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■ 「サプライヤーファイナンス」という仕組み導入で資金調達!

経営管理会計トピック

花王が、膨らむアジア新興国向けの設備投資資金を調達するのに、取引先への買掛債務の支払い期限を延長することで対応する財務戦略を採用しました。この資金調達の作戦を評価する財務KPIもあり、新聞記事では「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC:Cash Conversion Cycle)」として詳細されています。

関連過去記事は次の日立の事例で:
⇒「運転資金1500億円圧縮 日立、投資余力を高める

2015/6/4|日本経済新聞|朝刊 花王、アジア資金効率改善 300億~400億円捻出、設備投資柔軟に

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「花王はタイなど東南アジア事業の資金効率を改善させる。日用品の原材料などを仕入れる取引先への支払い条件を見直し、製品を販売して売上代金として回収するまでの期間を短縮。年間300億~400億円の運転資金を捻出する。事業が急拡大しているアジアでは今後、設備投資が膨らむのが確実だ。資金需要に柔軟に対応できる態勢をつくる。」

(新聞記事からスキームの解説図を転載)

20150604_サプライヤーファイナンスの仕組み導入_日経新聞

花王が導入した「サプライヤーファイナンス」のあらましとは、記事によると、「花王が取引先に対して買掛債務の支払期限の延長を要請する。応じてくれた取引先は、保有する花王向けの売掛債権を、支払期限が来る前にシティバンクに売却できる。」とあります。

つまり、花王の取引先は、花王からの購入代金が支払われる期限が先延ばしになり、自社の資金繰りに悪影響が出るかもしれません。早く現金を手に入れたい場合は、花王に対する「売掛債権(花王に対して何日後に代金を支払ってくださいと要求する権利)」を、花王が約束する支払日が来る前にシティバンクに売却して、早いうちに現金を手に入れる、というスキームになります。

シティバンクから見ると、このスキームに参加することは、「ファクタリング:他人が有する売掛債権を買い取って、その債権の回収を行う」という「金融サービス」を提供していることになります。当然、営利活動なので、シティバンクも儲けなければならないので、サプライヤーへの現金支払額と、花王への現金請求額の「サヤ」をとることを利益とします。

(ファクタリングについてはWiKiに簡単な説明があります)

つまり、サプライヤーからすれば、経済現象としては、昔からある商慣行である「手形割引」と同様であることが分かると思います。

 

■ なぜここで「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」なのか?

サプライヤーの立場からすると、「サプライヤーファイナンス」は、「手形割引」「ファクタリング」という従来ある概念で理解することを前章で説明しました。一方で、このスキームを持ち出した花王側にはどんなメリットがあるのでしょうか? それを説明するのに、新聞記事では、「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」が持ち出されています。

一応、新聞記事にあった当該財務指標の説明記事を下記に転載します。

「製品づくりに必要な材料の購入など資金を投じてから、製品を販売して売上代金を回収するまでの日数。日数が短いほど資金効率が高いことを示す。一般に売掛金と在庫の合計金額が何日分の売上高に相当するかという回転日数を計算し、そこから買掛金の回転日数を引いて求める。日本では大手電機などが経営管理の物差しに使っている。商慣行の違いもあるが、アップルのCCCがマイナスなど欧米企業は短い。」

ここで、筆者が作図した「CCC」の計算式解説チャートを掲載します。

経営管理会計トピック_キャッシュ・コンバージョン・サイクル

企業がビジネスを行うとき、お客様から代金を頂く前に、自前で、お金を調達して原材料を買って、自前で工場労働者に給料を支払って加工し、ガソリン代を負担して販売物流網に製品を乗せてと、かなり長い期間、自分で用意したお金だけで事業を回していく必要があります。なるべく、その自前でお金を用意しておく期間を短くしよう! という管理活動がうまくいっているかを「CCC」で評価しよう、ということなのです。

ちなみに、世の中には、いろんな業態のビジネスが存在します。客の金払いがいい業種もあれば、モノ・サービスの提供準備にかなりの日数がかかる業種もあります。したがって、この新聞記事にあるように、米アップルや米P&GのCCCがかなり短い(マイナスもあり得る!)という例外にばかり目がいって、自社はだからダメなんだ、と短絡的に落ち込まないように。同業他社間でまず比較することをお勧めします。

「経理・税務 エヌ・ジェイ出版販売」のホームページより下表を転載

業界別キャッシュ・コンバージョン・サイクル

 

■ 「CCC」は設備投資資金を捻出するために

「CCC」は、社内での「売掛金」を減らす、「在庫」を減らす、「買掛金」を増やす(支払いを延長する)、という活動を通じて、「運転資金」を減らし、これからの事業拡大のための設備投資の原資を確保しようとするものです。

新聞記事でも花王の「サプライヤーファイナンス」「CCC」の取り組みの主目的は次のように説明されています。

「原材料の仕入れなどで投じた資金を、製品を売って回収するまでの日数を示すキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は、現在の60日程度から3~4年間で10~20日短縮するとみている。運転資金で年300億~400億円の余裕が出る計算になる。
 花王は2020年12月期をメドに海外売上高を全体の5割(14年12月期は約3割)に高める計画だ。昨年6月、インドネシアに第2工場を建設し、衣料用洗剤に加えて紙おむつの生産に乗り出した。今年5月には上海にも化学工場を新設し、市場の成長にあわせて生産能力を拡大している。今期の投資キャッシュフローの支出は約800億円と過去の平均の2倍に増える見通しだ。
 米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のCCCは14年6月期で10日強と、かなり短い。花王が世界市場でライバルとの戦いを有利に進めるには資金力を高める取り組みが欠かせない。」

では、運転資金がどうやって設備投資資金に振り替わっていくのか、順に説明していきたいと思います。

経営管理会計トピック_キャッシュ・コンバージョン・サイクルのねらい

(第1段階)
まず、B/Sの左側の「売掛金」と「在庫」を減らします。と同時にB/Sの右側の「買掛金」をなるべく減らさないように努力します。そうすると、これまでのビジネスを回すためにどうしても必要とされていたお金(運転資金)の必要額が減っていきます。

運転資金(↓) = 売掛金(↓) + 在庫(↓) - 買掛金(↑)

(第2段階)
運転資金が減ることは、その分のお金を金融機関や株主に返さなければ、そのビジネスに張り付いていたお金は、企業が自由に別のビジネスにも使えるお金に生まれ変われます。そういう使途が自由になったお金のことを、「手許資金(手元資金)」といいます。大概は、「現預金」の形で、会社のB/Sの左側(借方)に溜まっていきます。

(第3段階)
企業が自由に使える「手許資金(現預金)」を、新規事業に設備投資として振り分けます。設備投資はB/S上は、「固定資産」という勘定名で記載されます。この時、新たに工場を建てたり、新製品の研究開発投資をしたりするお金を、外部の金融機関や株主から新たに調達してくる必要が無くなります。自分の会社の中で節約して貯めておいた「へそくり」で賄ったということ。この「へそくり」が「手許資金」で、それは「運転資金」を節約して生み出します。

 

■ (最後に)貸借対照表(B/S)の右側の見方についておさらいです

下図はB/Sの右側(貸方)は、その企業がどこから企業活動のための資金を調達してくるか、を示したものになります。

経営管理会計トピック_資金調達元は3つ

銀行から資金を借りてくれば、「借入金」「有利子負債」と呼ばれます。株主から出資してもらえば、それは「資本金」と呼ばれます。もうひとつ、忘れてはいけないものが、「無利子負債」。それは、サプライヤーへの支払代金(買掛金)が含まれています。厳密に言えば、利息分も考慮された代金が定義されているはずなのですが、表面的には、通常の商取引では、サプライヤーとの支払いにおいて「金利」を意識することはあまりないでしょう。だから、「買掛金」は「無利子負債」。利子がつかない手段で、企業は外の関係者から資金を融通してもらっているのと同義。

大きく区分して、企業はこの3つの手段で、自社のビジネスに必要なお金を調達してきます。

ここからは余談ですが、もうひとつ「無利子負債」に入っている盲点の項目をご存知ですか? それは、「退職給付関連の積立金など」。かいつまんで説明すると、従業員が働いた分は、現金として会社側から支払われるべきですよね。でも、支払給料の一部を、退職金として退職時に一括して支払います、とすれば、その従業員が会社を退職するまでに支払いを猶予されている積立金は、会社が従業員に利息を払わずに、会社の自由にビジネスに投資しておけるということ。要は、「無利子負債」の中身には、支払いを猶予しているものが入っているということ。それが、サプライヤー相手なのか、従業員相手なのかの違いだけ。

(注:厳密には、買掛金も退職金も、お金の割引現在価値(金利)が考慮されていますが、なかなか素人には、分かりにくく制度設計がなされているわけで、、、)

これは、半分冗談なのですが、「CCC」の計算式に「従業員向けの各種支払い猶予額」も入れるべし、というのが筆者の持論なのであります!(^^;)

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花王、アジア資金効率改善 300億~400億円捻出、設備投資柔軟にhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読む花王,サプライヤーファイナンス,キャッシュ・コンバージョン・サイクル,CCC,運転資金■ 「サプライヤーファイナンス」という仕組み導入で資金調達! 花王が、膨らむアジア新興国向けの設備投資資金を調達するのに、取引先への買掛債務の支払い期限を延長することで対応する財務戦略を採用しました。この資金調達の作戦を評価する財務KPIもあり、新聞記事では「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC:Cash Conversion Cycle)」として詳細されています。 関連過去記事は次の日立の事例で: ⇒「運転資金1500億円圧縮 日立、投資余力を高める」 2015/6/4|日本経済新聞|朝刊 花王、アジア資金効率改善 300億~400億円捻出、設備投資柔軟に (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「花王はタイなど東南アジア事業の資金効率を改善させる。日用品の原材料などを仕入れる取引先への支払い条件を見直し、製品を販売して売上代金として回収するまでの期間を短縮。年間300億~400億円の運転資金を捻出する。事業が急拡大しているアジアでは今後、設備投資が膨らむのが確実だ。資金需要に柔軟に対応できる態勢をつくる。」 (新聞記事からスキームの解説図を転載) 花王が導入した「サプライヤーファイナンス」のあらましとは、記事によると、「花王が取引先に対して買掛債務の支払期限の延長を要請する。応じてくれた取引先は、保有する花王向けの売掛債権を、支払期限が来る前にシティバンクに売却できる。」とあります。 つまり、花王の取引先は、花王からの購入代金が支払われる期限が先延ばしになり、自社の資金繰りに悪影響が出るかもしれません。早く現金を手に入れたい場合は、花王に対する「売掛債権(花王に対して何日後に代金を支払ってくださいと要求する権利)」を、花王が約束する支払日が来る前にシティバンクに売却して、早いうちに現金を手に入れる、というスキームになります。 シティバンクから見ると、このスキームに参加することは、「ファクタリング:他人が有する売掛債権を買い取って、その債権の回収を行う」という「金融サービス」を提供していることになります。当然、営利活動なので、シティバンクも儲けなければならないので、サプライヤーへの現金支払額と、花王への現金請求額の「サヤ」をとることを利益とします。 (ファクタリングについてはWiKiに簡単な説明があります) つまり、サプライヤーからすれば、経済現象としては、昔からある商慣行である「手形割引」と同様であることが分かると思います。   ■ なぜここで「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」なのか? サプライヤーの立場からすると、「サプライヤーファイナンス」は、「手形割引」「ファクタリング」という従来ある概念で理解することを前章で説明しました。一方で、このスキームを持ち出した花王側にはどんなメリットがあるのでしょうか? それを説明するのに、新聞記事では、「キャッシュ・コンバージョン・サイクル」が持ち出されています。 一応、新聞記事にあった当該財務指標の説明記事を下記に転載します。 「製品づくりに必要な材料の購入など資金を投じてから、製品を販売して売上代金を回収するまでの日数。日数が短いほど資金効率が高いことを示す。一般に売掛金と在庫の合計金額が何日分の売上高に相当するかという回転日数を計算し、そこから買掛金の回転日数を引いて求める。日本では大手電機などが経営管理の物差しに使っている。商慣行の違いもあるが、アップルのCCCがマイナスなど欧米企業は短い。」 ここで、筆者が作図した「CCC」の計算式解説チャートを掲載します。 企業がビジネスを行うとき、お客様から代金を頂く前に、自前で、お金を調達して原材料を買って、自前で工場労働者に給料を支払って加工し、ガソリン代を負担して販売物流網に製品を乗せてと、かなり長い期間、自分で用意したお金だけで事業を回していく必要があります。なるべく、その自前でお金を用意しておく期間を短くしよう! という管理活動がうまくいっているかを「CCC」で評価しよう、ということなのです。 ちなみに、世の中には、いろんな業態のビジネスが存在します。客の金払いがいい業種もあれば、モノ・サービスの提供準備にかなりの日数がかかる業種もあります。したがって、この新聞記事にあるように、米アップルや米P&GのCCCがかなり短い(マイナスもあり得る!)という例外にばかり目がいって、自社はだからダメなんだ、と短絡的に落ち込まないように。同業他社間でまず比較することをお勧めします。 (「経理・税務 エヌ・ジェイ出版販売」のホームページより下表を転載)   ■ 「CCC」は設備投資資金を捻出するために 「CCC」は、社内での「売掛金」を減らす、「在庫」を減らす、「買掛金」を増やす(支払いを延長する)、という活動を通じて、「運転資金」を減らし、これからの事業拡大のための設備投資の原資を確保しようとするものです。 新聞記事でも花王の「サプライヤーファイナンス」「CCC」の取り組みの主目的は次のように説明されています。 「原材料の仕入れなどで投じた資金を、製品を売って回収するまでの日数を示すキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は、現在の60日程度から3~4年間で10~20日短縮するとみている。運転資金で年300億~400億円の余裕が出る計算になる。  花王は2020年12月期をメドに海外売上高を全体の5割(14年12月期は約3割)に高める計画だ。昨年6月、インドネシアに第2工場を建設し、衣料用洗剤に加えて紙おむつの生産に乗り出した。今年5月には上海にも化学工場を新設し、市場の成長にあわせて生産能力を拡大している。今期の投資キャッシュフローの支出は約800億円と過去の平均の2倍に増える見通しだ。  米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のCCCは14年6月期で10日強と、かなり短い。花王が世界市場でライバルとの戦いを有利に進めるには資金力を高める取り組みが欠かせない。」 では、運転資金がどうやって設備投資資金に振り替わっていくのか、順に説明していきたいと思います。 (第1段階) まず、B/Sの左側の「売掛金」と「在庫」を減らします。と同時にB/Sの右側の「買掛金」をなるべく減らさないように努力します。そうすると、これまでのビジネスを回すためにどうしても必要とされていたお金(運転資金)の必要額が減っていきます。 運転資金(↓) = 売掛金(↓) + 在庫(↓) - 買掛金(↑) (第2段階) 運転資金が減ることは、その分のお金を金融機関や株主に返さなければ、そのビジネスに張り付いていたお金は、企業が自由に別のビジネスにも使えるお金に生まれ変われます。そういう使途が自由になったお金のことを、「手許資金(手元資金)」といいます。大概は、「現預金」の形で、会社のB/Sの左側(借方)に溜まっていきます。 (第3段階) 企業が自由に使える「手許資金(現預金)」を、新規事業に設備投資として振り分けます。設備投資はB/S上は、「固定資産」という勘定名で記載されます。この時、新たに工場を建てたり、新製品の研究開発投資をしたりするお金を、外部の金融機関や株主から新たに調達してくる必要が無くなります。自分の会社の中で節約して貯めておいた「へそくり」で賄ったということ。この「へそくり」が「手許資金」で、それは「運転資金」を節約して生み出します。   ■ (最後に)貸借対照表(B/S)の右側の見方についておさらいです 下図はB/Sの右側(貸方)は、その企業がどこから企業活動のための資金を調達してくるか、を示したものになります。 銀行から資金を借りてくれば、「借入金」「有利子負債」と呼ばれます。株主から出資してもらえば、それは「資本金」と呼ばれます。もうひとつ、忘れてはいけないものが、「無利子負債」。それは、サプライヤーへの支払代金(買掛金)が含まれています。厳密に言えば、利息分も考慮された代金が定義されているはずなのですが、表面的には、通常の商取引では、サプライヤーとの支払いにおいて「金利」を意識することはあまりないでしょう。だから、「買掛金」は「無利子負債」。利子がつかない手段で、企業は外の関係者から資金を融通してもらっているのと同義。 大きく区分して、企業はこの3つの手段で、自社のビジネスに必要なお金を調達してきます。 ここからは余談ですが、もうひとつ「無利子負債」に入っている盲点の項目をご存知ですか? それは、「退職給付関連の積立金など」。かいつまんで説明すると、従業員が働いた分は、現金として会社側から支払われるべきですよね。でも、支払給料の一部を、退職金として退職時に一括して支払います、とすれば、その従業員が会社を退職するまでに支払いを猶予されている積立金は、会社が従業員に利息を払わずに、会社の自由にビジネスに投資しておけるということ。要は、「無利子負債」の中身には、支払いを猶予しているものが入っているということ。それが、サプライヤー相手なのか、従業員相手なのかの違いだけ。 (注:厳密には、買掛金も退職金も、お金の割引現在価値(金利)が考慮されていますが、なかなか素人には、分かりにくく制度設計がなされているわけで、、、) これは、半分冗談なのですが、「CCC」の計算式に「従業員向けの各種支払い猶予額」も入れるべし、というのが筆者の持論なのであります!(^^;)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します