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増える独自の利益指標 「事業利益」「コア営業利益」 – 相対評価と絶対評価のいずれが優秀に見えるか、それが問題だ!

経営管理会計トピック_アイキャッチ実務で会計ルールをおさらい
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■ そもそも制度会計で財務諸表のフォーマットが定型化していることの意義とは?

光指すところ必ず影がある。右があれば左がある。今回は、財務諸表による企業業績の開示について、その二面性をひとくさししたいと思います。

2019/9/20 |日本経済新聞|朝刊 増える独自の利益指標 「事業利益」「コア営業利益」…本業の動向示す 比較しにくい難点も

「事業利益」や「コア営業利益」など独自の利益指標を開示する企業が増えている。「純利益」など会計基準に基づく利益と異なる指標で、国際会計基準(IFRS)を採用する企業で開示が目立つ。国際基準の採用企業のうち、独自指標を開示する企業は3割に上る。会社側は投資家に本業の利益動向を理解してもらうことを狙うが、他社と比較しにくいなど課題もある。

まず、公表用財務諸表の役割とは何でしょうか?
以下に、財務諸表の定義をその使用目的から説明したものを引用します。

財務諸表 投資家や債権者など企業の利害関係者への情報提供のために、一定の様式で企業の経営活動を貨幣価値で記録し、その財務的な状態を表す会計諸表(計算書類)。代表的なものは、貸借対照表(バランスシート)、損益計算書、利益処分計算書、付属明細書、キャッシュフロー計算書である。上場企業の場合、投資家はその公式な詳細を有価証券報告書という形で見ることができる。 (小山明宏 学習院大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵

つまり、上場企業は、その企業業績と財政状態を一般に公開したうえで、広く投資家・債権者から、エクイティファイナンス、デッドファイナンスを通じて資金調達をする際の説明責任を果たすためのツールとして公表用財務諸表を用いることになります。

その際に、投資家などの利害関係者が、投資検討対象となる企業の業績を、他の投資検討対象と相対的に有利か不利かを判断しやすくするために、「一般に公正妥当と認められた会計原則(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)」で統一した表示形態と、標準化した会計処理を前提に、比較可能性を重視した財務諸表の開示が求められているのです。

簡単な例でたとえると、トヨタ自動車が1000億円の売上総利益で、同じ会計期間で日産自動車が500億円の当期純利益だったとして、これだけの情報だと、いわゆる「Apple to Apple」ではないため、利益情報だけでは、投資の判断ができないというわけです(この数字は架空のものです、念のため)。

■ IFRS導入企業の思惑はどうだったのかを確認してみよう

次に、「国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)」を任意適用している企業が、IFRSを導入する際の理由付けについて確認していきます。

注:それにしても、IFRSの正式な日本語訳には「財務報告」という語が付きます。厳密には「国際会計基準(IAS:International Accounting Standards)」とは歴史と包含関係が異なるので(こっちの方が広義として使用される場合が多い)、日本の日刊紙も適切な日本語への翻訳をして頂きたいと常々感じています。^^;)

IFRSと日本基準の大きな差異として、

  1. のれんは定期償却をせずに減損テスト対象(日本基準ではそれプラスで20年以内の定期償却が義務付けられている)
  2. 6つの要件を満たせば研究開発費は資産計上(日本基準ではその発生期において原則全額費用処理)

の2つが良く取り上げられます。日本基準からIFRSへの移行については、本音のところでは、期間費用を圧縮してP/Lを開示できることになるメリットを享受したい導入企業もきっと多いのだろうなと思います。M&Aでオーガニックグロースを越えた成長を目指していたり、積極的なR&D投資をしていたりする企業は、IFRSへ移行しただけで、他の経済的要因が不変でも、開示される期間損益がより多額で表示されることになります。

一方で、「IFRS」という国際的な会計基準という物差しで、IFRS適用の国・地域で財務諸表を公開している海外企業と簡単に比較してもらえるので、いわゆる「外国人投資家」を呼び込むために、IFRSに移行したと発表している企業も多いのは確かです。海外機関投資家からすれば、IFRSで欧米企業や中国企業と日本企業が簡単に比較できるので、日本企業のIFRS導入はある程度は歓迎されてしかるべきとは思います。

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そうであるならば、折角、IFRSへの移行で手に入れた比較可能性を自らぶち壊しかねない次の企業行動に出るのはいったいどうしてでしょうか?

「日本経済新聞が8月末時点で国際基準を採用する上場企業204社を対象に調べた。直近期末の決算短信で算出方法が表示されている利益指標を「独自の利益指標」として集計したところ、開示企業は63社と3割を占めた。企業独自の指標は会計原則(GAAP)に基づかないとして、「ノン・ギャップ指標」とも呼ばれる。」(上記記事より)

(下記は同記事添付の「独自の利益指標の導入企業が増えている」を引用)

独自の利益指標の導入企業が増えている_日本経済新聞朝刊_20190920

まったく、IFRSへの移行で手に入れた比較可能性で、海外機関投資家からの評判を高めて、投資を仰いで資金調達を楽にしようとしたのに、みずからそのメリットを放棄するような「ノン・ギャップ指標」を用いて決算開示するのには首をかしげざるを得ないですね。

■ プロフォーマ利益をIRで用いる企業の真意を洞察してみよう

「プロフォーマ(Pro forma)」とは、形式上や見積もりを指します。財務会計においては、ある一定の仮定に基づき当該事業の財務情報を切り出したものを意味します。これは、M&Aの実務の中から生まれてきました。例えば、事業分離・売却や企業買収・処分の際に、買手先からの要請等により、当該事業部門や事業グループの「プロフォーマ財務諸表(Pro Forma Financial Statements)」を作成して、事業価値を評価してもらう、すなわち、デューデリジェンスの一環として、イベントドリブン、アドホックに、一時的に作成・使用するものでした。

「プロフォーマ利益」とも呼ぶのですが、在庫評価益考慮前利益、のれん償却前利益、EBIT、EBITD、EBITDA、事業利益、コア利益、残余利益、ROIC、RAROC、ROC、EP(エコノミック・プロフィット)など、GAAP利益や、GAAPで規定されたフォーマット以外の利益率指標を期間業績を示すものとして、常態的に決算報告にて使用し、投資家を含むステークホルダーに「こっちのほうが企業業績をより明確に(より正しく)表しています」という能書きで説明しています。それには、IFRSでは端的に表示されない「営業利益」「経常利益」という日本基準独自の段階利益も含みます。

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■ まとめ

株式という代替投資可能な金融資産の目論見書としての公表用財務諸表は、比較可能性がある所に有用性があります。したがって、企業の思惑で各国のGAAPの差異(日本基準とIFRSの会計処理の差異)を狙って、前提となる会計基準をチェリー・ピッキングするというのは慎むべきでしょう。必ず、市場からのしっぺ返しがあるハズです。

そして、どの国のGAAPでもいいのですが、GAAPに逆らった「プロフォーマ利益」の開示については、詳細な算出根拠も併せて開示するか、会計士の会計監査を任意でもいいので受けるのが良いでしょう。そこまでコストをかけても「プロフォーマ利益」を開示するメリットがあるのか、企業内にて慎重でかつ活発な議論をして頂くことを切に願うところです。

「IFRSを策定する国際会計基準審議会(IASB)も企業間で指標を比較しにくいのは問題だとして、対策に乗り出した。IASBはこれまで損益計算書のフォーマットを細かく規定していなかったが、EBIT(利払い・税引き前利益)や営業利益などを定義するための審議を開始。独自の利益指標についても開示方法の統一などの議論を進めている。」(上記の記事より)

記事にあるように、IASBも、プロフォーマ利益の開示について、規制する方向で議論が始まっています。また、別件ですが、のれんの未償却についても見直しの論調が高まっています。財務諸表を必要とする関係者総意のもとで、「比較可能」な財務諸表の在り方について、ステークホルダーにとってハッピーとなる結論が出てくることを期待しています。

なお、最後にひとこと。制度会計が見事に「プロフォーマ利益」を「GAAP利益」に取り込んで、制度会計をトランスフォームすることに成功することは、筆者の仕事と利益相反となることをここに明示しておきます。なぜなら、「プロフォーマ利益」の計算とその分析が管理会計屋の主要な仕事のひとつなので。^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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