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■ 高ROE銘柄の10社を斬る!

経営管理会計トピック
前回」は、高ROEが維持される銘柄に投資すべき、という結論に至るまでのROE話でした。今回は、前回提示された高ROEの維持が見込まれる10社の財務指標を分析していきたいと思います。

2014/12/10付 |日本経済新聞|朝刊
一筋縄でない高ROE株  持続性と改善度に着目

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

下記に、前回提示した10社を再掲します。
ちなみに、この10社を選別した条件は次の通りです。
① 予想ROE上位20%
② 予想売上伸び率上位3分の1
③ 自己資本比率上位3分の1
④ 東証1部(金融除く)、10月末の時価総額3000億円上

会社   実績ROE (%) 決算期
カカクコム       40.4 2014/3期
エムスリー       28.3 2014/3期
日本ペイントHD       18.1 2014/3期
良品計画       17.0 2014/2期
エービーシー・マート       16.6 2014/2期
シスメックス       15.6 2014/3期
ツルハホールディングス       13.2 2014/5期
ファーストリテイリング       12.5 2013/8期
キーエンス       11.3 2014/3期
ファナック         9.7 2014/3期

■ 高ROEの維持を見分けるための3つの財務指標

「前回」、高ROEを維持できる会社の財務的特徴に3つあるとの説明がありました。
1.「売上高成長率」が高いこと
2.「自己資本比率」が高いこと
3.「売上高営業利益率」が高いこと
こう正々堂々と宣言してあるということは、この3つの指標は、ROEと強い相関関係にあるといっていることと同義です。そこで、相関関係がどれくらい強いかを図るために、①散布図を作成して、目で見て確認、②Excel関数「CORREL」で相関係数を求めてみる、という2つの方法で、それぞれの関係性の強さを確認したいと思います。
それでは順に、前章の10社をサンプルに使用して検証していきたいと思います。

■ ROEと売上高成長率

まず、売上成長率ですが、売上規模の違いを度外視できるように、直近の4期前の売上を100とした場合、現在どれくらい増加したか(120だったら、20%UPということ)という指数化して見てみます。
なお、以下の分析数値に関する注意点として、2つ。
キーエンスは、「「決算」について(1)- 会計期間と財務諸表との関係」で触れたとおり、第4期は、3ヵ月決算+6か月決算の合計にしてあります。
ファーストリテイリングは、第4期以降は、IFRSで作成された財務数値で、それ以前は日本基準です。また、第5期は、2014/8月期の数字を使っています。
経営管理会計トピック_売上高成長指数_数表
経営管理会計トピック_売上高成長指数_グラフ
5年で3倍以上になったエムスリーから、直近は2期連続減収のファナックまでありますが、全体の傾向としては、成長企業が選択されていることが分かります。
それでは、今度は、「単年度売上成長率(対前年比較の成長率)」と、ROEの相関を散布図でご覧いただきます。
経営管理会計トピック_売上高成長率とROE_数表
経営管理会計トピック_売上高成長率とROE_グラフ
全体の印象は、プロットされている点がごちゃっとまとまっており、個別企業をそれぞれ見ても、何か法則性があるようには見えてきません。「売上成長率」と「ROE」に正の相関(どっちかが増えたら相手も増える)があれば、散布図から右肩上がりの直線が見えてくるのですが。。。
ちなみに、Excelの「CORREL」関数で相関係数を計算してみると、「0.55」で、やや弱い相関がある、との結果が得られました。
このことから、過去トレンドから売上成長率の高い企業を選んだとしても、高ROEの維持または上昇が見込めるかは懐疑的です。

■ ROEと営業利益率

次に、営業利益率とROEの関係性を、同じく散布図をじっと眺めて、分析してみます。
経営管理会計トピック_営業利益率とROE_数表
経営管理会計トピック_営業利益率とROE_グラフ
こちらは、逆に、個別の企業の5か年の軌跡をそれぞれ眺めていると、関係性が強い企業もあることが分かります。
営業利益率が上昇するにしたがって、ROEも上昇していっている企業は、
ツルハホールディングス、日本ペイント、シスメックス、ファナック、キーエンスの5社。
規模の拡大に伴って、営業利益率が低下するに比例して、ROEも下降していっている企業は、
ファーストリテイリング、エービーシー・マートの2社。
2つの指標間にあまり相関関係が感じられないのが、軌跡が迷走している、またはほぼ垂直になっている、
良品計画、エムスリー、カカクコムの3社。
個別企業に限ってみると、営業利益率とROEの増減に相関関係がある企業は少なくないことが分かります。ちなみに、全体の相関係数をExcel関数で算出すると、「0.50」。上述の売上成長率のケースよりもROEに対する相関係数は小さくなりました。
ここが、統計的手法の限界なのですが、全体としては相関関係が弱くなっているが、個別の企業に着目して分析すると、強い相関がみられることがあります。全産業→業種/業界→個別企業、の順に必ず財務数字を確認していくクセを付けていくことをお勧めします。
このことから、統計的には例外が存在することを排除できないものの、個別の企業を取り出して見てみると、強い関連性を持つことがある、といえそうです。

■ ROEと自己資本比率

3つ目の、自己資本比率とROEの関係性ですが、散布図から全体または個社の分布を眺めても、何ら法則性があるように見受けられません。
経営管理会計トピック_自己資本比率とROE_数表
経営管理会計トピック_自己資本比率とROE_グラフ
また、Excel関数で相関係数を算出すると、「-0.18」。これは、この2つの指標はほぼ無関係であることが統計的にも明らかであることを意味します。
前回、もっともらしく「高い自己資本比率は、景気変動に耐性があり、自己変革の余資がある分、高ROEが維持しやすい」という論説がありましたが、提示されたサンプルでは、そのことを証明することができませんでした。

■ エムスリーのROE推移を凝視してみる

営業利益率の分析の際に、営業利益率が漸減しているのに、左程ROEが変わらないエムスリーの軌跡が目についたので、エムスリーだけ深掘ってみます。
下記は、エムスリーのここ5か年のROE及びその関連指標の推移です。
(簡便化のため、B/S項目は平残ではなく、期末残を使っています)
経営管理会計トピック_エムスリー5か年ROE推移_数表
経営管理会計トピック_エムスリー5か年ROE推移_グラフ
念のため、ROE計算式のおさらいをしておきます。

ROE = ROS × STN × Leverage

ROS = 売上高当期純利益率 = 当期純利益 ÷ 売上高
STN = 総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産
Leverage = 財務レバレッジ = 総資産 ÷ 純資産(自己資本)

ここ5年、営業利益率が漸減しており、第5期はSTNも悪化しています。
その割には第5期のROE低下がそれ程でもなかったので、財務レバレッジを強化したのかと思いきや、Leverageはほぼ5か年の間変動なしでした。
消去法で、営業利益と当期純利益の間に何か起こったのだと思い、第5期のP/Lを見てみると、「段階取得に係る差益」が特別利益として10億円計上されていたため、当期純利益は前年対比で増益となっていることが分かりました。
「段階利益に係る差益」というのは、(投資)有価証券として元々保持していたとある銘柄の「株式」が、買い増しによって子会社株式とした時に、買い増しした際の時価で再評価されることで、資産価値が増えた分にあたります。
直接、キャッシュインフローがあったわけではないし、支配権を獲得するために買い増しすることで得られた利益なので、キャッシュに代えるために即売却することはないので、この評価益が利益になることには少々違和感があるのですが、IFRS的にもOKな会計処理なので、ここは抗っても仕方がありません。
さて、言いたいことは、次の2つです。

① 専門家の論説は、きちんと数値で検証されたものかどうか確認した方が良い
② 世の中の統計的手法というのは、ガウシアン統計といって、平均値を扱うものなので、そもそも外れ値(異常値)を探し当てるのには不適切である

投資家が銘柄を探すとき、経営者が卓越した経営管理を試みるとき、探しに行くのは、または目指すのは、そもそも外れ値(異常値)ですよね。
財務分析する際の基本的な心構え的な結論になってしまいました。ご参考にしていただければと思います。

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小林 友昭とことんROE■ 高ROE銘柄の10社を斬る! 「前回」は、高ROEが維持される銘柄に投資すべき、という結論に至るまでのROE話でした。今回は、前回提示された高ROEの維持が見込まれる10社の財務指標を分析していきたいと思います。 2014/12/10付 |日本経済新聞|朝刊 一筋縄でない高ROE株  持続性と改善度に着目 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 下記に、前回提示した10社を再掲します。 ちなみに、この10社を選別した条件は次の通りです。 ① 予想ROE上位20% ② 予想売上伸び率上位3分の1 ③ 自己資本比率上位3分の1 ④ 東証1部(金融除く)、10月末の時価総額3000億円上 会社   実績ROE (%) 決算期 カカクコム       40.4 2014/3期 エムスリー       28.3 2014/3期 日本ペイントHD       18.1 2014/3期 良品計画       17.0 2014/2期 エービーシー・マート       16.6 2014/2期 シスメックス       15.6 2014/3期 ツルハホールディングス       13.2 2014/5期 ファーストリテイリング       12.5 2013/8期 キーエンス       11.3 2014/3期 ファナック         9.7 2014/3期 ■ 高ROEの維持を見分けるための3つの財務指標 「前回」、高ROEを維持できる会社の財務的特徴に3つあるとの説明がありました。 1.「売上高成長率」が高いこと 2.「自己資本比率」が高いこと 3.「売上高営業利益率」が高いこと こう正々堂々と宣言してあるということは、この3つの指標は、ROEと強い相関関係にあるといっていることと同義です。そこで、相関関係がどれくらい強いかを図るために、①散布図を作成して、目で見て確認、②Excel関数「CORREL」で相関係数を求めてみる、という2つの方法で、それぞれの関係性の強さを確認したいと思います。 それでは順に、前章の10社をサンプルに使用して検証していきたいと思います。 ■ ROEと売上高成長率 まず、売上成長率ですが、売上規模の違いを度外視できるように、直近の4期前の売上を100とした場合、現在どれくらい増加したか(120だったら、20%UPということ)という指数化して見てみます。 なお、以下の分析数値に関する注意点として、2つ。 キーエンスは、「「決算」について(1)- 会計期間と財務諸表との関係」で触れたとおり、第4期は、3ヵ月決算+6か月決算の合計にしてあります。 ファーストリテイリングは、第4期以降は、IFRSで作成された財務数値で、それ以前は日本基準です。また、第5期は、2014/8月期の数字を使っています。 5年で3倍以上になったエムスリーから、直近は2期連続減収のファナックまでありますが、全体の傾向としては、成長企業が選択されていることが分かります。 それでは、今度は、「単年度売上成長率(対前年比較の成長率)」と、ROEの相関を散布図でご覧いただきます。 全体の印象は、プロットされている点がごちゃっとまとまっており、個別企業をそれぞれ見ても、何か法則性があるようには見えてきません。「売上成長率」と「ROE」に正の相関(どっちかが増えたら相手も増える)があれば、散布図から右肩上がりの直線が見えてくるのですが。。。 ちなみに、Excelの「CORREL」関数で相関係数を計算してみると、「0.55」で、やや弱い相関がある、との結果が得られました。 このことから、過去トレンドから売上成長率の高い企業を選んだとしても、高ROEの維持または上昇が見込めるかは懐疑的です。 ■ ROEと営業利益率 次に、営業利益率とROEの関係性を、同じく散布図をじっと眺めて、分析してみます。 こちらは、逆に、個別の企業の5か年の軌跡をそれぞれ眺めていると、関係性が強い企業もあることが分かります。 営業利益率が上昇するにしたがって、ROEも上昇していっている企業は、 ツルハホールディングス、日本ペイント、シスメックス、ファナック、キーエンスの5社。 規模の拡大に伴って、営業利益率が低下するに比例して、ROEも下降していっている企業は、 ファーストリテイリング、エービーシー・マートの2社。 2つの指標間にあまり相関関係が感じられないのが、軌跡が迷走している、またはほぼ垂直になっている、 良品計画、エムスリー、カカクコムの3社。 個別企業に限ってみると、営業利益率とROEの増減に相関関係がある企業は少なくないことが分かります。ちなみに、全体の相関係数をExcel関数で算出すると、「0.50」。上述の売上成長率のケースよりもROEに対する相関係数は小さくなりました。 ここが、統計的手法の限界なのですが、全体としては相関関係が弱くなっているが、個別の企業に着目して分析すると、強い相関がみられることがあります。全産業→業種/業界→個別企業、の順に必ず財務数字を確認していくクセを付けていくことをお勧めします。 このことから、統計的には例外が存在することを排除できないものの、個別の企業を取り出して見てみると、強い関連性を持つことがある、といえそうです。 ■ ROEと自己資本比率 3つ目の、自己資本比率とROEの関係性ですが、散布図から全体または個社の分布を眺めても、何ら法則性があるように見受けられません。 また、Excel関数で相関係数を算出すると、「-0.18」。これは、この2つの指標はほぼ無関係であることが統計的にも明らかであることを意味します。 前回、もっともらしく「高い自己資本比率は、景気変動に耐性があり、自己変革の余資がある分、高ROEが維持しやすい」という論説がありましたが、提示されたサンプルでは、そのことを証明することができませんでした。 ■ エムスリーのROE推移を凝視してみる 営業利益率の分析の際に、営業利益率が漸減しているのに、左程ROEが変わらないエムスリーの軌跡が目についたので、エムスリーだけ深掘ってみます。 下記は、エムスリーのここ5か年のROE及びその関連指標の推移です。 (簡便化のため、B/S項目は平残ではなく、期末残を使っています) 念のため、ROE計算式のおさらいをしておきます。 ROE = ROS × STN × Leverage ROS = 売上高当期純利益率 = 当期純利益 ÷ 売上高 STN = 総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産 Leverage = 財務レバレッジ = 総資産 ÷ 純資産(自己資本) ここ5年、営業利益率が漸減しており、第5期はSTNも悪化しています。 その割には第5期のROE低下がそれ程でもなかったので、財務レバレッジを強化したのかと思いきや、Leverageはほぼ5か年の間変動なしでした。 消去法で、営業利益と当期純利益の間に何か起こったのだと思い、第5期のP/Lを見てみると、「段階取得に係る差益」が特別利益として10億円計上されていたため、当期純利益は前年対比で増益となっていることが分かりました。 「段階利益に係る差益」というのは、(投資)有価証券として元々保持していたとある銘柄の「株式」が、買い増しによって子会社株式とした時に、買い増しした際の時価で再評価されることで、資産価値が増えた分にあたります。 直接、キャッシュインフローがあったわけではないし、支配権を獲得するために買い増しすることで得られた利益なので、キャッシュに代えるために即売却することはないので、この評価益が利益になることには少々違和感があるのですが、IFRS的にもOKな会計処理なので、ここは抗っても仕方がありません。 さて、言いたいことは、次の2つです。 ① 専門家の論説は、きちんと数値で検証されたものかどうか確認した方が良い ② 世の中の統計的手法というのは、ガウシアン統計といって、平均値を扱うものなので、そもそも外れ値(異常値)を探し当てるのには不適切である 投資家が銘柄を探すとき、経営者が卓越した経営管理を試みるとき、探しに行くのは、または目指すのは、そもそも外れ値(異常値)ですよね。 財務分析する際の基本的な心構え的な結論になってしまいました。ご参考にしていただければと思います。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します