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■ 「悪い組織変更」と「良い組織変更」の違いは何か?

経営管理(基礎編)

前回は、「組織管理(2)- 組織デザインパターンの応用形 「機能別組織」と「事業部制組織」の間には」と題して、「プロダクトマネージャー制」「ライン&スタッフ組織」など、分業と調整のデザインパターンの応用形について整理しました。今回は、実際の事例に当てはめて、その教科書的な類型と視座が実務でどう捉えられているかについて考察していきたいと思います。

のっけから、「組織変更に『悪い』『良い』があるのか?」と問いかけさせていただきましたが、自動車産業が歴史的に「機能別組織」中心であるから、これを「事業部制」にすると『悪い』組織変更だ、とか、組織形態だけにこだわって良し悪しを判断するつもりは毛頭ありません。ただ、著名な研究者、実務家の言葉の整理から入らねばならないでしょう。

組織デザイン (日経文庫)

■ 「組織は戦略に従うのか」それとも「戦略は組織に従うのか」?

この有名な言説に対する解説を避けて、「組織デザイン」を語ることができないでしょう。

●「組織は戦略に従う」
・アルフレッド・チャンドラー
・『組織は戦略に従う(Strategy and Structure )』(1962年)

組織は戦略に従う

チャンドラーの本意とは違ってこのフレーズだけが独り歩きしました。彼の本意とは、当時、「集権的機能別組織」から「事業部制組織」に転換して大いに成功していた、デュポン、GM、スタンダード石油ニュージャージー(現エクソンモービル)、シアーズ・ローバックの分析から、
① 事業多角化を推し進めるには事業部制に転換すべき
② 事業戦略と組織戦略は相互に深くかかわる(どっちが先とは言っていない)
③ 組織は変わりにくいので、事業戦略が先行することが多い
という結論を得るに至りました。

 

●「戦略は組織に従う」
・イゴール・アンゾフ
・『戦略経営論(Strategic Management)』(1979年)

< 新装版>アンゾフ戦略経営論〔新訳〕

アンゾフはかの「アンゾフマトリックス」で有名な経営学者です。彼の本意も間違って理解され、「現有の組織能力によって策定・実現される戦略の枠が限定されてしまう」との解釈が主流になっています。
① 意思決定の対象は、戦略(Strategy)、組織(Structure)、システム(System)の3S
② 戦略とは現状(As-Is)と将来(To-Be)のギャップを埋めるものである
③ 外部環境の「乱気流度合い」に合わせて、戦略や組織は「同じレベル」で変わるべし

いずれの経営学の大家も、「戦略」が先か、「組織」が先か、そんな決定論的なことは一切語っていないわけです。キャッチコピー学習の悪弊ですね! 先人たちからの教えとして、「戦略実現の実行可能性のために、組織能力(採り得る組織形態含む)の限界を知るとともに、現行組織能力の範囲内で実行可能な戦略を策定する必要がある」という相互関連重視論としか、いいようがありませんね。

変革とパラドックスの組織論

■ 伝説の起業家が組織デザインを語る!

実務家、ベン・ホロウィッツ(ネットスケープ、オプスウェアの元経営者、現ベンチャーキャピタリスト)著の『ハード・シングス(HARD THINGS)』(2015年)で、「組織デザイン」について、こう語っています。

HARD THINGS

「組織デザインで第一に覚えておくべきルールは、すべての組織デザインは悪いということだ。あらゆる組織デザインは、会社のある部分のコミュニケーションを犠牲にすることによって、他部分のコミュニケーションを改善する」

筆者が言いたかったことはまさしくこれ。「分業」と「調整」のバランスをとる、ということは、組織にとって一番効果的な部分に密接な意思疎通パスを作ること。そのパスがうまく機能するほど、その影が強くなり、その他のパスは全く機能しなくなる。しかし、そこは「分業」のメリットが最大限発揮されている箇所にしなければならないということ。

ホロウイッツの組織デザインのコツを以下に紹介します。

① どの部分に最も強いコミュニケーションが必要か
② どんな意思決定が必要か
③ 最も重要度の高い意思決定とコミュニケーションの経路を優先する
④ それぞれの部門を誰が管理するかを決める
⑤ 優先しなかったコミュニケーション経路を認識する
⑥ 或るコミュニケーション経路を優先しなかったことから生じる問題を最小限とするように手を打つ

さあ、次回は最近組織変更を新聞発表した企業の組織デザインの要諦はどうなっているのかを確認してみたいと思います。 チャンドラー、アンゾフ、ホロウイッツからの箴言は活かされているでしょうか?

経営管理(基礎編)_組織管理(3)- 組織デザインのための理論 「組織は戦略に従う」のか「戦略は組織に従う」のか?

組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)

すべての組織は変えられる (PHPビジネス新書)

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組織管理(3)- 組織デザインのための理論 「組織は戦略に従う」のか「戦略は組織に従う」のか?http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-e1428166901472.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-150x150.jpg小林 友昭経営管理(基礎編)3S,アンゾフ,チャンドラー,ホロウイッツ,戦略は組織に従う,組織は戦略に従う,組織デザイン,組織管理■ 「悪い組織変更」と「良い組織変更」の違いは何か? 前回は、「組織管理(2)- 組織デザインパターンの応用形 「機能別組織」と「事業部制組織」の間には」と題して、「プロダクトマネージャー制」「ライン&スタッフ組織」など、分業と調整のデザインパターンの応用形について整理しました。今回は、実際の事例に当てはめて、その教科書的な類型と視座が実務でどう捉えられているかについて考察していきたいと思います。 のっけから、「組織変更に『悪い』『良い』があるのか?」と問いかけさせていただきましたが、自動車産業が歴史的に「機能別組織」中心であるから、これを「事業部制」にすると『悪い』組織変更だ、とか、組織形態だけにこだわって良し悪しを判断するつもりは毛頭ありません。ただ、著名な研究者、実務家の言葉の整理から入らねばならないでしょう。 組織デザイン (日経文庫) ■ 「組織は戦略に従うのか」それとも「戦略は組織に従うのか」? この有名な言説に対する解説を避けて、「組織デザイン」を語ることができないでしょう。 ●「組織は戦略に従う」 ・アルフレッド・チャンドラー ・『組織は戦略に従う(Strategy and Structure )』(1962年) 組織は戦略に従う チャンドラーの本意とは違ってこのフレーズだけが独り歩きしました。彼の本意とは、当時、「集権的機能別組織」から「事業部制組織」に転換して大いに成功していた、デュポン、GM、スタンダード石油ニュージャージー(現エクソンモービル)、シアーズ・ローバックの分析から、 ① 事業多角化を推し進めるには事業部制に転換すべき ② 事業戦略と組織戦略は相互に深くかかわる(どっちが先とは言っていない) ③ 組織は変わりにくいので、事業戦略が先行することが多い という結論を得るに至りました。   ●「戦略は組織に従う」 ・イゴール・アンゾフ ・『戦略経営論(Strategic Management)』(1979年) < 新装版>アンゾフ戦略経営論〔新訳〕 アンゾフはかの「アンゾフマトリックス」で有名な経営学者です。彼の本意も間違って理解され、「現有の組織能力によって策定・実現される戦略の枠が限定されてしまう」との解釈が主流になっています。 ① 意思決定の対象は、戦略(Strategy)、組織(Structure)、システム(System)の3S ② 戦略とは現状(As-Is)と将来(To-Be)のギャップを埋めるものである ③ 外部環境の「乱気流度合い」に合わせて、戦略や組織は「同じレベル」で変わるべし いずれの経営学の大家も、「戦略」が先か、「組織」が先か、そんな決定論的なことは一切語っていないわけです。キャッチコピー学習の悪弊ですね! 先人たちからの教えとして、「戦略実現の実行可能性のために、組織能力(採り得る組織形態含む)の限界を知るとともに、現行組織能力の範囲内で実行可能な戦略を策定する必要がある」という相互関連重視論としか、いいようがありませんね。 変革とパラドックスの組織論 ■ 伝説の起業家が組織デザインを語る! 実務家、ベン・ホロウィッツ(ネットスケープ、オプスウェアの元経営者、現ベンチャーキャピタリスト)著の『ハード・シングス(HARD THINGS)』(2015年)で、「組織デザイン」について、こう語っています。 HARD THINGS 「組織デザインで第一に覚えておくべきルールは、すべての組織デザインは悪いということだ。あらゆる組織デザインは、会社のある部分のコミュニケーションを犠牲にすることによって、他部分のコミュニケーションを改善する」 筆者が言いたかったことはまさしくこれ。「分業」と「調整」のバランスをとる、ということは、組織にとって一番効果的な部分に密接な意思疎通パスを作ること。そのパスがうまく機能するほど、その影が強くなり、その他のパスは全く機能しなくなる。しかし、そこは「分業」のメリットが最大限発揮されている箇所にしなければならないということ。 ホロウイッツの組織デザインのコツを以下に紹介します。 ① どの部分に最も強いコミュニケーションが必要か ② どんな意思決定が必要か ③ 最も重要度の高い意思決定とコミュニケーションの経路を優先する ④ それぞれの部門を誰が管理するかを決める ⑤ 優先しなかったコミュニケーション経路を認識する ⑥ 或るコミュニケーション経路を優先しなかったことから生じる問題を最小限とするように手を打つ さあ、次回は最近組織変更を新聞発表した企業の組織デザインの要諦はどうなっているのかを確認してみたいと思います。 チャンドラー、アンゾフ、ホロウイッツからの箴言は活かされているでしょうか? 組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書) すべての組織は変えられる (PHPビジネス新書)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します