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■ アンゾフが活躍した黄金の1960年代とは

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。いよいよ「近代経営戦略論の父」と呼ばれているアンゾフの登場です。彼の提唱したいくつものコンセプトは、現在、筆者がコンサルティングする現場においても決してまだ色褪せてはいません。

本書より、簡単に彼の経歴を紹介すると、
・数学と物理の修士号、応用数学の博士号をとった後、32歳からランド研究所に6年間勤務
・6年後にロッキードに移り、「多角化問題の基礎研究」を担当
・ロッキード・エレクトロニクスの計画・プログラム担当副社長として会社を建て直す
・45歳でカーネギー工科大学教授に就任

ランド研究所は、米陸軍お抱えの研究所だったので、ここできっと「戦略」という用語に親しんだのでしょう。彼が経営学(経営戦略論)に初めて「戦略(Strategy)」という軍事用語を取り入れました。彼が実務経験を積んだ1960年代は、米欧の経済が大いに成長し、ローマ条約(1975年)によって欧州共同市場(ECM:European Common Market)が創設されて欧州は大きな市場となり、米欧企業の海外売上高比率も大いに上がりました。そうして、多くの企業は、成長のための戦略や長期計画のあり方を模索している状態であったわけです。

「現状の延長」ではない何か。ビジネス戦略や計画を、この複雑な状況(市場と事業の多角化)の中でどう立案するのか。アンゾフがそこに『企業戦略論』(1965年)でひとつの答を世に示したのです(本書P75・76)。

 

■ 経営・企業戦略の意味を明確化

本書によりますと、
アンゾフが史上初めて、軍事用語である「戦略」を使って、「市場における競争」という概念を経営学に持ち込みました。彼は、企業における意思決定を3種類に分けました。これは後の世に、「3Sモデル」として一般化することになります。

3Sモデル:意思決定の対象を、以下の3つに区分する
① 戦略(Strategy)
② 組織(Structure)
③ システム(System)(←ICTとしてではなく、In-Process-Out の一般系として)

このコンセプトは、後の世に、ピーターズとウォーターマンによる「7Sモデル」に昇華されます。

この中でも、①「戦略」が重要でまれにしか変えることができない、トップマネジメントがまさに自身の責務として意思決定すべきものであるとし、経営戦略とは、「現在と未来をつなぐ方針だ」と理解します。これは、「ギャップ分析」としても知られ、現代でもコンサルタントが得意満面に、「まず現状を知らなければ、正しい経営判断はできません」と満面の笑みで話し、現状分析作業に時間を費やし、コンサルフィーを釣り上げる常套手段となっています。(^^;)

経営戦略(基礎編)_ギャップ分析(オリジナル)

ギャップ分析:未来の自社の姿(あるべき姿:To-Be)を描き、自社の現状(今の姿:As-Is)を明確にし、その差(ギャップ)が解決すべき課題とする

これについては、現代のコンサルタントの応用編も併せてご紹介しておきます。
(筆者だって、現役のコンサルタントですからね~)

経営戦略(基礎編)_ギャップ分析(コンサルの常套手段 その1)

とりあえず、コンサルティングを引き受けて、何らかの成果を出さないと(バリューを出さないと)、気持ちよくクライアントがフィーを払ってくれませんし、契約を継続してくれません。そこで、実現可能な「中間目標(Can-Be)」を示し、とりあえずそこを目指そう、とクライアントを誘導します。これは、「コンサルタントというものは、実現不可能な絵に描いた餅的な理想論しか言わない」という言説を逆手に取ったやり口です。

最近のコンサルタントは、ますます手が込んできて、本来目指すべきだった「To-Be」を「Will-Be」と呼び、「超理想形」として棚上げして、やはり現実解を推奨するという手口を使うようにもなりました。

経営戦略(基礎編)_ギャップ分析(コンサルの常套手段 その2)

アキレスと亀の逸話のように、コンサルタントは永遠に到達できない目標を提示し、コンサルティングサービスの半永久的な継続を狙ってきます。これは、「クライアントを食い物にする」という最低の、でもよく目にするコンサルタントの習性です。筆者ですか? 決して自分の押し売りはしないことを信条としています。クライアントの満足獲得と期待値充足以外は契約獲得すら目標にしていません。結果は、業務品質に必ずついてきますから。

 

■ 経営戦略の構造化

本書によりますと、
アンゾフが思索した時代は、企業が複数の事業を持つことが多くなった時代でもあったので、さらにアンゾフは経営戦略を、

①「事業戦略」:各事業の方針を決める
②「企業戦略」:それら全体を管理・統合する

の2つに分けました。彼の時代は、この2層で企業を見ていてそれで十分だったので、彼にとって企業戦略は各事業の全体管理とイコールになります。そういうわけで、

企業戦略:企業の多角化方針(成長ベクトル)を「アンゾフ・マトリックス」で定め、事業のポートフォリオ管理をすること

「アンゾフ・マトリックス」は、そのままBCGの「成長・シェア マトリクス」(1969年)につながります。

ツールである「アンゾフ・マトリクス」は後程、内容を説明します。その前にアンゾフの基本的コンセプト、基本ロジックの方を先に解説してしまいます。多角化の検討の次、アンゾフは、市場競争における基本コンセプトとして、「競争に勝つにはコアとなる強みが無いといけない」と言い切りました。

競争力の源泉:既存の企業活動の中でもコアとなる強み

これは、90年代のハメルやプラハラードによる「コア・コンピタンス論」そのものあり、バーニーが広めた一大学派、RBV(リソースベーストビュー)の端緒でもあります。

経営戦略(基礎編)_アンゾフの経営・企業戦略の意味

 

■ 4つの戦略要素

本書によりますと、
アンゾフは、企業の今の強みが生きてこそ将来のオポチュニティが捉え得る、と考え、成功する経営戦略(彼にとっては事業ポートフォリオ管理、多角化戦略と一致してしまうのですが)には次の4つの「戦略的要素」が必要であるとしました。

経営戦略(基礎編)_アンゾフの成功する多角化の4要素

① 製品・市場分野(ドメイン)と自社能力の明確化
      ・企業がどの事業や製品に力を入れているかを正しく理解する
② 競争環境の特性理解
      ・競争優位を築くためには、競争環境がどういった性質を持つのかを理解する
③ シナジーの追究
      ・多角化の際、既存事業と関連させると相乗効果が得られる
④ 成長のベクトルの決定
     ・既存ビジネスとシナジーからリスクを判断し、成長(あくまで多角化)の方向付けを考える

上記②の事業環境の分析・理解が重要であるということで、マイケル・ポーターの「競争戦略論」に引き継がれます。こうしてみると、現代経営戦略論のその源流は全てアンゾフであることが手に取るように分かります。

また、事業間の相乗効果を「シナジー」という言葉で呼んだのもアンゾフが最初です。アンゾフにとって、シナジーは、「販売」「生産」「投資」「経営」の4つの企業活動・能力が源泉としていました。「顧客」「技術」「知的資産」など、現代ビジネスでは、もっと要素が多くなるとは思いますが、60年代にここまで見通していたアンゾフの偉大さに、それだけで傷がつくこともないでしょう(本書P82より)。

(トリビア)
「シナジー」の語源は、生理学用語。ある動作を行うとき、数十もの筋肉が一糸乱れず連携して動くための、筋肉間の協調性(協応構造)のこと

 

■ コンサルタントにとっての必須ツール、アンゾフ・マトリクス

それでは、お待たせしました。著名でかつ長命なコンサルティング・ツールになっている「アンゾフ・マトリクス」について説明を付します(本書P82~)。

経営戦略(基礎編)_アンゾフ・マトリクス

極論でかつ簡潔に申し上げると、アンゾフは、「経営戦略」=「多角化」と捉え、オリジナルでは、「製品」と「ミッション」がそれぞれ「既存」か「新規」かの、2×2のマトリクスで、企業全体でどの市場を攻めて、できるだけ既知の領域に関連付けて新規領域を増やしていくか、つまり、他社ではなく、自社が成長するために、「事業シナジー」を確保したまま、多角化を効果的に行えるかを検証するためのフレームワークとして、「アンゾフ・マトリクス」を編み出しました。

その後、「ミッション」の語は、顧客のどんなニーズに応えていくのか、というのが本質なので、「市場」や「顧客」の語に置き換えられて表記されることもあります。オリジナルの「ミッション」の語は現代ではもはや使われなくなっています。

企業としての成長のベクトルを考えた時、

① 市場浸透戦略:既存の市場(顧客)を相手に既存の製品で戦う
② 市場開拓戦略:既存の製品を新しい市場(顧客)に売り込む
③ 製品開発戦略:既存の市場(顧客)に新しい製品を開発し売る
④ 多角化戦略: 新しい市場(顧客)に新しい製品を開発し投入する

の4パターンが考えられ、④が狭義の多角化、①~③を含めて広義の多角化と呼ばれます。当然、④は事業シナジーを発揮するのに相対的に困難性を有しますので、他3つに比べて、多角化のリスクは当然高まります。後に、ポーターやルメルトは、④をして、「無関連多角化(既存事業との共通性もシナジーもない)」と呼び、①~③の「関連多角化」に比べて収益性が低い、と結論付けています。

筆者の見解からすると、これは、とある業種の経営者が他業種・業態の事情にまで精通することは難しい、ということで、経営者の「専門家の利益」が損なわれる、経営者の知見が得られないなら、株主が投資ポートフォリオ(分散投資)を通じて多角化すればよい(コングロマリット・ディスカウントの回避)、という多面的な分析の嚆矢となりました。全て、アンゾフ・マトリクスがあったからこそ、着眼された分析とも言えましょう。

 

■ (おまけ)ケイパビリティ学派とポジショニング学派の融合

本書によりますと、
アンゾフは1979年に、『経営戦略論』を著し、もっと統合的なアプローチで戦略経営を進めるべき、という主張をしました。

① 外部環境への順応だけでなく、内部要素も重視
② 戦略作成だけでなく、実行とコントロールも重視
③ 社外環境のハード面(技術・経済など)だけでなく、社会・政治面も重視

①は、ケイパビリティ vs ポジショニング、②はキャプラン、ノートンのBSCやミンツバーグのクラフティング、③はCSR経営など、アンゾフはつくづく、全ての経営戦略論における議論の源流と言えましょう。

特に、本書で重要なのは、外部環境の「乱気流度合い」に合わせて、企業の戦略や組織は「同じレベルで」変わらなければならないと結論付けます。戦略が先行しても、組織が先行しても失敗するよと。

この辺りは、新進気鋭の経営学者による下記著書にも、当該企業が置かれている環境によって、経営戦略を使い分けるべき、とする主張の素でもあると言えましょう。

筆者の見解からすると、アンゾフが言及したことは、当時の時代の制約もあり、事業の「多角化」に焦点が当てられたものですが、その基本コンセプトは、アンゾフ以降の経営戦略論における論点をほぼカバーするものでした。筆者は、テイラーが始めて、アンゾフが開花させた「近代マネジメント論」ではないか、と勝手に考えています。今日はここまで。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(8)アンゾフは「市場における競争」の概念を持ち込んだ「経営戦略」の真の父

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経営戦略概史(8)アンゾフは「市場における競争」の概念を持ち込んだ「経営戦略」の真の父http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-e1428423948658.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-150x150.jpg小林 友昭経営戦略(基礎編)アンゾフ,アンゾフ・マトリックス,ギャップ分析,コングロマリット・ディスカウント,シナジー,三谷宏治,事業ポートフォリオ管理,事業戦略,企業戦略,多角化戦略,市場浸透戦略,市場開拓戦略,経営戦略,経営戦略全史,製品開発戦略,3Sモデル,7Sモデル■ アンゾフが活躍した黄金の1960年代とは 「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。いよいよ「近代経営戦略論の父」と呼ばれているアンゾフの登場です。彼の提唱したいくつものコンセプトは、現在、筆者がコンサルティングする現場においても決してまだ色褪せてはいません。 本書より、簡単に彼の経歴を紹介すると、 ・数学と物理の修士号、応用数学の博士号をとった後、32歳からランド研究所に6年間勤務 ・6年後にロッキードに移り、「多角化問題の基礎研究」を担当 ・ロッキード・エレクトロニクスの計画・プログラム担当副社長として会社を建て直す ・45歳でカーネギー工科大学教授に就任 ランド研究所は、米陸軍お抱えの研究所だったので、ここできっと「戦略」という用語に親しんだのでしょう。彼が経営学(経営戦略論)に初めて「戦略(Strategy)」という軍事用語を取り入れました。彼が実務経験を積んだ1960年代は、米欧の経済が大いに成長し、ローマ条約(1975年)によって欧州共同市場(ECM:European Common Market)が創設されて欧州は大きな市場となり、米欧企業の海外売上高比率も大いに上がりました。そうして、多くの企業は、成長のための戦略や長期計画のあり方を模索している状態であったわけです。 「現状の延長」ではない何か。ビジネス戦略や計画を、この複雑な状況(市場と事業の多角化)の中でどう立案するのか。アンゾフがそこに『企業戦略論』(1965年)でひとつの答を世に示したのです(本書P75・76)。   ■ 経営・企業戦略の意味を明確化 本書によりますと、 アンゾフが史上初めて、軍事用語である「戦略」を使って、「市場における競争」という概念を経営学に持ち込みました。彼は、企業における意思決定を3種類に分けました。これは後の世に、「3Sモデル」として一般化することになります。 3Sモデル:意思決定の対象を、以下の3つに区分する ① 戦略(Strategy) ② 組織(Structure) ③ システム(System)(←ICTとしてではなく、In-Process-Out の一般系として) このコンセプトは、後の世に、ピーターズとウォーターマンによる「7Sモデル」に昇華されます。 この中でも、①「戦略」が重要でまれにしか変えることができない、トップマネジメントがまさに自身の責務として意思決定すべきものであるとし、経営戦略とは、「現在と未来をつなぐ方針だ」と理解します。これは、「ギャップ分析」としても知られ、現代でもコンサルタントが得意満面に、「まず現状を知らなければ、正しい経営判断はできません」と満面の笑みで話し、現状分析作業に時間を費やし、コンサルフィーを釣り上げる常套手段となっています。(^^;) ギャップ分析:未来の自社の姿(あるべき姿:To-Be)を描き、自社の現状(今の姿:As-Is)を明確にし、その差(ギャップ)が解決すべき課題とする これについては、現代のコンサルタントの応用編も併せてご紹介しておきます。 (筆者だって、現役のコンサルタントですからね~) とりあえず、コンサルティングを引き受けて、何らかの成果を出さないと(バリューを出さないと)、気持ちよくクライアントがフィーを払ってくれませんし、契約を継続してくれません。そこで、実現可能な「中間目標(Can-Be)」を示し、とりあえずそこを目指そう、とクライアントを誘導します。これは、「コンサルタントというものは、実現不可能な絵に描いた餅的な理想論しか言わない」という言説を逆手に取ったやり口です。 最近のコンサルタントは、ますます手が込んできて、本来目指すべきだった「To-Be」を「Will-Be」と呼び、「超理想形」として棚上げして、やはり現実解を推奨するという手口を使うようにもなりました。 アキレスと亀の逸話のように、コンサルタントは永遠に到達できない目標を提示し、コンサルティングサービスの半永久的な継続を狙ってきます。これは、「クライアントを食い物にする」という最低の、でもよく目にするコンサルタントの習性です。筆者ですか? 決して自分の押し売りはしないことを信条としています。クライアントの満足獲得と期待値充足以外は契約獲得すら目標にしていません。結果は、業務品質に必ずついてきますから。   ■ 経営戦略の構造化 本書によりますと、 アンゾフが思索した時代は、企業が複数の事業を持つことが多くなった時代でもあったので、さらにアンゾフは経営戦略を、 ①「事業戦略」:各事業の方針を決める ②「企業戦略」:それら全体を管理・統合する の2つに分けました。彼の時代は、この2層で企業を見ていてそれで十分だったので、彼にとって企業戦略は各事業の全体管理とイコールになります。そういうわけで、 企業戦略:企業の多角化方針(成長ベクトル)を「アンゾフ・マトリックス」で定め、事業のポートフォリオ管理をすること 「アンゾフ・マトリックス」は、そのままBCGの「成長・シェア マトリクス」(1969年)につながります。 ツールである「アンゾフ・マトリクス」は後程、内容を説明します。その前にアンゾフの基本的コンセプト、基本ロジックの方を先に解説してしまいます。多角化の検討の次、アンゾフは、市場競争における基本コンセプトとして、「競争に勝つにはコアとなる強みが無いといけない」と言い切りました。 競争力の源泉:既存の企業活動の中でもコアとなる強み これは、90年代のハメルやプラハラードによる「コア・コンピタンス論」そのものあり、バーニーが広めた一大学派、RBV(リソースベーストビュー)の端緒でもあります。   ■ 4つの戦略要素 本書によりますと、 アンゾフは、企業の今の強みが生きてこそ将来のオポチュニティが捉え得る、と考え、成功する経営戦略(彼にとっては事業ポートフォリオ管理、多角化戦略と一致してしまうのですが)には次の4つの「戦略的要素」が必要であるとしました。 ① 製品・市場分野(ドメイン)と自社能力の明確化       ・企業がどの事業や製品に力を入れているかを正しく理解する ② 競争環境の特性理解       ・競争優位を築くためには、競争環境がどういった性質を持つのかを理解する ③ シナジーの追究       ・多角化の際、既存事業と関連させると相乗効果が得られる ④ 成長のベクトルの決定      ・既存ビジネスとシナジーからリスクを判断し、成長(あくまで多角化)の方向付けを考える 上記②の事業環境の分析・理解が重要であるということで、マイケル・ポーターの「競争戦略論」に引き継がれます。こうしてみると、現代経営戦略論のその源流は全てアンゾフであることが手に取るように分かります。 また、事業間の相乗効果を「シナジー」という言葉で呼んだのもアンゾフが最初です。アンゾフにとって、シナジーは、「販売」「生産」「投資」「経営」の4つの企業活動・能力が源泉としていました。「顧客」「技術」「知的資産」など、現代ビジネスでは、もっと要素が多くなるとは思いますが、60年代にここまで見通していたアンゾフの偉大さに、それだけで傷がつくこともないでしょう(本書P82より)。 (トリビア) 「シナジー」の語源は、生理学用語。ある動作を行うとき、数十もの筋肉が一糸乱れず連携して動くための、筋肉間の協調性(協応構造)のこと   ■ コンサルタントにとっての必須ツール、アンゾフ・マトリクス それでは、お待たせしました。著名でかつ長命なコンサルティング・ツールになっている「アンゾフ・マトリクス」について説明を付します(本書P82~)。 極論でかつ簡潔に申し上げると、アンゾフは、「経営戦略」=「多角化」と捉え、オリジナルでは、「製品」と「ミッション」がそれぞれ「既存」か「新規」かの、2×2のマトリクスで、企業全体でどの市場を攻めて、できるだけ既知の領域に関連付けて新規領域を増やしていくか、つまり、他社ではなく、自社が成長するために、「事業シナジー」を確保したまま、多角化を効果的に行えるかを検証するためのフレームワークとして、「アンゾフ・マトリクス」を編み出しました。 その後、「ミッション」の語は、顧客のどんなニーズに応えていくのか、というのが本質なので、「市場」や「顧客」の語に置き換えられて表記されることもあります。オリジナルの「ミッション」の語は現代ではもはや使われなくなっています。 企業としての成長のベクトルを考えた時、 ① 市場浸透戦略:既存の市場(顧客)を相手に既存の製品で戦う ② 市場開拓戦略:既存の製品を新しい市場(顧客)に売り込む ③ 製品開発戦略:既存の市場(顧客)に新しい製品を開発し売る ④ 多角化戦略: 新しい市場(顧客)に新しい製品を開発し投入する の4パターンが考えられ、④が狭義の多角化、①~③を含めて広義の多角化と呼ばれます。当然、④は事業シナジーを発揮するのに相対的に困難性を有しますので、他3つに比べて、多角化のリスクは当然高まります。後に、ポーターやルメルトは、④をして、「無関連多角化(既存事業との共通性もシナジーもない)」と呼び、①~③の「関連多角化」に比べて収益性が低い、と結論付けています。 筆者の見解からすると、これは、とある業種の経営者が他業種・業態の事情にまで精通することは難しい、ということで、経営者の「専門家の利益」が損なわれる、経営者の知見が得られないなら、株主が投資ポートフォリオ(分散投資)を通じて多角化すればよい(コングロマリット・ディスカウントの回避)、という多面的な分析の嚆矢となりました。全て、アンゾフ・マトリクスがあったからこそ、着眼された分析とも言えましょう。   ■ (おまけ)ケイパビリティ学派とポジショニング学派の融合 本書によりますと、 アンゾフは1979年に、『経営戦略論』を著し、もっと統合的なアプローチで戦略経営を進めるべき、という主張をしました。 ① 外部環境への順応だけでなく、内部要素も重視 ② 戦略作成だけでなく、実行とコントロールも重視 ③ 社外環境のハード面(技術・経済など)だけでなく、社会・政治面も重視 ①は、ケイパビリティ vs ポジショニング、②はキャプラン、ノートンのBSCやミンツバーグのクラフティング、③はCSR経営など、アンゾフはつくづく、全ての経営戦略論における議論の源流と言えましょう。 特に、本書で重要なのは、外部環境の「乱気流度合い」に合わせて、企業の戦略や組織は「同じレベルで」変わらなければならないと結論付けます。戦略が先行しても、組織が先行しても失敗するよと。 この辺りは、新進気鋭の経営学者による下記著書にも、当該企業が置かれている環境によって、経営戦略を使い分けるべき、とする主張の素でもあると言えましょう。 筆者の見解からすると、アンゾフが言及したことは、当時の時代の制約もあり、事業の「多角化」に焦点が当てられたものですが、その基本コンセプトは、アンゾフ以降の経営戦略論における論点をほぼカバーするものでした。筆者は、テイラーが始めて、アンゾフが開花させた「近代マネジメント論」ではないか、と勝手に考えています。今日はここまで。 (注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します