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不適切会計の手段 -利益操作(3)架空収益の計上

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 利益を過大に見せたいときは、収益を大きく見せるのが手取り早い

会計(基礎編)

今回は、前回から引き続き、「利益の過大表示」を意図した「収益の過大表示」、その2つめの手段である「架空収益の計上」のトリックの説明を試みたいと思います。

その前に、参考にしている図書の紹介から。

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

では、架空収益を計上するための、先人の苦労(?)を解析していきます。

 

■ (2)架空収益の計上

全く何もない所から売上の数字をでっちあげる手法です。

会社が架空収益を作り上げるための会計テクニックは、下記の通りです。
① 経済的実体のない取引について収益を計上する
② 合理的な独立第三者間のプロセスのない取引について収益を計上する
③ 収益が発生しない取引からの現金の受け取りに基づいて収益を計上する
④ 適切な取引であるが、金額を水増しして収益を計上する

① 経済的実体のない取引について収益を計上する
実際の売上の「外観と雰囲気」を持たせるが、実際には経済的実体のないスキームを単純にでっちあげることができます。

●利益補填目的の保険取引
これは、利益が目標水準に達しなかった場合、その未達分を保険金として受け取ることができる保険商品を利用します。この保険商品への購入量をコントロールすれば、簡単に経営者は、期間利益水準を我が物にすることができます。利益目標が未達なった分だけ、補填されるべき金額から逆算して、保険料を支払うことで、受け取ることができる保険金を調整することができるからです。

しかし、この種の保険取引は、被保険者と保険業者間でいかに「保険契約」を取り結んだと宣言したとしても、両者間で、リスクの移転が認められない場合、保険取引とはみなされません。あくまで、支払った保険料は銀行預金のように取り扱われ、保険金は元本の払い戻しに過ぎない金融取引として処理するのが適法となります。

● 未請求の架空取引によるソフトウェア販売
とあるソフトウェアベンダーが、代理店(再販売業者)に、代金未請求のソフトウェアライセンスの販売を、書類上だけ行います。そして、裏でこの種の取引には支払い義務が無い旨の覚書を別途取り交わしておきます。こうすることで、代理店に一言断るだけで、如何様にもライセンス販売売上の金額を作り上げることができます。

この種の代理店を巻き込んだ架空売り上げの計上は、結局のところ、高くつくことが多く、ばれるばれないを問わず、割に合わないことを知っておかなければなりません。後日、架空売り上げの分の取引を割高で買い戻したり、代理店にこの種の書類上だけの販売取引があったかのように装おうための、手数料(時には賄賂とも呼ばれる)を支払うことも多いからです。

② 合理的な独立第三者間のプロセスのない取引について収益を計上する
正当な取引相手ではないものとの間に擬似的に作り上げられた販売取引を装うことで、架空の収益を計上する術があります。

● 関連当事者への売上
販売相手が、経営者の親類縁者、大株主、ビジネスパートナー、ベンダーなど、通常、自社の製品・サービスを提供するに相応しくない相手に売上伝票が切られたなら、その内容は一度確認した方が良さそうです。いろいろな手段で、実際の経済的付加価値のない取引に基づく書類上だけの売上伝票を作成することができるからです。

・大幅な値引きをしている
・売り手が、ベンダーから割引価格での将来の購入を約束している

後者は、ベンダーにとって全く不要なA製品を買わせる代わりに、そのベンダーから売り手が、将来購入するB製品の値段をA製品の購入代金プラス手数料の金額にして、いってこいで自社のA製品の売上金額を作り上げることを意味しています。

また、ジョイントベンチャーの相手であった場合には、その取引の支払期限を永遠に先送りすることで、実際に現金の対価なくして、収益だけP/Lに乗せ続けることができます。

● 買収による特殊な収益のでっちあげ
あなたの会社が、フランチャイズチェーンを経営しているフランチャイザーの場合、フランチャイジー(加盟店)にいろいろな物販やノウハウを売りつけて、収益としていることが常だと思います。ここで、どうしても、短期的に売上が計画未達だった場合に、フランチャイジーへの販売に未達分の金額をマージンとして上乗せした金額でいったん販売取引を行います。その後、その上乗せ分を考慮した金額で、そのフランチャイジーを買収するという手があります。当然、この上乗せ分には経済的実体は何らないので、通常は買収額と販売取引額は相殺されるべきなのですが、これをばらして収益のままにしておくのですが、当然会計処理的にはアウトです。

③ 収益が発生しない取引からの現金の受け取りに基づいて収益を計上する
上記の①と②については、その販売取引に経済的実体がない、あるいは経済的実体があっても適切な取引相手ではないケースを扱いました。この③の場合は、まったく収益には無関係な現金の授受を収益取引に装う手口について見ていきます。

これは、複式簿記に基づく、「仕訳」の形で、借方・貸方を眺めているとよく分かります。現金を受け取った場合は、借方に「現金」が来るのですが、その相手を、「負債」とするか、それとも「収益」とするか、名前の付け方で付け替えることが容易にできます。

1)商品在庫を担保に差し入れた借入金を、製品売上として計上する
2)とある新製品の研究開発パートナーから拠出してもらった資金を、役務収益として計上する。→本件では、前受金(負債)扱いとするのが適切だった。

また、現金流入は、費用の取り消しでも発生します。これを、費用のマイナスとせずに、収益とする方法でも売上を架空に作り上げることができます。

3)キャッシュ・リベートの入金分を収益として計上する
4)返品や値引き相当額を収益として計上する

3)は、仕入先への現金支払いを遅くするため、リベートを棚卸資産の購入価額に上乗せして余分に支払う際、その金額は原価の調整額とすべきところ、仕入先に現金を前渡ししておいて、現金が返還された時に、収益と計上する悪知恵を意味しています。

4)は、仕入先の誤出荷やその他の調達トラブルに伴う値引き分が、実際には現金回収されないことをいいことに、仕入額のマイナスとせずに、収益として計上することを意味しています。

④ 適切な取引であるが、金額を水増しして収益を計上する
この種の取引は、
1)収益の認識に不適切な方法を採用する
2)会社を実際より大きく見せるために収益をグロスアップする
ことによってもたらされます。

1)収益の認識に不適切な方法を採用
とあるコンサルティング・サービス会社が、学校法人の予算をマネジメントする契約を結びました。その総額が1000万円として、これを950万円に節約した差額の50万円がこの会社の利益となるものでした。この時、このコンサル会社は1000万円の方を、自社の売上としました。

2)大きな会社に見せかけるために収益をグロスアップする
棚卸資産を製造又は購入して顧客に売る主体は、「プリンシパル」として、その取引額の総額(グロス)を、自社の売上に計上しても通常は問題ありません。しかし、その取引を仲介するだけの「エージェント」、例えば、不動産屋、オークション会社、旅行代理店などは、通常、棚卸資産を売ったり、所有したりせずに、買主と売主の間に立って、その売買取引を成立させるお手伝いをして、その手間賃(失礼しました、手数料です)を自社の収益とみなします。

手数料の計算方法は、買主が支払う代金から売主が要した原価を差し引いたもの(ネット:正味価額)であることが通常です。IFRSを導入した日本の総合商社の売上額が、日本基準を採用していた時に比べてガクンと落ちたことはこの考えによるものです。つまり、エージェントは、その売買取引において、自社で在庫責任を負いません。

したがって、いかに2つの売買契約書(売主⇔商社、商社⇔買主)の当事者となったとしても、経済実態的には、売主⇔買主の売買取引の仲介をしただけなので、その差額を手数料としてカウントするだけとなります。まあ、この場合、利益額はグロスでもネットでも変わらないのですが、グロスで収益を計上した場合、会社の取引規模(売上規模)を経済実態以上に大きく見せることができます。

同じことは、EC取引のインフラを提供している楽天でも言えます。楽天に出店している店子の売上の総額が楽天の売上なのか、それとも、店子からの家賃(正確には手数料)を売上金額とするべきか、ということになります。

最後に、このグロスによる自社を大きく見せたい病には副作用があります。たとえ会計基準でグロス計上が認められたとしても、例えば「売上高利益率」「総資産回転率」といった収益性指標や効率性指標を悪く見せることになってしまうのです。悪知恵が働く人は、自分で掘った落とし穴にも自分ではまりやすくなります。ご用心を!




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