理論倒れのCVP分析。どっこい、期中の損益予測には使える理由とは?
「CVP分析(Cost-Volume-Profit Analysis)」「損益分岐点分析(break-even point Analysis, BEP- Analysis)」は、ある程度、変動費比率と固定費が決まっている時、言い換えるなら、期末の目指すべき着地点損益を達成するために、期中の販売数量や販売金額(販売単価)の見込を元に、変動費比率と固定費発生額をコントロールするためのツールとして使用します。
特に、損益トントンとなる「損益分岐点売上高(売上数量)」「ブレーク・イーブン・ポイント(BEP)」を常に意識しながら、右手でコスト発生高、左手で販売数量を同時に測ることで、目標利益の達成を目指します。
その損益分析は、コストを変動費と固定費に分解することで、
① 与件となる売上高、変動費比率、固定費発生額からBEPを一点に探し当てる
② 目標となる利益を達成するために、売上高、変動費比率、固定費発生額のいずれが2つから残りのひとつの値を探し当てる
ことを可能にします。
以下に、CVP分析が有効であるための条件を挙げます。
(1)CVP分析モデルが確定モデルである
将来の企業活動によって生じる収益および費用は、確実に予測できること。
→モンテカルロ法や、リアルオプション法などを使用した統計確率的なシミュレーション手法ではない。
(2)CVP分析モデルは1次関数モデルである
CVPの関係は線形モデル(1次関数モデル)が維持されていること。
→正常操業度の範囲内においては、製品一単位当たりの販売単価、原価単価は一定であるとの仮定を置く。すべての売上やコストは直線で図示される。
(3)原価計算は「直接原価計算」の採用を仮定する
コストは、営業活動量の増減に比例的に発生する「変動費」と、営業活動量の大小を問わず一定額のみ発生する「固定費」とに2分されること。
→全部原価計算における在庫増減の影響がない(生産量と販売量が同じ)という仮定をおく。
上記の前提条件の3つ全てを満たすのは、おそらく、継続的なビジネスを営む企業の単年度損益予算管理の範疇ではないかと筆者は推測しています。
① 目標利益が年度予算から与えられていること
② 来期予算立案のため、標準原価(予定原価)計算制度から、変動費比率情報が得られること
③ キャパシティコストなど、年間の固定費発生額はある程度の幅で予測可能であること
それゆえ、本テンプレートは、年度予算を元に、期中の想定外の4つの変数の変化を入力していくことで、年度末の損益予測を直ちに割り出すことを目的として使用します。それは、すなわち、年度損益予算達成のため、4つの変数のどれが未達原因なのか、あるいはどこを操作すれば目標達成に近づけるのか、示唆を得ること目的としているとも言えます。
CVP分析による損益シミュレーションの計算構造とは?
まず、売上高(営業収益)を「金額」で把握するか、「数量」で把握するかでシミュレーションモデルの組立方法が異なります。
「金額ベース」
売上高 = 変動費比率 × 売上高 + 固定費 + 利益
= 変動費 + 固定費 + 利益
「数量ベース」
売上単価 × 売上数量 = 変動費単価 × 売上数量 + 固定費 + 利益
このExcelテンプレートは、「数量ベース」で作られていますが、「金額ベース」として使用したい方にも入力を工夫して頂ければお使い方頂けるようにしています。
このテンプレートの使い方
「入力シート」
このシートに、月別に、予算値や見込値を事前に分かる範囲で入力してください。入力箇所は、ベージュ色でハッチングがかかった次の4つのセルです。
① 販売数量
② 販売単価
③ 変動費単価
④ 固定費(月別)
「金額ベース」でしか営業量(売上高)が捉えることができない場合、
「販売数量」には、「販売金額」や「売上高」を入力してください。
「販売単価」には「1」を入力してください。
「変動費単価」には「売上高変動費比率」を入力してください。
そうすることで、金額ベースでもこのExcelテンプレートを使って期末着地点損益予測を行うことができます。
ただし、入力シートにある「BEP台数」は、必ず「BEP売上高」と同値となり、「安全余裕率-台数 (%)」は、必ず「安全余裕率-金額 (%)」と同値となり、2項目の違いが出ることはありません。また、グラフシートの「台数ベース」は、「金額ベース」と同じものを表示するようになります。
「グラフシート」
このシートは、「入力シート」で入力された情報を可視化したグラフを2つ表示するものです。グラフは、Excelの基本グラフ描画の中の「散布図」を使用しています。「散布図」の作り方や数字の拾い方をトレースできるように、各グラフの左側に、グラフ元数字を列挙してあります。ご参考ください。
このテンプレートによる実践的な損益予測の方法
年度予算策定
期初の年度損益予算を立案する際に使用する場合、12ヶ月トータルの目標売上高しか分からず、変動費率も固定費も年度一本数値しかない場合、下表のような入力がお勧めです。
上記のケースでは、年間売上高予算が「3600」、年間予算販売数量が「120」、変動費単価が「5」、年間固定費が「1200」であると分かっている時の入力方法になります。
経過月の実績値から期末損益を予想
将来予測値や見込値が全く入手できなかったり、見込精度が悪くて信頼できなかったりした場合、過去実績値の平均値で残月の予想値を自動で算出し、年度末着地点損益を予想します。
上記のケースでは、6月までの実績が分かっているものとしています。「販売単価」と「変動費単価」は、4~6月の3ヶ月の加重平均値(販売数量で重みづけされた月別の単価の平均値)を求め、7月以降の残り9ヶ月の値として算出しています。固定費は、算術平均値を12倍して年間合計値に変換しています。
経過月の実績値+残月の月別予算値から期末損益の見通しを立てる
将来予測値や見込値が全く入手できなかったり、見込精度が悪くて信頼できなかったりした場合、過去実績値と未経過月の月別予算の合算値で期末損益の見通しを立てます。積極的に、将来予測をすることが実力的にできない、予算や目標値を重視する管理手法を採る場合に多く見られる方法です。
上記のケースでは、4~6月は実績値、7月以降は月別予算が入力されています。
各変数をバラバラに予測した結果を統合して期末損益を予想
将来予測値や見込値を求める際、月別に揃っていないといけないという思い込みが強い企業がまだまだ多いようです。営業部門は、期末まで月別の販売数量予測値を持っていても、工場はせいぜい向こう3ヶ月のコスト見通ししか持っていないかもしれません。月別に揃っていなくても、Excelシートに組んである「加重平均」「算術平均」機能で、期末着地点損益を算出することが可能です。
上記のケースでは、販売見込は年度末まで、変動費見込は9月まで、固定費は6月実績までしか把握できていないものをサンプルとして表示しています。
ここで「安全余裕率」の見方の留意点をひとつ。
安全余裕率 = (売上高 - 損益分岐点売上高)÷ 売上高 × 100
上記のケースの様に、「販売数量」「販売単価」「変動費単価」の月別予測値が揃っていない場合、「安全余裕率-台数 (%)」と「安全余裕率-金額 (%)」は異なる数値を示すようになっています。残月の限界利益率(売上高に占める変動費の割合)と限界利益単価(台当たりの限界利益)に違いが出ることがその理由です。予想や見通しの精度を比較し、どちらのほうが当たるか、もしくは低い方を採用して保守的な損益予想を立てるか、使用目的に沿って使い分けてください。
使用方法や解説はこちらから。ダウンロードはこの記事の最下部のボタンから。
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