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■ 普通に「不適切会計」と言っているけど、その言葉の定義は知っていますか?

コンサルタントのつぶやき

柔らかい言葉を使うこと自体は、論争にはならず、むしろ推奨されることが多くあります。
昨今、東芝において、虚偽の会計報告が過去にあった旨が新聞・TVにて連日のように報道されていますが、そのお題目は、「不適切会計」。これは、従来、人口に膾炙していた「粉飾」とはどう違うのでしょうか?

「監査・保証実務委員会研究報告第25 号」
不適切な会計処理が発覚した場合の監査人の留意事項について

● 不適切な会計処理の定義
「意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる誤り」

つまり、「ごまかし」の意図の有無にかかわらず、結果として間違った財務諸表を出してしまったことを「不適切会計」と呼ぶそうです。適用範囲がひろい(定義の柔らかい)言葉ですね。

「監査基準委員会報告書第35号」
財務諸表の監査における不正への対応

● 不正の定義
「4.財務諸表の虚偽の表示は、不正又は誤謬から生ずる。不正と誤謬は、財務諸表の虚偽の表示の原因となる行為が、意図的であるか意図的でないかで区別する。」
「5.誤謬とは、財務諸表の意図的でない虚偽の表示であって、金額又は開示の脱漏を含み、次のようなものをいう。
 ・財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理用の誤り
 ・事実の見落としや誤解から生ずる会計上の見積りの誤り
 ・認識、測定、分類、表示又は開示に関する会計基準の適用の誤り」
「6.不正とは、財務諸表の意図的な虚偽の表示であって、不当又は違法な利益を得るために他者を欺く行為を含み、経営者、取締役等、監査役等、従業員又は第三者による意図的な行為をいう。
 不正は、様々な意味を含む広範囲な概念であるが、本報告書では、監査人が財務諸表の監査において対象とする重要な虚偽の表示の原因となる不正について記載している。なお、監査人は、不正が実際に発生したかどうかについての法的判断は行わない。
 また、経営者や取締役等が関与する不正を経営者不正、企業の従業員だけが関与する不正を従業員不正という。いずれの場合でも、企業内部又は第三者との共謀の可能性がある。」
「7.不正には、不正な財務報告(いわゆる粉飾)と資産の流用がある。」

やっとここで、日本公認会計士協会の定義が明確になりました。

1.財務諸表の虚偽記載の原因は、①不正、または、②誤謬 である。
2.「不正」は「意図的」で、「誤謬」は「意図的でない」
3.「不正」には、「粉飾」と「資産の流用」がある

やれやれ、ようやくここで「粉飾」が登場。「意図的に財務諸表を虚偽記載すると『粉飾』である」。

つまり、これまでのマスコミ報道では、某総合電機メーカーの間違った財務諸表の報告について、不正の意図があったかどうか、分からないので「不適切会計」と呼んでいた、ということになります。でも、第三者委員会等の調査により、「意図」が明確になったのではないでしょうか? そうすると、「粉飾」と表現すべき? まあ、その辺の報道姿勢についてはコメントしません! 本稿はそれが主旨ではないので。

上記で示した「監査基準委員会報告書第35号」には、経営者の耳に痛い、「不正」の説明が記述されているので、もう二言だけ付け加えておきますね。

「9.不正な財務報告は、経営者による内部統制の無視を伴うことが多い。次のような方法を用いた経営者による内部統制の無視によって、不正が行われる場合がある。
 ・経営成績の改ざん等の目的のために架空の仕訳記帳(特に期末日直前)を行うこと
 ・会計期間に発生した取引や会計事象を認識しないこと、又は認識を不適切に早めたり遅らせたりすること
 ・財務諸表に記録される金額に影響を与える可能性のある事実を隠蔽すること又は開示しないこと
 ・企業の財政状態又は経営成績における不実表示を行うために仕組まれた複雑な取引を行うこと
 ・重要かつ通例でない取引についての記録や条件を変造すること」

おやおや、上記の例にいくつか当てはまるものがありますね。。。

それでは、どんな動機でこのような不正を働いてしまうのか? その心理状態もこの報告書では記載されています。

「10.不正な財務報告は、企業の業績や収益力について財務諸表の利用者を欺くために、経営者が利益調整を図ることを目的として行われる可能性があり、このような利益調整は、経営者の些細な行為又は仮定や判断の不適切な変更から始まることが多い。
 経営者は、動機やプレッシャーにより、利益調整を行うことがある。例えば、業績報酬を最大にしたいという欲求のために、又は市場の期待に応えるというプレッシャーのために、不正な財務報告を行おうとする場合がある。また、税金を最小限にするために利益を圧縮するよう、又は銀行からの資金調達を確保するために利益を水増しするよう動機付けられる場合がある」

業績報酬、市場期待など、そのまんまですね。
今後、どの時点で「粉飾」という言葉が登場するのか、最後まで登場しないのか、マスコミ報道のされ方について興味深く観察していきたいと思います。

 

■ 柔らかい言葉を使うことの是非

筆者は、何も常に響きの強い言葉を使うことを推奨しているわけではありません。

従来は、「癩(らい)病」と呼称されていた病は、「らい菌」の発見者であるスウェーデン医師の名をとって、「ハンセン病」と呼ぶことにし、「医療や病気への理解が乏しい時代に、その外見や感染への恐怖心などから、患者への過剰な差別が生じた時に使われた呼称である『らい病』」を使用することを避けるように配慮しました。

また、「精神分裂病」は「統合失調症」に、「多重人格障害」は「解離性同一性障害」に、「老人惚け」→「痴呆症」→「認知症」、「障害者」→「障碍者」→「障がい者」に呼称が変わりました。

柔らかく言葉を使うことは、人権などに配慮することにもつながります。「チャンコロ」「ロスケ」「ジャップ」「アメコウ」「シナ」など、政治的配慮や民族差別などの視点からも、問題となる呼称はいろいろあります。

でも、皆さんに本当に考えて欲しいのは、「言い方」をいくら変えても「考え方」を変えなければ、本質は何も変わっていないのと同じである、ということ。

そして残念ながら、上記の問題呼称や蔑称をググってみると、多数にのぼる検索結果が返ってくること。これは表面的な、表現方法だけ柔らかくしても問題解決はしないことの証左です。

どう考えても、意図を持って会計報告数字を作っていたら、それは『粉飾』です!

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柔らかい言葉を使うこと 「不適切会計」とは?http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/f2dde0c815f506d35f39301dbbb486e41-e1428166267398.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/f2dde0c815f506d35f39301dbbb486e41-150x150.jpg小林 友昭所感東芝,不適切会計,粉飾■ 普通に「不適切会計」と言っているけど、その言葉の定義は知っていますか? 柔らかい言葉を使うこと自体は、論争にはならず、むしろ推奨されることが多くあります。 昨今、東芝において、虚偽の会計報告が過去にあった旨が新聞・TVにて連日のように報道されていますが、そのお題目は、「不適切会計」。これは、従来、人口に膾炙していた「粉飾」とはどう違うのでしょうか? 「監査・保証実務委員会研究報告第25 号」 「不適切な会計処理が発覚した場合の監査人の留意事項について」 ● 不適切な会計処理の定義 「意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる誤り」 つまり、「ごまかし」の意図の有無にかかわらず、結果として間違った財務諸表を出してしまったことを「不適切会計」と呼ぶそうです。適用範囲がひろい(定義の柔らかい)言葉ですね。 「監査基準委員会報告書第35号」 「財務諸表の監査における不正への対応」 ● 不正の定義 「4.財務諸表の虚偽の表示は、不正又は誤謬から生ずる。不正と誤謬は、財務諸表の虚偽の表示の原因となる行為が、意図的であるか意図的でないかで区別する。」 「5.誤謬とは、財務諸表の意図的でない虚偽の表示であって、金額又は開示の脱漏を含み、次のようなものをいう。  ・財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理用の誤り  ・事実の見落としや誤解から生ずる会計上の見積りの誤り  ・認識、測定、分類、表示又は開示に関する会計基準の適用の誤り」 「6.不正とは、財務諸表の意図的な虚偽の表示であって、不当又は違法な利益を得るために他者を欺く行為を含み、経営者、取締役等、監査役等、従業員又は第三者による意図的な行為をいう。  不正は、様々な意味を含む広範囲な概念であるが、本報告書では、監査人が財務諸表の監査において対象とする重要な虚偽の表示の原因となる不正について記載している。なお、監査人は、不正が実際に発生したかどうかについての法的判断は行わない。  また、経営者や取締役等が関与する不正を経営者不正、企業の従業員だけが関与する不正を従業員不正という。いずれの場合でも、企業内部又は第三者との共謀の可能性がある。」 「7.不正には、不正な財務報告(いわゆる粉飾)と資産の流用がある。」 やっとここで、日本公認会計士協会の定義が明確になりました。 1.財務諸表の虚偽記載の原因は、①不正、または、②誤謬 である。 2.「不正」は「意図的」で、「誤謬」は「意図的でない」 3.「不正」には、「粉飾」と「資産の流用」がある やれやれ、ようやくここで「粉飾」が登場。「意図的に財務諸表を虚偽記載すると『粉飾』である」。 つまり、これまでのマスコミ報道では、某総合電機メーカーの間違った財務諸表の報告について、不正の意図があったかどうか、分からないので「不適切会計」と呼んでいた、ということになります。でも、第三者委員会等の調査により、「意図」が明確になったのではないでしょうか? そうすると、「粉飾」と表現すべき? まあ、その辺の報道姿勢についてはコメントしません! 本稿はそれが主旨ではないので。 上記で示した「監査基準委員会報告書第35号」には、経営者の耳に痛い、「不正」の説明が記述されているので、もう二言だけ付け加えておきますね。 「9.不正な財務報告は、経営者による内部統制の無視を伴うことが多い。次のような方法を用いた経営者による内部統制の無視によって、不正が行われる場合がある。  ・経営成績の改ざん等の目的のために架空の仕訳記帳(特に期末日直前)を行うこと  ・会計期間に発生した取引や会計事象を認識しないこと、又は認識を不適切に早めたり遅らせたりすること  ・財務諸表に記録される金額に影響を与える可能性のある事実を隠蔽すること又は開示しないこと  ・企業の財政状態又は経営成績における不実表示を行うために仕組まれた複雑な取引を行うこと  ・重要かつ通例でない取引についての記録や条件を変造すること」 おやおや、上記の例にいくつか当てはまるものがありますね。。。 それでは、どんな動機でこのような不正を働いてしまうのか? その心理状態もこの報告書では記載されています。 「10.不正な財務報告は、企業の業績や収益力について財務諸表の利用者を欺くために、経営者が利益調整を図ることを目的として行われる可能性があり、このような利益調整は、経営者の些細な行為又は仮定や判断の不適切な変更から始まることが多い。  経営者は、動機やプレッシャーにより、利益調整を行うことがある。例えば、業績報酬を最大にしたいという欲求のために、又は市場の期待に応えるというプレッシャーのために、不正な財務報告を行おうとする場合がある。また、税金を最小限にするために利益を圧縮するよう、又は銀行からの資金調達を確保するために利益を水増しするよう動機付けられる場合がある」 業績報酬、市場期待など、そのまんまですね。 今後、どの時点で「粉飾」という言葉が登場するのか、最後まで登場しないのか、マスコミ報道のされ方について興味深く観察していきたいと思います。   ■ 柔らかい言葉を使うことの是非 筆者は、何も常に響きの強い言葉を使うことを推奨しているわけではありません。 従来は、「癩(らい)病」と呼称されていた病は、「らい菌」の発見者であるスウェーデン医師の名をとって、「ハンセン病」と呼ぶことにし、「医療や病気への理解が乏しい時代に、その外見や感染への恐怖心などから、患者への過剰な差別が生じた時に使われた呼称である『らい病』」を使用することを避けるように配慮しました。 また、「精神分裂病」は「統合失調症」に、「多重人格障害」は「解離性同一性障害」に、「老人惚け」→「痴呆症」→「認知症」、「障害者」→「障碍者」→「障がい者」に呼称が変わりました。 柔らかく言葉を使うことは、人権などに配慮することにもつながります。「チャンコロ」「ロスケ」「ジャップ」「アメコウ」「シナ」など、政治的配慮や民族差別などの視点からも、問題となる呼称はいろいろあります。 でも、皆さんに本当に考えて欲しいのは、「言い方」をいくら変えても「考え方」を変えなければ、本質は何も変わっていないのと同じである、ということ。 そして残念ながら、上記の問題呼称や蔑称をググってみると、多数にのぼる検索結果が返ってくること。これは表面的な、表現方法だけ柔らかくしても問題解決はしないことの証左です。 どう考えても、意図を持って会計報告数字を作っていたら、それは『粉飾』です!現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します