経営戦略概史(19)ベンチマークで復活したゼロックス・サウスウェスト航空・フォード - 安易な他社ベスト・プラクティスの模倣で成功した古き良き時代

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■ ゼロックス大反攻作戦開始!

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。今回は、ケイパビリティ派の勃興の様子をベンチマーキングという手法を中心にした導入事例をベースに解説します。

最初に登場するのが、「経営戦略概史(17)キヤノンとホンダ 無鉄砲な日本企業たちの躍進 - この2社の躍進がケイパビリティ学派登場のきっかけとなった」でご紹介したキヤノンの仮想敵だったゼロックス。前稿でも取り上げたように1970年にキヤノンが普通紙複写機市場に参入した後、リコーやミノルタという日系企業の進出が続き、1975年には競合の米国企業による訴訟によってせっかくの特許もふいになり、ゼロックスの牙城であった複写機市場のシェアは急落し、1982年には13%にまで落ち込みました。ゼロックスのポジショニング的企業行動の強みが音を出して崩壊するのを目にした10年でした。

ここで手をこまねいてただ状況を傍観するほど、ゼロックスの経営者は無能ではありませんでした。謙虚に、①品質・②時間・③コストのすべての点で日本企業に自社が劣っていたことを認め、1979年から一大反攻作戦が開始されます。その手法は大別すると3つになります。

① TQM(Total Quality Management)
経営戦略から品質目標、顧客満足度目標まで落とし込む
TQC(Total Quality Control)で唱えられた、組織全体として統一した品質管理目標への取り組みを経営戦略へ適用したもの。日本では総合的品質管理(そうごうてきひんしつかんり)と呼ばれる。80年代に日本の製造業繁栄の秘密を探ろうと、欧米企業が実施。そもそも、TQCは米国から日本にもたらされたもので、トップダウン型のTQCは、日本ではQCサークルに代表されるボトムアップ型の活動に独自に進化し、日本型TQCと呼ばれていた。日本型TQCの特徴であるQCサークルが持つ「カイゼンし続ける」という特徴を取り入れ、アメリカの企業風土に合うようにトップダウン型の意思決定プロセスによる品質マネジメントを行う手法、TQMとして逆輸入された。

筆者注:そもそも日本に科学的管理法として、TQC導入を指導したのが、エドワーズ・デミング博士。彼によれば、

「規模に頼らずとも、品質を上げればコストも下がり、顧客満足も上がる」
「そのためには統計を駆使して、モノだけではなくプロセスの品質を上げよ」

これが日本で花開いたのがトヨタ生産方式。「かんばん方式」「JIT」「平準化」「7つのムダ」「自働化」「カイゼン」「ポカヨケ」「見える化」など、様々なコンセプトの集合体になっています。

②リバースエンジニアリング
機械を分解したり、製品の動作を観察したり、ソフトウェアの動作を解析するなどして、製品の構造を分析し、そこから製造方法や動作原理、設計図などの仕様やソースコードなどを調査すること。

ゼロックスは、「安くて高品質な」競合機をバラしてその内容を調査しました。その品質やコストに驚いた経営陣は、日本の富士ゼロックスに調査チームを派遣し、富士ゼロックスの助けを得て、日本の競合の開発・生産・販売プロセスまで調べ始めました。

③ベンチマーキング
他部署、他企業のベスト・プラクティスから目標やプロセスを学ぶこと。製品、サービス、プロセス、慣行を継続的に測定し、優れた競合他社やその他の優良企業のパフォーマンスと比較・分析する活動を指す。測定する尺度は、顧客による企業のパフォーマンスに対する評価に直接、間接的に影響を与えるものでなければならない。従来は製品だけを対象にした「リバースエンジニアリング」から、対象をプロセスや戦略(行動)にまで分析対象を広げたものとして理解される

競合他社の製品の分解から始まったゼロックスのベンチマーキングは、経営者にとって「市場ではなく工場の現場レベルですでに敗北していた(本書P180)」ことを深く理解させる結果となりました。

■ ゼロックスが業界外のベスト・プラクティスに学び、ベンチマーキングを誕生させた!

ゼロックスは、競合相手の製品をバラバラに分解して品質とコストの秘密を探る「リバースエンジニアリング」を昇華させ、プロセス・戦略行動にまで分析対象に広げ、他業種のベスト・プラクティスを学習する「ベンチマーキング」手法を確立させました。

その一部を本書(P181)から。

① 倉庫業務を、アウトドア用品通販のL・L・ビーンに学ぶ
多品種化が進んだアパレル関連の倉庫では、ピッキングリストが自動作成され、台車の位置が指定され、梱包順や箱の大きさも標準化されていたことを学習し、在庫200万ドル分の削減を達成。

② 請求業務を、アメリカン・エキスプレスに学ぶ
顧客満足度を38%向上しつつ、間接事務費を50%、資材調達費を40%カットすることに成功。

こうした業界外のベスト・プラクティスから学ぶ「機能ベンチマーキング」から、ゼロックスは、1989年には市場シェアを3.5倍の46%にまで伸ばすことに成功しました。

 

■ サウスウエスト航空はインディ500に学んだ!

LCC(ローコストキャリア)の先駆けとなったサウスウエスト航空ですが、低価格で採算を取るために、できるだけ空港での駐機時間を削減する「15分ターン」(従来は45分だった)を目指します。15分ターンにすれば、1日18時間の運行時間とした場合、従来10回しか飛ばせなかった飛行機を14回飛ばすことができ、燃料代と空港発着料以外のコストは膨大な固定費なので、この15分ターン作戦だけで、1便当たり30%のコストダウンが見込めました。

そこで、サウスウエスト航空は、3つの秘策を始めます。

① 業界のプロお断りの採用方針
② 「インディ500」を「一般プロセスベンチマーキング」をすること
③ 座席指定予約チケットの廃止

①はそもそも「15分ターン」という常識外のチャレンジを推進するための補助施策。③は、乗客が早めに空港に来て、早めに搭乗することを促す心理作戦。そして②が本稿の主題となります。

インディーカーは、約40周で給油するために、必ずピットインします。レース終了までに最低4~5回はピット作業が発生しますが、その作業は0.1秒を争う熾烈なものとなります。その作業研究から、事前の段取り、専用工具の開発、チームメンバの熟練度工場とチームワークの維持のための工夫のヒントを得て、夢の15分ターンを実現することになりました。これが、業務部門の枠を超えたベスト・プラクティスから学ぶ「一般プロセスベンチマーキング」の好例です(本書P183)。

 

■ 大テイラー主義の権化だったフォードがベンチマーキングで会社を蘇生させた!

従来の米国生まれのTQCは、現場の改善の繰り返しが前提で、

・比べて目標を立てる
・比べてやり方を学ぶ
・現場目標に加え、戦略目標や顧客満足度を織り込む
・ボトムアップではなく、トップダウンで目標達成のタスクを進める

というTQMは、飛躍的なジャンプを企業にもたらすとして、大いに持てはやされることになりました。1980年に15億ドルもの損失を出して窮地に陥ったフォードも、日本をはじめとする世界のトップメーカーに調査部隊を送り、大々的にベンチマーキングを展開しました。その効果があって、400項目にわたる調査結果から、「部品点数の大幅削減」「車種別開発部隊(チーム・トーラス)の導入」などの施策が次々と開始されます。フォードの浮沈をかけて開発費30億ドルを投じたフォード・トーラス、1985年に発売されると即座に大ヒット商品となり、初代トーラスは最盛期には年産100万台、5年間累計で200万台を超える記録的セールスとなり、フォードの危機を救いました(本書P184)。

 

■ ベンチマーキングとベスト・プラクティスから学ぶ功罪とは?

ゼロックスで長年、ベンチマーキングを主導したロバート・キャンプは、
1989年『ベンチマーキング - 最強の組織を創るプロジェクト』
1995年『ビジネス・プロセス・ベンチマーキング』
を次々と出版しました。その中で、

「ゼロックスでのベンチマーキングとは単純だ。ベスト・プラクティスを見つけてそれを自社に適用・実行(implement)することなのだ」(本書P184)

とまで言い切っています。

ここで、本書P182にある「ベンチマーキングのタイプ」のチャートと、WiKiを参考に、ベンチマーキングの主な種類分けを紹介します。

経営戦略(基礎編)_ベンチマーキング 手法例

MECE(ミッシー)にはなっていませんが、8種類に便宜的に分類してみました。
「1.プロセス・ベンチマーキング」が本稿で取り上げたものを代表するものです。
「2.財務ベンチマーキング」は、手法が会計的であるだけで、従来の財務分析と変わりません
「3.パフォーマンス・ベンチマーキング」は、逆に、ポジショニング派的な分析手法です
4.以降は、ベンチマークする対象の違いで分類されています。

では最後の最後に、コンサルタントの端くれとしての筆者の個人的見解を。正直に申し上げまして、現代では、安易に他社(同業種・他業種を問わず)のベストプラクティスを安易に導入するだけでは、自社の成功はもたらせないでしょう。製造業ならば、どの業種や業態も問わず、「トヨタ生産方式」が唯一解なのでしょうか。実は、大野耐一氏は、その著書の中で、当時のトヨタの人材不足からくる問題を回避しようと、「多能工化」を推進しました。現代、トヨタ生産方式を導入しようとすると、前提条件のように、例えば「多能工化」をしなければならない、とする導入コンサルタントが多いように見受けられます。

また、京セラの「アメーバ組織」は、「京セラフィロソフィ」を共有している従業員の共通理解の上で実現しているミニプロフィットセンター管理であって、形だけ真似て安易に導入してしまうと、莫大な固定費回収漏れが起きて、企業業績で取り返しがつかないことになる可能性大です。

つまり、ベンチマークやベストプラクティスに安易に頼らずに、ただのヒントぐらいに思って、自社の課題解決方策のための思考訓練の補助ぐらいに考えてください。間違っても、コンサルタントに向かって、「勝ち組の他社のベストプラクティスを自社導入したいから、宜しく!」と安易に依頼しないでくださいね。(^^;)

そこで、ベストプラクティスを提示しながらも、その功罪をきちんと説明してくれるコンサルタントこそが本物ですよ!

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(19)ベンチマークで復活したゼロックス・サウスウェスト航空・フォード - 安易な他社ベスト・プラクティスの模倣で成功した古き良き時代

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