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■ ようやく決着 仏政府とルノー 漁夫の利を得た日産!?

経営管理会計トピック

はやく投稿記事にしたくてうずうずしていた事案がようやく決着し、これで一区切りのまとめができる節目となりました。仏政府が2014年3月に、「フロランジュ法」:2年以上保有している株式の議決権を2倍にする、を制定し、時の左派政府が国内の雇用を守るために強権を発動する意を明らかにしたことが発端となり、その影響が経営不振のルノーにまで及ぶことになり、この事案が日本でも一躍脚光を浴びるようになりました。

2015/12/13付 |日本経済新聞|朝刊 日産「切り札」が威力 仏政府から譲歩勝ち取る 「会社法308条」ルノー株買い増しで議決権消す

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日産自動車と仏自動車大手ルノーは、仏政府が日産の経営に介入しないことで仏政府と合意した。8カ月にわたる対立を収束に向かわせたのは、日産が土壇場の交渉で使ったカード「会社法308条」だった。互いの議決権を無効化するという切り札で揺さぶり、仏政府の強硬姿勢を崩した。」

(日産・ルノーと仏政府の取り決め 同記事添付図表を転載)

20151213_日産・ルノーと仏政府が結んだとりきめ_日本経済新聞朝刊

こうした決着に至った経緯を以下、簡単!?にまとめました。

 

■ そもそも「フロランジュ法」とは?

以下、「投資用語集」(http://www.glossary.jp/sec/act/loi-florange.php)に記述されている説明文を要約します。

収益性の高い事業所の閉鎖の回避、フランス国内雇用を確保することを目的とし、2014年3月に成立したフランスの法律のことで、2013年に鉄鋼最大手アルセロール・ミッタル社のフランス北東部モーゼル県フロランジュ製鉄所の閉鎖が発表され、従業員の解雇問題が生じ、オランド大統領候補(当時)が大統領選キャンペーン中に対処を約束したため「フロランジュ法」と呼ばれています。

主な内容として、
①集団解雇を伴う事業所閉鎖を計画する企業は、その計画内容と売却先を検討するための方針を従業員代表及び行政監督官庁に通知し、最低3カ月間売却先を探す努力義務を課す努力義務が課される
②これを怠ったとみなされると、従業員解雇者1人につき最大で月額法定最低賃金(SMIC)の20倍(2万8907ユーロ)の罰金が、年間売上高の2%を限度として科される
③株主に長期的保有を促すことにより、企業も長期的視点に基づく経営を促すことを目的として、上場企業の株式を2年以上保有する株主に2倍の議決権を認める

上記の③につき、この条項の適用を避けるためには、株主総会で3分の2以上の株主が1株1議決権を支持することが必要になります。2015年にはフランス政府が影響力を行使して雇用の安定化を図るため、ルノーの株式の買い増しを行い、4月の株主総会で議決権倍増の1株1議決権を支持の議案を否決に追い込んだことがことの発端です。

まあ、ルノーの経営不振から、工場を海外に移転しようという動きを仏政府が牽制するところからこの問題は発生しました。

 

■ 日産、乾坤一擲の大勝負にでる!(1)

8か月ほどの攻防の後、12月に入って3者間の妥協点がようやく見えてきます。新聞報道がされ始めたということは、事態収拾に向け、最終局面に入ったことを意味します。

2015/12/1付 |日本経済新聞|朝刊 日産、仏政府に対抗策 ルノーへ出資増検討 新株発行も視野

「日産自動車は日産・仏ルノー連合への経営介入姿勢を強めている仏政府への対抗策を固めた。ルノーへの出資比率を現在の15%から25%以上に引き上げる検討に入った。実現すれば日本の会社法の規定によりルノーが持つ日産株の議決権(43.4%)がなくなり、ルノーの筆頭株主である仏政府の影響力を低下できる。」

(同記事添付のルノー・日産連合の資本関係図を転載)

20151201_ルノー・日産連合の資本関係_日本経済新聞朝刊

仏政府は、国内の雇用と税収を守るためにルノーの生産拠点の海外移転を防ぎたい。ルノーは、いまや自身より経営規模も利益額も大きい日産との連合体を壊したくない。日産は、V字回復を果たした今、ルノー(ひいてはその大株主の仏政府)からの資本的影響力を小さくしたい。ここから、日産のルノーへの出資比率を上げることで、ルノーが持つ日産株の議決権を無効化する案が出されます。この辺のルノー・日産連合の対応手段については、翌日の新聞記事でもう少し詳細が明らかになります。

「日産が仏政府の関与を弱めるには、日産の持つルノー株に議決権を付与するか、日産に対するルノーの議決権をなくすかの2通りの方法が考えられる。」

 

■ 日産、乾坤一擲の大勝負にでる!(2)

2015/12/2付 |日本経済新聞|朝刊 ルノーへの出資増を検討 日産、仏政府に対応迫る 影響力保持なら株売 買制限を破棄 11日のルノー取締役会が期限

「日産自動車が日産・仏ルノー連合に対する介入姿勢を強める仏政府への対抗策を打ち出した。1日までに仏政府に対し、ルノー株の一部売却などで日産・ルノー連合への影響力を弱めない場合、持ち合い株の売買などを制限する両社間の契約を破棄すると通知。仏政府に11日のルノー取締役会までに回答を求めたもようだ。これで日産はルノー株買い増しなどの対抗策が取れる。今後は仏政府の対応が焦点になる。」

(後に詳しく述べますが)ルノー・日産間の出資に関する特約を破棄し、資本関係のデ・ストラクションで仏政府に対応する策を2つ提示します。

(下図は、同記事添付の日産の対応シナリオを転載)

20151202_ルノー・日産連合の対応策_日本経済新聞朝刊

<シナリオ1>日産がルノー株を買い増し⇒日産への議決権消滅
「仏政府が態度を変えなかった場合、日産がルノー株を25%まで買い増し、ルノーの持つ日産株(43.4%)の議決権を消滅させる案が有力だ。日本の会社法は25%以上を出資する企業が持ち合う株式の議決権を認めていない。ルノーの日産に対する議決権が消えれば、仏政府による間接的な関与を消せる。」

<シナリオ2>日産がルノー株の出資比率下げ⇒ルノーへの議決権を取得
「ルノーの日産への出資比率を40%未満に下げ、日産が持つルノー株に議決権を付与する方法もある。仏の法律ではルノーの出資比率が40%以上だと日産が持つルノー株に議決権が生じない。出資比率引き下げには新株発行や自社株買いといった手段があるが日産としては既存株主の希薄化を考え避けたいのが本音だ。」

日仏の会社法では、相互出資形態の双方の議決権を出資比率によって縛る制約がそれぞれ存在し、これまでは規模の小さいルノーが巨体の日産を資本的に支配(言い過ぎですかね、それじゃ影響力の行使)できるスキームを維持し、オペレーション的にはほぼ一つの会社といて運営してきました。

 

■ ついにフランス政府が折れた!

仏政府がとうとうルノー・日産連合に対して、日産側の経営には介入しない旨を約束し、3者のこれまでの対立に終止符が打たれることになりました。

2015/12/12付 |日本経済新聞|朝刊 日産の経営介入せず 仏政府と合意、対立解消へ 日産、ルノー株買い増し可能

「日産自動車と筆頭株主である仏自動車大手ルノーは11日、仏政府との間で日産の経営に仏政府が介入しないことで合意したと発表した。仏政府は両社の統合を提案するなど、経営への関与を強める姿勢をみせ、両社と対立していた。仏政府が日産の経営に干渉しない方針に転換したことで、4月から続いていたルノー・日産と仏政府の対立は解消に向かう。」

事の顛末は次の通りです。

(下図は、記事添付のルノー・日産の資本関係の概略説明図を転載)

20151212_ルノー・日産の資本関係_日本経済新聞朝刊

今回の仏政府との合意内容は以下の通り。
1)日産の経営に干渉しない
2)日産の経営判断に不当な干渉を受けた場合、日産はルノーへの出資を引き上げる権利を持つ
3)ルノーと日産はそれぞれの事業の自立性を保持する
4)フロランジュ法によって仏政府がフランスでのルノーに関する戦略的決定、特別案件に対して2倍の議決権を行使できるが、その他の全ての案件では議決権が制限される

この合意形成は、日産にとって、宿願の不平等条約改正がかなった瞬間でもあります。その内容を、冒頭の12/13の記事と、上記の12日記事の解説記事で引き続き見ていきます。

 

■ ゴーン氏退任後の経営体制も視野に、不平等提携を是正

では、改めて、12日の3者合意の内容と、ルノー・日産の現況を確認します。

2015/12/12付 |日本経済新聞|朝刊 日産、ルノーと不平等提携も是正 株の売買ルール改定 「ゴーン氏退任後にらむ」

「フランス政府と仏ルノーは11日、仏政府が日産自動車の経営に介入しないことで合意した。日産はルノーとの不平等な提携関係を見直し、必要ならルノー株を買い増す権利も認めさせた。日仏自動車連合は両社の最高経営責任者(CEO)をカルロス・ゴーン氏が兼務することで成り立ってきた面が強い。日産はルノーと対等に近い関係を築き、ゴーン氏が退いた後も独立性を維持する。」

下記に、同記事添付の仏政府との合意内容を転載します。

20151212_日産・ルノーと仏政府の合意内容_日本経済新聞朝刊

ルノー出自のゴーン氏が日産のCEOを兼務し、両社はあたかも一つの会社のように運営されていますが、それがうまくいっている大きな理由の一つが、ゴーン氏のリーダーシップにあると言えます。ゴーン後の後も考え、これを嚆矢と、日産側は資本関係の平等性を取り戻さんとしました。それは、決して醜い権力闘争ではなく、経営規模に沿った、普通の企業連合になるための必要十分条件のようにも見受けられます。

「日産は経営危機に陥った1999年にルノーに出資してもらった経緯がある。現在ルノーと日産は株式を持ち合う関係にある。ただルノーの日産への出資比率が43.4%なのに対し日産のルノーへの出資は15%。しかも日産の持つルノー株には議決権がない。日産はルノーの了解なしにルノー株の売買ができないなど資本面では不平等な関係にあった。」

これを、今回のフロランジュ法騒動で、日産は次のように事態を好転させます。

「今回、ルノーはこの株式売買を制限する契約を改定することを決めた。日産は11月30日の取締役会でこの契約を破棄する意向を決めていた。日産の要求にルノーが追随した格好だ。これにより日産側は仏政府の介入で自社に不利益なことがあった場合、ルノー株を買い増す対抗策を打てる。」

「両社はようやく資本面でも対等な関係に一歩近づいた。業績や株式市場の評価でみれば力関係は今や完全に逆転している。ルノーの業績が振るわない一方で、日産は2016年3月期に純利益ベースで10年ぶりの最高益を見込む。14年度実績でみると日産の販売台数はルノーの約2倍で純利益は日産が約7割も多い。会社の価値を表す時価総額でも日産がルノーの1.6倍と差を付ける。」

(下表は、日産・ルノーの経営規模の比較表、同記事添付のものを転載)

20151212_日産・ルノーの企業規模比較_日本経済新聞朝刊

このような2社の業績格差から、下記のような不満が日産側にあったとしても、不思議なことではありません。

「こうした実態に対して資本面での不平等な関係が続いていることに、日産の社内や株主からは不満の声が出ていた。仏政府は民間企業への介入をいとわない傾向がある。過去に国内の雇用を守るため、ルノーが計画した低コストのトルコへの工場移転を中止させた。
 購買や研究開発、人事など両社の事業統合はこの1~2年で急速に進んだ。仏政府の口出しが今後も続くようだと、日産にも直接的な影響が出やすくなるという懸念が膨らみつつあった。
 これまでは両社トップを兼務するゴーン氏が仏政府と渡り合い、社内外の不協和音を抑え込んできた。いずれゴーン氏も後任に道を譲る時期も来る。日産としては仏政府が経営に介入してきた場合への対抗策を確保する必要があった。」

 

■ 災い転じて福となす! 日産の漁夫の利を見てみよう!

12月13日付の日経新聞朝刊(上載)から、日産が実際に採った手法を見てみましょう。
日産が採り得る手段は2つ、①ルノー株の買い増しで、日産への議決権を消滅させるか、②ルノー株への出資比率を下げて、ルノーへの議決権を生じさせるか、です。

「日産が政府の介入を避けるには法適用の前に対抗策を採る必要がある。契約改定や資本の見直しにかかる時間を考えれば、年内の合意はギリギリのタイミングだった。
 時間がない日産は議決権獲得をあきらめ、ルノー株を買い増して経営の独立性を守る戦略に転換した。目をつけたのが日本の会社法308条だ。議決権ベースで4分の1以上の出資を受ける企業が持ち合う出資元企業の株式に議決権を認めていない。株主間の不公平を制限するもので「25%ルール」とも呼ばれる。」

日産は、ルノー株買い増しで、日本の会社法:308条適用の道を選びました。逆に、ルノー株への出資比率下げが有効なのは、仏会社法で、日産の15%超の出資がルノーへの議決権が停止されていることによります。2国間の会社法の適用ルールを十二分に活用し、フランス政府から譲歩を勝ち取った、2社の法務担当の勝利とも言えます。
(相当、優秀な弁護士事務所を顧問としているのでしょうね。調べときます。)

この一連の騒動の副産物として、日産として嬉しいことがありました。

「308条を生かすため、日産は壁の取り除きに動いた。02年に日産とルノーとの間で結んだ株式売買の制限ルールの改定だ。両社関係者が「RAMA(ラマ)」と呼ぶ。ルノーがいつでも日産株を40%超まで買い増す権利を持つ一方、日産はルノーの事前承認無しにルノー株を売買できないという不平等な内容になっていた。
 日産の覚悟を感じとった仏政府は契約改定を容認。日産は不当な経営介入があった場合、自社の判断でルノーの株式を買い増す権利を得た。西川広人チーフ・コンペティティブ・オフィサー(CCO)は「使わなければ使わないにこしたことはない」としつつ、「何かあった場合、引き上げる可能性はある」と政府・ルノーへのけん制も忘れなかった。
 日産の関係者は今回の合意について「ようやく伝家の宝刀を手に入れた」と表現する。これまで「平等の精神」によってのみ支えられてきたルノーとの微妙なバランスにくさびを刺した。」

こうして、日産は、経営危機に陥った際にルノーに救済してもらうために約束した「RAMA」という名の不平等条約の改正に成功したわけです。仏政府が仕掛けた戦争は、結局、仏政府が最低限の目的(仏国内での雇用と生産拠点の維持)は達成され、日産も不平等条約の改正を為しとげ、ルノー1社がまるで敗者のように見えるのは、何とも皮肉な結果です。

やっとこれを投稿記事にできた安堵感と、日産の大勝利に祝杯を上げつつ、ここに今回は筆を下します。
(誰ですか? 筆者が下戸なことを知っていて、何を飲んで祝杯を上げるのかと突っ込みを入れる人は?)(^^;)




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日産「切り札」が威力 仏政府から譲歩勝ち取る 「会社法308条」ルノー株買い増しで議決権消すhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むフロランジュ法,ルノー,日産■ ようやく決着 仏政府とルノー 漁夫の利を得た日産!? はやく投稿記事にしたくてうずうずしていた事案がようやく決着し、これで一区切りのまとめができる節目となりました。仏政府が2014年3月に、「フロランジュ法」:2年以上保有している株式の議決権を2倍にする、を制定し、時の左派政府が国内の雇用を守るために強権を発動する意を明らかにしたことが発端となり、その影響が経営不振のルノーにまで及ぶことになり、この事案が日本でも一躍脚光を浴びるようになりました。 2015/12/13付 |日本経済新聞|朝刊 日産「切り札」が威力 仏政府から譲歩勝ち取る 「会社法308条」ルノー株買い増しで議決権消す (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「日産自動車と仏自動車大手ルノーは、仏政府が日産の経営に介入しないことで仏政府と合意した。8カ月にわたる対立を収束に向かわせたのは、日産が土壇場の交渉で使ったカード「会社法308条」だった。互いの議決権を無効化するという切り札で揺さぶり、仏政府の強硬姿勢を崩した。」 (日産・ルノーと仏政府の取り決め 同記事添付図表を転載) こうした決着に至った経緯を以下、簡単!?にまとめました。   ■ そもそも「フロランジュ法」とは? 以下、「投資用語集」(http://www.glossary.jp/sec/act/loi-florange.php)に記述されている説明文を要約します。 収益性の高い事業所の閉鎖の回避、フランス国内雇用を確保することを目的とし、2014年3月に成立したフランスの法律のことで、2013年に鉄鋼最大手アルセロール・ミッタル社のフランス北東部モーゼル県フロランジュ製鉄所の閉鎖が発表され、従業員の解雇問題が生じ、オランド大統領候補(当時)が大統領選キャンペーン中に対処を約束したため「フロランジュ法」と呼ばれています。 主な内容として、 ①集団解雇を伴う事業所閉鎖を計画する企業は、その計画内容と売却先を検討するための方針を従業員代表及び行政監督官庁に通知し、最低3カ月間売却先を探す努力義務を課す努力義務が課される ②これを怠ったとみなされると、従業員解雇者1人につき最大で月額法定最低賃金(SMIC)の20倍(2万8907ユーロ)の罰金が、年間売上高の2%を限度として科される ③株主に長期的保有を促すことにより、企業も長期的視点に基づく経営を促すことを目的として、上場企業の株式を2年以上保有する株主に2倍の議決権を認める 上記の③につき、この条項の適用を避けるためには、株主総会で3分の2以上の株主が1株1議決権を支持することが必要になります。2015年にはフランス政府が影響力を行使して雇用の安定化を図るため、ルノーの株式の買い増しを行い、4月の株主総会で議決権倍増の1株1議決権を支持の議案を否決に追い込んだことがことの発端です。 まあ、ルノーの経営不振から、工場を海外に移転しようという動きを仏政府が牽制するところからこの問題は発生しました。   ■ 日産、乾坤一擲の大勝負にでる!(1) 8か月ほどの攻防の後、12月に入って3者間の妥協点がようやく見えてきます。新聞報道がされ始めたということは、事態収拾に向け、最終局面に入ったことを意味します。 2015/12/1付 |日本経済新聞|朝刊 日産、仏政府に対抗策 ルノーへ出資増検討 新株発行も視野 「日産自動車は日産・仏ルノー連合への経営介入姿勢を強めている仏政府への対抗策を固めた。ルノーへの出資比率を現在の15%から25%以上に引き上げる検討に入った。実現すれば日本の会社法の規定によりルノーが持つ日産株の議決権(43.4%)がなくなり、ルノーの筆頭株主である仏政府の影響力を低下できる。」 (同記事添付のルノー・日産連合の資本関係図を転載) 仏政府は、国内の雇用と税収を守るためにルノーの生産拠点の海外移転を防ぎたい。ルノーは、いまや自身より経営規模も利益額も大きい日産との連合体を壊したくない。日産は、V字回復を果たした今、ルノー(ひいてはその大株主の仏政府)からの資本的影響力を小さくしたい。ここから、日産のルノーへの出資比率を上げることで、ルノーが持つ日産株の議決権を無効化する案が出されます。この辺のルノー・日産連合の対応手段については、翌日の新聞記事でもう少し詳細が明らかになります。 「日産が仏政府の関与を弱めるには、日産の持つルノー株に議決権を付与するか、日産に対するルノーの議決権をなくすかの2通りの方法が考えられる。」   ■ 日産、乾坤一擲の大勝負にでる!(2) 2015/12/2付 |日本経済新聞|朝刊 ルノーへの出資増を検討 日産、仏政府に対応迫る 影響力保持なら株売 買制限を破棄 11日のルノー取締役会が期限 「日産自動車が日産・仏ルノー連合に対する介入姿勢を強める仏政府への対抗策を打ち出した。1日までに仏政府に対し、ルノー株の一部売却などで日産・ルノー連合への影響力を弱めない場合、持ち合い株の売買などを制限する両社間の契約を破棄すると通知。仏政府に11日のルノー取締役会までに回答を求めたもようだ。これで日産はルノー株買い増しなどの対抗策が取れる。今後は仏政府の対応が焦点になる。」 (後に詳しく述べますが)ルノー・日産間の出資に関する特約を破棄し、資本関係のデ・ストラクションで仏政府に対応する策を2つ提示します。 (下図は、同記事添付の日産の対応シナリオを転載) <シナリオ1>日産がルノー株を買い増し⇒日産への議決権消滅 「仏政府が態度を変えなかった場合、日産がルノー株を25%まで買い増し、ルノーの持つ日産株(43.4%)の議決権を消滅させる案が有力だ。日本の会社法は25%以上を出資する企業が持ち合う株式の議決権を認めていない。ルノーの日産に対する議決権が消えれば、仏政府による間接的な関与を消せる。」 <シナリオ2>日産がルノー株の出資比率下げ⇒ルノーへの議決権を取得 「ルノーの日産への出資比率を40%未満に下げ、日産が持つルノー株に議決権を付与する方法もある。仏の法律ではルノーの出資比率が40%以上だと日産が持つルノー株に議決権が生じない。出資比率引き下げには新株発行や自社株買いといった手段があるが日産としては既存株主の希薄化を考え避けたいのが本音だ。」 日仏の会社法では、相互出資形態の双方の議決権を出資比率によって縛る制約がそれぞれ存在し、これまでは規模の小さいルノーが巨体の日産を資本的に支配(言い過ぎですかね、それじゃ影響力の行使)できるスキームを維持し、オペレーション的にはほぼ一つの会社といて運営してきました。   ■ ついにフランス政府が折れた! 仏政府がとうとうルノー・日産連合に対して、日産側の経営には介入しない旨を約束し、3者のこれまでの対立に終止符が打たれることになりました。 2015/12/12付 |日本経済新聞|朝刊 日産の経営介入せず 仏政府と合意、対立解消へ 日産、ルノー株買い増し可能 「日産自動車と筆頭株主である仏自動車大手ルノーは11日、仏政府との間で日産の経営に仏政府が介入しないことで合意したと発表した。仏政府は両社の統合を提案するなど、経営への関与を強める姿勢をみせ、両社と対立していた。仏政府が日産の経営に干渉しない方針に転換したことで、4月から続いていたルノー・日産と仏政府の対立は解消に向かう。」 事の顛末は次の通りです。 (下図は、記事添付のルノー・日産の資本関係の概略説明図を転載) 今回の仏政府との合意内容は以下の通り。 1)日産の経営に干渉しない 2)日産の経営判断に不当な干渉を受けた場合、日産はルノーへの出資を引き上げる権利を持つ 3)ルノーと日産はそれぞれの事業の自立性を保持する 4)フロランジュ法によって仏政府がフランスでのルノーに関する戦略的決定、特別案件に対して2倍の議決権を行使できるが、その他の全ての案件では議決権が制限される この合意形成は、日産にとって、宿願の不平等条約改正がかなった瞬間でもあります。その内容を、冒頭の12/13の記事と、上記の12日記事の解説記事で引き続き見ていきます。   ■ ゴーン氏退任後の経営体制も視野に、不平等提携を是正 では、改めて、12日の3者合意の内容と、ルノー・日産の現況を確認します。 2015/12/12付 |日本経済新聞|朝刊 日産、ルノーと不平等提携も是正 株の売買ルール改定 「ゴーン氏退任後にらむ」 「フランス政府と仏ルノーは11日、仏政府が日産自動車の経営に介入しないことで合意した。日産はルノーとの不平等な提携関係を見直し、必要ならルノー株を買い増す権利も認めさせた。日仏自動車連合は両社の最高経営責任者(CEO)をカルロス・ゴーン氏が兼務することで成り立ってきた面が強い。日産はルノーと対等に近い関係を築き、ゴーン氏が退いた後も独立性を維持する。」 下記に、同記事添付の仏政府との合意内容を転載します。 ルノー出自のゴーン氏が日産のCEOを兼務し、両社はあたかも一つの会社のように運営されていますが、それがうまくいっている大きな理由の一つが、ゴーン氏のリーダーシップにあると言えます。ゴーン後の後も考え、これを嚆矢と、日産側は資本関係の平等性を取り戻さんとしました。それは、決して醜い権力闘争ではなく、経営規模に沿った、普通の企業連合になるための必要十分条件のようにも見受けられます。 「日産は経営危機に陥った1999年にルノーに出資してもらった経緯がある。現在ルノーと日産は株式を持ち合う関係にある。ただルノーの日産への出資比率が43.4%なのに対し日産のルノーへの出資は15%。しかも日産の持つルノー株には議決権がない。日産はルノーの了解なしにルノー株の売買ができないなど資本面では不平等な関係にあった。」 これを、今回のフロランジュ法騒動で、日産は次のように事態を好転させます。 「今回、ルノーはこの株式売買を制限する契約を改定することを決めた。日産は11月30日の取締役会でこの契約を破棄する意向を決めていた。日産の要求にルノーが追随した格好だ。これにより日産側は仏政府の介入で自社に不利益なことがあった場合、ルノー株を買い増す対抗策を打てる。」 「両社はようやく資本面でも対等な関係に一歩近づいた。業績や株式市場の評価でみれば力関係は今や完全に逆転している。ルノーの業績が振るわない一方で、日産は2016年3月期に純利益ベースで10年ぶりの最高益を見込む。14年度実績でみると日産の販売台数はルノーの約2倍で純利益は日産が約7割も多い。会社の価値を表す時価総額でも日産がルノーの1.6倍と差を付ける。」 (下表は、日産・ルノーの経営規模の比較表、同記事添付のものを転載) このような2社の業績格差から、下記のような不満が日産側にあったとしても、不思議なことではありません。 「こうした実態に対して資本面での不平等な関係が続いていることに、日産の社内や株主からは不満の声が出ていた。仏政府は民間企業への介入をいとわない傾向がある。過去に国内の雇用を守るため、ルノーが計画した低コストのトルコへの工場移転を中止させた。  購買や研究開発、人事など両社の事業統合はこの1~2年で急速に進んだ。仏政府の口出しが今後も続くようだと、日産にも直接的な影響が出やすくなるという懸念が膨らみつつあった。  これまでは両社トップを兼務するゴーン氏が仏政府と渡り合い、社内外の不協和音を抑え込んできた。いずれゴーン氏も後任に道を譲る時期も来る。日産としては仏政府が経営に介入してきた場合への対抗策を確保する必要があった。」   ■ 災い転じて福となす! 日産の漁夫の利を見てみよう! 12月13日付の日経新聞朝刊(上載)から、日産が実際に採った手法を見てみましょう。 日産が採り得る手段は2つ、①ルノー株の買い増しで、日産への議決権を消滅させるか、②ルノー株への出資比率を下げて、ルノーへの議決権を生じさせるか、です。 「日産が政府の介入を避けるには法適用の前に対抗策を採る必要がある。契約改定や資本の見直しにかかる時間を考えれば、年内の合意はギリギリのタイミングだった。  時間がない日産は議決権獲得をあきらめ、ルノー株を買い増して経営の独立性を守る戦略に転換した。目をつけたのが日本の会社法308条だ。議決権ベースで4分の1以上の出資を受ける企業が持ち合う出資元企業の株式に議決権を認めていない。株主間の不公平を制限するもので「25%ルール」とも呼ばれる。」 日産は、ルノー株買い増しで、日本の会社法:308条適用の道を選びました。逆に、ルノー株への出資比率下げが有効なのは、仏会社法で、日産の15%超の出資がルノーへの議決権が停止されていることによります。2国間の会社法の適用ルールを十二分に活用し、フランス政府から譲歩を勝ち取った、2社の法務担当の勝利とも言えます。 (相当、優秀な弁護士事務所を顧問としているのでしょうね。調べときます。) この一連の騒動の副産物として、日産として嬉しいことがありました。 「308条を生かすため、日産は壁の取り除きに動いた。02年に日産とルノーとの間で結んだ株式売買の制限ルールの改定だ。両社関係者が「RAMA(ラマ)」と呼ぶ。ルノーがいつでも日産株を40%超まで買い増す権利を持つ一方、日産はルノーの事前承認無しにルノー株を売買できないという不平等な内容になっていた。  日産の覚悟を感じとった仏政府は契約改定を容認。日産は不当な経営介入があった場合、自社の判断でルノーの株式を買い増す権利を得た。西川広人チーフ・コンペティティブ・オフィサー(CCO)は「使わなければ使わないにこしたことはない」としつつ、「何かあった場合、引き上げる可能性はある」と政府・ルノーへのけん制も忘れなかった。  日産の関係者は今回の合意について「ようやく伝家の宝刀を手に入れた」と表現する。これまで「平等の精神」によってのみ支えられてきたルノーとの微妙なバランスにくさびを刺した。」 こうして、日産は、経営危機に陥った際にルノーに救済してもらうために約束した「RAMA」という名の不平等条約の改正に成功したわけです。仏政府が仕掛けた戦争は、結局、仏政府が最低限の目的(仏国内での雇用と生産拠点の維持)は達成され、日産も不平等条約の改正を為しとげ、ルノー1社がまるで敗者のように見えるのは、何とも皮肉な結果です。 やっとこれを投稿記事にできた安堵感と、日産の大勝利に祝杯を上げつつ、ここに今回は筆を下します。 (誰ですか? 筆者が下戸なことを知っていて、何を飲んで祝杯を上げるのかと突っ込みを入れる人は?)(^^;)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します