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セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(5)コーポレートガバナンスに関する論点整理③ - 日本経済新聞まとめ

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ セブン&アイ・ホールディングス 企業統治(コーポレートガバナンス)への示唆

経営管理会計トピック

前回と同様、セブン&アイ・ホールディングスのコーポレートガバナンスがどのように機能したのかについて、新聞記者を含む有識者の様々なコメントに対して、整理をしていく第3弾になります。

注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

2016/4/14付 |日本経済新聞|朝刊 (ニュース複眼)セブン退任劇 企業統治に示唆

「セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長(83)が退任する。自ら考えた人事案が取締役会で否決されたことがきっかけだ。産業界を驚かせたカリスマ経営者の引退は、日本の企業統治(コーポレートガバナンス)改革を考えるうえでも多くのことを示唆する。企業が持続成長するために必要なことは何か。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

■ 物言う株主が存在感 アジア企業統治協会事務総長 ジェイミー・アレン氏

「セブン&アイの会長退任騒動が、日本のコーポレートガバナンスの現状を映す象徴的な事例なのかは分からない。報道されている内容だけでは情報が不足している。取締役会の議論の中身など、もう少し情報開示を求めたいところだ。」

投資家(アクティビスト含む)の見地に立つポジショントークです。

(記事より写真転載)
Jamie Allen 英国の調査機関などで経済問題の執筆・調査に携わる。1999年に主要な投資家から成るアジア企業統治協会(ACGA、本部香港)を設立

セブンイレブンの井阪社長を交代させようとした鈴木敏文氏の案に、米アクティビスト(物言う株主)のサード・ポイントが懸念を表明したことが取締役会の議論に影響を及ぼしたであろうと見ています。セブン&アイは15人の取締役のうち4人が社外役員で、日本では上出来だと思いますが、アレン氏によると、社外人材の活用要求水準は「全体の3分の1以上」で基準に届いていないが「3人以上」の基準はクリアとのこと。本当に独立した質の高い社外取締役がそろえば、多数派でなくても経営の意思決定に影響を与えることができるという見解です。

アレン氏が挙げる今後の日本のガバナンス改革の課題とは?

① 株主との意思疎通不足
決められたルールは守っているものの、それで事が足りたと思っているような企業が見受けられる。「ガバナンス報告書」が英訳されていない場合も多く、外国人投資家には不親切

② 情報開示
日本は書類の種類が多すぎて情報が拡散している。IR(株主向け広報)が効率的になされていないという印象。合理的に説明できない株式持ち合いを解消することの重要性は、何度強調してもしすぎることはない

③ 「ゴースト・ディレクター」(幽霊役員)の問題
(東芝問題で注目された)「相談役」や(セブン&アイの記者会見に同席したと聞く)「顧問」など、役割の分からない人物が経営に影響を与えている可能性がある
一線を退いた経済人の知見を活用するのは良いが、そうした人材は社外取締役として生かされるべき

<筆者意見>
政策保有株式(持ち合い株式)については、株式投資を純投資と考える株主には邪魔なだけかもしれませんが、実際に事業を営む立場としては、企業間連携の重要なアイテムであったりするので、一概に「悪」と決めつけられない存在と考えています。ましてや、政策保有株式の保有理由やリターンを公開せよ、という一部の声については、そんなことしたら営業秘密の秘匿利益が損なわれると考えています。

(参考)
⇒「(日本株番付)政策保有株比率が高い企業 建設や倉庫が上位に
⇒「上場企業の株売却益、1兆円超す 4~12月2.8倍 選択と集中加速 持ち合い解消も背景に -ここから新日鐵住金の会社防衛策までを解く!
⇒「(大磯小磯)持ち合いの是非 -コーポレートガバナンスコードとスチュワードシップコード再び

■ 後継育つ仕組み課題 レコフ社長 恩地祥光氏

「セブン&アイの鈴木敏文会長は退任会見で「後継者を育てられなかった」と悔やんだ。だが、全産業を見渡しても経営者が部下を手取り足取り教えて見事にバトンタッチしているような会社はどこにあるだろうか。経営書の多くは「経営者は次世代の人材を育てること」と説くが、机上の空論だ。後継者は育てるものでなく、育っていくものだ。」

M&A仲介(事業継承・後継者育成)の立場からのポジショントークです。

20160414_恩地祥光_日本経済新聞朝刊

(記事より写真転載)
おんじ・よしみつ 同志社大卒、1977年ダイエー入社。創業者である中内功氏の秘書役に。98年にM&A仲介のレコフ入社。2010年から現職。61歳。

氏は経営者の資質に対してまず問いかけます。
「セブン&アイは約30年かけ、創業者の伊藤雅俊氏から鈴木氏へ権限が移管されつつ大きく発展した。こんなに継承がうまくいったのは奇跡に近い。伊藤氏の懐の深さと鈴木氏のテクノクラート的な組織運営がかみ合ったことが背景にある。
日本と同じように、米国でもウォルマート・ストアーズ、アルバートソンズなど創業者の名前を冠する小売業は多い。継承がうまくいっているのは「プロ経営者」が存在するからだ。日本はまだプロ経営者の黎明(れいめい)期と言える。」

その上で、次代の経営者が育たないという理由で社外からのスカウト人事が行われることが多いが、大抵はうまくいかないそうです。直近では、日本電産の永守氏が後継選びに手を焼いている姿が目に浮かびますが。氏は、ダイエーでは急成長期に幅広い業界から人材を集めたが、成果を残したのは1980年代に業績をV字回復させた河島博氏(日本楽器出身)を挙げていますが、その河島氏も最後は創業者の中内功氏に疎んじられたケースを紹介されています。社風を理解して創業者の意向をくみ取るのは難しいとのこと。

恩地氏によりますと、
「小売業界は創業者の強烈なリーダーシップのもとで、全社一丸となり事業を推進することが多い。重大な意思決定は創業者が下すため、経営という観点を持つ後継者が育ちにくい。意思決定の積み重ねで人材は育っていくものだが、その環境をつくれないでいる。」

と、小売業界特有の問題と指摘されていますが、おそらく強烈なリーダーシップを発揮している創業者が率いる会社に共通の悩みではないかと推察します。それでも流通小売業での後継者問題と業績不振からマスコミを賑わした会社として、ダイエー、マイカル、長崎屋、ヤオハンジャパンなどを挙げられています。こうした会社は創業者の長期政権が続いて、オーナーシップが強い会社ほど世代交代を円滑に進めるのは難しい典型例となりました。経営判断が遅くなる前に後継者にバトンを渡す仕組みを整えるべき、というのが氏の結論です。

■ 社外取締役生かす環境を ジェイ・ユーラス・アイアール取締役 高山与志子氏

「社外取締役の選任にあたって「3人以上」の人数が意識されることが多い。これは社外取締役が議論のなかで孤立することなく、固まりとなって影響力を行使するために最低限必要な人数だからとされている。」

企業側にコーポレートガバナンスを指導する立場からのポジショントークです。

(記事より写真転載)
たかやま・よしこ 米エール大経営大学院で経営学修士号取得、東大院修了。米金融機関などに勤務後、2001年から企業統治のコンサルティング会社で活動

鈴木敏文会長の人事案を否決したセブン&アイの取締役会には社外の人が4人。社外の人材が孤立せずにモノを言える重要性を示していると肯定的に捉えられています。その上で、社外取締役が力を発揮するためには、

① 「数」だけでなく「場」も重要。社外の人だけの会合や、各種の委員会がそれにあたる
② セブン&アイは今年3月に任意とはいえ、社外取締役がトップを務める指名・報酬委員会を設立している
③ 発行済み株式の35%を外国人が保有する会社なのだから、こうした「場」が整えられていたのも当然

セブン&アイに関しては、鈴木敏文氏の人事案は指名・報酬委員会が賛同しなかったものが取締役会に諮られたわけですが、これをもって任意組織の委員会の限界を指摘する声もあるものの、一定のけん制効果を果たしており総じて肯定的に捉えられています。

日米の会社機関おける権限設定について一言ありました。
「日本では法律で定められた委員会の権限が強すぎる問題もある。米国では委員会の提案を取締役会でひっくり返すこともできるが、日本はできない。セブン&アイの一件をきっかけに、委員会の機能に関する議論が高まるのは良いことだ」

さらに、今回も伊藤家の動きに関して好意的な印象を持たれており、
「創業家が株式の約10%を持つセブン&アイの場合、創業家ガバナンスの視点も欠かせない。ドイツやフランスなどの大企業も創業家が多くの株式を保有している。企業経営が短期主義に陥らずに長期の価値創造を追求するうえで、創業家の存在はプラスになりうる」

創業家が一投資家として、一般株主の利益を害しないように監視体制を整え、情報も開示する。そして、あくまで株主目線で会社に対して牽制を行うこと。それは、社内人脈や事業への精通度を考慮すると、これ以上の力強い応援団は考えられないということでしょうか。その上で、独立した社外人材で構成する委員会などを設置するのが望ましい、と主張されています。

最後に、逆説的ですが、「社外取締役のけん制機能が十分に機能し、株主のためにならない人事が事前に回避された場合。よく統治された企業は、問題が表に出る前に解決されることが多い」ということで、良い統治がなされている企業ほど、醜聞・悪評は表に出ないということらしいです。何とも皮肉な見方ですね。(^^;)

 

■ 人事決定プロセス透明に 中央大学法科大学院教授 大杉謙一氏

「セブン&アイの鈴木敏文会長退任を巡る騒動を見て、2013年に川崎重工業で起きた社長解任劇を思い出した。三井造船との経営統合交渉を進めていた当時の社長ら3人が、これに否定的だったほかの10人の取締役と対立し、取締役会で解任された出来事だ。」

企業統治の研究者としてのポジショントークです。

(記事より写真転載)
おおすぎ・けんいち 東京大学助手や東京都立大学(現・首都大学東京)助教授を経て2004年4月から現職。専門は会社法、金融商品取引法。48歳

大杉氏によりますと、川崎重工業で起きた社長解任劇とセブン&アイのケースは、相いれない考えが取締役会で対立した構図は似ているそうです。井阪隆一氏はセブンイレブンの社長として適任かどうか。最後は多数決で決めるところにまで行きました。その上で、実際にどちらが正しいのか、部外者がどうこう言うのは適切ではなく、議論できるのは決定に至るプロセスの善しあしだけと冷静に分析します。

ただし両者の違いは、社外取締役の存在にあったと指摘。

「川崎重工の社長解任劇は、取締役会が全員社内出身者だったので不透明感が残った。セブン&アイでは社外取締役が一定の影響力を発揮した。株主や従業員、取引先など利害関係者にとってもプロセスに納得感が得られやすかったはずだ。」

その上での今回の事例の特徴を挙げて頂いております。
① 経営能力の高い人が必ずしも後継者を見抜く能力まで高いわけではない
② 人事案に反対した社外取締役を鈴木氏が説得できなかったことに尽きる
③ 日本では昨年、上場企業に2人以上の社外取締役を置くことを求める東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が機能したと評価できる

会社法による機関設置について。
「昨年5月に施行された改正会社法では、企業の統治形態として「監査役会設置会社」など3つを定める。最も監視が厳しい「指名委員会等設置会社」は日本ではまだ抵抗感が強く、移行した企業は少数派だ。9割はセブン&アイのような監査役会設置会社が占める」

それでもセブン&アイがそうであったように、監査役会設置会社でも、外部の意見を入れる指名報酬委員会を任意で設置できます。上場する監査役会設置会社でこうした委員会を設けるのは現時点でも約14%あるそうです。

 

■ 「カリスマ経営者も一機関」 セブン&アイ人事決着 冨山和彦氏に聞く 鈴木氏、辞める必要なし

2016/4/25付 |日本経済新聞|朝刊 「カリスマ経営者も一機関」 セブン&アイ人事決着 冨山和彦氏に聞く 鈴木氏、辞める必要なし

「セブン&アイ・ホールディングス(HD)の鈴木敏文会長が自身が提案した幹部人事案を拒まれ、退任した。待ったをかけたのは社外取締役が半数を占める指名報酬委員会だ。オムロンの社外取締役として同社社長人事の決定にかかわる冨山和彦・経営共創基盤最高経営責任者に企業統治の観点から、今回の事態の評価を聞いた。」

社外取締役の任にある立場からのポジショントークです。

20160425_冨山和彦_日本経済新聞朝刊

(記事より写真転載)
とやま・かずひこ 1985年東大法卒、ボストンコンサルティンググループなどを経て2003年産業再生機構業務執行最高責任者。07年から現職

以下、Q&Aを簡明に整理させて頂きます。

Q1:鈴木氏の人事案が拒まれましたが?
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鈴木氏が卓越した経営者であることは間違いないが、オーナーではない。どんなカリスマであっても、公器である上場会社の最高経営責任者(CEO)は業務執行を担う『機関』にすぎず、執行機関であるCEOが、専権事項のように後継者を選ぶことは許されない。
だから鈴木氏側が出した人事を(監督機関である)取締役会が拒んだことは、企業統治が機能したと高く評価できる。それを担った社外取締役の方々は素晴らしい。今回の事案は、日本の企業統治史上に残る快挙だ
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Q2:鈴木氏の退任で経営が混乱しませんか?
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そもそも鈴木氏は人事案が通らなかったことで辞める必要はない。欧米の上場企業ではCEOの意見が取締役会に却下されることは珍しくない。M&A(合併・買収)だって止まることがある。国会に例えれば1本の法案が通らなかっただけのこと。そのたびに提案した大臣や首相が辞任するだろうか
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この点について、経済界やメディアが驚いたり、大騒ぎしたりするのは、日本の企業統治が『前時代的な段階』を脱却していないまだまだ未熟な状態である証拠だとバッサリ。(^^;)

Q3:冨山さんはオムロンの社長指名委員会の委員長を務めていますが?

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同社は監査役設置会社で、社長指名委は取締役会の諮問機関だ。2011年に就任した山田義仁・現社長を選任した実績がある。社長に万一の事故があった場合の臨時の社長候補、そして将来の通常の社長交代に向けた人選も進めている」
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記事によりますと、その後継者の人選プロセスは、10年単位のプログラムからなり、世界中から20~30人を候補者として毎年入れ替え、社長交代期が近づいたら3人に絞り込む。こうした重厚な選考プロセスが構築してあるので、セブン&アイのような後継指名による人事の混乱は起き得ないとのこと。

同様の経営者選抜の取り組みが武田薬品工業でも行われています。

2016/4/23付 |日本経済新聞|朝刊 武田、30歳から社長候補育成 世界同一基準で 5年で2カ国以上経験

「武田薬品工業は将来の社長を含む幹部候補を世界から同一基準で育成する。今年から30歳前後の優秀な若手社員を国内外で選び5年間かけて指導する。武田は2014年に英大手のグラクソ・スミスクライン(GSK)からクリストフ・ウェバー氏を社長として招いており、社内から世界レベルで通用する人材を輩出できるようにする。」

(下記は、同記事添付の武田が最近始めた主な幹部育成プログラムを転載)

20160423_武田が最近始めた主な幹部育成プログラム_日本経済新聞朝刊

最後の最後の結論といたしましては、
「後継者育成と指名について、事前にプログラムを決めていくことで、トップ交代でのごたごたを回避することができ、同時に株主にもアカウンタビリティーを示すことができる」
みたいなところのようです。

⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(1)発端はサード・ポイントの株式取得から始まった - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(2)指名報酬委員会から臨時取締役会までの流れ - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(3)コーポレートガバナンスに関する論点整理① - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(4)コーポレートガバナンスに関する論点整理② - 日本経済新聞まとめ
⇒「セブン&アイ・ホールディングス 鈴木敏文前会長兼CEO退任まで(6)迫真 迷走セブン&アイ まとめ記事を1本にまとめる! - 日本経済新聞まとめ

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