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■ 東芝がフリーキャッシュフロー改善に取り組む

経営管理会計トピック
東芝が資金管理を強化する施策に取り組むとの記事がありました。施策取り組みの目的と、採用する管理指標の適切性を確認してみたいと思います。

2014/12/18付 |日本経済新聞|朝刊
東芝、世界で資金効率化 4地域別にCFO 投資から回収を素早く

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東芝がグローバルで資金の効率化に取り組む。米州や中国など世界4カ所の地域総括会社に最高財務責任者(CFO)を置き、地域ごとに資金の流れを管理する。主力の半導体で競争が激化する中、資金の早期回収が課題になっている。世界各地にある事業会社で資金管理を強化し、2017年3月期にフリーキャッシュフロー(FCF=純現金収支)で1200億円超の黒字を目指す。」

■ 資金管理の施策内容を見てみる

まず、資金管理の手段として、内部統制・内部牽制のチェック機能を組織にビルド・インすることを企図しています。地域総括会社が半期に1度、地域の事業会社と会議を開き、資金回収の改善状況をヒアリングします。これを、「ファイナンシャル・レビュー・ミーティング(FRM)」と呼び習わすそうです。
次に、FRMで管理対象にする指標を「キャッシュ・コンバージョン・サイクル:CCC」と定め、売掛金の早期回収や製品在庫の圧縮を指導するそうです。
CCCについては、「運転資金1500億円圧縮 日立、投資余力を高める」にて、指標の計算方法と使用上の注意事項について言及しましたが、今一度、指標の意味合いをチャート化したものを再掲します。
キャッシュ・コンバージョン・サイクル定義

■ 地域総括会社によるリージョン別資金管理の効果

FRMによる取組みは、内部牽制的には効果があるでしょうが、リージョン別の管理では、部分的な改善しか見込まれないものと考えます。
その理由は、東芝グループ内の地域間の内部取引(日本からのアウトバウンド)が結構な金額になると思われるからです。現地法人にとって、日本を含む生産拠点から製品を仕入れることになるので、そのリードタイム短縮と仕入単価(仕切原価)の調整次第で、CCCを構成する「棚卸資産」と「買入債務」の数字が変動します。地域総括会社が現地指導する以前に、グローバル物流の効率化の方を、ボーダレスで取り組まないといけないのではないでしょうか。
FY13の数字ですが、海外売上高比率が58%に対し、有形固定資産の海外比率が34%になっています。この差は、日本からの輸出ということになります。
ただし、新聞記事にもあるように、「東芝はブラジルやインドなど新興国での事業拡大に伴い、資金を回収する期間が長期化するケースが増えている。」ということなので、海外現地法人の得意先に対する売上債権は現地法人側でないと管理できません。ここには、リージョン別に、市場環境を考慮しながら、個別にきめ細かい管理することが効果的なのでしょう。

■ キャッシュ・コンバージョン・サイクルで資金管理する功罪

CCCによる管理は、「売上高(日販)の何日分の資金が寝ているか」という見方なので、現場では、親しみがある管理指標かもしれません。しかし、CCCがキャッシュフローに与えるインパクトはどこになるのか考えて頂きたいと思います。
CCCは、営業キャッシュフロー改善に効き目がありますが、全てを良くするわけではありません。営業キャッシュフローは、主に3つの構成要素から成ります。
① NOPAT(法人税考慮後利益)
② 減価償却費(およびタックスシールド)
③ B/Sの効率化
CCCの効き目があるのは、この③だけです。マージンの高いビジネスを展開することで、①が改善し、過去の設備投資にかけた現金支出が余韻として今期の非現金支出費用となって、タックスシールドを引き連れて②を改善します。
(タックスシールドとは、税金の節約効果のことです)
①、②、③のどこが営業キャッシュフロー改善に一番効き目があるか、最も効果の高い所から管理を手厚くするのが賢い管理会計というものです。
ちょっと、東芝の財務数字を見てみたいと思います。
注意事項として、次の3つは踏まえておいてください。
1.CCCの計算には、総てに「売上高」を適用している(売上原価は使っていない)
2.F/Sの過年度修正は考慮していない(毎年開示された時点の数字を使っている)
3.新聞記事に言及のある「前渡し金」は有報から分からなかったので含めていない
経営管理会計トピック_東芝_CCC_数表
経営管理会計トピック_東芝_CCC_グラフ
CCCは、相対的に長くなっている傾向にあります。FY13は、利益額は前年とあまり変動はありませんでした。ただし、売上が伸び、在庫がはけたので、在庫回転日数と買入債務回転日数は、前期の遺産として改善したのだと見ています。その中で、売上債権回転日数が高止まりしているのが目を引くのだと思います。そこで、「リージョン別に管理するべし」という流れになったと思われます。まあ、利益額を増やすことが営業キャッシュフローを増やすための本道だとは思いますが、、、

■ キャッシュ・コンバージョン・サイクルで資金管理する目的の再確認

新聞記事には、
「東芝は今回の取り組みを通じて現金の創出力を高め、有利子負債を抑制しつつ研究開発や設備投資などの資金を賄う考えだ。」
とあり、CCCによる資金管理は、有利子負債の削減と投資資金の捻出が目的となっています。
下表は、キャッシュフローの推移グラフになります。
経営管理会計トピック_東芝_FCF_グラフ
確かに、東芝は、ここ6年の間、毎年の減価償却費が右肩下がりになっており、縮小均衡になっています。投資キャッシュフローも多少のデコボコがありますが、積極的な投資ができずに焦れている感があります。
完全に、営業キャッシュフローとフリーキャッシュフロー(FCF)はシンクロしています。
設備投資やR&D投資資金を確保したい → 外部調達は避けたい(DEレシオが1.13) → 運転資金から調達したい → 運転資金捻出のためにCCCで資金効率化を図る
といった筋書きでしょうか。
ただ、懸念点があるとすれば、次の2つでしょうか。
① 設備投資などは長期的資金(長期借入金や社債、株式)で手当てするのがキャッシュバランスを乱さない
② 運転資金と外部借入と増資と、最も資本コストが低い所から資金調達した方がよい
低金利の現在、事業展開に自信があるなら外部借入という手は本当に無いのでしょうか。
そこは財務管理担当者が保守的に手堅くいきたいということでしょう。
重電メーカーの記事を材料に、またCCCについて一節ぶってしまいました。ご参考ください。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 東芝がフリーキャッシュフロー改善に取り組む 東芝が資金管理を強化する施策に取り組むとの記事がありました。施策取り組みの目的と、採用する管理指標の適切性を確認してみたいと思います。 2014/12/18付 |日本経済新聞|朝刊 東芝、世界で資金効率化 4地域別にCFO 投資から回収を素早く (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「東芝がグローバルで資金の効率化に取り組む。米州や中国など世界4カ所の地域総括会社に最高財務責任者(CFO)を置き、地域ごとに資金の流れを管理する。主力の半導体で競争が激化する中、資金の早期回収が課題になっている。世界各地にある事業会社で資金管理を強化し、2017年3月期にフリーキャッシュフロー(FCF=純現金収支)で1200億円超の黒字を目指す。」 ■ 資金管理の施策内容を見てみる まず、資金管理の手段として、内部統制・内部牽制のチェック機能を組織にビルド・インすることを企図しています。地域総括会社が半期に1度、地域の事業会社と会議を開き、資金回収の改善状況をヒアリングします。これを、「ファイナンシャル・レビュー・ミーティング(FRM)」と呼び習わすそうです。 次に、FRMで管理対象にする指標を「キャッシュ・コンバージョン・サイクル:CCC」と定め、売掛金の早期回収や製品在庫の圧縮を指導するそうです。 CCCについては、「運転資金1500億円圧縮 日立、投資余力を高める」にて、指標の計算方法と使用上の注意事項について言及しましたが、今一度、指標の意味合いをチャート化したものを再掲します。 ■ 地域総括会社によるリージョン別資金管理の効果 FRMによる取組みは、内部牽制的には効果があるでしょうが、リージョン別の管理では、部分的な改善しか見込まれないものと考えます。 その理由は、東芝グループ内の地域間の内部取引(日本からのアウトバウンド)が結構な金額になると思われるからです。現地法人にとって、日本を含む生産拠点から製品を仕入れることになるので、そのリードタイム短縮と仕入単価(仕切原価)の調整次第で、CCCを構成する「棚卸資産」と「買入債務」の数字が変動します。地域総括会社が現地指導する以前に、グローバル物流の効率化の方を、ボーダレスで取り組まないといけないのではないでしょうか。 FY13の数字ですが、海外売上高比率が58%に対し、有形固定資産の海外比率が34%になっています。この差は、日本からの輸出ということになります。 ただし、新聞記事にもあるように、「東芝はブラジルやインドなど新興国での事業拡大に伴い、資金を回収する期間が長期化するケースが増えている。」ということなので、海外現地法人の得意先に対する売上債権は現地法人側でないと管理できません。ここには、リージョン別に、市場環境を考慮しながら、個別にきめ細かい管理することが効果的なのでしょう。 ■ キャッシュ・コンバージョン・サイクルで資金管理する功罪 CCCによる管理は、「売上高(日販)の何日分の資金が寝ているか」という見方なので、現場では、親しみがある管理指標かもしれません。しかし、CCCがキャッシュフローに与えるインパクトはどこになるのか考えて頂きたいと思います。 CCCは、営業キャッシュフロー改善に効き目がありますが、全てを良くするわけではありません。営業キャッシュフローは、主に3つの構成要素から成ります。 ① NOPAT(法人税考慮後利益) ② 減価償却費(およびタックスシールド) ③ B/Sの効率化 CCCの効き目があるのは、この③だけです。マージンの高いビジネスを展開することで、①が改善し、過去の設備投資にかけた現金支出が余韻として今期の非現金支出費用となって、タックスシールドを引き連れて②を改善します。 (タックスシールドとは、税金の節約効果のことです) ①、②、③のどこが営業キャッシュフロー改善に一番効き目があるか、最も効果の高い所から管理を手厚くするのが賢い管理会計というものです。 ちょっと、東芝の財務数字を見てみたいと思います。 注意事項として、次の3つは踏まえておいてください。 1.CCCの計算には、総てに「売上高」を適用している(売上原価は使っていない) 2.F/Sの過年度修正は考慮していない(毎年開示された時点の数字を使っている) 3.新聞記事に言及のある「前渡し金」は有報から分からなかったので含めていない CCCは、相対的に長くなっている傾向にあります。FY13は、利益額は前年とあまり変動はありませんでした。ただし、売上が伸び、在庫がはけたので、在庫回転日数と買入債務回転日数は、前期の遺産として改善したのだと見ています。その中で、売上債権回転日数が高止まりしているのが目を引くのだと思います。そこで、「リージョン別に管理するべし」という流れになったと思われます。まあ、利益額を増やすことが営業キャッシュフローを増やすための本道だとは思いますが、、、 ■ キャッシュ・コンバージョン・サイクルで資金管理する目的の再確認 新聞記事には、 「東芝は今回の取り組みを通じて現金の創出力を高め、有利子負債を抑制しつつ研究開発や設備投資などの資金を賄う考えだ。」 とあり、CCCによる資金管理は、有利子負債の削減と投資資金の捻出が目的となっています。 下表は、キャッシュフローの推移グラフになります。 確かに、東芝は、ここ6年の間、毎年の減価償却費が右肩下がりになっており、縮小均衡になっています。投資キャッシュフローも多少のデコボコがありますが、積極的な投資ができずに焦れている感があります。 完全に、営業キャッシュフローとフリーキャッシュフロー(FCF)はシンクロしています。 設備投資やR&D投資資金を確保したい → 外部調達は避けたい(DEレシオが1.13) → 運転資金から調達したい → 運転資金捻出のためにCCCで資金効率化を図る といった筋書きでしょうか。 ただ、懸念点があるとすれば、次の2つでしょうか。 ① 設備投資などは長期的資金(長期借入金や社債、株式)で手当てするのがキャッシュバランスを乱さない ② 運転資金と外部借入と増資と、最も資本コストが低い所から資金調達した方がよい 低金利の現在、事業展開に自信があるなら外部借入という手は本当に無いのでしょうか。 そこは財務管理担当者が保守的に手堅くいきたいということでしょう。 重電メーカーの記事を材料に、またCCCについて一節ぶってしまいました。ご参考ください。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します