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日本流のコーポレートガバナンス 執行役員制度と任意の指名委員会制度について

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ なんでも欧米追随がいいとは思いませんが、日本流にも理屈が通っていないと。。。

経営管理会計トピック

本稿は、日本流のコーポレートガバナンスの現状を綴って頂いた日本経済新聞の記事を元に、①執行役員制度、②任意の指名委員会について、筆者なりのコメントを付したものです。どちらのテーマについても、過日掲載された新聞記事と同工異曲で、目新しい論点はありませんでした。改めて、基礎的な知識整理が必要との判断に至り、こちらも同じようなコメントをくりかえすことになりそうです。

(参考)
⇒「曲がり角の執行役員制度(上)廃止企業、相次ぐ 統治改革で見直し機運 - 執行役員制度導入と会社機関設置の思想を振り返る!
⇒「曲がり角の執行役員制度(下)機能強化へ「1年契約」 結果責任で緊張感保つ  - 執行役員制度のメリットを引き出す方法とは?

まずは、執行役員制度から取り上げます。

2016/10/3付 |日本経済新聞|朝刊 執行役員、実効性を模索 統治モデル変更 権限・役割明確に

「日本独自のシステムとして浸透した執行役員制度が転機を迎えている。昨年6月にコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の適用が始まり、取締役会の監督機能強化が求められる中、法律に規定がない執行役員のあり方を見直す企業が増えている。廃止する企業がある一方、業務執行の中核に位置付け直す例もあり、各社は実効性を高めようと模索している。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

本記事では、丸紅が今年6月の株主総会で執行役員から社長を選任できるよう定款を変更した事例を引いて、大手商社では三菱商事と三井物産が14年に同様の定款変更で先駆けていたことと合わせて、これで総合商社トップが足並みをそろえて、執行役員から社長を指名した後の株主総会で正式に取締役に任命する形式が常態化したことを賛否両論(やや賛成に傾いていますが)で論じるところから始まっています。

ではここで論点になっている「執行役員」とは何者か? 記事の定義文を下記に引用します。

「会社の業務執行に責任と権限を持つ幹部の役職。立場上は従業員である「雇用型」と、社員を退任して1年契約などで就く「委任型」がある。日本監査役協会のまとめによると上場企業の7割が導入している。
会社法上の役員(取締役、監査役)ではないが、日本の企業風土の中で「役員」という名称を使ってポストに重みを持たせた側面がある。経営方針決定と執行の監督を担う取締役会とのすみ分けが基本的な設計だが、執行役員が取締役を兼務することも多い。「事実上の取締役」として株主代表訴訟の被告となる可能性もある。」

「雇用型」「委任型」といった各論の前に、まず大枠で制度を捉えたいと思います。

(1)1997年に、ソニーが、英米流の「監督」と「執行」の責任の完全分離のガバナンスを自社に導入しようとして、取締役が「監督」役として経営全般の意思決定と後述の執行役員の通常業務の監視を担い、取締役でない執行役員が「執行」役として日常の業務的判断を担う責任分担制を構築しました。

(2)2003年の商法(当時)改正により、「委員会等設置会社(当時。現在の指名委員会等設置会社)」を選択できるようになったのに伴い、「執行役」というのが設置されて、「株主総会」が、株主利益を代表する「取締役(会)」を任命し、「取締役」が通常の業務執行を担う「執行役」を任命する構造が法定化されました。「取締役(会)」は、株主からの受託責任と「執行役」の業務執行の監督責任を有し、「執行役」は業務執行責任を負う形式が会社法で初めて認められました。

それゆえ、

①「執行役」は法定の会社機関の一部だが、「執行役員」の法的立場は曖昧である
②「取締役執行役員」という呼称は、一人で「監督」と「執行」を兼務しているので、会社法および、ガバナンス理論の両面から、本来的な矛盾を孕んでいる
③ 指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社では、別途法令で定められたもの以外、その会社の業務を執行することはできない(会社法415条)と厳しく、逆に禁止されている

この3点は基本中の基本なのですが、この種の議論がなされる際には忘れられるようです。会社法ぐらい読んでください。(^^;)

 

■ 各社独自の執行役員制度の活用方法とは?

前回記事と内容は被っているのですが、改めて、各社の取り組みが紹介されています。
(下記は、同記事添付の「執行役員制度の見直しに各社の独自色が表れる」を引用)

20161003_執行役員制度の見直しに各社の独自色が表れる_日本経済新聞朝刊

各社の取り組みを大きな流れを整理します。

(1)執行役員制度の廃止
「企業統治の強化を目的として改正会社法が施行されるとともに統治指針が導入され、企業は監督と執行の分離をさらに明確にし、経営のチェック体制を強化することが求められた」
監査等委員会設置会社の新設、社外取締役・社外監査役の設置強化などが謳われ、法的にも取締役の賠償責任などが厳しく問われることになったことから、LIXILグループやロート製薬は制度そのものを廃止しました。

(2)長期雇用を前提とした従業員のモチベーション維持として活用
やはり、「役員」という呼称は、サラリーマンにとって出世すごろくの上がりの意味が大きく、会社に対するロイヤリティ向上策として、いわば必要悪として存在させるという動きもあります。

(3)日本流の会社統治制度として積極的に活用
「執行役員を機能させる有効策は権限・役割を明確にすることだ。だが、上場企業の8割近くを占める監査役会設置会社では取締役会に付議する経営事項が多く、取締役会メンバではない執行役員には「執行の権限委譲が進まない」(青山学院大学の浜辺陽一郎教授)のが実情だ。」
という事情から、

①「監査等委員会設置会社」への移行を決めると同時に、執行役員を導入
法定業務以外の執行業務への関与を禁止する会社法の建て付けから、それを補完する意味で、
・任天堂:「事業環境の急激な変化に対応する」
・ミズノ:「経営の意思決定と執行の迅速化につなげる」
という趣旨で、執行役員制度を新規に導入しました。

降格ルールを導入
・資生堂:06年に執行役員に降格ルールを導入
「経営に対する執行役員の緊張感が高まった」(リーガル・ガバナンス部)と言われていますが、まだ降格例は無いそうです。

③ 非上場子会社の取締役会廃止と執行役員導入をセット
・キリンホールディングス(HD)
「株式公開会社は取締役会の設置が必須だが、非上場の子会社などは取締役会を置く必要はないことに着目。キリンビールやキリンビバレッジなどが取締役会を廃止し、3月には物流のキリングループロジスティクス(東京・中野)が続いた。同社で取締役は社長1人のみ。他の幹部は執行役員として事業に専念する。
「本体で全体の経営戦略を決めるため、子会社は形式的な取締役会を廃止して事業に専念できるようにした」とキリンHDは説明。業績回復のために執行部門をてこ入れした格好だ。その分、HDの取締役会によるグループ全体の監督やリスク管理は一層重要になる。」

最近、ホールディングス形態を採る会社が増加していますが、ホールディングスと、事業持株会社(従来の親会社)の機能重複で、コーポレート部門の非効率化に悩んでいる企業が多く存在します。一般的には、パッスリHDと事業持株会社を斬ると、そこで情報の断絶が起きますし、一方で、コーポレートスタッフを二重で置いたり、兼務体制にしたりして、情報統制にもがいている企業も多々あります。

株主 → ホールディングスの取締役会 → 事業会社の執行役員が、
機動的資本投下と経営トップの選任 → 事業ポートフォリオの管理 → 事業運営指揮
という風な絵に描いたような意思決定権限の明確化を果たす制度設計を推奨するものです。

 

■ 任意の指名委員会の功罪とは?

もうひとつ、日本流のコーポレートガバナンスに、任意の指名委員会というものがあります。

2016/10/8付 |日本経済新聞|朝刊 執行役員、実効性を模索 統治モデル変更 権限・役割明確に

「社長など経営陣の人事を議論する指名委員会を設置する企業が増えている。7日時点では法定と任意の指名委を合わせて約600社が導入した。企業価値を大きく左右するトップ人事には投資家の関心も高い。主要企業の半数では社外取締役が指名委の過半を占め、選任手続きや育成計画の客観性や透明性を高めようとしている。」

この指名委員会に関心が高まったのは、セブン&アイHDやセコムなど、後継指名について争われた事例が2016年度が始まるやいなや相次いだためでした。

ここで新聞記事にある指名委員会の定義を下記に引用します。
「社長など経営トップの後任人事を議論し決定する委員会。法定と任意の2種類がある。企業統治の面で条件が厳しい「指名委員会等設置会社」がつくる指名委は法定で、人事案には法的拘束力がある。監査役会設置会社や監査等委員会設置会社の指名委は任意で、法的な拘束力を持たず、参加者の開示義務もない。」

どれくらいの広がりを見せているのか。記事から、任意の指名委員会の増加を示した同記事添付のチャートを下記に引用します。

20161008_任意の「指名委員会」が急増している_日本経済新聞朝刊

「指名委を置く上場企業は2年前に比べると5倍強に急増した。今年5月以降でみても、田辺三菱製薬やライオンなど新たに124社が設置した。」

この動きは、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)に、「取締役会は後継者の計画について適切に監督すべき」(原則3-1.(ⅳ)(ⅴ))に対応したものでもありますが、特に、任意機関の設置については、次の項目が大きく影響しています。

20161009_コーポレートガバナンス・コード_原則4-10

火の無いところに煙は立たず。ちょっと、使い方がずれているかもしれませんが、昨今の監査役会設置会社における「任意」の指名委員会の設立ラッシュの真因は、この規定の存在にもあるのでしょう。

「とくに増えているのが、監査役会設置会社などが置く任意の指名委だ。法定の指名委は社外取締役が過半を占める必要があるが、任意ではその定めはない。それでも、時価総額の大きい主要企業100社では、半数の50社で社外取締役が過半を占める。任意でも法定と同様の形式にして透明性をアピールする狙いだ。」

しかしですね、本来ならば、英米流のコーポレートガバナンスを目指すのなら、指名委員会等設置会社を選択するのが本来的でしょうね。少なくとも、社外役員の成り手不足対策として新たに規定された「監査委員会等設置会社」に移行するとか。

というのは、セブン&アイHDでも問題になったのは、任意機関であったため、その議論内容の公表が義務化されていないので、密室政治と言われても仕方がないこと、社外取締役が過半数でなくても構成できるため、所詮、社内の人事状況の追認機関になりがちなこと、こういった短所は解消できないからです。

その上で、任意機関でも実効性を担保するのに、構成メンバとしての社外取締役を過半数にするという政策があります。

(下記は、同記事添付の「今年度任意の氏名委を設置した主な企業」を引用)

20161008_今年度任意の氏名委を設置した主な企業_日本経済新聞朝刊

この表で紹介されている企業はどこも、社外取締役を過半とするメンバ構成にしています。その上、田辺三菱等、4社に至っては、委員長を社外取締役から選出しています。ここまでやるなら、思い切って指名委員会等設置会社への移行を選択した方がスッキリすると思うのですが、その他の人事や社内事情を考慮してのことでしょう。

以上、日本流のコーポレートガバナンスのあだ花、「執行役員制度」と「任意の氏名委員会」について説明を付してきました。皆さんの両制度に対する理解が深まれば幸甚です。

(参考)
⇒「「指名委」設置4倍 475社 企業統治意識高まり14年比で 人事透明に、運用カギ

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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