(スクランブル)短期売買制限論の弊害 市場の流動性損なう恐れ - 決算サプライズが意味することとは?

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■ 噴飯ものの短期売買制限論が提起された背景について

経営管理会計トピック

もはや、常軌を逸しているとしか思えない議論が当局を含め、真剣に議論されていることに驚きの念を隠すことができません。より多くの市場参加者を集めないと、適正な株価としての値付けに困ることは誰の目から見ても確かなことなのですから。

2017/2/15付 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)短期売買制限論の弊害 市場の流動性損なう恐れ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「14日は2016年4~12月期決算発表の最終日。発表延期の東芝はさておき、他の個別株の動きを見ると、発表後に乱高下する銘柄が目立った。政府や企業の批判論者が投資家の「短期志向」を抑えようとしても止まる気配はなく、皮肉な結果に陥っている。
 「こんなに株価が動く決算とは思えないんですが」。14日、大手証券のトレーダーは苦笑いした。例えば前日取引終了後に通期業績を上方修正したアルバックは17%高で取引を終えた。同じく上方修正組のミネベアミツミも一時19%高。半面、赤字拡大を発表したニコンは15%安となった。」

決算発表に伴うその後の株価の変動の変化率の増幅に、市場関係者が単純に驚きを隠していない点に驚きです。

同記事によりますと、下記の通り、株価反応幅の拡大の分析が紹介されています。

「ゴールドマン・サックス証券の建部和礼氏が市場予想と実際の決算結果が5%以上離れた「サプライズ銘柄」の株価の動きを分析。直近1年のサプライズ銘柄の株価反応幅がそれまでの平均に比べ、約2倍に拡大していることを解明した。」

(下記は同記事添付の「決算サプライズの株価反応幅が約2倍に」を引用)

20170215_決算サプライズの株価反応幅が約2倍に_日本経済新聞朝刊

この分析結果に対して、記事では2つの理由が添えられています。

(1)当局の指導で、約1年前から証券会社のアナリストが決算前の企業取材を自粛するようになったから
(2)決算後に業績の方向に従って順張りで投資する短期筋が市場の売買を席巻するようになったから

この2つの理由それぞれについて、直球で反駁はしませんが、論点がずれていることを指摘したいと思います。

 

■ アナリストの決算前インタビューからインサイダーまがいの情報が得られなくなると決算サプライズが増長される!?

この当局の動きは、昨年後半にいくつかの記事で目にしたことはまだ記憶に新しいと思います。

2016/12/3付 |日本経済新聞|朝刊 証券などに伝えた重要情報、企業に即時開示求める 金融庁最終案、対象の線引き曖昧

「金融庁は2日、上場企業が未公表の重要情報を証券会社のアナリストら特定の人に伝えた場合、すぐに公表するよう求める新ルールの最終案を示した。重要情報が一部の人だけに伝わるのを防ぐのが狙いだ。ただ、対象となる情報の線引きは曖昧な部分があり、企業や投資家からは困惑の声も出ている。」

(下記は同記事添付の「企業の情報開示の新規制の概要」を引用)

20161203_企業の情報開示の新規制の概要_日本経済新聞朝刊

これは、2016年4月18日に金融審議会が「フェア・ディスクロージャー・ルールの導入に向けた検討の実施」を公表し、投資判断に重要な影響を与えるような情報(例えば、業績予想の大幅な修正など)で未公表のものを、特定の第三者(例えば、大株主、アナリストなど)にのみ提供することを、原則、禁止するルールが元になっています。

フェア・ディスクロージャー・ルールの良い点は、「全ての投資者への公平・公正な情報提供を確保できること」、留意点は、「発行会社による情報提供や、株主との「建設的な対話」を萎縮させる懸念が生じること」。

このことを逆手に取って議論させて頂くと、巷のアナリストは、個人投資家を含めた大多数の投資家よりも早く業績予想に資する情報を直接企業から入手し、それを独自の方法論で解読・分析し、決算前に有償・無償を問わず、広くレポートすることによって、決算サプライズを緩和していた効用があることを認めてしまう理屈になります。これはある程度、説得力のある理由付けですが、堂々と議論されるべき内容ではありません。

 

■ 正気で短期志向の株主は市場から排除されるべきと言っているのか?

2つ目の理由について。同記事には、次の添付資料と共に、当局の意見、それへの反対意見が共に紹介されています。

(下記は同記事添付の「株式市場の短期志向に政府当局は批判的」を引用)

20170215_株式市場の短期志向に政府当局は批判的_日本経済新聞朝刊

当局の意見
「「市場の短期志向は中長期的な企業価値向上の妨げになる」。政府の審議会や研究会の報告書を見ると、市場を席巻する短期売買を排除すべき悪者とみなす議論が盛んだ。政府の主張に経営者の一角も同調。短期志向を増長するだけとして四半期決算制度の見直しを主張する勢力も存在する。」

反対意見
「「税率を上げて短期売買を制限する議論も出ているようだが、そんなことをすれば流動性が下がり、長期投資家の保有株も下がってしまう」。マネックスグループの松本大会長は警鐘を鳴らす。どんな株主でも1人では企業を永続的に支えられない。だからこそ多様な投資家が互いに株を売買し、バトンを渡すように企業を支えている。市場の成立条件は誰もが好きなときに売買できる流動性だ。」

証券取引所を介さず、各証券会社が独自に作り出した私設売買システム(PTS)を利用して、夜間など証券取引所が開いていない時間帯も取引できる、いわゆる「夜間取引」が制度導入当初は大々的に喧伝されましたが、現時点でなかなか取引が盛り上がらず、適正に値付けがされずに苦労しているではありませんか。

同記事でも、上記(2)の解説として、
「異なる見方をする投資家の層が薄いため、株価は一方向に大きく振れる。」
と言及しているではありませんか。つまり、ある特定の株価で売る人がいて、買う人がいないと、株価がつかないのです。それを、当局や発行会社が希望する株価にならないことを一方的に短期志向株主の存在に起因させることは、そもそもの発行会社のディスクロージャーと財務戦略に問題があるとしか考えられません。責任転嫁もほどほどにしてください。すみません、言い過ぎました。(^^;)

 

■ 同時に後退させようとしているディスクロージャー制度設計はそれでいいのか?

いわゆる発行会社から敬遠される短期志向株主(≒アクティビスト)の株価形成への影響を薄めたいなら、そうでない株主を呼び込む努力は、当局・発行会社ともに怠っていないと断言できるのでしょうか?

2016/10/25付 |日本経済新聞|朝刊 決算短信の簡素化容認 東証方針、17年3月期から 情報開示 後退に懸念も

「東京証券取引所は上場企業の決算短信を簡素にする方針だ。投資家の投資判断を誤らせる恐れがない場合は、決算発表時に損益計算書などの財務諸表を省略して後で開示することを容認する。売上高など主な経営成績を載せた短信の1枚目は従来の「義務」から「要請」に上場規則を変える。企業の負担軽減を狙うが、投資家からは情報開示の後退を懸念する声もあがる。」

(下記は同記事添付の「東証は決算短信を簡素化する」を引用)

20161025_東証は決算短信を簡素化する_日本経済新聞朝刊

決算短信の特徴として、
① 財務数値については会計監査の対象外(後日公表される会計監査対象の「有価証券報告書」と数値が異なる場合がある)
② 発行会社自身による業績予想情報が付されている(2012年3月期から、開示形式の自由度が増している。強制ではないが、現実として9割超の企業が今でも何らかの開示をしている)

が挙げられます。

筆者がここで言いたいのは、
① 有報、官報や株主への事業報告書などとの重複項目の多さは企業の事務負担を増しているので、形式的な統合は合理的な範囲で進めるべき
② 業績予測は、日本市場特有で、企業への負担が大きいと共に、投資家側の会計リテラシー不足の大きな要因となっている

さらに、東証ルールでは、業績予測について、売上高は±10%、利益は±30%、直近の予想開示から乖離したことが判明した時点で、業績修正の開示を企業に求めています。そこまで投資家を過保護にしてしまっているのが日本市場の特徴です。

ちなみに、売上高±10%と、利益±30%の閾値は、戦後の規格品の大量生産・大量販売からなる製造業におけるビジネスモデルをベースに、企業業績を統計的にCVP分析した結果、一般に周知された閾値です。しかし、現在では無形固定資産(知財権やのれんなど)が占める割合も増え、過去の遺物のCVP分析を元ネタにするこの業績修正の閾値の変更を切に求めたいものですが。。。

 

2017/1/27付 |日本経済新聞|朝刊 決算情報、重複なくす 政府、企業の負担軽減

「政府は上場企業が開示する決算情報の重複をなくし、投資家が使いやすいようにする。現在は証券取引所のルールや法律ごとにそれぞれ開示を義務づけられているが、記載内容を整理して一体的に開示できるしくみを検討する。重複に伴う企業側の負担を減らすと同時に、経営ビジョンや分析など投資家が求めている情報の拡充を促す。」

過去時点の財務数値から、将来にむけた非財務情報による情報開示を大前提としたディスクロージャー制度の確立が、日本の投資家やアナリストを鍛え上げ、自ずと短期志向株主の排除につながるのではないでしょうか。

 

■ 実はディスクロージャー制度は後退していない。非財務情報の重みが大きくなってきている!

コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が謳っているように、中長期的な企業価値創出と、中長期的な視点で投資をしてくれる投資家との対話に心を砕く、そうした企業の動きを表した記事を3つご紹介します。

2016/10/25付 |日本経済新聞|朝刊 統合報告書、発行企業4割増 宝印刷調べ 9割が英語版も

「財務情報とともに経営戦略や社会貢献など非財務情報まで幅広くまとめた統合報告書を発行する企業が増加している。宝印刷の調べによると2016年末時点での発行社数は約320社と1年前より4割強増える見通しだ。社会貢献や企業統治などを重視する「ESG投資」が欧州やアジアで広がり、海外投資家を意識して9割の企業が英語版も発行する。」

 

2017/1/19付 |日本経済新聞|夕刊 (なるほど投資講座)責任投資(3)PBR 1倍割れ、企業統治に一因

「この点で2015年に策定されたコーポレートガバナンス・コードは、企業が投資家と対話する際の手引書といえます。同コードの導入後は、非財務情報を積極的に開示する企業も増えました。」
「代表例が統合報告書です。投資家が求めているのは、重要な非財務情報が従来の財務情報とどのように関連し、企業価値の向上につながるかという内容です。ですから、統合報告書は全ての情報を盛り込んだ辞書のようなものではなく、投資家に効率的に伝えるプレゼンテーションであるべきです。中身の充実した統合報告書が増えれば非財務情報への投資家の理解が深まり、PBR1倍割れの企業数も減るはずです。」

(下記は同記事添付の「非財務情報が企業価値を左右」を引用)

20170119_非財務情報が企業価値を左右_日本経済新聞夕刊

 

2016/9/7付 |日本経済新聞|夕刊 (なるほど投資講座)ESG投資の基本(2) 非財務情報が重要に

「一般に投資家が用いる情報は、決算短信や有価証券報告書などの財務情報とそれ以外の非財務情報に分けられます。非財務情報にはESG情報や、経営ビジョンやビジネスモデルなどの定性的な情報も含まれます。近年の研究では、非財務情報の方が財務情報よりも株価に対する説明力が高いといわれています。」

(下記は同記事添付の「非財務情報は多岐にわたる」を引用)

20160907_非財務情報は多岐にわたる_日本経済新聞夕刊

つまり、本稿でいいたいことは、そもそも決算サプライズが大きくなっていることが意味するのは、

① インサイダーすれすれの情報を活用した投資が後退したことを示すいい予兆
② 過去の業績(決算情報)だけで判断する人は得てして短期志向
③ 短期志向の投資家が増えても株価形成を適正に保つために、中長期志向投資家を相手に非財務情報も積極的に開示するべき
④ 同時に投資家は、従来の財務会計数値のファンダメンタル分析だけでなく、非財務情報も駆使して投資判断をするスキルを養う必要がある

という観測から帰結するあるべき論の合計4つのことなのでした。(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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