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■ 「税法」と「キャッシュフロー」で儲けを測る

管理会計(基礎編)
前回、パソコンレンタル業A社の事例で、「会計原則」をベースにした「(会計的)利益」の3ヵ年の推移を見ました。今回は、同じ条件下で、『儲け』をはかる「ものさし」を変えてB社向けパソコンレンタル事業の3ヵ年にわたるA社の業績を見ていきます。
下記にケーススタディとしたA社の事例を再掲します。
管理会計(基礎編)_レンタル業のケース
《税法》
会計原則で作成したP/Lの税前利益が如何になろうが、税務は唯我独尊(ゆいがどくそん)の姿勢を崩しません。自分の世界のルールを徹底させ、損金経理を実践させようとします。A社に「税務申告書」の「別表四」にて会計が計上した減価償却費:50,000円をそのまま認めず、法定耐用年数で決めた30,000円との差額:20,000円を「損金不算入」と修正(申告調整)させ、「所得」(=無理目に言うと会計原則でいうところの「税前利益」に相当)を70,000円とし、これに法人税率:40%を適用して、法人税額を28,000円と「別表一」にて計算させます。
この納付すべき法人税額:28,000円と会計原則が想定する法人税額:20,000円の差額の8,000円は、会計原則の世界では、「税効果会計」の論理を持ち出して、税法と意見が一致するまでは費用の繰延べとして、P/L上の今期の(税金)費用には含めないようにします。
管理会計(基礎編)_レンタル業の儲け_税法
《キャッシュフロー》
単純な現金の出入りだけで、3年間の業績を測ります。1年目は、レンタル用のパソコンを現金購入した150,000円と、税法で決められた法人税納付額:28,000円の合計178,000円が会社から流出します。レンタル料は、会計原則的には1年目から売上として計上されますが、B社との契約上は、レンタル期間が終了時に一括入金なので、1年目、2年目ともに売り上げに関連するキャッシュの流入はありません。
3年目は、法人税納付額:4,000円のキャッシュアウトがありますが、待望のレンタル収入が現金としてB社から回収されます。
管理会計(基礎編)_レンタル業の儲け_キャッシュフロー
前回説明した《会計原則》による利益の推移を再掲します。
管理会計(基礎編)_レンタル業の儲け_会計原則

■ 3つの『儲け』を測る計算ルールの結果評価

以上、前回から

  • 「会計原則」
  • 「税法」
  • 「キャッシュフロー」

の3種類の計算ルールを使って、A社のパソコンレンタル事業の『儲け』を計算してみました。その結果を下表にまとめてみます。
管理会計(基礎編)_レンタル業の儲け_3手法の比較
この表からの気づきは、次の通りです。

  • 法人税を考慮しない場合、「会計原則」の「税引前利益」と「税法」の「所得」が3年間トータルの場合は一致すること
  • 法人税を考慮した場合、「会計原則」の「税引後利益」と、「税法」の「所得」から「法人税納付額」を控除した金額と、「ネット・キャッシュ・フロー」の3年間トータル額は一致すること
  • ただし、3種類の方法のいずれも、単年度(1年目とか2年目)で期間を区切った場合、同年度比較すると、同じ業績結果にはならないこと

■ (補足)3つの業績指標が一致しないこともある

今回のケーススタディでは、基本形を体得して頂きたかったので、細かい差異が発生しないように、条件付けを設定しました。
「会計原則」でいうところの「収益」「費用」と「税法」でいうところの「益金」「損金」については、一時的に期間のズレこそあれ、3年間通じてそれぞれ同額になる設定にしましたが、よく耳にされるであろう「交際費は費用だが損金にならない」=「損金不算入」という永久に「会計原則」と「税法」が歩み寄らない項目がある場合は、何年待っても業績数値が一致することはありません。こういう場合は、「税効果会計」でも「永久差異」と呼んで、調整対象から外します。
「キャッシュフロー」を語る場合は、数年、場合によっては何十年もの期間を視野に入れて業績を分析・管理することになります。そうすると、「利息」「資本コスト」「割引率」等と呼ばれる調整項目によって、「割引現在価値」というものに置き換えて表現することがあります。この場合は、遠い将来に得られるキャッシュフローは、目減りした金額で評価されます。
上記2点は留意事項として、管理会計実務で分析や管理が必要になった際の前提条件で考えます。このシリーズの後半で、それぞれの実務上の具体的な事例については触れていきたいと思います。ただし、管理会計の入り口にいらっしゃる読者の方は、原則、3つの方法の5つの業績指標は一致するものである、と素直に受け取って頂ければと思います。

■ なぜ管理会計はこの3つを使い分けなければならないか

管理会計は、その数値分析結果が、「意思決定」や「業績評価(動機付け)」に活用されなければ、その存在価値がありません。
外部のステークホルダーへディスクロージャーされる「制度会計」の結果数値を事前にコントロールして、より成績がよく見えるように計数管理を実施して、必要に応じて業務的打ち手を考えるために、計算結果を提供する場合は、自ずと「制度会計」のしくみに応じた「会計原則」ベースの計算手法を使って「管理会計」として有用な分析結果を提供してあげる必要があります。
社会貢献目的で会社経営を実践し、できるだけ多くの法人税を納付したい経営者もいらっしゃると思いますが、その場合でも、法人税の納付額がいくらになるのか事前に予想し、資金がショートしないように(納税資金をきちんと確保するために)タックスプランニングを行う必要があります。
M&A資金や設備投資資金が将来にわたって、どういう経済活動をベースに回収されるのか、はたまた投資を実施する前に、投下資金以上にキャッシュとしてのリターンの方が上回る投資機会なのか、はたまた、リターンの方が投下資金以上になるためにはどういう条件がそろっていなければならないか、事前に分析しておく必要がある局面に立ち会うこともあると思います。
したがって、会社内部で、計数管理を行う場合は、これら3種類の『儲け』=「業績指標」を測る技法のどれを適用したら、役に立つのか、使い分ける必要があるということです。

■ 使い分けることを知ったうえで、相関関係まで把握する

使用目的に応じて、3種類の計算技法を使い分けることはご理解いただけたかと思います。そのうえで、さらに一歩先に行くために、それぞれの相関関係まで理解し、提出した数値の説明能力を上げておくと、データの有用性と精度がさらに上がると思います。
「会計原則」は、「税効果会計」を導入し、「現金ベース」でP/Lに計上されていた法人税納付額を、「発生主義ベース」に置き換えることを旨としています。その心は、毎年の「利益」計上額を「平準化」することにあります。同じ経済状況が続く内は、いたずらに毎年の報告されるべき「利益」額は上下させるべきではない、トレンドが大事、という理屈になっています。管理会計でも、「会計原則」にしたがった管理帳票をデザインする場合は、この精神を受け継がなくてはなりません。
一方で、「税効果会計」の影響が、P/Lに計上される「利益」を「現金収支」からかけ離れたものにしてしまうことに拍車をかけているという気付きもあります。そこで、「キャッシュフロー」と「利益」の間の差異を常に把握しておくのが、管理会計的に計数報告をする場合のひとつのポイントになります。「法人税納付額」はキャッシュベースですので、「利益」と「キャッシュフロー」をつなぐ一つの連結環として「法人税」を使って「利益」と「キャッシュフロー」を連関させて見ることができます。
最後に、筆者の経験談をひとつ。
経営企画部時代に、新規ビジネスを立ち上げるための「事業プランニング」の特命を受けました。嬉々として、将来キャッシュフローを予測し、財務計画書を作成しました。筆者渾身の財務計画書を当時のCFOは一目見て、一瞬で没にしました。
それは、簡単に言うと、繰越欠損金による法人税節約分が全く考慮されていなかったからです。当時はまだ会計初学者(今でも同じようなものですが)で、発生主義会計とキャッシュフローと現在割引価値を使って十分と考えて財務計画書を作成しましたが、完全に税務の視点が抜け落ちていました。
本日の記事は、筆者の苦い思い出からの反省を込めた内容でした。
ここまで、「会計的に『儲け』を測る②」を説明しました。
管理会計(基礎編)_管理会計的に『儲け』を測る②

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http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-e1428166718340.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/03/9313ed6460f7d58b8e62d9b27fdfc19d-150x150.jpg小林 友昭管理会計(基礎編)■ 「税法」と「キャッシュフロー」で儲けを測る 前回、パソコンレンタル業A社の事例で、「会計原則」をベースにした「(会計的)利益」の3ヵ年の推移を見ました。今回は、同じ条件下で、『儲け』をはかる「ものさし」を変えてB社向けパソコンレンタル事業の3ヵ年にわたるA社の業績を見ていきます。 下記にケーススタディとしたA社の事例を再掲します。 《税法》 会計原則で作成したP/Lの税前利益が如何になろうが、税務は唯我独尊(ゆいがどくそん)の姿勢を崩しません。自分の世界のルールを徹底させ、損金経理を実践させようとします。A社に「税務申告書」の「別表四」にて会計が計上した減価償却費:50,000円をそのまま認めず、法定耐用年数で決めた30,000円との差額:20,000円を「損金不算入」と修正(申告調整)させ、「所得」(=無理目に言うと会計原則でいうところの「税前利益」に相当)を70,000円とし、これに法人税率:40%を適用して、法人税額を28,000円と「別表一」にて計算させます。 この納付すべき法人税額:28,000円と会計原則が想定する法人税額:20,000円の差額の8,000円は、会計原則の世界では、「税効果会計」の論理を持ち出して、税法と意見が一致するまでは費用の繰延べとして、P/L上の今期の(税金)費用には含めないようにします。 《キャッシュフロー》 単純な現金の出入りだけで、3年間の業績を測ります。1年目は、レンタル用のパソコンを現金購入した150,000円と、税法で決められた法人税納付額:28,000円の合計178,000円が会社から流出します。レンタル料は、会計原則的には1年目から売上として計上されますが、B社との契約上は、レンタル期間が終了時に一括入金なので、1年目、2年目ともに売り上げに関連するキャッシュの流入はありません。 3年目は、法人税納付額:4,000円のキャッシュアウトがありますが、待望のレンタル収入が現金としてB社から回収されます。 前回説明した《会計原則》による利益の推移を再掲します。 ■ 3つの『儲け』を測る計算ルールの結果評価 以上、前回から 「会計原則」 「税法」 「キャッシュフロー」 の3種類の計算ルールを使って、A社のパソコンレンタル事業の『儲け』を計算してみました。その結果を下表にまとめてみます。 この表からの気づきは、次の通りです。 法人税を考慮しない場合、「会計原則」の「税引前利益」と「税法」の「所得」が3年間トータルの場合は一致すること 法人税を考慮した場合、「会計原則」の「税引後利益」と、「税法」の「所得」から「法人税納付額」を控除した金額と、「ネット・キャッシュ・フロー」の3年間トータル額は一致すること ただし、3種類の方法のいずれも、単年度(1年目とか2年目)で期間を区切った場合、同年度比較すると、同じ業績結果にはならないこと ■ (補足)3つの業績指標が一致しないこともある 今回のケーススタディでは、基本形を体得して頂きたかったので、細かい差異が発生しないように、条件付けを設定しました。 「会計原則」でいうところの「収益」「費用」と「税法」でいうところの「益金」「損金」については、一時的に期間のズレこそあれ、3年間通じてそれぞれ同額になる設定にしましたが、よく耳にされるであろう「交際費は費用だが損金にならない」=「損金不算入」という永久に「会計原則」と「税法」が歩み寄らない項目がある場合は、何年待っても業績数値が一致することはありません。こういう場合は、「税効果会計」でも「永久差異」と呼んで、調整対象から外します。 「キャッシュフロー」を語る場合は、数年、場合によっては何十年もの期間を視野に入れて業績を分析・管理することになります。そうすると、「利息」「資本コスト」「割引率」等と呼ばれる調整項目によって、「割引現在価値」というものに置き換えて表現することがあります。この場合は、遠い将来に得られるキャッシュフローは、目減りした金額で評価されます。 上記2点は留意事項として、管理会計実務で分析や管理が必要になった際の前提条件で考えます。このシリーズの後半で、それぞれの実務上の具体的な事例については触れていきたいと思います。ただし、管理会計の入り口にいらっしゃる読者の方は、原則、3つの方法の5つの業績指標は一致するものである、と素直に受け取って頂ければと思います。 ■ なぜ管理会計はこの3つを使い分けなければならないか 管理会計は、その数値分析結果が、「意思決定」や「業績評価(動機付け)」に活用されなければ、その存在価値がありません。 外部のステークホルダーへディスクロージャーされる「制度会計」の結果数値を事前にコントロールして、より成績がよく見えるように計数管理を実施して、必要に応じて業務的打ち手を考えるために、計算結果を提供する場合は、自ずと「制度会計」のしくみに応じた「会計原則」ベースの計算手法を使って「管理会計」として有用な分析結果を提供してあげる必要があります。 社会貢献目的で会社経営を実践し、できるだけ多くの法人税を納付したい経営者もいらっしゃると思いますが、その場合でも、法人税の納付額がいくらになるのか事前に予想し、資金がショートしないように(納税資金をきちんと確保するために)タックスプランニングを行う必要があります。 M&A資金や設備投資資金が将来にわたって、どういう経済活動をベースに回収されるのか、はたまた投資を実施する前に、投下資金以上にキャッシュとしてのリターンの方が上回る投資機会なのか、はたまた、リターンの方が投下資金以上になるためにはどういう条件がそろっていなければならないか、事前に分析しておく必要がある局面に立ち会うこともあると思います。 したがって、会社内部で、計数管理を行う場合は、これら3種類の『儲け』=「業績指標」を測る技法のどれを適用したら、役に立つのか、使い分ける必要があるということです。 ■ 使い分けることを知ったうえで、相関関係まで把握する 使用目的に応じて、3種類の計算技法を使い分けることはご理解いただけたかと思います。そのうえで、さらに一歩先に行くために、それぞれの相関関係まで理解し、提出した数値の説明能力を上げておくと、データの有用性と精度がさらに上がると思います。 「会計原則」は、「税効果会計」を導入し、「現金ベース」でP/Lに計上されていた法人税納付額を、「発生主義ベース」に置き換えることを旨としています。その心は、毎年の「利益」計上額を「平準化」することにあります。同じ経済状況が続く内は、いたずらに毎年の報告されるべき「利益」額は上下させるべきではない、トレンドが大事、という理屈になっています。管理会計でも、「会計原則」にしたがった管理帳票をデザインする場合は、この精神を受け継がなくてはなりません。 一方で、「税効果会計」の影響が、P/Lに計上される「利益」を「現金収支」からかけ離れたものにしてしまうことに拍車をかけているという気付きもあります。そこで、「キャッシュフロー」と「利益」の間の差異を常に把握しておくのが、管理会計的に計数報告をする場合のひとつのポイントになります。「法人税納付額」はキャッシュベースですので、「利益」と「キャッシュフロー」をつなぐ一つの連結環として「法人税」を使って「利益」と「キャッシュフロー」を連関させて見ることができます。 最後に、筆者の経験談をひとつ。 経営企画部時代に、新規ビジネスを立ち上げるための「事業プランニング」の特命を受けました。嬉々として、将来キャッシュフローを予測し、財務計画書を作成しました。筆者渾身の財務計画書を当時のCFOは一目見て、一瞬で没にしました。 それは、簡単に言うと、繰越欠損金による法人税節約分が全く考慮されていなかったからです。当時はまだ会計初学者(今でも同じようなものですが)で、発生主義会計とキャッシュフローと現在割引価値を使って十分と考えて財務計画書を作成しましたが、完全に税務の視点が抜け落ちていました。 本日の記事は、筆者の苦い思い出からの反省を込めた内容でした。 ここまで、「会計的に『儲け』を測る②」を説明しました。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します