企業会計の基本的構造を理解する(2)動態論的貸借対照表とは? 収支計算と期間損益計算のズレを補正する損益計算書の連結環

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■ 企業会計における「計算構造」の一番大きなフレームワークとは?

会計(基礎編)

「企業会計原則」「会計規則」「会計法規」という会計の世界の成文法(文書の形で会計処理の原理原則や手続きが記述してあるもの)を順次解説していきたいと考えています。その前に、そもそもの「企業会計」の背景に流れる「会計的なものの考え方」をざっくりご紹介するのが本稿の目的です。

会計は企業の経済事象を貨幣価値(お金)という指標を用いて、経済価値を計算し、記録を残し、サマリ表(財務諸表)に整理して、それを知りたい人に開示・伝達するという一連の計算技術からなります。こうした計算手続には、首尾一貫した計算のフレームワークが存在しているのです。それについては、2点留意すべきことがあります。

① 概念を理解するために、あくまで「学説」として存在するものも混在している
② 制度会計ルールに盛り込まれている概念は時とともに移り変わっている

物事を整理するためには、二項対立構造で表現した方が理解が進むこと、制度会計の基本的考え方が時代の変遷(企業活動内容の変容)に伴い、アップデートされていることから下図はあくまで、会計計算構造の概念的理解のための整理表という位置づけになります。

財務会計(入門編)_会計計算構造

IFRS(国際財務報告基準)の黒船がやってくるまでは、日本の会計制度は、
・動態論会計
・損益法会計
・発生主義会計
・原価主義会計
でしたが、昨今では、
・財産法
・時価主義会計(公正価値会計)
の影響を強く受けたものになっています。

 

■ 貸借対照表に求められる役割の変遷

(1)静態論会計
会計の基本目的を一定時点における企業の財産状態の表示に特化し、貸借対照表は作成時点の会社の「財産計算」であることを求める考え方です。そもそも企業会計とは、大航海時代の一回の航海において、出港時に財産目録と、帰港時の財産目録の差分が、航海のパトロン(航海費用の負担者で、女王様とか貴族様とか大商人など)の「取り分=儲け」を計算するところから出発しています。航海ごとに会社を無くして「精算」することで、出資時と精算時の「差分=財産の増加分」が「儲け=利益」ということになります。このように、「決算=利益の計算行為」を会社清算により行う企業のことを「当座企業」と呼びます。

企業の経済的基盤が脆弱で、継続企業(ゴーイングコンサーン)の仮定が現実性を帯びない当座企業では、企業に対する出資者(株主・投資家)や債権者の中心的な関心事は、出資額および債権額の回収力がどれくらいあるかになります。したがって、そのような企業環境においては、どれくらいの財産が企業の手元に残っているかを示す「財産目録」として、貸借対照表が企業の財政状態を一覧できるように作成されていることが求められるのです。

(2)動態論会計
会計の基本目的を企業の期間的経営成績の表示に特化し、貸借対照表は期間的経営成績を体現している損益計算書を作成するための補助資料の位置づけに過ぎないものであるとする考え方です。ここでは損益計算書が主役となるため、貸借対照表はあくまで、ある期間の損益計算書とその次の期間の損益計算書をつなぐ「連結環」としての役割しか与えられません。

産業革命を経て、次第に産業構造が大規模化し、企業活動も安定・長期化していくに伴い、いちいち会社清算をして、静態論的に貸借対照表の差分で「儲け=利益」を計算していては、実態の企業活動に支障が生じてしまいますから。

そこで、企業の経済的基盤が堅実化し、継続企業(ゴーイングコンサーン)の仮定が現実性を帯びた状況のもとでは、倒産や清算を前提とした財政状態の計算・表示は有効ではなくなり、投資家や債権者を中心とした利害関係者(ステークホルダー)の中心的な関心事は、その企業の

① ビジネス継続ができる力
② 継続的ビジネスの現在時点の収益力

に移りました。そうした継続企業における経営成績(=業績)を一覧できるような会計理論が動態論で、もはや貸借対照表ではなく、人為的に「会計期間」を区切って、その間における「期間損益」を表示して、経営成績が一覧できる損益計算書の作成が求められるようになりました。

(3)再びIFRSの下で静態論的な見方が増えつつある
昨今、IFRSの整備が進展し、日本の会計基準とのコンドースメント(Condorsement)の動きが活発になっています。その中で、再び静態論的な見方(実質は財産法なのですが、動態論の中の進化をまだ説明していないので、、、)も次第に勢力を取り戻してきています。それはIFRSが静態論を採用しているからという短絡的な見方ではなく、なぜIFRSが静態論的会計観を持っているのかを知る必要があります。近年、投資家からのプレシャーの高まりから、より高い収益性と成長性が企業経営者に求められています。技術進歩のスピード向上や市場競争の激化により、企業組織の自然成長(内部成長)=organic growth だけでは投資家の意図する成長性・収益性に応えられなくなってきました。そこで、M&Aという企業や事業自体が売り買いの対象となるケースが爆発的に増えました。そこで、再び企業や事業の適切な買収額を査定するために、静態論的な貸借対照表のあり方が再び脚光を浴びるようになったのです。

 

■ 動態論的会計の構造とは?

動態論の世界では、損益計算書が主役となります。その時の損益計算書の役割は、ある一定期間に限定して、投資家が企業に投下した資本がどれくらい回収見込みが立っているかを計算・表示することです。これを、「投下資本の回収計算」と呼びます。最初に投下資本が100だけ投入され、開発・仕入・生産・販売・回収のビジネスサイクルを一通り経験することで、120が手元に返ってきた場合、120 – 100 = 20 という収支差額を求めます。これが投下資本の回収余剰額を意味しており、この20が利益と呼ばれるものになります。

財務会計(入門編)_投下資本の収支計算

上図のような投下資本の収支計算は、本来あるべき「当座企業」ならば、損益計算書が示す損益計算と、会社設立から会社清算まで一気通貫で見るのならば、理論的に完全一致します。しかし、人為的に区切った会計期間(=決算期間)、例えば、1年とか四半期とか月次という会社清算前のある時点からある時点の間の期間損益計算が必ずしも、その期間の最初と最後の貸借対照表における投下資本の増減と一致するとは限らないのです。

財務会計(入門編)_収支計算と損益計算のズレ

収支計算と利益計算が一致しないケースは、例えば「固定資産の減価償却計算」が該当します。とある固定資産を購入するために、110を支出しましたが、当期の費用になる分は100で、10は未償却分(次の会計期に費用化されるまで待機)として貸借対照表に残ったままとなります。

つまり、期間損益計算の下では収支計算と損益計算の間には期間的なズレ、収支の未解消項目が不可避的に登場してしまうことになります。期間損益計算の精神を守ろうとすればするほど、この未解消部分が増えることになるのですが、この部分は期間損益計算の外に出す必要があります。そうした未解決項目を総括表、つまり損益計算からの一時避難場所として貸借対照表を位置づける考え方が「費用動態論」なのです。

 

■ 動的貸借対照表を図式化してみる

前章で説明した損益計算からの一時避難項目(未解決項目)は、貸借対照表のどの部分にどのように位置づけられるのでしょうか。

・収支計算:会社の財産価値を高めるような、現金の出入り(支出と収入)を表すもの
・損益計算:会社の経営成績を計算するために、費用と収益の差分で儲けを計算するもの

現金が出ていくのに、費用でなかったり、現金が入ってきたのに、収益でなかったりした場合等、収支計算と損益計算の結果が相違します。

財務会計(入門編)_動的貸借対照表とは

1.現金
企業の換金可能な貨幣価値として、実態のある財産を代表する意味で記載しています。

2.支出・未費用
棚卸資産、有形固定資産、無形固定資産、繰延資産など、これからいつかは費用化する資産であり、別名「費用化資産」とも呼ばれます。いずれ、「費用配分の原則」にしたがい、損益計算書に向かって出ていく定めのものたちです。

3.支出・未収入
貸付金、出資金などの外部投資資産を意味します。これらも支出の未解決項目であるため、支出額つまり原価取得主義に基づく「原価」額を基礎に測定されます。

4.収益・未収入
受取手形や売掛金が該当します。収益がたったのですが、その決済手段として現金が採用されずに、権利として社内に留保されている状態です。現金決済がなされると、「現金」に姿を変える予定のものです。

5.資本
資本主(株主)が会社設立の際に元手として出資した分であり、会社清算時の返金請求額や、継続企業における配当請求権の元になる金額を意味します。

6.収入・未収益
前受金や前受収益という現金主義会計と発生主義会計の差分を埋めるための「経過勘定」を意味します。期間損益計算に算入してはいけないのに、企業外部から現金を受け取った場合に使用します。当然、収益として認識すべき時が来たら、貸借対照表から晴れて損益計算書に移動するものたちです。

7.収入・未支出
借入金、社債が該当します。会社の中に現金が流入してくることは事実ですが、損益計算の結果としての現金流入ではありません。あくまで、資金調達の一環として、現金の増加の原因理由を明らかにするために、貸借対照表の所定のこの場所に記録されるものたちです。

8.費用・未支出
未払費用、未払金、負債性引当金が該当します。いずれも現金主義会計と発生主義会計の差分を埋めるための「経過勘定」を意味しますが、その名で呼ばれるのは未払費用と未払金だけであることが普通です。これらは、企業外部との取引が発生し、費用として期間損益計算に埋め込む必要があるのですが、現金として社外流出していないため、貸借対照表のこの部分に記載されて、現金による決済を待っている待機モードの勘定たちです。

負債性引当金は金額および決済期日が確定していない見積負債と考えられます。費用収益対応の原則に基づき、負債性引当金を設定しておくことにより費用の平準化がはかられ、期間損益計算を適正に保てるという見地から貸借対照表に留め置かれます。

財務会計(入門編)_企業会計の基本的構造を理解する(2)動態論的貸借対照表とは? 収支計算と期間損益計算のズレを補正する損益計算書の連結環

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