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■ 枠組み改革で終わらせてはならない「企業統治改革」現実と実践を伴わせろ!

経営管理会計トピック

ROE = 8% の伊藤レポート、セブン&アイ・ホールディングスの指名報酬員会のメンバーである社外取締役でその名をまた上げた伊藤教授の小稿になります。これは解説をしないではいられませんね。食指が動いてたまりません。(^^)/

2016/5/31付 |日本経済新聞|朝刊 (経済教室)これからの企業統治(下)社外役員、錬磨された常識を 執行側と「緊張と協調」探れ 伊藤邦雄 一橋大学特任教授

「日本のコーポレートガバナンス(企業統治)はいま正念場にある。この2年ほどで投資家側に責任ある行動を求めるスチュワードシップ・コード、企業側に経営規律を求めるコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が導入された。企業統治の枠組みがほぼ出そろい、昨年は「企業統治元年」と称された。
しかし昨今、その枠組みが実際に機能するのか、国内外から厳しい目で注視されている。枠組み改革だけでは期待は長続きしない。現実と実践が伴わなければならない。」

20160531_伊藤邦雄_日本経済新聞朝刊

いとう・くにお 51年生まれ。一橋大博士。専門は会計学、企業評価論、企業統治論

<ポイント>
○社外取締役は問題の「芽」の察知に注力を
○指名委の否決は経営陣の不信任意味せず
○企業統治では価値観違う人との対話重要

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

日本IR協議会の調査によると、現状の統治改革については企業の過半がまだ改善の余地があると認識しているそうです。

(下図は、記事添付の日本IR協議会の調査結果を転載)

20160531_企業統治報告書の作成プロセスを経て、実効性のある企業統治体制になったと思うか?_日本経済新聞朝刊

本稿は、上記のような状況に鑑み、企業統治を日本で現実に機能させるための課題と論点について伊藤教授の考えを整理したものです。

 

■ 社外取締役のミッションは、企業に内在する問題の「芽」をかぎ取ること

企業統治指針でも言及されているように、企業統治には「守り」と「攻め」のガバナンスがあります。

<守り>「透明性と公正性」を重視した経営
<攻め>「迅速・果断な意思決定」により必要なリスクをとる経営

現実には、この2つの統治の類型は分かちがたくつながっている場合が多いとされます。最近生じた日本の代表的な企業の不正会計やデータの偽装事件などは、一見「守り」の問題のように映りますが、背景には「攻め」の姿勢を巡る根深い問題も隠されています。

・東芝の不適切会計
・三菱自動車の燃費データ改ざん
・東亜建設工業が工事データを改ざん
・東洋ゴム工業の免震装置ゴム不正問題
・旭化成建材のマンション傾斜問題
・三井不動産の傾斜マンション傾斜問題  など

こうした事件では、統治改革の目玉でもある社外取締役(役員)の役割も問われました。一般的には、社外取締役が社外の目(第三者の目)から、こうした問題を未然に防いだり摘発したりすることを期待されていたにもかかわらず、不祥事が相次ぎ、日本の統治の枠組みに対する無力感と失望感が広がったのも無理はありません。

しかし、社外取締役は通常、常勤ではないので、会社の業務の隅々までチェックできません。そのため具体的に不正や重篤な問題そのものを発見するには困難がつきまといます。それでも、社外取締役ができることはあります。それは内部統制の仕組みが機能しているか否かを絶えず監視し、問題の「芽」をかぎ取ることです。

そうした問題の「芽」は企業固有のカルチャーや組織運営に色濃く現れます。不正や常軌を逸した行動は、長年にわたり醸成された偏った企業風土に根ざしていることが多く、モチベーション(動機づけ)をそぐような予算の立て方、会議での目標・予算必達への経営トップによる威圧的発言、聞こえの良い情報ばかりを報告しバッドニュースを後回しにすることなどに現れます。社外取締役は企業風土に対する嗅覚を磨き、察知したならば早めに経営陣に忠告することに努めるべき、というのが伊藤教授の見解です。
筆者としては、それらの内部不正の牽制・検知は、社外取締役を持ち出さなくても、内部統制の整備の問題だと考えます。社外取締役ができるのは、そうした検知された内部不正をもみ消そうとする、または問題視しない内部経営陣に対して、一言申すこと、が重要な役目なのだと思います。あまり社外の目に過大な期待をすると、会計監査人の「二重責任の原則」の問題と近しいジレンマに陥りますから。

教授によると、今さら感があるのですが、
「取締役会メンバー、とりわけ社内取締役と社外取締役の間に企業統治に対する認識や理解にギャップがあると、思わぬ事態を引き起こす可能性がある。換言すれば、現在国を挙げて展開している企業統治の背景や精神、要諦を執行側の経営陣が理解していないと、社外取締役(役員)との間に認識の相違が生じ、企業価値を毀損する事態を招きかねない。もちろん逆の認識ギャップがある場合も問題だ。」

という指摘があります。「組織は頭から腐る」という言葉通り、経営トップが腐っていては自浄作用は機能しにくいかもしれません。事前予防にために内部統制機構やコンプライアンス制度(内部通報制度含む)があります。事後予防としては、不祥事発覚により、株価下落、社会的責任をとるための引責辞任、株主代表訴訟や損害賠償請求で法的に裁かれて下さい。実刑にならなくても、社会的制裁だけでも十分なしっぺ返しとなります。

 

■ さてさて、ホットな話題の「指名報酬員会」のお話です!

「経営トップの選任・解任は、企業統治の一丁目一番地である。この点で、昨今設置が相次いでいる指名委員会の果たす役割は大きい。経営陣が指名委員会創設の精神や狙いを十分に理解しないと、社外の指名委員との間に認識の齟齬(そご)が生まれ、執行側にとって想定外の事態が生じることがある。指名委員会は人事の透明性を高めるために設置されるものであり、取締役会の「諮問機関」にすぎない場合であっても、指名委員会の答申は取締役会で尊重されるべきものである。」

ここは、法定機関か任意機関かという問題はそれほど大きいものではないとする教授の意見です。そりゃ、任意機関だったセブン&アイの指名報酬委員会でああいう意見表明をした方ですからね。

⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(6)迫真 迷走セブン&アイ まとめ記事を1本にまとめる! - 日本経済新聞まとめ
⇒「「指名委」設置4倍 475社 企業統治意識高まり14年比で 人事透明に、運用カギ

指名委員会では、会社側が提出した人事案に対して社外委員から同意を得られない場合があります。教授によりますと、「現に企業統治で高い評価を得ているある会社の取締役会議長は「指名委員会で、かつて私が社長のときに推薦した候補者が何度も否決された」と筆者に語る。」ということもあったそうです。

「指名委員会で外部委員の同意を得られない場合には、何らかの修正案を提出するような柔軟な姿勢や、内外の委員の間でより良い人事案にするための「すり合わせプロセス」も必要である。指名委員会で同意に達しなかったり否決されたりしても、それは提案した経営陣に対する不信任ととらえる必要は必ずしもない。「劇場型」でとらえるのではなく、冷静に統治プロセスとしてとらえるべきである。」

いやいや、格好の劇場型のケースを作った張本人でしょう、という突込みはここでは無用ですか、、、(^^;)

「企業統治を遂行する際、取締役会で表決をとるケースも出てくる。会社法は取締役会の採決の具体的方法について規定していない。表決には挙手、記名投票、無記名投票がある。無記名投票に関しては異論を唱える向きもあるが、会社法369条5項に基づき「議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する」との規定がある。このため事実上は記名投票に近い。「経営者の根本的変更を生じうる場合、またはこれに類する場合」には、無記名投票が正当化されるというのが有力な法的解釈だ。」

これも言い訳に近いですね~。結構、セブン&アイのケースで、秘密投票が結構やり玉に挙がりましたからね。秘密投票の問題点は、下記過去投稿をご参考ください。

⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(4)コーポレートガバナンスに関する論点整理② - 日本経済新聞まとめ

「社外取締役はその任務を果たすために、不偏不羈(ふへんふき)の立場を貫くべきだ。その際の判断基準や行動規範は指針でも強調しているように、持続的な企業価値の創造だ。この精髄は額に飾って拝むものではなく、まさにオペレーショナルなものとして実際に機能させる必要がある。」

社外取締役は、法の建て付けとしては、株主の代理人として、内部役員(執行役)の監視役として選任されています。しかし、その独立性は法的に保証されていますが、そもそも社外取締役の人選は誰が発案するんでしょう? 社外取締役の候補は、現任・先任の社外取締役がその人選を株主総会に諮る、という会社法の建て付けにする、というアイデア(筆者のね)も大変興味深いものがあります。

 

■ 自分は一刀両断したくせに! さあ、「対話」が大事だというお話です!

「企業統治のもう一つのポイントは「対話」の促進である。「対話」とは価値観が異なる人たちとの間で、違いを確認し、違いの原因を探り、それを埋める意思疎通のプロセスである。2つの指針は企業と投資家との建設的な対話の必要性を強調している。」

(筆者注:「2つの指針」とは、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」と「スチュワードシップ・コード」の2つを指すものと読みました)

「「攻め」のガバナンスの観点からも、経営トップ(経営陣)は投資家との対話に加えて社外取締役との率直な対話の機会を持つことが重要だ。対話を通して、自社の「稼ぐ力」や資本生産性の現状と課題を共有し、仮に資本コストを下回っていれば、その克服に向けた戦略や施策を中長期的視点から真剣に議論すべきだ。資本コストを上回っている場合でも、それに満足せず、持続的な資本生産性のさらなる向上に注力すべきである。」

「攻め」については、その企業のビジネスモデルや経営資源に対する知識量で、適切な判断ができるか左右されます。当然、社外取締役のこれまでの会社経営に対する経験値に基づくものです。しかしながら、社外取締役の出身履歴は、そういう判断に耐えうるものなのでしょうか?

⇒「(真相深層)社外役員、適材奪い合い 企業統治改革は1年にして成らず 株持ち合いも根強く
⇒「社外取締役の有力供給源 大手法律事務所、就任にためらい 利益相反を懸念/本業に不利益も
⇒「社外役員の兼務制限 日立、4社まで 外部の知見、自社に集中

しかし、その一方で、同じく社外から招聘されるも社内役員の代表である「プロ経営者」という呼び名もいまいちしっくりきません。

2016/5/12付 |日本経済新聞|朝刊 「プロ経営者」に試練 結果への評価厳しく

20160512_主なプロ経営者_日本経済新聞朝刊

プロの社外取締役も必要な時代になりますかね。そうすると、伊藤教授がご説明されている以下の要件は大事になってくるのでしょう。

(1)錬磨された常識を備えた人材
「企業統治の眼目は、経営陣の行き過ぎた不作為や作為、社内で暗黙のうちに醸成された行動の癖や固定観念化した価値観や風土を、社外取締役(役員)の多様な知見に基づく「常識」に照らして監視することにある。ここで重要なのは、社外取締役(役員)の立脚点は、単なる「常識」ではなく、多様な知見により醸成された「錬磨された常識」でなければならないことだ。単なる「世間常識」とは一線を画するものである。」

(2)緊張と協調の関係性を築ける人材
「執行側と社外取締役はいたずらに対立の構造を醸成する必要はない。両者の関係は「緊張と協調」の関係であるべきだ。すなわち企業統治とは、双方がすり合わせをしながら、株主をはじめとするステークホルダー(利害関係者)に十分な説明ができるような透明な経営プロセスを築き上げることで、持続的な企業価値を創造していくプロセスである。」

練磨された常識と熟達したコミュニケーション能力。そういうスキルを備えた人材は、もうどこかの大企業や成長企業の内部取締役(経営者)になっているだろうし、そういう経営者のOBにしか、社外取締役が務まらないようにも思えます。例えば、コマツの坂根氏など。

鹿島など【坂根正弘】6社掛け持ち 1億円稼ぐ経済界の語り部 | 日刊ゲンダイ

最後に余計かもしれませんが、筆者は伊藤教授のことを尊敬していますよ。教授の近著もすぐに買いました。でも改訂版出るの早すぎ!(理由はきちんとまえがきに書いてありましたが)

制度会計の今を知るなら、本当に良書だと思います。好きだからこそ、ちょっときつめにコメントしてしまいした。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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(経済教室)これからの企業統治(下)社外役員、錬磨された常識を 執行側と「緊張と協調」探れ 伊藤邦雄 一橋大学特任教授http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読む伊藤邦雄,経済教室,コーポレートガバナンス・コード,社外取締役,二重責任の原則,企業統治指針,スチュワードシップ・コード,企業統治,日本IR協議会,指名報酬員会■ 枠組み改革で終わらせてはならない「企業統治改革」現実と実践を伴わせろ! ROE = 8% の伊藤レポート、セブン&アイ・ホールディングスの指名報酬員会のメンバーである社外取締役でその名をまた上げた伊藤教授の小稿になります。これは解説をしないではいられませんね。食指が動いてたまりません。(^^)/ 2016/5/31付 |日本経済新聞|朝刊 (経済教室)これからの企業統治(下)社外役員、錬磨された常識を 執行側と「緊張と協調」探れ 伊藤邦雄 一橋大学特任教授 「日本のコーポレートガバナンス(企業統治)はいま正念場にある。この2年ほどで投資家側に責任ある行動を求めるスチュワードシップ・コード、企業側に経営規律を求めるコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が導入された。企業統治の枠組みがほぼ出そろい、昨年は「企業統治元年」と称された。 しかし昨今、その枠組みが実際に機能するのか、国内外から厳しい目で注視されている。枠組み改革だけでは期待は長続きしない。現実と実践が伴わなければならない。」 いとう・くにお 51年生まれ。一橋大博士。専門は会計学、企業評価論、企業統治論 <ポイント> ○社外取締役は問題の「芽」の察知に注力を ○指名委の否決は経営陣の不信任意味せず ○企業統治では価値観違う人との対話重要 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 日本IR協議会の調査によると、現状の統治改革については企業の過半がまだ改善の余地があると認識しているそうです。 (下図は、記事添付の日本IR協議会の調査結果を転載) 本稿は、上記のような状況に鑑み、企業統治を日本で現実に機能させるための課題と論点について伊藤教授の考えを整理したものです。   ■ 社外取締役のミッションは、企業に内在する問題の「芽」をかぎ取ること 企業統治指針でも言及されているように、企業統治には「守り」と「攻め」のガバナンスがあります。 <守り>「透明性と公正性」を重視した経営 <攻め>「迅速・果断な意思決定」により必要なリスクをとる経営 現実には、この2つの統治の類型は分かちがたくつながっている場合が多いとされます。最近生じた日本の代表的な企業の不正会計やデータの偽装事件などは、一見「守り」の問題のように映りますが、背景には「攻め」の姿勢を巡る根深い問題も隠されています。 ・東芝の不適切会計 ・三菱自動車の燃費データ改ざん ・東亜建設工業が工事データを改ざん ・東洋ゴム工業の免震装置ゴム不正問題 ・旭化成建材のマンション傾斜問題 ・三井不動産の傾斜マンション傾斜問題  など こうした事件では、統治改革の目玉でもある社外取締役(役員)の役割も問われました。一般的には、社外取締役が社外の目(第三者の目)から、こうした問題を未然に防いだり摘発したりすることを期待されていたにもかかわらず、不祥事が相次ぎ、日本の統治の枠組みに対する無力感と失望感が広がったのも無理はありません。 しかし、社外取締役は通常、常勤ではないので、会社の業務の隅々までチェックできません。そのため具体的に不正や重篤な問題そのものを発見するには困難がつきまといます。それでも、社外取締役ができることはあります。それは内部統制の仕組みが機能しているか否かを絶えず監視し、問題の「芽」をかぎ取ることです。 そうした問題の「芽」は企業固有のカルチャーや組織運営に色濃く現れます。不正や常軌を逸した行動は、長年にわたり醸成された偏った企業風土に根ざしていることが多く、モチベーション(動機づけ)をそぐような予算の立て方、会議での目標・予算必達への経営トップによる威圧的発言、聞こえの良い情報ばかりを報告しバッドニュースを後回しにすることなどに現れます。社外取締役は企業風土に対する嗅覚を磨き、察知したならば早めに経営陣に忠告することに努めるべき、というのが伊藤教授の見解です。 筆者としては、それらの内部不正の牽制・検知は、社外取締役を持ち出さなくても、内部統制の整備の問題だと考えます。社外取締役ができるのは、そうした検知された内部不正をもみ消そうとする、または問題視しない内部経営陣に対して、一言申すこと、が重要な役目なのだと思います。あまり社外の目に過大な期待をすると、会計監査人の「二重責任の原則」の問題と近しいジレンマに陥りますから。 教授によると、今さら感があるのですが、 「取締役会メンバー、とりわけ社内取締役と社外取締役の間に企業統治に対する認識や理解にギャップがあると、思わぬ事態を引き起こす可能性がある。換言すれば、現在国を挙げて展開している企業統治の背景や精神、要諦を執行側の経営陣が理解していないと、社外取締役(役員)との間に認識の相違が生じ、企業価値を毀損する事態を招きかねない。もちろん逆の認識ギャップがある場合も問題だ。」 という指摘があります。「組織は頭から腐る」という言葉通り、経営トップが腐っていては自浄作用は機能しにくいかもしれません。事前予防にために内部統制機構やコンプライアンス制度(内部通報制度含む)があります。事後予防としては、不祥事発覚により、株価下落、社会的責任をとるための引責辞任、株主代表訴訟や損害賠償請求で法的に裁かれて下さい。実刑にならなくても、社会的制裁だけでも十分なしっぺ返しとなります。   ■ さてさて、ホットな話題の「指名報酬員会」のお話です! 「経営トップの選任・解任は、企業統治の一丁目一番地である。この点で、昨今設置が相次いでいる指名委員会の果たす役割は大きい。経営陣が指名委員会創設の精神や狙いを十分に理解しないと、社外の指名委員との間に認識の齟齬(そご)が生まれ、執行側にとって想定外の事態が生じることがある。指名委員会は人事の透明性を高めるために設置されるものであり、取締役会の「諮問機関」にすぎない場合であっても、指名委員会の答申は取締役会で尊重されるべきものである。」 ここは、法定機関か任意機関かという問題はそれほど大きいものではないとする教授の意見です。そりゃ、任意機関だったセブン&アイの指名報酬委員会でああいう意見表明をした方ですからね。 ⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(6)迫真 迷走セブン&アイ まとめ記事を1本にまとめる! - 日本経済新聞まとめ」 ⇒「「指名委」設置4倍 475社 企業統治意識高まり14年比で 人事透明に、運用カギ」 指名委員会では、会社側が提出した人事案に対して社外委員から同意を得られない場合があります。教授によりますと、「現に企業統治で高い評価を得ているある会社の取締役会議長は「指名委員会で、かつて私が社長のときに推薦した候補者が何度も否決された」と筆者に語る。」ということもあったそうです。 「指名委員会で外部委員の同意を得られない場合には、何らかの修正案を提出するような柔軟な姿勢や、内外の委員の間でより良い人事案にするための「すり合わせプロセス」も必要である。指名委員会で同意に達しなかったり否決されたりしても、それは提案した経営陣に対する不信任ととらえる必要は必ずしもない。「劇場型」でとらえるのではなく、冷静に統治プロセスとしてとらえるべきである。」 いやいや、格好の劇場型のケースを作った張本人でしょう、という突込みはここでは無用ですか、、、(^^;) 「企業統治を遂行する際、取締役会で表決をとるケースも出てくる。会社法は取締役会の採決の具体的方法について規定していない。表決には挙手、記名投票、無記名投票がある。無記名投票に関しては異論を唱える向きもあるが、会社法369条5項に基づき「議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する」との規定がある。このため事実上は記名投票に近い。「経営者の根本的変更を生じうる場合、またはこれに類する場合」には、無記名投票が正当化されるというのが有力な法的解釈だ。」 これも言い訳に近いですね~。結構、セブン&アイのケースで、秘密投票が結構やり玉に挙がりましたからね。秘密投票の問題点は、下記過去投稿をご参考ください。 ⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(4)コーポレートガバナンスに関する論点整理② - 日本経済新聞まとめ」 「社外取締役はその任務を果たすために、不偏不羈(ふへんふき)の立場を貫くべきだ。その際の判断基準や行動規範は指針でも強調しているように、持続的な企業価値の創造だ。この精髄は額に飾って拝むものではなく、まさにオペレーショナルなものとして実際に機能させる必要がある。」 社外取締役は、法の建て付けとしては、株主の代理人として、内部役員(執行役)の監視役として選任されています。しかし、その独立性は法的に保証されていますが、そもそも社外取締役の人選は誰が発案するんでしょう? 社外取締役の候補は、現任・先任の社外取締役がその人選を株主総会に諮る、という会社法の建て付けにする、というアイデア(筆者のね)も大変興味深いものがあります。   ■ 自分は一刀両断したくせに! さあ、「対話」が大事だというお話です! 「企業統治のもう一つのポイントは「対話」の促進である。「対話」とは価値観が異なる人たちとの間で、違いを確認し、違いの原因を探り、それを埋める意思疎通のプロセスである。2つの指針は企業と投資家との建設的な対話の必要性を強調している。」 (筆者注:「2つの指針」とは、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」と「スチュワードシップ・コード」の2つを指すものと読みました) 「「攻め」のガバナンスの観点からも、経営トップ(経営陣)は投資家との対話に加えて社外取締役との率直な対話の機会を持つことが重要だ。対話を通して、自社の「稼ぐ力」や資本生産性の現状と課題を共有し、仮に資本コストを下回っていれば、その克服に向けた戦略や施策を中長期的視点から真剣に議論すべきだ。資本コストを上回っている場合でも、それに満足せず、持続的な資本生産性のさらなる向上に注力すべきである。」 「攻め」については、その企業のビジネスモデルや経営資源に対する知識量で、適切な判断ができるか左右されます。当然、社外取締役のこれまでの会社経営に対する経験値に基づくものです。しかしながら、社外取締役の出身履歴は、そういう判断に耐えうるものなのでしょうか? ⇒「(真相深層)社外役員、適材奪い合い 企業統治改革は1年にして成らず 株持ち合いも根強く」 ⇒「社外取締役の有力供給源 大手法律事務所、就任にためらい 利益相反を懸念/本業に不利益も」 ⇒「社外役員の兼務制限 日立、4社まで 外部の知見、自社に集中」 しかし、その一方で、同じく社外から招聘されるも社内役員の代表である「プロ経営者」という呼び名もいまいちしっくりきません。 2016/5/12付 |日本経済新聞|朝刊 「プロ経営者」に試練 結果への評価厳しく プロの社外取締役も必要な時代になりますかね。そうすると、伊藤教授がご説明されている以下の要件は大事になってくるのでしょう。 (1)錬磨された常識を備えた人材 「企業統治の眼目は、経営陣の行き過ぎた不作為や作為、社内で暗黙のうちに醸成された行動の癖や固定観念化した価値観や風土を、社外取締役(役員)の多様な知見に基づく「常識」に照らして監視することにある。ここで重要なのは、社外取締役(役員)の立脚点は、単なる「常識」ではなく、多様な知見により醸成された「錬磨された常識」でなければならないことだ。単なる「世間常識」とは一線を画するものである。」 (2)緊張と協調の関係性を築ける人材 「執行側と社外取締役はいたずらに対立の構造を醸成する必要はない。両者の関係は「緊張と協調」の関係であるべきだ。すなわち企業統治とは、双方がすり合わせをしながら、株主をはじめとするステークホルダー(利害関係者)に十分な説明ができるような透明な経営プロセスを築き上げることで、持続的な企業価値を創造していくプロセスである。」 練磨された常識と熟達したコミュニケーション能力。そういうスキルを備えた人材は、もうどこかの大企業や成長企業の内部取締役(経営者)になっているだろうし、そういう経営者のOBにしか、社外取締役が務まらないようにも思えます。例えば、コマツの坂根氏など。 鹿島など【坂根正弘】6社掛け持ち 1億円稼ぐ経済界の語り部 | 日刊ゲンダイ 最後に余計かもしれませんが、筆者は伊藤教授のことを尊敬していますよ。教授の近著もすぐに買いました。でも改訂版出るの早すぎ!(理由はきちんとまえがきに書いてありましたが) 制度会計の今を知るなら、本当に良書だと思います。好きだからこそ、ちょっときつめにコメントしてしまいした。(^^;) (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します