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(大機小機)シェアリングエコノミーと税制 - 税制のキャッチアップまでのギャップを逆手に取った先行者利益のビジネスモデルもありです

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ タックスプランニングは、国際税務の専売特許ではない!

経営管理会計トピック

一般的に、タックスプランニングの語は、①税効果会計における繰延税金資産の回収可能性を裏づける試算をすること、②税金コスト(主に法人税)を最小化するスキームを立案すること、この2つの意味合いのどちらかで用いられることが多い言葉です。今回は、②の意味をもっと延伸して、③各種税制を駆使して、課税コストの最小化を狙ったビジネスモデルを構築すること、の意で、次のコラムを味わっていきたいと思います。

2017/2/23付 |日本経済新聞|朝刊 (大機小機)シェアリングエコノミーと税制

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「2月5日付本紙によると、規制改革推進会議は「ライドシェア」の解禁を検討しているとのことだ。記事によると、ライドシェアは一般のドライバーが料金を取って自家用車で利用客を送迎するサービスで、急増する訪日客の交通事情への対応が背景にあるとみられる。」

新しいビジネスモデルを模索し、競合企業のどこよりも先行して新たな市場を創出し、追随者が出てきたときには、①圧倒的な競争優位で跳ね返す、または②そこまでに先行者利益を刈り尽し、次のビジネス開発への原資とする、という事業戦略が採用されることは多々あります。当然、パイオニアにはリスクもつきもので、その代表的なものに、税務リスクがあります。得てして、税務は新しいビジネスモデルを見越して整備されることは少なく、大勢は、新たなビジネスモデルを追随して税制を整えるしかありません。そのタイムラグを格好のビジネスチャンスとできるかどうか、それは企業経営者と財務・税務担当者の腕の見せ所となります。

 

■ シェアリングエコノミーが内包する税務リスク=税制タイムギャップ戦略とは?

税制が整備されるまで、従来の税制の枠組みの中で合法的に企業者利得を最大化することは、短期的な株主利益に忠実な企業行動なので、特にアングロサクソン流の経営術では当たり前のことです。これを「税制タイムギャップ戦略」とでも呼称しておきましょう。最近の例では、越境ECについて、2016年4月8日から中国政府による、課税や商品検閲を免れる直送モデルの代表例として、個人が行う「代理購入(代購)」の排除が目的の課税強化策が打たれ、代購ビジネスボリュームが激減し、日本のインバウンド消費に少なからず影響を及ぼしたことは、まだ記憶に新しいことと思います。

本コラムでは、「シェアリングエコノミー」に対する税務対応に関する問題点をかなりの網羅性で言及しているので、本記事を再整理する形で簡潔にまとめていきたいと思います。

配車サービスで有名なウーバーテクノロジーズは、日本でのビジネス展開を何度も当局の規制により掣肘を受けています。

● 2015年4月
2月から福岡市で始めた配車サービス実験が「白タク」にあたるとして、国土交通省が中止を指導

2015/4/3付 |日本経済新聞|朝刊 ルール破りか革新か ウーバー騒動、日本上陸(真相深層)

(同記事添付の「米ウーバーが福岡で実施した実験の仕組み」を引用)

20150403_米ウーバーが福岡で実施した実験の仕組み_日本経済新聞朝刊

● 2016年2月
富山県南砺市で、訪日客の受け入れ体制を充実させようと田中幹夫市長主導で予算計上のプランを発表。これにタクシー業界がかみつき、市議会議員へ根回しして、市が3月に実験予算を撤回

2015/4/3付 |日本経済新聞|朝刊 ルール破りか革新か ウーバー騒動、日本上陸(真相深層)

個人が持つ遊休資産(スキルなどの無形資産も含む)を使うサービスは、遊休資産の活用による収入を貸主にもたらし、かつ同時に借り主の利便性も高まります。提供者と利用者の双方に新たな価値を生み出す「シェアリングエコノミー」は国際的にも注目されている新たなビジネスモデルです。

(参考)
⇒「シェアエコノミーとギグ産業における規制と税制の対応とは - エアビー、ウーバー、ビール系酒税、TV録画代行を例にとって

しかし、シェアリングエコノミーを実践した場合、従来の税制では、「個人事業者」と「被雇用者」の識別が曖昧になり、所得税および法人税の双方でどういう課税体制を採ったらよいか、制度設計に苦慮しているところです。税制が整うまでの隙間を逆手にとって企業者利得を最大化しようというのが、税制タイムギャップ戦略なのですが、ウーバーテクノロジーズについては、吉と出るか凶と出るか?

 

■ ウーバーの税務リスク=税制タイムギャップ戦略を簡単に整理すると?

ウーバーのビジネスモデルについて、税制に関する課題の前に、配車サービスに参加するドライバーに対して、労働法規や社会保険料の問題も指摘されていますが、税務ではどうでしょうか?

(1)所得税
① 徴税コストをかけずに公平に課税する方法
自家用車でウーバーの運転手をして所得を得る人の情報をどうやって税務当局は集めるのか?
ウーバーに源泉徴収義務を課すことが可能なのか?

② 給与所得と事業所得の区分
・被雇用者(サラリーマン)と個人事業主の線引きが曖昧になる
・確定申告で計上する経費に違いが生じる
 - 事業なら必要な経費を差し引いた額が所得 
 - 給与なら給与所得控除額を差し引いた額が所得
・消費税の課税区分が異なる
 - 事業所得は課税対象取引
 - 給与所得は課税対象外
・源泉所得税額の違い
 - 事業所得は一定の「報酬」について源泉が必要(税率は10%が一般的)
 - 給与所得は「給与所得の源泉徴収税額表」に従う

(2)消費税
・ドライバーが個人事業主ならば、事業規模により免税事業者になり得る
・ドライバーが被雇用者ならば、ウーバーが消費税の納税義務を負うことになる

(3)法人税(国際税務)
・PE課税
「PE」(Permanent Establishment)とは、恒久的施設のことで、事業を行う一定の場所等を指します。恒久的施設は、非居住者および外国法人の課税関係を決める上での大きな指標となります。つまり、非居住者および外国法人が日本国内で事業を行っていても、日本国内に恒久的施設を有していない場合には、その非居住者および外国法人の事業所得は日本で課税されることがないのです。これを「恒久的施設なければ課税なし」といって、事業所得課税の国際的な基本ルールです。

日本の場合は、
①「支店PE」支店、出張所、事業所、事務所、工場、倉庫業者の倉庫および鉱山・採石場等天然資源を採取する場所
②「建設PE」建設、据付け、組立て等の作業、またはその指揮監督の役務の提供を1年を超えて行う場合のその場所
③「代理人PE」国内に自己のためにその事業に関し契約を結ぶ権限のある者で、これを常習的に行使する者や、商品等の資産を保管し顧客への引き渡しを行う者、あるいは注文の取得等の重要な部分をする者
(法人税法141条、法人税法施行令185条、186条、所得税法164条、所得税法施行令289条、290条)

という建付けになっています。

しかし、ウーバーは、インターネットで配車するというプラットフォームを提供する会社であるため、ネットが発達した時代に日本国内に法人をつくる必要はなく、ましてや課税の根拠となる子会社や支店なども置かずにビジネスを展開(集客と代金回収)でき、現行制度では法人課税を逃れられると考えられます。

「現に米アマゾン・ドット・コムは日本の消費者を相手に大きな利益を得ているが、日本で1銭も法人税を払っていない。米国に本社を置くウーバーは、タックスヘイブン(租税回避地)のオランダに中間持ち株会社をつくり、そこに無形資産を移して欧州でビジネスを展開しているようだ。」(同記事より)

 

■ シェアリングエコノミーとPE課税

パナマ文書、タックスヘイブンと、最近では国際課税についても注目が集まっています。

2016/10/3付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ防ぐ国際ルール始動 日本企業対応大詰め

「多国籍企業が各国の税制のずれを利用して課税逃れをするのを防ぐため、国際課税ルールを見直す「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」が実施段階を迎えている。各国は国内法への反映を進めており、日本の2017年度税制改正でも焦点の一つだ。日本企業は対応を迫られる中で、欧米より低かった税務戦略への意識を高めつつある。」

(同記事添付の「15の行動計画と各国に対する拘束力の強弱」を引用)

20161003_15の行動計画と各国に対する拘束力の強弱_日本経済新聞朝刊

上表にある「行動7:課税対象となる恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止」「行動1:電子商取引の課税上の課題への対応」が、本件への当局からの課税強化の目玉になっています。

「現行の税制度はシェアリングエコノミーに追いついていない。ニュービジネスの芽を摘むことなく、適正公平な課税の検討を国際社会と連携しつつ進める必要がある。」(冒頭記事より)

シェアリングエコノミー等が経済・企業活動に占める比率がこのまま大きくなっていくとしたら、従来の法人単位の課税が連結グループを対象とする「連結納税」「グループ法人税制」制度へ移行しつつある国内課税の進化がさらに進み、課税当局が国民国家の枠を超えて、国際組織そのものへ昇華する日もそう遠くないと推測します。

足元では、国民国家(ネイションステート)から、EUなどの広域政治経済単位へ統合する方向から、一時的に時計の針が逆回転し、EUからの英国の離脱、トランプ大統領の誕生、フランス大統領選におけるEU離脱支持候補の優勢などが観察されています。

しかし、さらに巨大化する多国籍企業、国境をいとも簡単に超えるネット技術に基礎を置く企業活動(EC等)の隆興、ネットワーキングする経済活動(シェアリングエコノミー、クラウドソーシング、クラウドファンディング等)に即応して、消費者としてではなく、福祉サービスを享受したい一般市民の生活を守るための原資獲得目的の課税や各種公共サービス提供の実体として、国民国家というフレームワークは時代遅れとなりつつあると思います。
(おっと、経営・管理会計の枠組みを超えて、趣味である国際政治学の領域に言が進んでしまいました)(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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