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■ 企業組織再編税制の改正でスピンアウトでも課税繰延べが認められた件について

経営管理会計トピック

「事業分離等に関する会計基準」が2005年に設定、2013年に改訂され、会社分割や営業譲渡に関する会計基準はグローバル並みに整備されました。税制は、2001年に「企業組織再編税制」が導入され、適格組織再編成とみなされれば、分離・再編に伴う資産移転にかかる譲渡益に対する課税の繰延べが認められていました。今回は、従来の適格組織再編とは認められずに、課税対象になっていた取引についても、課税繰延べが認められる方向に、税法が改正されることになったというお話の後編です。

2017/2/4付 |日本経済新聞|朝刊 事業分離新税制で負担減 経営効率化に弾み 再編の選択肢広がる

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東芝のように追い込まれてリストラする企業が減るのでは。株式市場でそんな期待を集める制度が4月に導入される。企業が事業を新会社として切り出す際に税金がかからなくなる「スピンオフ税制」だ。大企業の新陳代謝を促して長期的な収益拡大につながるとの見方もある。」

(下記は同記事添付の「スピンオフ税制の仕組み」を引用)

20170204_スピンオフ税制の仕組み_日本経済新聞朝刊

従来の税制は、現時点の財務省のホームページに紹介されていますので、まずそちらの確認から。

組織再編税制の概要 : 財務省より

20170220_組織再編税制の概要

超概要モードで解説すると、組織再編で分割や分社をしても、株式所有など、何らかの事業の継続の証拠が外見上、認められれば、譲渡益に対する課税を繰り延べてあげます(その組織再編時に税金を支払う必要はない)、ということです。さらに、その会社の株主については、株式の譲渡益に対するみなし配当課税を適用しない措置がとられます。

 

■ 従来の適格組織再編成の要件とは?

さらに、財務省の解説文をチャート化してできるだけ分かりやすくしたものを、伊藤邦雄氏著「新・現代会計入門(第2版)」P575、図表13-13を元に加工したものを下記に記載します。

経営管理会計トピック_適格組織再編の要件

まず、そもそもなのですが、下記「組織再編の類型」による企業組織再編において、新会社に資産を移転させた場合でも、それが「適格組織再編成」とみなされれば、その資産譲渡にかかる課税の繰り延べが認められることになりました。

◆組織再編の類型
・合併
・分割
・現物出資
・現物配当
・株式交換
・株式移転

「適格組織再編成」に該当するには、次のいずれかを満たすこと。
① 完全支配関係
② 支配関係
③ 共同事業

分かりにくいのが最後の「事業規模要件」。

(法人税法施行令第4条の3第4項第2号)
スピンアウトする事業と分割元企業の間の以下の項目がおおむね5倍を超えないこと。
① 売上金額
② 従業者の数
③ 資本金(出資金)
④ これらに準ずる項目

さらに、「これらに準ずるもの」とは何か?
① 金融機関における預金量
信用保証会社における「保証債務残高」
等の例示列挙がありました。
事業規模要件における「これらに準ずるもの」

 

■ 今回の画期的なポイントとは?

厳格に「適格組織再編成」の要件が適用されていた歯止めがなくなり、完全に資本系列外に飛び出させる分割に対しても、平たく言うと、無税になるということです。今回の税制改正の効用と目的は、日本企業にもっと資本系列外への事業分割を促進させて、事業の集中と選択を促し、それぞれの事業の競争優位性を高めることを狙いとしています。

同記事より。
「多角化した日本企業は税制の壁でスピンオフをためらい、それが低収益の一因になっている。そんな問題意識で見直しを主導したのが経済産業省だ。安永崇伸・産業組織課長は、「新陳代謝を進める場合、これまでは第三者への売却が中心だった。売却先が同業のライバル企業になりかねず、経営陣の判断を遅らせていた」と指摘する。」

欧米では、コングロマリットを解体して事業ポートフォリオの再構築に取り組む際に、分社化を図る事例が1990年代以降増加しています。

例)
● AT&T
通信機器事業をルーセント・テクノロジーズとして分離

● ヒューレッド・パッカード
計測機器部門をアジレント・テクノロジーとして分離

日本では、2002年に中外製薬がロシュグループ入りしたことに伴い、米国子会社を分離独立させた際、約350億円の税負担になったこと以来、日本企業でめぼしいスピンオフ案件はありませんでした。体力があるうちに事業を切り出し、その後の再編がやりやすくなれば、各分野で事業再編が活発になり、M&A(再編)のディールも切り出す方にも有利な価格が提示され、得られた対価を別事業への投資に回す余裕さえ生じる効果が期待されます。

著しい無関連多角化によるコングロマリット・ディスカウントにより、株価が低迷していた企業の経営者は、4月以降については、事業ポートフォリオ見直しが後手に回るのを、税制を理由に言い訳することができなくなります。新年度からの事業再編ニュースが増えるかもしれません。

(下記は、同記事添付の「事業が広範でPBRの低い主な企業」を引用)

20170204_事業が広範でPBRの低い主な企業_日本経済新聞朝刊

本記事ではお節介にも、低PBRでかつ、事業セグメント数の比較的多い大企業をリストアップしています。この中から、事業再編のニュースが発表される日は来るでしょうか?

⇒「事業分離新税制で負担減 経営効率化に弾み 再編の選択肢広がる (前編)事業分離会計処理を概観する!

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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事業分離新税制で負担減 経営効率化に弾み 再編の選択肢広がる (後編)スピンアウト税制改正に斬り込む!http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭実務で会計ルールをおさらいPBR,事業ポートフォリオ,コングロマリット・ディスカウント,事業分離等に関する会計基準,企業組織再編税制,スピンアウト,適格組織再編成■ 企業組織再編税制の改正でスピンアウトでも課税繰延べが認められた件について 「事業分離等に関する会計基準」が2005年に設定、2013年に改訂され、会社分割や営業譲渡に関する会計基準はグローバル並みに整備されました。税制は、2001年に「企業組織再編税制」が導入され、適格組織再編成とみなされれば、分離・再編に伴う資産移転にかかる譲渡益に対する課税の繰延べが認められていました。今回は、従来の適格組織再編とは認められずに、課税対象になっていた取引についても、課税繰延べが認められる方向に、税法が改正されることになったというお話の後編です。 2017/2/4付 |日本経済新聞|朝刊 事業分離新税制で負担減 経営効率化に弾み 再編の選択肢広がる (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「東芝のように追い込まれてリストラする企業が減るのでは。株式市場でそんな期待を集める制度が4月に導入される。企業が事業を新会社として切り出す際に税金がかからなくなる「スピンオフ税制」だ。大企業の新陳代謝を促して長期的な収益拡大につながるとの見方もある。」 (下記は同記事添付の「スピンオフ税制の仕組み」を引用) 従来の税制は、現時点の財務省のホームページに紹介されていますので、まずそちらの確認から。 ● 組織再編税制の概要 : 財務省より 超概要モードで解説すると、組織再編で分割や分社をしても、株式所有など、何らかの事業の継続の証拠が外見上、認められれば、譲渡益に対する課税を繰り延べてあげます(その組織再編時に税金を支払う必要はない)、ということです。さらに、その会社の株主については、株式の譲渡益に対するみなし配当課税を適用しない措置がとられます。   ■ 従来の適格組織再編成の要件とは? さらに、財務省の解説文をチャート化してできるだけ分かりやすくしたものを、伊藤邦雄氏著「新・現代会計入門(第2版)」P575、図表13-13を元に加工したものを下記に記載します。 まず、そもそもなのですが、下記「組織再編の類型」による企業組織再編において、新会社に資産を移転させた場合でも、それが「適格組織再編成」とみなされれば、その資産譲渡にかかる課税の繰り延べが認められることになりました。 ◆組織再編の類型 ・合併 ・分割 ・現物出資 ・現物配当 ・株式交換 ・株式移転 「適格組織再編成」に該当するには、次のいずれかを満たすこと。 ① 完全支配関係 ② 支配関係 ③ 共同事業 分かりにくいのが最後の「事業規模要件」。 (法人税法施行令第4条の3第4項第2号) スピンアウトする事業と分割元企業の間の以下の項目がおおむね5倍を超えないこと。 ① 売上金額 ② 従業者の数 ③ 資本金(出資金) ④ これらに準ずる項目 さらに、「これらに準ずるもの」とは何か? ① 金融機関における預金量 ② 信用保証会社における「保証債務残高」 等の例示列挙がありました。 (事業規模要件における「これらに準ずるもの」)   ■ 今回の画期的なポイントとは? 厳格に「適格組織再編成」の要件が適用されていた歯止めがなくなり、完全に資本系列外に飛び出させる分割に対しても、平たく言うと、無税になるということです。今回の税制改正の効用と目的は、日本企業にもっと資本系列外への事業分割を促進させて、事業の集中と選択を促し、それぞれの事業の競争優位性を高めることを狙いとしています。 同記事より。 「多角化した日本企業は税制の壁でスピンオフをためらい、それが低収益の一因になっている。そんな問題意識で見直しを主導したのが経済産業省だ。安永崇伸・産業組織課長は、「新陳代謝を進める場合、これまでは第三者への売却が中心だった。売却先が同業のライバル企業になりかねず、経営陣の判断を遅らせていた」と指摘する。」 欧米では、コングロマリットを解体して事業ポートフォリオの再構築に取り組む際に、分社化を図る事例が1990年代以降増加しています。 例) ● AT&T 通信機器事業をルーセント・テクノロジーズとして分離 ● ヒューレッド・パッカード 計測機器部門をアジレント・テクノロジーとして分離 日本では、2002年に中外製薬がロシュグループ入りしたことに伴い、米国子会社を分離独立させた際、約350億円の税負担になったこと以来、日本企業でめぼしいスピンオフ案件はありませんでした。体力があるうちに事業を切り出し、その後の再編がやりやすくなれば、各分野で事業再編が活発になり、M&A(再編)のディールも切り出す方にも有利な価格が提示され、得られた対価を別事業への投資に回す余裕さえ生じる効果が期待されます。 著しい無関連多角化によるコングロマリット・ディスカウントにより、株価が低迷していた企業の経営者は、4月以降については、事業ポートフォリオ見直しが後手に回るのを、税制を理由に言い訳することができなくなります。新年度からの事業再編ニュースが増えるかもしれません。 (下記は、同記事添付の「事業が広範でPBRの低い主な企業」を引用) 本記事ではお節介にも、低PBRでかつ、事業セグメント数の比較的多い大企業をリストアップしています。この中から、事業再編のニュースが発表される日は来るでしょうか? ⇒「事業分離新税制で負担減 経営効率化に弾み 再編の選択肢広がる (前編)事業分離会計処理を概観する!」 (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します