEが提唱する「Brilliant Factory」という基本コンセプトを見てきましょう。

まず、ものづくりに着手する前の設計・生産準備の段階で、
① 設計のデジタルデータを生産技術部門に送り、製造プロセスのモデリングとシミュレーションを実施
② 工場にある設備で生産が可能か、製造する部品が十分な耐久性を実現できるかなどを検証
③ 実際の生産に先立って、工場のレイアウト、ロボットの稼働状態、生産管理などをシミュレーションして検証

量産開始が了承された段階で、
④ 製品と生産システムの設計が承認されたら、生産設備の設定パラメーターと制御情報を工場の現場に送信
⑤ 高性能なソフトウェアを活用した分析やシミュレーションにより、生産や物流、在庫などを最適化
⑥ ソフトウェアの予測機能を使って異常を事前に察知して対処することで、工場が止まらないようにする
⑦ 課題に関しては、その都度、設計や製造にフィードバックし、修正・改善する

(下図は、同記事添付のBrilliant Factoryイメージ図を転載)

20151218_Brilliant Factoryのイメージ_日本経済新聞電子版

(Brilliant Factoryのイメージ。設計、生産技術、生産システム、保守などの情報をデジタル化して連携させる)

こうしたGEの野心的取り組みのための実証実験工場がインド・ブネに登場した。 

「1500人を雇用する同工場が目指すのは、「1つの工場であらゆる分野の製品を製造する」(GE)という型破りなものだ。航空機エンジンの部品、石油やガスなどの化学プラント向けの部品、鉄道車両やディーゼルエンジンなどを生産する」

(下記写真は、同記事添付のブネ工場のラインの様子を転載)

20151215_GEのブネ工場_日本経済新聞電子版

(インドのプネにあるGE「Brilliant Factory」航空機エンジン部品、化学プラントの部品、鉄道車両やエンジンを1つの工場で生産する)

これは、「マスカスタマイゼーション」(大量生産に近い生産性を保ちつつ、個々の顧客のニーズに合う商品やサービスを生み出すこと)を目指しており、そもそもドイツの「インダストリー4.0」が標榜しているコンセプトでもあります。そして、個客のカスタマイズニーズを大量生産時と同様のコストで実現するのに、デジタル情報のネットワークと、データ解析ソフトの性能で勝負しようとしているのです。そして、そのソフトの性能は、単にアルゴリズムの賢さだけではなく、蓄積された膨大な稼働情報(いわゆるビッグデータね!)をベイズの定理を使った、とか、ディープラーニング構造のAI(人工知能)で解析することを前提にしているのは間違いありません。ここにも登場するか、、、ビッグデータとAI。。。

■ GEのデータ重視の戦略は医療機器分野でも見られます

GEのビッグデータありきのデータ重視の産業機器の性能アピールは医療機器分野でも同様です。

2015/12/15|日本経済新聞|朝刊 (GLOBAL EYE)医療機器、欧米勢はデータ重視 画像分析、精度向上めざす

「医療現場が診断や治療に欠かせないデータを蓄積し、生かす取り組みに関心を高めている。医療機器の性能向上で様々なデータを分析できる環境が整ってきたことが背景だ。機器同士をネットで結べば、診断の知見を世界で共有することも可能になる。こうした医療現場のデータ化の流れに乗ろうと欧米の医療機器メーカーは製品開発の軸足を「性能向上」から「データ活用」に移しつつある。」

という一節からから始まるこの記事で、GEの姿勢は次のように紹介されています。

12月4日まで米シカゴで開かれた北米放射線学会(RSNA)の医療機器展示会で、GEは画像分析ソフトを医療関係者に説明していた。

「医療現場で強まるデータ重視の姿勢。後押しするのは医療機器の技術進化だ。今や得られる情報は精緻になった。例えば、肺の画像に浮かぶ影。濃淡やコントラストを数値化することで、患部の変化を的確に把握でき、適切な処置に結びつく。医療機関の枠を超え、世界中でデータに基づく知見を共有化できれば、貧困国の医療水準の向上にもつながる。
 実際、GEはこうした画像データをネットワークで共有する仕組みも展示会で提案していた。独シーメンスもデータ活用に広いスペースを割いた。医師の的確な診断を裏打ちするデータの種類は多ければ多いほど良い。医療機器メーカーにとっては医療現場のデータ化は大きな商機だ。」

過去は、「磁気共鳴画像装置(MRI)など先端医療機器の性能向上が関心事だった」が、現在は、診察現場で医師の判断をサポートするデータの提供、遠隔地をデジタル医療情報で結ぶネットワーク。データ、データ、データ。それらは、製造業だけをメインにするのではなく、エネルギー、ヘルスケア、製造業、公共、運輸の5つの領域を対象としているGEの「インダストリアル・インターネット」の基本コンセプトにつながるものです。

同記事は、日本の医療機器メーカーの動きを次のように伝えています。

「一方の日本勢。ある日本企業の展示場ではコンピューター断層撮影装置(CT)の被曝(ひばく)量が少ない点をアピールしていた。医療機器では引き続き「性能」も重要だが、データ重視の欧米勢とはズレを感じた。
 「日本ではデータをクラウドに移行するのを嫌がる医療機関も多い」。ある海外医療機器会社の関係者は明かす。日本の医療機関はデータ活用に保守的とも聞く。日本の医療機器メーカーがデータ活用の流れに乗りきれないのは、日本国内の医療現場の保守的な体質とも関係がありそうだ。」

あまりに、自虐的な報道も問題ですが、世の中のテクノロジーの潮流には、どの産業分野でも乗り遅れること、乗り間違えることなきよう、慎重かつ大胆に幹分けることが大事です。

ここらで日本の「IVI」の話をしよう!

2015/12/3|日本経済新聞|朝刊 中小3社で「1工場」 金属加工の今野製作所など  受注・生産・出荷を共同管理 IoT、工程つなぐ

「東京都内の金属加工3社が連携し2016年4月、ITを活用して共同で受注・生産する取り組みを始める。あらゆるものがネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)の生産現場への応用に向けて、互いの生産や出荷管理といった情報を共有し、顧客から見るとあたかも1社に発注したように動こうという試みだ。中小の競争力を強化する手法として注目を集めそうだ。」

このスキームの基本は以下の通り。
「今野製作所(足立区)、西川精機製作所(江戸川区)、エー・アイ・エス(同)の同業3社が組んで「つながる町工場プロジェクト」を始める。受注や生産、出荷などの管理に共通のシステムを導入し、製品がどの工程にあるのかをリアルタイムで管理する。素材や加工の難易度などをもとにしたおおまかな利益率などの情報も共有する。」

まずつながるところから。

(下図は、同記事添付の3社連携イメージ図を転載)

20151203_IVI3社連携のイメージ_日本経済新聞朝刊

受発注や引合い、出荷管理など、3社連合の外との連携は共通化し、3社内でも、ものづくり情報の共有と、情報共有に基づく作業の協同化を次のように進めます。

「顧客がプロジェクトのホームページから見積もりを依頼すると、3社の担当者が設計や加工方法などのアイデアを出し合って仕様を決定し見積もりを返す。加工は3社それぞれの得意分野や、設備、繁閑などを考慮して決める。主要な加工を担う社が主幹企業として、顧客と製品に対し責任を持つ。」

このプロジェクトとIVIの関係は、

「3社のプロジェクトはITを活用し国内製造業の革新をめざす団体「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)」の作業部会の一つとしても位置づけられている。IVIは三菱電機や日立製作所などの主要企業を中心に国内外100社以上が参加し、工場をつなぐ技術の標準化などを話し合う。
 IVIの発起人代表でもある法政大学の西岡靖之教授が3社の指導にあたるほか、東京都中小企業振興公社も助成する。」

とあり、IVIが、ドイツの「インダストリー4.0」を参考に、中小企業の競争力強化のために、情報共有のためのプロトコル標準化作業を進めているのですが、この事例がその試験的運用のひとつになっています。

「3社はプロジェクトを技術力や企画力の向上にもつなげる狙い。受注する製品として、単純な下請け加工品ではなく、大学やメーカーの研究開発用の装置など特注品や少量生産品を想定している。設計や試作など企画段階から担うことで、付加価値を上げるとともに3社の技術力を高める。互いに意見を出し合う仕組みを作り、企画提案の幅を広げる。」

とあり、ここでも、「マスカスタマイゼーション」の基本コンセプトが見え隠れしています。

「一方、従来から取引先に関しては、各社がそれぞれ独自の情報としてこれまで通り取引する。」

しかし、日本のIVIの特徴は、
① 中小企業の競争力強化が主要な目的になっている
② あくまで、強みを持っている特定の機能(研磨とか切削とか)を持ち寄る
③ 製造工程のシームレス化を重点に置いている

ため、上記のように、従来の取引先とは従来通り、とか、中途半端なことになってしまいます。これでは、90年代に流行ったECとかEDIとかが、複数種類のプロトコルが乱立し、そのアダプタをすべて用意するコスト高を放置し、異なるプロトコル間では情報の共有が非常にやりにくく、狭い業界や特定製品・部材のみの取り扱いになってしまった反省が生かされていないように見受けられます。

「日本のものづくり力の向上には大手企業だけでなく中小の底上げが欠かせない。中小企業が連携して共同受注を進める動きは1980年代からあったが、ITの進歩で連携の形は新たな段階に入っている。3社が始める取り組みは中小がITを活用した連携で競争力を高めるモデルケースになりそうだ。」

という一節で新聞記事は締められていますが、「インダストリー4.0」程の包括的対応の姿が見えず、またパッチワークの部品がひとつ増えるだけ、ということにならないか、非常に不安なのは筆者だけでしょうか?

■ そもそも日本企業の強みとは?

猫も杓子も「IoT」ですが、何のデータをつなぐと、どういうメリットがあるかを考える必要があります。そして、そのメリットは、従来の自社の強みをさらに生かすものなのか、弱みを補ってくれるものなのか?

ここに、欧米企業と日本企業のとある業界での競争優位の違いを端的に表した事例があります。しかも、純粋な製造業ではなく、「SPA:Specialty store retailer of Private label Apparel」であるところがまた興味深いのですが。

2015/12/19|日本経済新聞|朝刊 国際比較「稼ぐ力」ライバルに挑む(2) ファストリ 主戦場・中国で躍進 王者「ZARA」とはなお差

「ファストリには泣きどころがある。売上高総利益率の低さだ。ファストリの前期実績は50%とインディテックス(54%)やH&M(56%)に見劣りする。」

(下表は、記事添付のファーストリテイリングと競合の業績比較を転載)

20151219_ファーストリテイリングと競合企業の業績比較_日本経済新聞朝刊

「ファストリの得意分野は「ヒートテック」や「エアリズム」など、ベーシック商品。対するインディテックスはトレンドのファッションが主体で、「スタイル」そのものを提供している。野村証券の正田雅史マネージング・ディレクターは「トレンドという漠然とした価値に値段を付ける他社に対し、ファストリの付加価値は機能性。素材選びの段階で粗利の差がついてしまう」と話す。
 じっくりと商品開発に取り組む手法も、値もちの良い売れ筋を機敏に並べる他社との差を生む一因だ。中国の消費者の好みが多様になっているのも、ベーシック商品中心のファストリには逆風になりかねない。ビジネスモデルの違いはあるが、ライバルに引けをとらない利幅の厚さを確保するには、ブランド価値の底上げが欠かせない。」

「スタイル」v.s.「機能」

ZARAでは、シーズン中の店舗における販売情報(つまるところ在庫情報もね!)を正確に把握し、品切れ(販売機会ロス)を最小化しないように留意します。そして、在庫リスクを最小化し、それでも欠品がある場合は、顧客側に買いそびれ欠乏感を与え、頻繁な来客と次の販売機会の創出を心がけます。

一方で、ユニクロは、機能性製品を素材メーカーとの共同開発で生み出し、顧客に商品の機能価値を提案して、購入につなげます。ユニクロは決して、ファストファッションではないですけどね。

したがって、店舗の販売情報をデジタルネットワークで、製造現場(海外の縫製工場)や機能性素材の開発部隊(東レとの共同組織)へ返す内容とタイムスパンは、ファストファッション企業とは一線を画しているはずです。

「IoT」であらゆる情報がデジタルでつながる。そのつながり方、活かし方はその企業の競争戦略次第。今回はそういうお話でした。



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