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インプットの標準化 調整コストを節約して分業による生産性向上のメリットを得る

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企業における標準化の対象

一般的な企業は、複数の人格を持った人間が集い、お互いに調整をしながら、「分業」を前提に仕事が進められます。仕事の結果が財・サービスを市場に提供することを可能にし、対価として報酬を得ることができます。

たとえ、ビジネス主体が個人事業主だったとしても、エージェント(代理人とか代理店、元請会社など)を通じた営業や、サプライヤーからの仕入れや、納品代行の作業を依存していることも考慮すれば、仕事をする上で、誰かと分業することを考えることを全く排除することは難しいでしょう。

分業は、アダム-スミスが「国富論」(1776)で言及し、我々に利益をもたらせてくれるものとして有名です。一方で、分業は、誰かとの調整を必要とするため、何らかの「標準化」をしないと、お互いの意思疎通を有効に働かせることができません。

世の中にある仕事は、多種多様で一概にその特徴を言い表すことは大変難しいのですが、ここは議論の単純化のために、インプット→プロセス→アウトプットの3つの組み合わせから成り立っていると仮定しましょう。

それゆえ、分業のメリットを享受するために、誰かと仕事を調整する必要がある要素も、

① インプット
② プロセス
③ アウトプット

の3つに分類することができるのでした。

プロセスとは


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インプットを標準化する対象

インプットとは、そもそも、経営活動に投入されるべき経営資源を意味しますから、古くは経済学の定義を引用しますと、土地、労働、資本、ということになります。土地の標準化は想像がつかないし、実は土地の標準化からは大した分業のためのメリットは享受することはすでに分かっていることなので、ここでは後2者の標準化を見ていくことにしましょう。

労働、すなわち人(ヒト)については、類似の思考方法や行動様式を身に着けたもの同士が協働すると、相手がどういうバックグランドを持った人間で、ああ言えばこう返事が返ってくるだろう、という予想可能性が随分と高くなるので、お互いの仕事の調整を効率的に進めることができます。

資本、これは工作機械などをイメージして頂ければよいと思うのですが、あらかじめパラメータを設定しておけば、手作業に比べると一段と安定的な品質で、時間当たりの産出されるアウトプットの数量も確実性が高いことが予想されます。よって、工作機械が毎分XX個の中間部品を加工してくれることが予期できるので、そのペースに合わせて、後工程の手作業に係る人員の配置(人数と熟練度)を適切に配置することが可能になるでしょう。

標準機械を活用することの効用とは

一般的に、世の中で標準化されている機械を社内に導入する際には、その機械の潜在能力を100%出し切るために、その機械の操作に習熟したオペレータを雇用することとワンセットになります。

仮に、完全コンピュータ制御でオペレーションにも操業監視にも人手が不要だとしても、そもそもの制御プログラミングを設定する人、法令でヒトによる目視監視や定点チェックが義務付けされている場合もありますので、やはり熟練した専門家(または熟練工)を必要とすると言えましょう。

こうした世の中の標準スペックに適合した機械を導入することは、次のメリットをもたらせてくれる可能性が高いと考えられています。

  1. 標準機械はスペックが決まっているので大量生産による販売価格が相対的に安くなる
  2.  操作方法が決まっているので、オペレータを社内外から探し出す・トレーニングするコストが比較的安く済む
  3. 標準機械を用いて製造した工業製品は規格品を算出することに優位であることが多く、自社以外の企業と仕入・販売する際のスペック合わせが容易になる

このように、社外標準機器の使用や社外標準職種要員の採用は、自社に取引コストの低減をもたらせてくれます。しかしその一方で、自社固有の強み(他社にはない品質やスペックの特異性)が競争優位の源泉であるとしたら、このような標準機械の導入は差別化戦略にはそぐわないこともあり得るという注意点は忘れないようにするのがよいでしょう。

労働力の標準化

機械より人間の方が多様性に富んでおり、仕事に必須のスキルや経験だけではなく、人格や性格などの要因も生産性に大きく影響するので、労働力の標準化は留意すべき点がより多くなる傾向にあります。

労働力の標準化の必要性は、以下がとても参考になります。

標準化されたプログラムをもっていても作業員そのものが不確実な行動をとれば統合されたアウトプットを生み出せない。同様に目標やスペック等を標準化しても、従業員が自分たちのとるべき方法を熟慮するスキルが低ければ組織全体の行動はうまく調整できない。それ故、組織メンバーのスキルや行動がそもそも組織にとっての不確実性の源泉であるような場合には、労働力を標準化することで、その他の標準化を補完することができる

(沼上幹著「組織デザイン」日経文庫P111-112)

では、労働力の標準化にはどのような方法があるのでしょうか。

  1. 広く社会一般で使われている標準を採用する
  2. 自社固有の標準を作る

1)には、市場における競争や広く採用された「結果として事実上標準化した基準」としてのデファクトスタンダードや、国際標準化機関等により定められた標準としてのデジュリスタンダードの双方を含みます。2)は自社の独自規格・独自作業標準を意味しています。どちらにも一長一短があり、自社の経営スタイルやビジネスモデル、要求される作業内容によってどちらかを選択適用することが求められます。

プロフェッショナルの外部雇用について

下表は、分業の程度を垂直面と水平面とで切り分けた場合の職種区分になります。

職務区分

ここで課題となるのが、高度に専門化されていて、大きな裁量権が与えられる職務にあたる人材(人財)をどのように調達するかの方法です。外部市場に求めれば、プロフェッショナルとなり、内部市場(企業内で調達)に求めれば、熟練工という風にシンプルに対比させて考えることにします。

外部からプロフェッショナルを採用してくる場合、弁護士、会計士、医師、教員、学位や資格(化学の博士、MBA、産業カウンセラー等)などの外的共通の資格制度でその専門性が保証されています。当然、弁護士を雇って法務を担当してもらうのは雇用目的から当たり前となり、むしろ、社内ロイヤーにその職務に空きがあるのに、わざわざ機械のメンテナンスの任務を与えるのは経済合理性に欠ける判断と言わざるを得ません。

このように、プロフェッショナルの外部からの雇用については、その経済合理性を十二分に発揮させるために、どういった職務に充てるかが明確になっている利点があります。そして、その任務にいったん就いたなら、そのプロフェッショナルの仕事ぶりについて、経営者側が細やかに指導・監督する必要はないのが普通です。彼らは自分が何をするべきか明白ですし、自分の職務に必要な調整は自分で勝手に進めてくれるのが常です。

しかし、プロフェッショナルの雇用に当然ながらデメリットも存在することを忘れてはいけません。第一に、プロフェショナルは人件費が高くつきます。すでに、社外で十分な専門家としての訓練に多大なるコストをかけて実施しているこその専門家なわけで、そのアウトプットを享受しようとするなら、従前の訓練コスト分も負担する覚悟が必要になります。

第二に、プロフェッショナルの雇用は、その専門領域とそれ以外の領域とのコミュニケーションの阻害要因になる恐れがあります。あくまで極論としての大胆な例ということを前提にさせて頂くと、大掛かりの外科手術はその道のスペシャリストである外科医にお任せすることで、術前の準備から術後の経過観察まで安心してお任せすることができます。

しかしながら、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL:quality of life)の向上や、近親者などとの社会的交流を改善するとか、もしもの場合の相続者の地位保全などに配慮するなど、専門外の領域の担当者との調整・分業はもしかすると不得手かもしれません。

社内教育の充実による従業員の専門家育成について

それにより、プロフェッショナルの雇用より、社内で再教育することで内部専門家、熟練工を増やす手段にも魅力があることも見逃してはいけません。専門性を越えるプロフェッショナルの調整下手は、そのまま組織の統合や効率的な分業にマイナスとなりかねないからです。

組織内の文化(ミッションや価値観を含む)を十分に理解し、組織の存在意義と活動目的にコミットしてもらうために、ある程度、その組織内で行われるコミュニケーションに不自由しない程度の調整能力を養っておく必要があります。社内で交わされる会話に含まれるコンテキストを理解することは組織運営上欠くべからざる能力ともいえます。

「この議題は重要なのでもう一回、来週の会議で検討しよう」という発話は、「この議題はあまりいけてないが、発言者の立場を忖度して婉曲的に延期を申し出ることで事実上の却下をする」というケースもありますし、「この議題は文字通り重要なので、慎重にかつ積極的に再検討してもっと良い提案にするべき」という受け止め方をするケースもあり得るからです。それを決めるのは、社内文化や従業員の間で暗黙のうちに決められているコンテキスト次第です。

社内育成で熟練工を増やすことのメリットは一般的には次のように考えられています。

  1. 自分が属する組織への理解と貢献を最優先とした要員を十分な数だけ揃えることができる
  2. 自社独特のやり方そのものが競争優位である場合、そもそも社外のプロフェッショナルにはその専門的な仕事を遂行する能力がない
  3. 社内のシニア社員からジュニア社員に訓練を施す行為自体が、組織としての一体感を醸成し、連帯・紐帯・絆(きずな)を強めることになる
  4. 通常、社内訓練には長い期間が必要であり、技能の習得とそれを早期に発揮してもらうこと、後進の育成と、長期的雇用慣行の中で、成果が出しやすくなるとともに人材流出を防ぐ意味もある

つまり、「暗黙知」が重宝される組織やビジネスモデルでは、社内育成の方がおススメというわけです。

読者の方にはご存知の方もいらっしゃると思いますが、経営コンサルタントはどちらかというと外部から雇用されるプロフェッショナルという位置づけがなされるでしょう。しかし、後進という若手コンサルタントを育成するのは同じファーム内のシニアのコンサルタントの役目になります。転職回数が多いコンサルタント業界が、同時に後進の育成も手掛けている事実。これは例外であり、観察・研究に値する業界だと思っているのは筆者だけでしょうか。^^;)

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(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

インプットの標準化 - 調整コストを節約して分業による生産性向上のメリットを得る方法

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