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■ 1株利益の予想値の計算方法が変わります

経営管理会計トピック
日本経済新聞社は、2015年1月26日から、「予想1株利益」の算出方法を変更することがアナウンスされました。

2015/1/14|日本経済新聞|朝刊
予想1株利益の算出法、26日から変更 「発行済み」から自社株除外 市場の実勢などを反映

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日本経済新聞は26日から、「予想1株利益」の算出方法を「自社株を除く発行済み株式数ベース」に変更します。現在は自社株を含めた株式数を使っていますが、より市場の実勢や企業の情報開示の実態に近づけます。予想1株利益が変わることで、PER(株価収益率)などの投資指標も従来の数値から変動する可能性があります。」
まず、どこの何が変わるのかの整理をし、そして、その変更の背景にある会計的な考え方について、筆者なりの補足説明をさせていただきたいと思います。

■ これまでは1株利益の「実績値」と「予測値」で計算方法が異なっていました

まず計算式から。従来は下記の通り。

1株利益(実績値)= 純利益 ÷ (発行済み株式数 - 自己株式数)
1株利益(予想値)= 純利益 ÷ (発行済み株式数)

※(発行済み株式数 - 自己株式) = (株式市場で実際に売買されている株式数)

これを、「予測値」についても、「実績値」と統一することになりました。

1株利益(予想値)= 純利益 ÷ (発行済み株式数 - 自己株式数)
つまり、従来の「1株当たり●●」という指標や計算において、使用する「株式数」の定義を、「株式市場で実際に売買されている株式数」に統一するということです。
これまでの、どういった指標や、報道が変わるのか、変更点は以下の通り。
<変更箇所>
・朝夕刊のマーケット関連情報
・朝夕刊の決算特集
・日経電子版の個別銘柄データ欄
・金融情報会社QUICKの提供データ
・日本経済新聞デジタルメディアなどグループ各社が提供するサービス
<変更対象指標>
・1株利益(予測値)
・市場平均PER(株価収益率): 株価 ÷ 1株利益
・市場平均PBR(株価純資産倍率): 株価 ÷ 1株当たり純資産
・加重平均の配当利回り: 単純平均利回りに上場株式数によるウエイトを付けたもの
 →単純平均配当利回り: 1株当たり平均配当金 ÷ 単純株価平均 × 100
(新聞記事では、「など」といっているので、これ以外に変更されるものがあるかも。。。)
<不変の指標>
・時価総額: 株価 × 発行済み株式数
以下に、新聞記事に掲載されていたチャートを、ご参考まで、転載します。
経営管理トピック_予想1株利益の算出方法の変更

■ 変更される理由の背景にある会計的な考え方

日本経済新聞社は、上記のような変更理由について、いったん買い戻された「自社株式」が株式市場に再放出されるケースが少ないことを挙げています。
「本紙では、1株利益の実績値については自社株を除いた株式数で算出していますが、予想値は自社株を含めていました。自社株は買い戻された後も企業がいわゆる「金庫株」として保有し、再び放出(売り出し)される可能性が残るからです。
 しかし、実際には再放出の事例が少ないうえ、最近ではそのリスクを完全になくすために企業の間で消却処分に踏み切る動きが広がっています。企業の情報開示でも自社株を除いた発行済み株式数を使うのが標準となりつつあります。
 発行済み株式数から自社株を除き、自社株買いの効果を利益指標に反映させる計算は世界でも趨勢となっており、本紙でも算出方法を改めることにしました。」
さらに、「時価総額」の計算については、従来通りの計算方法を維持する理由は次のように述べています。
「一方、時価総額については自社株を含む従来通りの計算方法を維持します。世界の取引所や市場参加者の間で自社株を除く計算が主流とはいえないためです。」
まあ、日本を代表する経済紙がお決めになられたことなので、多少のちぐはぐは、世界標準に合わせる、ということで、是認せざるを得ないようです。
今回の変更理由については、
「株式市場で実際に売買され得る株式数」で予想値を算出していたが、「得る」ではなく、
「株式市場で実際に売買されている株式数」→「いる」に変更した、ということです。
しかしながら、「金庫株」をストックオプションや株式交換などで使用するケースは皆無ではなく、むしろ積極的に活用している会社もあるので、こうした指標のユーザは、分析対象の会社数字については、自分の手で検算してみることも大事かもしれません。

■ (補足説明1)株式数の変動について

基礎知識の補足説明をして今回の投稿は終わりにしたいと思います。
会社法によって、その会社が発行することのできる株式総数というのは、「定款(その会社の基本的なルール)」に、「発行可能株式総数(授権株式数)」として記載することになっています。
この範囲内において、取締役会が機動的に、いつでも新株発行ができる制度になっています。
この枠が定められているのは、
① 際限なく新株発行がなされることで、1株利益の希薄化(ダイリューション)が起こって、既存株主の利益が損なわれることを防ぐ
② 一方で、経営者がビジネス動向をにらんで、迅速に必要な時に資金調達できるようにする(いちいち株主総会を開いて決議をとっていられないから)
という理由からです。
ライブドア・村上ファンド騒動時に、敵対的買収防衛策として、善意の第三者?(ホワイトナイト)に新株を割り当てて、自己の経営権を守るため、この授権株式数を大幅に増やす提案が、株主総会で次々と否決されたことが、今となっては懐かしく思えます。
「授権株式数」の範囲内で、株式が市場で公募されたり、すでに発行済みの株式が売出しされたりして、実際に株式市場で売買されている株式数が「発行済み株式数」といいます。
株式市場において、発行会社自身が自社の株式を買うことは、目的・数量の制限がありつつも従来から認められていましたが、2001年の旧商法改正で、
① 自己株式取得の「目的規制」「数量規制」を撤廃
② 自己株式の「処分義務」も廃止
され、原則禁止(規制)から、配当可能利益の範囲内であれば定時株主総会の決議で自由にできる、という方向転換がなされて、現在に至ります。
この「処分義務」が廃止されたことで、株式市場から発行会社が買い戻した株式をそのまま保有し続ける、いわゆる「金庫株」というものが認められ、発行会社の資本政策(ストックオプションや株式交換など)に応じて再び株式市場で流通させたり、完全に消滅させる→「自己株の消却」を選択したりすることができるようになりました。
経営管理会計トピック_授権株式数からの分類

■ (補足説明2)自己株式の変動について

自己株式を取得した場合は、貸借対照表の貸方、「株主資本」のマイナスとして計上しておきます。
(2001年の改正で、「資本の控除説」が採用)
経営管理会計トピック_自己株式の計上方法
① 自己株式は、保有している間は、株式市場で流通せず、発行会社が保有したままになります。株式市場で買い取ってそのままにしている状態から、買い取った株券を金庫にしまっておく様子になぞらえて、「金庫株」と称したりします。
「金庫株」は、「そのまま」か、「放出」か、「消却(なかったものにする)」されます。
②「金庫株」の「放出」
とある会社を買収する際に、現金で買うのではなく、この金庫株を買収先の企業の持ち主に手渡すことで、再び「株式市場」に復帰します。
経営管理会計トピック_自己株式の放出
③「金庫株」の「消却」
貸借対照表から、金庫株の取得金額に相当する「資本の控除額」を、「控除」ではなく、純額で株主資本をその分だけ減らす手続きをします。減らし先は、「その他の資本剰余金」です。なぜなら、「資本と利益の区別の原則」から、この取引は「資本取引」とみなされるからです。あくまで、損益取引ではなく、会社と出資者である株主間の投資金額のやり取りという認識です。
経営管理会計トピック_自己株式の消却
ただし、実務上、資本剰余金が消却したい金庫株より金額が僅少な場合、その不足分を利益剰余金から持ってきます。
また、ただし、金庫株の消却にあたって、付随費用が発生した場合は、損益計算書の営業外費用に計上します。
(これら、「ただし、、、」というのがあるから、会計というものは、原理原則に忠実なのか、融通無碍なのか、判断に困ります)
補足説明の方が、くどくなりましたが、2015年1月26日からの、関連指標の変動にはご注意ください。

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小林 友昭実務で会計ルールをおさらい■ 1株利益の予想値の計算方法が変わります 日本経済新聞社は、2015年1月26日から、「予想1株利益」の算出方法を変更することがアナウンスされました。 2015/1/14|日本経済新聞|朝刊 予想1株利益の算出法、26日から変更 「発行済み」から自社株除外 市場の実勢などを反映(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「日本経済新聞は26日から、「予想1株利益」の算出方法を「自社株を除く発行済み株式数ベース」に変更します。現在は自社株を含めた株式数を使っていますが、より市場の実勢や企業の情報開示の実態に近づけます。予想1株利益が変わることで、PER(株価収益率)などの投資指標も従来の数値から変動する可能性があります。」 まず、どこの何が変わるのかの整理をし、そして、その変更の背景にある会計的な考え方について、筆者なりの補足説明をさせていただきたいと思います。 ■ これまでは1株利益の「実績値」と「予測値」で計算方法が異なっていましたまず計算式から。従来は下記の通り。 1株利益(実績値)= 純利益 ÷ (発行済み株式数 - 自己株式数) 1株利益(予想値)= 純利益 ÷ (発行済み株式数) ※(発行済み株式数 - 自己株式) = (株式市場で実際に売買されている株式数) これを、「予測値」についても、「実績値」と統一することになりました。 ↓ 1株利益(予想値)= 純利益 ÷ (発行済み株式数 - 自己株式数) つまり、従来の「1株当たり●●」という指標や計算において、使用する「株式数」の定義を、「株式市場で実際に売買されている株式数」に統一するということです。 これまでの、どういった指標や、報道が変わるのか、変更点は以下の通り。 <変更箇所> ・朝夕刊のマーケット関連情報 ・朝夕刊の決算特集 ・日経電子版の個別銘柄データ欄 ・金融情報会社QUICKの提供データ ・日本経済新聞デジタルメディアなどグループ各社が提供するサービス <変更対象指標> ・1株利益(予測値) ・市場平均PER(株価収益率): 株価 ÷ 1株利益 ・市場平均PBR(株価純資産倍率): 株価 ÷ 1株当たり純資産 ・加重平均の配当利回り: 単純平均利回りに上場株式数によるウエイトを付けたもの  →単純平均配当利回り: 1株当たり平均配当金 ÷ 単純株価平均 × 100 (新聞記事では、「など」といっているので、これ以外に変更されるものがあるかも。。。) <不変の指標> ・時価総額: 株価 × 発行済み株式数 以下に、新聞記事に掲載されていたチャートを、ご参考まで、転載します。 ■ 変更される理由の背景にある会計的な考え方日本経済新聞社は、上記のような変更理由について、いったん買い戻された「自社株式」が株式市場に再放出されるケースが少ないことを挙げています。 「本紙では、1株利益の実績値については自社株を除いた株式数で算出していますが、予想値は自社株を含めていました。自社株は買い戻された後も企業がいわゆる「金庫株」として保有し、再び放出(売り出し)される可能性が残るからです。  しかし、実際には再放出の事例が少ないうえ、最近ではそのリスクを完全になくすために企業の間で消却処分に踏み切る動きが広がっています。企業の情報開示でも自社株を除いた発行済み株式数を使うのが標準となりつつあります。  発行済み株式数から自社株を除き、自社株買いの効果を利益指標に反映させる計算は世界でも趨勢となっており、本紙でも算出方法を改めることにしました。」 さらに、「時価総額」の計算については、従来通りの計算方法を維持する理由は次のように述べています。 「一方、時価総額については自社株を含む従来通りの計算方法を維持します。世界の取引所や市場参加者の間で自社株を除く計算が主流とはいえないためです。」 まあ、日本を代表する経済紙がお決めになられたことなので、多少のちぐはぐは、世界標準に合わせる、ということで、是認せざるを得ないようです。 今回の変更理由については、 「株式市場で実際に売買され得る株式数」で予想値を算出していたが、「得る」ではなく、 「株式市場で実際に売買されている株式数」→「いる」に変更した、ということです。 しかしながら、「金庫株」をストックオプションや株式交換などで使用するケースは皆無ではなく、むしろ積極的に活用している会社もあるので、こうした指標のユーザは、分析対象の会社数字については、自分の手で検算してみることも大事かもしれません。 ■ (補足説明1)株式数の変動について基礎知識の補足説明をして今回の投稿は終わりにしたいと思います。 会社法によって、その会社が発行することのできる株式総数というのは、「定款(その会社の基本的なルール)」に、「発行可能株式総数(授権株式数)」として記載することになっています。 この範囲内において、取締役会が機動的に、いつでも新株発行ができる制度になっています。 この枠が定められているのは、 ① 際限なく新株発行がなされることで、1株利益の希薄化(ダイリューション)が起こって、既存株主の利益が損なわれることを防ぐ ② 一方で、経営者がビジネス動向をにらんで、迅速に必要な時に資金調達できるようにする(いちいち株主総会を開いて決議をとっていられないから) という理由からです。 ライブドア・村上ファンド騒動時に、敵対的買収防衛策として、善意の第三者?(ホワイトナイト)に新株を割り当てて、自己の経営権を守るため、この授権株式数を大幅に増やす提案が、株主総会で次々と否決されたことが、今となっては懐かしく思えます。 「授権株式数」の範囲内で、株式が市場で公募されたり、すでに発行済みの株式が売出しされたりして、実際に株式市場で売買されている株式数が「発行済み株式数」といいます。 株式市場において、発行会社自身が自社の株式を買うことは、目的・数量の制限がありつつも従来から認められていましたが、2001年の旧商法改正で、 ① 自己株式取得の「目的規制」「数量規制」を撤廃 ② 自己株式の「処分義務」も廃止 され、原則禁止(規制)から、配当可能利益の範囲内であれば定時株主総会の決議で自由にできる、という方向転換がなされて、現在に至ります。 この「処分義務」が廃止されたことで、株式市場から発行会社が買い戻した株式をそのまま保有し続ける、いわゆる「金庫株」というものが認められ、発行会社の資本政策(ストックオプションや株式交換など)に応じて再び株式市場で流通させたり、完全に消滅させる→「自己株の消却」を選択したりすることができるようになりました。 ■ (補足説明2)自己株式の変動について自己株式を取得した場合は、貸借対照表の貸方、「株主資本」のマイナスとして計上しておきます。 (2001年の改正で、「資本の控除説」が採用) ① 自己株式は、保有している間は、株式市場で流通せず、発行会社が保有したままになります。株式市場で買い取ってそのままにしている状態から、買い取った株券を金庫にしまっておく様子になぞらえて、「金庫株」と称したりします。 「金庫株」は、「そのまま」か、「放出」か、「消却(なかったものにする)」されます。 ②「金庫株」の「放出」 とある会社を買収する際に、現金で買うのではなく、この金庫株を買収先の企業の持ち主に手渡すことで、再び「株式市場」に復帰します。 ③「金庫株」の「消却」 貸借対照表から、金庫株の取得金額に相当する「資本の控除額」を、「控除」ではなく、純額で株主資本をその分だけ減らす手続きをします。減らし先は、「その他の資本剰余金」です。なぜなら、「資本と利益の区別の原則」から、この取引は「資本取引」とみなされるからです。あくまで、損益取引ではなく、会社と出資者である株主間の投資金額のやり取りという認識です。 ただし、実務上、資本剰余金が消却したい金庫株より金額が僅少な場合、その不足分を利益剰余金から持ってきます。 また、ただし、金庫株の消却にあたって、付随費用が発生した場合は、損益計算書の営業外費用に計上します。 (これら、「ただし、、、」というのがあるから、会計というものは、原理原則に忠実なのか、融通無碍なのか、判断に困ります) 補足説明の方が、くどくなりましたが、2015年1月26日からの、関連指標の変動にはご注意ください。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します