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(スクランブル)会計問題、身構える市場 「利益の質」で投資先選別

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ 企業が開示する利益情報の質を問う

経営管理会計トピック

最近、企業がディスクローズする財務諸表の信憑性の問題がマスコミで騒がれていますが、まだまだ企業側も投資家側も、両者に情報を提供し、世論を形成するマスコミも、会計的な業績評価として重要視されている傾向がまだあると思います。

2015/7/23|日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)会計問題、身構える市場 「利益の質」で投資先選別

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「22日の日経平均株価は7営業日ぶりに反落した。人によって強弱感が大きく分かれる今の相場でも、市場関係者の共通の話題に上るキーワードがある。「アクルーアル」という言葉だ。決算上の利益の「質」を見極める指標で、東芝の不適切会計問題を機に一気に注目が高まった。さて、あまり聞き慣れなかったこの言葉が重宝される今の市場はどこに向かうのか。」

「アクルーアル(accrual):会計発生高」というのは、同日の日経新聞の用語解説によりますと、

「会計発生高とも呼び、会計上の利益とキャッシュフロー(現金収支)の差額。利益が現金収入を伴う「質」の高い利益かを検証するための指標で、一般に特別損益を除いた税引き後利益から営業キャッシュフローを引いて算出する。質の高い利益を上げる企業は通常はマイナスで、プラス傾向が続くと現金創出が遅れていると判断できる。」

とあり、企業が公表する利益指標のうち、どれくらいの構成比率でキャッシュインフローの裏付けがあるものかを示すものです。キャッシュフローの裏付けがある利益は固く、信用できる、という趣旨のものです。

同記事に、このアクルーアル指標が良い企業のランキング表が掲載されていましたので、下記に転載します。

低アクルーアル企業の株価騰落率_日本経済新聞_20150723

このランキングを眺める前に、各指標の計算式を簡単に整理しておきます。

・アクルーアル = (税引後利益 ± 特別勘定)-営業キャッシュフロー
・アクルーアル比率 = アクルーアル ÷ 総資産 ×100 

 

■ アクルーアルが利益より信用できるのならP/Lはもう不要です!

ここで、企業会計の歴史をざっと振り返ってみましょう。そもそも、資本主(会社を設立するためにお金を出した人 ≒ 株主)が、自分が出資した口数において、出資した時と、投資を引き揚げる(または事業が終了して会社を清算する)時の差分、すなわち、投資の見返りがプラスになっている、このプラス分が「会計的利益」の本当の正体です。

そして、資本主が自分の儲けを計算するために、いちいち会社を清算していては、継続的ビジネスができないため、仮清算してみるのが「決算」。「決算」時に、発生主義でコストを、実現主義で収益を認識することで、仮清算上で、その時点での資本主の出資の増分(儲け)を表わしたのが「会計的利益」なのです。

そもそも、「会計的利益」そのものが、資本主の儲け分だけを測定するために、会社をいちいち清算してられないので採用されるようになった仮計算手法で求められる数値。いわゆる「お約束ごと」の集まりで計算されている代物です。

これが信用できない、と言ってしまうことは、「単式簿記」、いわゆる「お小遣い帳」「家計簿」形式で、現金の出入りだけ管理・報告していればよろしい。そして、手元の現金が増えたら「儲かった」、手元の現金が減ったら「損した」と考えればよいわけです。

企業会計に置き換えると、現金の残高が常に把握されている出入金簿(まあ、貸借対照表でも代用できますが、というより貸借対照表に含まれていますが)だけを、ディスクローズすればよいのです。

なにか、横文字(カタカナ用語)が出てきて、もっともらしく専門家が話すと、新しい着眼点や、素晴らしい企業業績の評価方法のように一見して、思えるかもしれませんが、一度、会計学の基本に立ち返って考えてみてください。

Back to Basic.

 

■ 「アクルーアル比率」で表現すると、本質からますます遠ざかります!

下記に、そもそものキャッシュフロー計算書の計算構造の模式図を再掲します。

20141018204030d56

(参考)
⇒「第3の刺客 キャッシュフロー計算書 登場
⇒「キャッシュフロー計算書を斬る

この上図の営業キャッシュフローの部分にご注目ください。

営業キャッシュフロー = 税前利益 + 減価償却費 + 非現金コスト ± 利息 - 法人税 ± 流動資産増減

まず一つ目の苦言。「アクルーアル」をP/L上の公表利益の現金比率として定義したいのなら、上式の「±流動資産増減」は加味してはいけません。売上債権の早期回収、棚卸資産の回転率の向上、買入債務の支払い延長は、当期の「会計的利益」の質を評価するのに無関係の要素です。

次に二つ目の苦言として、アクルーアルで一律評価することは、業種・業態ごとに異なるキャッシュフローサイクルを無視していることになります。前章の「アクルーアル指標ランキング表」の上位に来ている企業の一つの特徴として、「現金商売」があります。売上計上とキャッシュインが限りなく時点一致している企業が多くみられると思います。

最後に、総遺産に対する「比率」で表現している所。これは、重厚長大型の、設備を大量に抱えている企業は当然ランキング上位にどうあがいても来ません。むしろ、近代会計学は、そうしたすぐにキャッシュインで企業業績を評価できない超大規模設備投資型企業の活動の良否を測定するために、「期間利益」の計算構造を考えついたのです。

なにか、一周回って、元の産業革命(現代風に言うと、インダストリー1.0)の前夜にまで時計の針を戻した感があります。

ここまでお読み頂いた賢明な読者の方なら、「利益」情報の価値に固執して、「アクルーアル」を重宝するとか、「利益」情報にダメ出しして、「キャッシュフロー」のみ重視するとか、極端に走ることは、百害あって一利なし、とご理解いただけるものと推察いたします。

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