■ 大塚HDの2015年問題 - エビリファイ特許切れ
大塚HDが、全世界で5700億円を稼ぎ出し、全社売上の約40%にのぼるエビリファイの特許切れに対応すべく、中枢神経系の新薬パイプラインの拡充へ米ベンチャーを買収することを発表しました。
「大塚ホールディングス(HD)は2日、米製薬ベンチャーのアバニアファーマシューティカルズ(カリフォルニア州)を買収すると発表した。買収額は35億3900万ドル(約4200億円)。アバニアは認知症関連の有力な新薬候補を持つ。大塚HDは大型薬の特許切れを控え、高齢化で世界的に需要が高まる認知症薬を増やす。新薬候補獲得を狙った製薬大手の企業買収が過熱している。」
2014/12/3付 |日本経済新聞|朝刊
大塚HD、米製薬を買収 4200億円 新薬候補の確保急ぐ(1面)
2014/12/3付 |日本経済新聞|朝刊
大塚HD、認知症に照準 米製薬買収 特許切れに危機感(14面)
ブロックバスター利益をもたらしていた「エビリファイ」無き後、新薬上市までエアポケットが生じてしまう大塚HD。2014/8/26に発表した「第2次中期経営計画」でも、売上・利益ともに、中計最終年度の2018年は、2013年実績並み、と現状を維持する計画になっています。
■ M&AならぬM&Dの成功確率は
企業成長や多角化の深化のために、「M&A(合併と買収:Mergers & Acquisitions)」という手段がとられ、「時間を買う」と表現されますが、こと医薬品業界など、イノベーティブに新製品を常に世に送り出さなければならない業界では、「M&A」と「R&D(研究開発:Research & Development)」をもじって、「M&D」という造語が飛び交うほど、研究開発にかかる時間と手間を一瞬でお金で解決する経営手法が盛んになっています。
しかし、既に収益モデルが確立されている既存ビジネスを買うのではなくて、あくまでR&Dにかかる時間を買っているにすぎないので、その買収には大きなリスクが伴います。
そのリスクの大きさの証拠に、この買収発表を受けて、大塚HDが格下げされました。
2014/12/4付 |日本経済新聞|朝刊
(短信)R&I、大塚HDを「ネガティブ」に変更
「格付投資情報センター(R&I)は3日、大塚ホールディングスの発行体格付け(ダブルAマイナス)の方向性を「安定的」から「ネガティブ」に変更した。R&Iは大塚HDが約4200億円で買収を決めた米製薬ベンチャー、アバニアファーマシューティカルズは赤字が続き利益貢献が見込みにくいと指摘。「中期的に十分な収益を確保できるか不透明」としている。」
■ ニューデクスタ(上市品)と後期開発品AVP-786の利益貢献度はいかに?
それでは、公表されているデータを使って、4200億円の買収がどういう結果をもたらすと、大塚HDの意図通りとなるのでしょうか。その臨界値を探ってみたいと思います。
試算の前提条件は下記の通りです。
① FY13のアバニアのF/Sにおける利益とキャッシュフローの相関が継続する
② 2016年からFCFがプラスに転じるような収益成長を仮定する
③ 買収資金は手元資金を充当するため、新規の借り入れは無い
まず、アバニア社の試算用F/Sを求めます。
FY13実績はForm-10Kから、P/LとC/Fの数字を拾ってきました。
・商品・サービス売上は前年対比50%の成長
・商品・サービス原価率はFY13の94.5%に固定
・ロイヤリティ収入額はFY13から一定
・R&D費用と販売費は前年対比10%増加するが、管理費はFY13から一定
・支払利息及び税金費用はFY13から一定
・純利益と営業CFのFY13の相対比率をFY14以降に適用
・投資CFは前年対比15%増加
アバニア社買収のプレスリリースで、「アバニア社のキャッシュフロー貢献はFY16から」とあったので、丁度アバニア社のFCFがFY16で黒字転換するのが前年5割増しの売上成長線だったので、これを採用しました。
第二次中期経営計画の終了年度がFY18なので、向こう5年間の予想P/L、C/Fにしてあります。この中計では、エビリファイに代わって、中枢神経系の新薬で約1800億円の売上を目指しています。現在、上市ずみの「ニューデクスタ」が年率5割増しで成長したとしても、110円/ドルで換算すると、FY18で、592億円。目標の約3割はこの「ニューデクスタ」で目論んでいるのでしょうか。
■ キャッシュフローはどうなっているでしょう?
それでは、買収資金:35億3900万ドルは、現中計が終了する時点でどこまで回収されているでしょうか?
ちょっとこれでは割が合わないですね。おそらく、次期中計には現在パイプラインに入っている開発品の収益化が促進するという見込なのでしょう。現中計完了までには、買収資金は回収しきれないようです。
これでは格付けが下がっても仕方がないですね。
しかし、筆者は、随分前に、大塚HDのマネジメントの方に短い時間ですが、お話を聞く機会があり、大塚HD(当時はまだホールディングズではありませんでしたが)の伝統として、売れないからといって軽率に販売中止は行わない、収益化するまで市場に投入し続けるDNAが存在するのだと伺ったことがあります。
そうですね、大塚といえば、ロングセラー品が多いですよね。
- オロナインH軟膏(1953年~)
- オロナミンCドリンク(1965年~)
- ボンカレー(1968年~)
- ポカリスエット(1980年~)
売れるまで売る!
今回の新薬ベンチャー買収も成功することを祈念しております。
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