Pocket

■ 人件費増は高業績の「原因」なのかそれとも「結果」なのか

経営管理会計トピック
アベノミクス的には、企業業績が好転して、労働賃金を上げることによって購買力を大きく回復させ、さらに景気改善への正のスパイラルへ持っていこうと当局が必死な中、似たような循環論が株式市場をウオッチする新聞記事にも登場していました。
今回は、「人件費をUP」させた企業の株は買いか? そのロジックを検証してみます。
(何度もお断りしていますが、推奨株の話はしませんよ。もしそんないい話があれば、黙って自分だけ買って人知れず儲けます)(^^;)

2015/3/13|日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)「社員に優しい」は買い コスト増にも経営者自信

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「日経平均株価が15年ぶりの高値を更新した株式市場で、賃金や福利厚生費を増やすといった「社員に優しい企業」が注目されている。コストを増やしても成長できるという経営者の自信の表れとしてとらえられているためだ。社員の懐が温かくなれば消費の拡大に向かい、経済全体が好循環へ向かうだけに、息の長い投資テーマになりそうだ。」
(↓下図は、2015年3月13日 日本経済新聞(朝刊)記事に添付されていたものを転載)
経営管理会計トピック_社員に優しいは買い

■ 個別企業の人件費への対応に言及していますが

新聞記事から、各社の対応をかいつまんで記述すると、
1)一休
「稼いだ利益を社員に還元して、将来の好業績を目指し、社員の結束力を高める」
2)リンガーハット
「450人の全社員を対象にハワイで経営説明会を開催。渡航・宿泊費用はすべて会社負担。外食産業では人材不足が深刻で、福利厚生の充実で人材の流出を防ぐ」
という感じで、従業員ロイヤリティを高めるための施策という整理になっています。
一方で、新聞記事では、
「人件費の増加は企業にとっては固定費の上昇につながるのに、買われるのはなぜか。大和住銀投信投資顧問の門司総一郎氏は「コスト増以上に企業経営者が将来に自信があることを前向きに評価できる」と話す。」
という見解も示されています。
これらについて、
① 人件費増が株価上昇につながる「シグナル効果」
② バランストスコアカード(BSC)的な業績レバーの操作
③ 結果としての労働分配率の上昇
という整理でお話したいと思います。

■ 「シグナル効果」が株価上昇へつながる波及経路

まず、簡単に言うと、「企業業績が向上」→「株価上昇期待」→「現物株の買い」→「株価上昇」、という自己実現的な状態が発生するのはごく当たり前に観察されることです。
ここで問題なのは、「企業業績が向上したのは周知の事実」→「すでに株価に好業績が織り込まれている」→「今から現物株を買っても、さやは取れない」ということです。
とすれば、誰よりも早く企業業績が向上することを検知すればよい、ということになります。誰かを出し抜く。「効率的市場仮説」はやんわりと成立しているという見解からの見方です。この場合、経営者の採った行動から将来の企業業績の向上を察知しようとします。
その際に、よく引き合いに出されるのが、次の2つです。
① 負債による資金調達
② 将来の固定費増加を伴う施策の実施
(新規の設備投資、M&Aによる企業買収、今回のような人件費増など)
これらは、ある1点で共通しています。それは、将来の企業業績の向上(好転)が、倒産リスク(有利子負債のデフォルトリスク)やキャッシュアウトフローの増大というプレッシャーより、効果が大きいと経営者が判断している示唆を与えているところです。経営者は、「情報の非対称性」から、外部のステークホルダーより自社の将来業績に関する情報をより知っている、という前提に基づく仮説です。

■ 「バランストスコアカード」的な業績管理指標(KPI)の見方

バランストスコアカード(BSC)の代表的ツールに「戦略マップ」というものがあり、その企業で管理すべきKPIを、可視的にカテゴライズしてくれる便利なものがあります。
経営管理会計トピック_BSCの戦略マップの見方
このKPIの連鎖は、2次元で理解することができます。
「学習と成長の視点」にカテゴライズされるKPIを向上(好転)させることにまず着手します。そうすると、「内部プロセスの視点」「顧客の視点」に属するKPIを順々に改善していって、最終的に「財務の視点」にカテゴライズされている「利益」「売上高」「キャッシュフロー」「EP」「企業価値」等といった財務的KPIを好ましい水準に高めてくれます。
つまり、時間軸的には、「先行指標」として、「学習と成長の視点」に属するKPIが存在し、「遅行指標」として、「財務の視点」に属するKPI(往々にして「ターゲット」「目標」とされる財務結果を表すKPI)との間には、改善に要するタイムラグがあるというものです。
さらに、因果関係的には、「学習と成長の視点」に属するKPIが良くならないと、結果としての「財務の視点」に属するKPIが良くならない、という条件設定がなされていることです。
「利益を上げたければ、まず従業員の給料を上げましょう!」 → モチベーション上昇
「景気を良くしたければ、まず労働者の賃金を上げましょう!」 → 購買力の上昇

■ 本日のまとめ

1. 「人件費UP」は、「将来(または現在)の企業業績の向上」を予見している経営者の見解を示している可能性が高い
2. 「将来の企業業績の向上」は、「株価の上昇」を見込む有力な判断材料のひとつになり得る
3. 手厚い従業員への報酬は、「従業員満足度」を上げる
4. 高い「従業員満足度」は、BSC的なKPI連鎖の法則から、将来の企業業績の向上をもたらす必要条件となる
おっと、いきなり「まとめ」に入りすみません。
「③ 結果としての労働分配率の上昇」については、紙面の都合上、次に回させていただきます。
m(_ _)m

(Visited 110 times, 1 visits today)
Pocket

(スクランブル)「社員に優しい」は買い コスト増にも経営者自信(1)http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読む一休,ALSOK,野村総研,ミネベア,エーザイ,OLC,KPI,バランスト・スコアカード,BSC,テンプHD,明治HD■ 人件費増は高業績の「原因」なのかそれとも「結果」なのか アベノミクス的には、企業業績が好転して、労働賃金を上げることによって購買力を大きく回復させ、さらに景気改善への正のスパイラルへ持っていこうと当局が必死な中、似たような循環論が株式市場をウオッチする新聞記事にも登場していました。 今回は、「人件費をUP」させた企業の株は買いか? そのロジックを検証してみます。 (何度もお断りしていますが、推奨株の話はしませんよ。もしそんないい話があれば、黙って自分だけ買って人知れず儲けます)(^^;) 2015/3/13|日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)「社員に優しい」は買い コスト増にも経営者自信 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「日経平均株価が15年ぶりの高値を更新した株式市場で、賃金や福利厚生費を増やすといった「社員に優しい企業」が注目されている。コストを増やしても成長できるという経営者の自信の表れとしてとらえられているためだ。社員の懐が温かくなれば消費の拡大に向かい、経済全体が好循環へ向かうだけに、息の長い投資テーマになりそうだ。」 (↓下図は、2015年3月13日 日本経済新聞(朝刊)記事に添付されていたものを転載) ■ 個別企業の人件費への対応に言及していますが 新聞記事から、各社の対応をかいつまんで記述すると、 1)一休 「稼いだ利益を社員に還元して、将来の好業績を目指し、社員の結束力を高める」 2)リンガーハット 「450人の全社員を対象にハワイで経営説明会を開催。渡航・宿泊費用はすべて会社負担。外食産業では人材不足が深刻で、福利厚生の充実で人材の流出を防ぐ」 という感じで、従業員ロイヤリティを高めるための施策という整理になっています。 一方で、新聞記事では、 「人件費の増加は企業にとっては固定費の上昇につながるのに、買われるのはなぜか。大和住銀投信投資顧問の門司総一郎氏は「コスト増以上に企業経営者が将来に自信があることを前向きに評価できる」と話す。」 という見解も示されています。 これらについて、 ① 人件費増が株価上昇につながる「シグナル効果」 ② バランストスコアカード(BSC)的な業績レバーの操作 ③ 結果としての労働分配率の上昇 という整理でお話したいと思います。 ■ 「シグナル効果」が株価上昇へつながる波及経路 まず、簡単に言うと、「企業業績が向上」→「株価上昇期待」→「現物株の買い」→「株価上昇」、という自己実現的な状態が発生するのはごく当たり前に観察されることです。 ここで問題なのは、「企業業績が向上したのは周知の事実」→「すでに株価に好業績が織り込まれている」→「今から現物株を買っても、さやは取れない」ということです。 とすれば、誰よりも早く企業業績が向上することを検知すればよい、ということになります。誰かを出し抜く。「効率的市場仮説」はやんわりと成立しているという見解からの見方です。この場合、経営者の採った行動から将来の企業業績の向上を察知しようとします。 その際に、よく引き合いに出されるのが、次の2つです。 ① 負債による資金調達 ② 将来の固定費増加を伴う施策の実施 (新規の設備投資、M&Aによる企業買収、今回のような人件費増など) これらは、ある1点で共通しています。それは、将来の企業業績の向上(好転)が、倒産リスク(有利子負債のデフォルトリスク)やキャッシュアウトフローの増大というプレッシャーより、効果が大きいと経営者が判断している示唆を与えているところです。経営者は、「情報の非対称性」から、外部のステークホルダーより自社の将来業績に関する情報をより知っている、という前提に基づく仮説です。 ■ 「バランストスコアカード」的な業績管理指標(KPI)の見方 バランストスコアカード(BSC)の代表的ツールに「戦略マップ」というものがあり、その企業で管理すべきKPIを、可視的にカテゴライズしてくれる便利なものがあります。 このKPIの連鎖は、2次元で理解することができます。 「学習と成長の視点」にカテゴライズされるKPIを向上(好転)させることにまず着手します。そうすると、「内部プロセスの視点」「顧客の視点」に属するKPIを順々に改善していって、最終的に「財務の視点」にカテゴライズされている「利益」「売上高」「キャッシュフロー」「EP」「企業価値」等といった財務的KPIを好ましい水準に高めてくれます。 つまり、時間軸的には、「先行指標」として、「学習と成長の視点」に属するKPIが存在し、「遅行指標」として、「財務の視点」に属するKPI(往々にして「ターゲット」「目標」とされる財務結果を表すKPI)との間には、改善に要するタイムラグがあるというものです。 さらに、因果関係的には、「学習と成長の視点」に属するKPIが良くならないと、結果としての「財務の視点」に属するKPIが良くならない、という条件設定がなされていることです。 「利益を上げたければ、まず従業員の給料を上げましょう!」 → モチベーション上昇 「景気を良くしたければ、まず労働者の賃金を上げましょう!」 → 購買力の上昇 ■ 本日のまとめ 1. 「人件費UP」は、「将来(または現在)の企業業績の向上」を予見している経営者の見解を示している可能性が高い 2. 「将来の企業業績の向上」は、「株価の上昇」を見込む有力な判断材料のひとつになり得る 3. 手厚い従業員への報酬は、「従業員満足度」を上げる 4. 高い「従業員満足度」は、BSC的なKPI連鎖の法則から、将来の企業業績の向上をもたらす必要条件となる おっと、いきなり「まとめ」に入りすみません。 「③ 結果としての労働分配率の上昇」については、紙面の都合上、次に回させていただきます。 m(_ _)m現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します